あまんじゃく





「うるさいよ、あんたは黙って言うこと聞いてればいいの。わかる?」
今日もそう言って冷たい言葉を投げかけられて、無理矢理押し倒された。

 

カカシ先生とそういう関係になったのはそんなに昔じゃない。数ヶ月前からだったと思う。
残業してくたくたになっての帰り道、無理矢理路地裏に引き込まれてその場で押し倒された。
それからは幾度となくカカシ先生の家に連れ込まれて、やっぱり無理矢理押し倒された。
勿論抵抗したしその後の態度でだってあからさまな無視などの徹底した態度を取ったつもりだったが、カカシ先生はまったくそんな俺の態度を気に掛けることもなくやっぱり俺を力ずくで言うことをきかせるのだ。
そのうち俺も抵抗するのに疲れて、でもやっぱり疲れている時とか明日がきつい日だってあるわけで、そんな時は無駄な抵抗と知りつつもやめてほしいと訴えるのだ。
が、カカシ先生はどんなに辛い日でも自分のやりたいようにやっていく。
そして俺は抵抗できない。なんて悪循環だ。
カカシ先生は言う。いつでも上に訴えていいと。訴えれば上忍と言えどもカカシ先生もただでは済まないだろう。俺が泣き寝入りすると決めてかかっているのかと憤慨した時もあったが、カカシ先生は本当に訴えたければそうしてかまわないようだった。その辺りの牽制はしないし上忍の私刑と言う名目を掲げれば男として屈辱的な暴行もさして恥じゃないでしょと言う始末。
それを聞いて俺は何故だか訴えるのを躊躇していた。
わからないのだ。
カカシ先生はなにがしたいのだろうか。
気の迷いから、俺のことが好きなのかと勘ぐったこともあった。が、カカシ先生が俺に対して好きだとか愛しているとかいう気持ちを露わにしたたこともないし、俺にそれを求めることは一切なかった。
悪質、ではないものの、やはりこの関係は強姦行為と位置付けられると冷静に考える。

 

今日も俺はカカシ先生の家に無理矢理連れてこられて押し倒されていた。
明日は実演演習だからやめてほしいと懇願したが聞き入れてもらえなかった。
終盤に、今日だってくたくたで、明日も早いのに夜中までこんなとして、明日、俺は倒れるんじゃないかと思いながら俺は意識を手放した。
ふと、夜明け前と思われる時間に目が覚めると、俺はカカシ先生に抱き込まれていた。
子どもが親に寄り添うように、しがみつくようにしっかりと抱き込まれていた。
いつも俺が起きる頃、カカシ先生はいなくっているから目が覚めても一緒にいるということ自体が珍しい。
いつも俺が目を覚ます前はこんな風に寄り添って眠っていたのだろうか?分からない。
俺はもう少し休もうと再び微睡みの中に潜っていった。
そして朝になり再び目が覚めるとすでにカカシ先生の姿はなかった。
その日、倒れるかなと思っていたがなんとか倒れるようは失態はおかさなかった。
俺の体もこの不健全な生活に対応してきていると言うことだろうか。それとも...?

 

 

そんな折り、俺に見合いの話しがきた。火影様はもとより、ご意見番の二人の推薦とあって、断ることはできなかった。
まあ、確かに俺もいい年だし、結婚するという気持ちもなかったわけではなかったが、如何せん、カカシ先生の存在があった。
もしもトントン拍子で結婚まで一気に駆け上ってしまったとして、カカシ先生とのこのただれた関係はどう考えたってまずいだろう。
数日後、いつものようにカカシ先生の家に連れ込まれ、いつものように強引に関係して、終わったあと、俺は見合い話しを切り出した。
カカシ先生の回答はあっさりとしたものだった。

「そうですか。じゃあさようなら。」

俺は一瞬呆気にとられた。別に拉致監禁して拘束してほしいと思っていたわけじゃなかったが、ここまで自分勝手にずっと強姦まがいで人を振り回してきたのだから何かしらの執着があるのかと思っていたのだ。
だが現実はこんなにあっさりとしている。

「こんなにあっさり関係を終わらせることができたなら、どうして最初から俺に執着して見せたりしたんですか。少し我が儘すぎやしませんか?」

何に対しての怒りがそう言わせたのか分からなかったが、俺は確かに少々苛立ってそう口にしていた。
だがカカシ先生は答えずにそのまま家から出て行ってしまった。
俺もいつまでもここにいるわけにもいかず、時間は深夜を軽く越えていたが、風呂場を借りてすぐにカカシ先生の家を後にした。
なんとなくもやもやとした気持ちを抱えながら家に帰り、ふて寝するように眠った。

 

そして数日後、俺は見合いをし、相手の人もかなり好印象でこのまま結婚するのかもしれないと漠然と思った。
家庭を持って子どもを育て、夫して父として生きていく。それは無くしてしまった家族をこの手で作り上げていくということだ。
渇望していた家族愛が再び手に入る。相手も勿論自分を愛し、家庭を愛する人だろう。
見合いをした人とは順調に付き合いが進んでいく。
火影様もご意見番の二人も同僚も俺がこの見合いで確実に結婚すると思っているらしく、式には呼べと言われる。
ただ、カカシ先生のことだけが時折頭をかすめては小さな棘のようにじくじくと痛む。
何も気にすることはないと言うのに。
あれからカカシ先生とはほとんど会わない。受付でしか会う機会はなかったのにその受付にすら現れないのだ。
ようやく見せたのは上忍師とアカデミーの教師たちとの合同忘年会での席でのことだった。
その頃になると俺の結婚は秒読みとまで言われていた。
相手の親御さんとも一度だけだが対面した。結婚の挨拶をしたわけではなかったが。
忘年会の席でも俺の結婚話しに花が咲く。そしてそれを冷静に聞きながらも何故かカカシ先生に目がいってしまう。

 

忘年会がお開きになり、俺は自然とカカシ先生の背中を探した。カカシ先生は二次会に参加せずに一次会で帰るようだった。
俺は同僚の二次会に誘う言葉を振り切ってカカシ先生の後を追う。
本来は肌を刺すような寒さも酒のおかげで大した寒さすら感じない。走って動悸が激しくなっていき、顔が熱くなる。だがカカシ先生の背中の距離は縮まらない。
もどかしくて大声で呼び止めようとした時にやっとカカシ先生の足が止まった。

「イルカ先生、何の用ですか。」

立ち止まってこちらを向いているカカシ先生はそれなりに酒を飲んでいたと言うのにまったく酔っている様子はない。
俺はカカシ先生の近くまで来ると息を落ち着かせた。

「ねえカカシ先生、あなたは何を考えているんですか?」

「そんなの知りませんよ。どうでもいいことでしょ。」

俺の言葉なぞ聞く価値もないと言わんばかりに言い返してきたカカシ先生に何故か怒りよりも悲しみがわき上がる。

「カカシ先生...」

「ご結婚おめでとうございます。お幸せに。」

無表情に祝いの言葉を述べるカカシ先生に困惑だけが広がってゆく。
どうして?
唐突にカカシ先生の腕を取る。その手を見て憶測は確定に変わる。

「どうしてあなたは、耐えるようにして頑なに拳を握りしめているんですか?」

カカシ先生は答えない。

「ねえカカシ先生、あなたは一体どうしたいんですか?俺はこのままだと、本当に結婚しますよ。妻を持ち、子を育て、家庭を築きます。そこにあなたはいません。」

カカシ先生は頑なに握りしめていた拳をゆっくり開くと俺の顔にそっと手のひらをあてた。
月の光で白光する白い手がひんやりとした感触を伝える。
言葉はない。
ただ、求められているということだけが伝わってくる。

「あなたの思いは、好きだとか愛してるだとか、そういった言葉に表すものじゃないんですね。」

方法は強引で本当ならば理解なんかできない。犯罪だしこちらの言うことは聞いてくれないし、こんな人とは付き合うだけ自分が損だと理解できるし、それが正しい判断だと正論は言っている。
それなのにどうしても俺は、カカシ先生を優先してしまうのだ。
理屈じゃない。

「言って下さい。あなたはどうしたいんですか?」

そっと顔が近づいてきて、耳元で囁かれた言葉に小さく笑みを浮かべた。

「はい、わかりました。」

言えば、そっと唇に暖かいものが触れた。
震える口付けに、俺はカカシ先生の首に腕を回した。
お望みのままに、ずっと傍にいますよ。

 

 

後日、俺はカカシ先生の自宅で本人を前に腕を組んで立っていた。

「ほんと、どうしてくれるんですかねぇ。俺、あれからあちらのご両親に土下座までして謝ってきたんですよ。火影様にもご意見番にも面目立たないし同僚には陰口叩かれるし。一体どうしてくれるんですか?」

ぎりぎりの際で結婚が破談となって、勿論相手は怒りまくった。あそこまでいって破談と言うのは確かに申し訳ない。
が。それもこれもカカシ先生の態度があまりにも分かりづらいからだ。
それを目の前にいる本人に愚痴愚痴と言って聞かせてはいるものの、読んでいる本から目を離さず、まったく我感せずといった風でさらに腹立たしい。
あの忘年会帰りの時のいじらしさはどこに消えたんだ?なんだってこんなふてぶてしい奴を選んじまったんだろう、俺。

「俺は、あなたのことが好きになってしまったのに。」

いくら素直じゃなくて性格が歪んでひねくれてたって、それでもやっぱり俺の一方的な勘違いじゃないと、言葉にしてほしい。それくらいの我が儘を言ってもいいだろう?ここまで迷惑かけたんだから。
ふと、カカシ先生の本を持つ手が微かに震えているのを見て俺は溜飲をやっと下げた。
言うことは冷たく態度も悪いのに、どうしてビンゴブックにその名を轟かせているあなたが、中忍風情の俺の前で手を震わせているんですか?
それを知るのは俺だけだろうけれど、それでいいと思った。

「いつか、あなたの興味がなくなってしまった時、その時は、」

俺を捨てるだろうか?それともどうする?
じっとカカシ先生の指を見つめていた俺は、その震えが微かに止むのを見て深く息を吐き出す。

「相変わらずうるさいね。あんたは俺が死ぬまでずっと黙って言うことを聞いてればいいんだよ。」

なんて酷い言いぐさだろう。俺の人権は無視ときたもんだ。
カカシ先生は強引でちっとも人の言うことを聞きやしない。
一瞬、本から目を上げて俺を見たカカシ先生は立ち上がって本をテーブルに置いた。

「なに笑ってるんだか、気色の悪い。」

カカシ先生はそう言って部屋から出て行こうとした。その手をつかむ。

「仕方ないですから、言うこと聞いてあげます。けれど黙ってなんかいてあげません。」

「あっそ、勝手にすれば。」

そう言ってカカシ先生は今度こそ部屋から出て行った。
本当に口の悪い、けれど否定はされなかった。それはつまり黙らなくて良いという許しの意だったのだろう。
対等な人間相手に許すもなにもないだろうけれど、カカシ先生がそう許諾したのは珍しい。
それに俺の手を振りほどく時、カカシ先生はそっと手を離してくれた。まるで子猫を撫でるかのように優しくそっと。

「本当に、素直じゃないですねあなたは。」

俺は笑みを浮かべたままカカシ先生に触れた手を頬に寄せた。

おわり


はい、と、言うわけでSSです。もう少しストイックに決めるはずだったのに私の文才はストイックと言う言葉に拒否反応を示してくださいました。
えーと、分かりづらいですが二人はらぶらぶです(ぁ
改善はこれからなされていくでしょうがらぶらぶです。らぶらぶなんですっ、誰が何と言おうともっ!!