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4 隣にある旅

 ライダーはバイクに乗っていない時もライダーなのだ。
 また、ライダーは旅人でなければならない。
 旅人と大げさに云っても別に何年も世界の隅々や、日本の果てを見て来なければならない訳ではない。
 たとえ半日や一日でも旅は旅だ。
 旅はライダーがそれをどう定義するかで尺度が変わると思うが、簡単にいえばライダーの心の持ちようで有ると思う。
 玄関から一歩でも出た処から旅は始まる。
 視覚、聴覚、臭覚、触覚、味覚全ての感覚を研ぎ澄まして感じる事が旅に意味を与える。
 例えば、いつもの通勤道路の脇にふきのとうを見つけて春を感じる。
 これも小さな旅の発見かも知れない。
 旅は何がしかの出会いや、発見から何かを感じ感性に喜びを与えてやる事に意味があるのだ。
 きわめて利己的で自己満足の世界だがそれでいいと思う。
 何十年もかけて世界の隅々を巡ろうとも何も感じる事が無ければ極めて淋しい旅なのだ。いや、それは旅とは云えないかも知れない。
 
 ふらりと当ても無く旅立つのも良いだろう。
 しかし、できれば旅先の地図は予め見ておきたいものだ。
 自分なりの地図をメモにして作っておくのも良い。
 ある程度の目的があった方が旅を充実させる事ができるはずだ。
 地図を見て景色を予想する。
 そこまで辿り付いたら予想した景色と現地を比較してみよう。
 熟練すれば相当近い景色を地図で予想できるようになるはずだ。

 最近は天気予報も親切になりあまり真剣に天気図を見る事も無くなってきたが、天気図から旅先の天気の移り変わりを予想して旅立つのも面白い。低気圧、高気圧の大きさ強さ、前線の種類や位置をみて天気を予想するのは難しい分だけ楽しい。

 ライダーと天気は因縁の関係にある。雨具を着用するタイミングを少し間違えただけで旅の印象はガラリと変わるものだ。
 できれば雨具など着用する旅はしたくないとほとんどのライダーは思っているだろうが、やはり雨に濡れるほど情けないものも無い。
 たまにはずぶ濡れのライディングも童心に還れるようで嬉しく感じる時も有るが、旅人としての技量が未熟なのを公開しているようなもので情けない。
 雨具を着用するにはタイミングがある。
 降りだすのが解かっていても余り早くからカッパライダーになるのは頂けない。
 できれば降りだす少し前にタイミングよく雨具を着用したい。
 雨雲が近付いているのが解かったら、通常のライディングに使う注意の範囲を少し広げる必要がある。
 空の色、雲の形に注意を払うのはもちろんだが、肌に感じる空気の重さもポイントだろう。
 アスファルトの色、対向車にも注意が必要だ。
 進行方向の先で雨が降っている時は特に対向車の様子に注意が必要だ。
 ワイパーを動かしているのがいたり、トラック(乗用車は解かりにくい)のフロントが濡れていたら間違い無く雨はすぐそこだ。
 走行車線のアスファルトは乾いているのに対向車線のアスファルトが濡れているなんて時も5分も行かずに雨に会う確率が高い。
 注意して見ていれば進行方向の先の雨は予想が付き易いが、追い駆けて来る雨はなかなか判断が難しい。
 スピードアップして振り切る事も出来るかもしれない。
 バックミラーやヘッドライトのメッキに写る空の色と空気を肌で感じて決断するしか無い。
 そんなポイントを幾つ知っているか。経験が物を云う世界だが、旅人の基本的な技量である事に違いは無い。
 地図と天気図は旅人ライダーのナビケーターって事だ。

 とは云っても旅の醍醐味はやっぱり人間との出会いだ。
 知らない誰かに出会いたくて旅に出ていると云っても過言ではない。
 知らない土地で、知らない誰かと出会い。他愛も無い話をする。
 または、知らない土地で、今まで気付かなかった知らない自分にであったり、旅の連れの知らなかった面を見付けたり。
 旅にはそんな不思議な出会いがある。
 旅先で出会ったライダーにはなるべく話し掛けるようにしているし、地元のおじいちゃんや、おばあちゃんと話すのも面白い。

 必ずしも、楽しい、良い出会いだとばかりは限らないが、それはそれ。旅の恥はなんとやらで笑ってやり過ごせるのも旅の良さだろう。
 

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