「
あなたの祖父は 戦争で
誰かを撃ち誰かの息子に撃たれて
たくさんの誰かと一緒にね
マッチ一本でつけた炎で焼かれたとさ。
あなたの父は 工場で
暑さと振動と睡眠不足
誰より大きい機械に身を引きずり込まれ
朝の交代のときまで誰にも気づいてくれなかったとさ。
あなたの兄は 二日前
踏み切り渡れぬ誰かを助けるために
電車にはねられまるで竹とんぼの羽のよう
くるくる空を飛んでゆきましたとさ・・・
」
病院の一室
寝台の上で娘が夢から覚めると
母が傍らで眠っていた
目の前の窓から透き込む
月明かりのすじが
部屋の寝台の上まで伸びる
青白いシーツは月を照り返す雪のようで
娘の赤い頬を肌寒い新鮮さで浮かばせる
自分の左手を握り締めたまま眠る
母を眺めて
娘は微笑んだように見えた
月の魚の宿る蒼い瞳が
ゆれるように
深い夢見の水の底を
泳いでいる |