2 ドアチャイム
愛機のキーは部屋のドアのキーフックに掛かっている。
木で出来たプレートに鴨のデコイのレリーフが付いていて、自然に親しもうっぽい訳の解からない英文が書かれている。プレート下部の両端に小さなフックが付いているこのプレートは何処の観光地でも汎用で売られているような土産物だ。
誰かの旅行の土産だったと思うが今となっては誰から貰ったのか思い出せない。
そのプレートは金色の安っぽいチェーンで吊り下げるようになっていたがそれは取っ払ってしまい、木工ボンドでドアの真中、ちょうど顔の高さのあたりに貼り付けてある。
左側のフックにはジーンズショップや輸入品やでよく売られている紫色の葉っぱの形のカーフレッシュナーが下げてある。
甘い香りのするタイプだったが、香りは抜けてしまって今は相当鼻を近付けないと香りを感じる事は無い。
愛機のキーホルダーは反対側のフックが所定の場所だ。
愛機のキーホルダーはちょっとこだわり物だったが、旅先で落としてしまい今はスペアを使っている。今度失くすと替わりが無い。
ステンレスのシルバーのリングに愛機のメインキーとハンドルロックキー、コブラロックのキーを繋いである。
それにホームセンターの金物売り場で買ったフックを付けてある。
高所作業の職人が使う安全ベルト用の物だ。
愛機の販売店の名前と電話番号が裏に書かれているメーカーマークのタグも付けてある。
本当はそんな無粋な物は付けたく無いのだが、万一紛失した時にひょっとしたら返ってきてくれる頼りになるのではないかと縋る思いで付けた。
愛機のキーシステムは他社のそれとは違い運転中もキーを車体に付けておかないシステムになっている。
そのシステムが災いして失くしてしまったようなものだ。
そのキーホルダーはドアの例のプレートに下げてあるので、ドアを開け閉めする度にカチャッと小さな音をたてる。
それは「早く俺を連れ出してくれ」と言っているように。