CHARM




今、暗部ではちょっとしたアイテムが流行っている。

そのアイテムとは...。

「あ、カカシ先輩それってもしかしてっ!!」

「あ、お前目聡いね〜。そ、お前の思ってるとおりの物だよ〜。」

茶目っ気たっぷりにのほほんとした口調で木の上に座っていたカカシはふふ〜んと後輩の暗部にそれを見せた。ある意味見せびらかしたくてチラ見させていたと言っても過言ではない。

それは一見して木片かと見間違うばかりに干からびた人の指だった。

「いいないいな〜。それ、なかなか手に入らないっしょ?俺も欲しいけどなかなか現実問題として難しいんですよね。あれ、でもカカシ先輩がそれを持ってるってことは...。」

後輩暗部が気遣わしげにカカシを見やった。暗部のお面を付けているので表情は分からないがそれでも後輩の考えていることが分かったカカシは苦笑した。

「いやいや、大丈夫だよ。ちゃんと生きてるから。」

そう言ってカカシはそれを大事そうに服の中にしまった。

「え、生きてるって、でもそしたらその人の指ってどうなるんです?」

「さーてと、んじゃ休憩終わりね〜。帰るよっ!」

後輩の質問には答えずにカカシが言うと暗部たちは音もなくその場から消え失せた。

後には血だまりに転がる死体ばかり。

猫の爪のように細い月はその影すら映さない。

 

 

 

うみのイルカは午後の職員室でため息を吐いていた。

手元の湯飲みに茶は入っていない。煎れようと思って席を立ったが煎れられなかったのだ。

そもそもその噂を聞いたのはつい先ほどのことだった。お茶を煎れに給湯室へと行ったときに女性職員たちがうわさ話に花を咲かせていて、たまたまその時の会話を聞いてしまったのがいけなかった。

「でも好きな人の体の一部って言っても髪とか、あとは爪って所でしょ?まあ、持っていくって言うならそれ位普通なんじゃないの?今じゃあんまり聞かないけどね。」

一瞬なんの話しかと訝しく思ったが、話しを聞いていくうちにどうやらお守りの話しをしていたらしいことが分かってきた。

今でこそ廃れているものの、昔は愛しい人の頭髪を戦場へ持っていく風習があったらしいとはイルカも知っていた。

「暗部がそんななまっちょろいもので満足するわけないでしょっ!!なんでも一番人気なのが肉片だって言うじゃない。」

「肉片って、体の一部?うそっ、そげ落とすの?うーん、余分な肉って言ったらやっぱりお尻とか上腕、あとは胸か。どちらにしても痛そうだし跡に残ったら嫌じゃない。」

「ばっかね〜、生きてる人から取るなんて普通しないわよ。大抵死んだ人から拝借するって方法を取るらしいわよ。ほら、暗部の人たちって恋人も同じ暗部ってのが多いって話しじゃない?不謹慎だけど、恋人が任務中に命を落とす現場に居合わせる確率、高いんじゃないの?」

「なるほど、任務中に命を落とした恋人の体の一部分を取って肌身離さず身につけるのねっ!!きゃーっ、なんかすてきー!!」

なにが素敵なんだろう...。それって単なる死体嗜好家なだけじゃねえか...。

イルカはがっくりとして職員室に帰ろうと足先を変えた。もうお茶を飲みたい気分ではなくなっていたのだった。

だが、最後の彼女たちの言葉ではっとした。

「ま、恋人が暗部じゃなくてよかったって話しよねっ!」

イルカはびくっとした。暗部の恋人、それはつまり自分こそあてはまる。カカシは上忍師として配属されているが、今でも暗部の呼び出しに応じているのだ。そしてイルカの恋人でもあった。

なんてことだ、そんな恐ろしいものが流行しているなんてっ!!

そして職員室に帰ってきてため息を付いて影を背負っていたのだった。

今は肉片をくださいなんて非常識なことは言わないでいるが、本当は欲しいのだろうか...。

別に暗部を毛嫌いするわけではないが、そういうものを流行らせるのはいかがなものか。

いや、うわさ話を聞いただけでそれが事実とは限らない。

うーんうーんと悩んでいたせいでその日の業務は散々だった。

こう意識が乱れていては集中なんてできやしない。今日はさっさと帰ろうとイルカは席を立った。かばんを担いで結局煎れられなかった湯飲みを片付けに給湯室へと向かう。

給湯室には先客がいた。さきほど井戸端会議に花を咲かせていた一人のツバキだ。

「お疲れ様ですツバキ先生。もうあがりですか?」

「はい、ここの片付けが終わったら帰ろうかと思って。あら、イルカ先生指、怪我されてるんですか?」

「え?あ、そうなんですよ。」

イルカは苦笑した。確かにイルカの人差し指は厳重に包帯が巻かれている。同僚たちに散々クナイで切ったんだろだとかトラップで失敗したな、なんてからかわれた。

「湯飲み、洗いますよ?」

ツバキはにっこりと微笑んで手を差し出した。正直ありがたい申し出だったのでイルカはおずおずと湯飲みを差し出した。

「すみません、強要させちゃったみたいで。」

「いいんですよ。あ、そう言えばつい先ほどはたけ上忍を見ましたよ。」

イルカとカカシが付き合っていることは周知の事実だった。だがカカシが暗部だったことはあまり知られていない。

イルカは苦笑しつつもどうも、と礼を言った。

「今回の任務は長かったようですね。」

ツバキはくすくすと笑った。イルカはやはり苦笑するしかなかった。カカシは里にいる間は必ずイルカと一緒に家に帰るのだ。イルカがどこにいようが帰ろうとするとどこからともなく現れて一緒に帰りましょ〜、と言ってくる。

そんなわけでカカシが迎えに来ないときは任務の時だということになっている。と、言うかそのとおりなのだが。

「きっともうすぐ現れますよ。」

イルカはため息をついて給湯室から出て行った。ツバキが後からお疲れ様でした!と元気な声で挨拶してくれた。

そして玄関を出た所で予想通りカカシは現れた。

「イルカ先生お疲れ様〜。一緒に帰りましょ?」

カカシはにこりと微笑んでイルカの手を取った。ちゃんと包帯の巻かれていない方の手をつかんでくれた。こういう気遣いは丁寧なのにどうして周りの目というものには鈍感なのだろうとイルカはたまに泣きたくなる。

 

それから夕飯の買い物をしてイルカ宅に二人して帰った。

「カカシさん、任務お疲れ様でした。」

「はい、イルカ先生ただいまです。俺がいない間寂しかったですか?俺は寂しかったですよ〜。指、使えなかったでしょ?不自由なことなかったですか?」

カカシはイルカの手を取って包帯ぐるぐる巻の指をじっと見つめた。

「大丈夫ですよ。それよりもお腹すいたでしょ?早速作りますから。」

「いーえだめです、怪我人に料理なんてさせられませんよ。俺が作ります。イルカ先生はテレビでも見ててくださいっ。」

任務帰りで疲れているのはカカシの方なのにこうやって甘やかすんだから参ってしまう。それに使えないのは指だけなのに。

カカシはイルカを居間に無理矢理追い出して台所へと消えていった。

イルカはその後ろ姿を微笑ましく思いながら言われた通りにテレビの電源をいれた。

そしてしばらくして夕食の用意が整うと卓袱台の上に皿が乗せられご飯を頂く。

今日は鶏肉と大根の煮物と白和えに焼き魚。カカシの好みが多かったがまあ任務の間は好きなもの食べられないしな、などとイルカは心の中で笑いつつ合掌して食べ始めた。

そしてご飯も終わり、食後のお茶を飲み始めた頃、イルカは聞こう聞こうと思ってなかなか聞けなかったことを口にした。

「あの、カカシさん。」

「なんですか?」

「俺、ちょっと噂を聞いたんですけど、暗部では好きな人の体の一部分を持ち歩くのが流行してるって。それって単なるうわさ話ですよね?」

イルカは自分でも馬鹿なこと聞いてるな、などと思い苦笑しつつ話した。

が、カカシの顔は硬直していた。

「え、あの、その反応ってそうなんですか...?」

と、言うかそこまで硬直されるとなんだか怪しい。うわさ話くらいでここまで固まるだろうか?答えは否だ。これは相当、このことに関する隠し事があると直感した。

「カカシさん、あなたまさか...。」

カカシは土下座した。

「すみませんっ!だって欲しかったんですっ!!」

「ちょっと待って下さいよ。」

イルカはカカシ目の前まで来ると顔を上げさせた。

「俺、体の一部を切り取られてなんかいないですよね?最近の怪我なんてこの指くらいだし。」

イルカは自分の指を見た。先日、カカシが任務に出る少し前にヒョウソにかかって治療したのだ。任務での怪我ならともかく病気で負傷というのはなんとなく話しづらかったので人には曖昧に微笑んで誤魔化しているのだが。

カカシは相変わらず目を泳がせている。これはますますもっておかしい。

「カカシさん、今全部話したら許してあげますよ?」

「ほ、ほんとですか?絶対ですよ?」

カカシはイルカの腰に抱きついてきた。

これが里一番の技師と呼ばれた男の姿なのだろうか。

大体少しかまかけた位でここまで動揺する上忍なんて聞いたことがない。でもまあ、たぶんそんな姿をさらすのは自分だけなのだろうけど、なんて頭の中で少しお花畑が咲いていたイルカは、次の瞬間そんなかわいらしい想像は砕け散った。

カカシの首もとから現れたその物体を見てしまったからだ。

それは指が干からびたものだった。恐らくは人間の。

「あああああ、あんたなんてもの持ってるんですかっ!大体好きな人の体って言ってたじゃないですか。俺の指は両手両足健在ですよっ!?それは一体誰の指ですかっ!!」

何に嫉妬して怒っているのか本人にも分かっていないがとにかく衝撃だった。

だがカカシは首を横に振って見せた。

「これは正真正銘イルカ先生の体の一部でした。」

「え、でも俺の指、」

イルカは自分の指を確認していく。包帯の中の指もちゃんと感覚がある。

「あ、いや、実はこれ本当は指じゃないんです。」

「え...?」

「イルカ先生、数ヶ月前に盲腸の摘出手術したでしょ?その時に摘出した盲腸の腫瘍部分を使って加工したんです。」

「えっ、でもこれ骨も爪もありますよっ!?」

恐る恐る触ってその指を確認したが、ちゃんと皮膚らしいものから骨から爪までそれらしくできている。本当に人の指が干からびたものに見えるのに違うと言うのか?

「数ヶ月前、イルカ先生親知らずを抜いたでしょ?その時の歯を利用したんです。それでも足りなくて色んな物で補ったりしましたがほとんどイルカ先生の体のものでちゃーんとできてるんですよ?少し前にイルカ先生がヒョウソにかかって爪を剥がなくちゃいけないって聞いた時は、その、不謹慎ながら少し喜んでしまいました。あ、誤解しないでくださいね、ヒョウソになったのは俺のせいじゃありません。」

てへ、と笑ったカカシにイルカはため息を吐いた。

「つまり、俺の体の一部分で作った指のレプリカなんですね、それ。」

「はい、その通りです。」

カカシはしゅーんとしている。

まあ、やったことは確かにイルカに直接迷惑はかかっていない。盲腸なんて捨てるものだろうし親知らずの歯もまあ、取っておくべきものでもないし、爪なんてなおさらだ。

「それ、カカシさんが自分で作ったんですか?」

「はい、コツコツとそれはそれは本物っぽく見えるように苦心しました。」

そんなところで無駄に上忍の力を使うなよとイルカは肩を落とした。

「あ、あの、呆れました?」

カカシは上目使いでイルカを見ている。

「はあ、もうしょうがない人ですね。しかしよく作られてますね。これが俺の盲腸だったなんて誰も思わないだろうなあ。」

ミイラのように干からびたそれはさわり心地もさらさらとしていてさほど気持ち悪く感じない。まあ、職業柄死体は見慣れているので特に恐怖もないのだが。

「ま、いいですよ。それでカカシさんがちゃんと任務から帰ってくるって言うんなら安いもんです。」

イルカは持っていた自分の指もどきをカカシに返した。

「あの、これ持ってていいんですか?」

「いいですよ。でも暗部が流行らせるものってどうしてこう殺伐しているんですかねえ。」

「え、ロマンチックじゃないですか?恋人の体の一部を持ってるって。」

真顔で言うカカシにイルカは思った。

程度ってもんがあろうに...。暗部の考えていることは分からん...。

 

はい、と言うわけで突発ssでした〜。
職場でふと思いついて書いたので支離滅裂です。