−  flaver 3 −





数日後、木の葉の里に帰ってきた二人は火影に事の報告をした。カカシの送った伝書鳥で粗方のことは知れているだろうが、詳細は口頭にて報告することになっていたのだ。同胞殺しと言う、里にとってあまりにも体裁の悪い事態になってしまい、一般の任務のように報告書として形を残すわけにはいかず、口伝にて報告するのみの形を取らざるをえなかったのだ。
報告が終わり、イルカは気になっていたことを火影に聞いた。

「如月とタツハの処分は如何ほどにされるおつもりですか?」

二人が犯した行為は非道で冷徹、奪った命は多く、到底許されるものではない。

「タツハにおいては同胞殺しの罪においてそれ相応の処置をするが、如月については弁護団が結成されて裁判になるそうじゃ。おそらくは、無罪放免となるじゃろうな。」

火影の言葉にイルカが食ってかかった。

「馬鹿なっ。あそこまで鬼畜めいたことをしておいておいそれと逃げるなどっ、」

「あれでも火の国の大名の血筋の者。本人も才能があり、今までの功績はなかなかに華々しい。殺された者達は色街の女や天涯の孤独の者がほとんどだったようじゃな。しかも国外で起きたことじゃ。争う者もほとんどおらんじゃろう。」

イルカはぎりぎりと歯を食いしばる。

「納得できません。彼女たちがどんな風に死んでいったか目の前で見たわけではないですが、それでもきっと、いや、絶対に死んでも死にきれない悔しさがあったはずです。色街の女だからとか、天涯孤独の身だからって殺されていい命なんかありません。火影様、どうか彼女たちに慈悲を、」

イルカの必死な形相にカカシは思わず見とれてしまう。この人は、本当にどうしてこんなに慈しむべき感情の持ち主なんだろう。

「イルカよ、落ち着け。そのためにカカシを動かせていたんじゃ。あとは流れにまかせれば良い。」

イルカは何のことか解らずにカカシを見やった。カカシはにこりと笑って答える。

「わしからはこれ以上何も言えぬ。二人ともご苦労であった。2日の休暇を与える。身体を休めるがよい。」

火影はそう言って二人に背を向けた。イルカはまだ何かを言いたげにしていたが、火影はもうこれ以上は何も言うことはないと解っているので、渋々火影の執務室から出て行った。
廊下でイルカはまだ怒りを露わにした表情で歩いていく。そんなイルカの隣でカカシはまあまあとなだめる。

「火影はその存在が大きいですから下手なことは言えないんですよ。察してあげてください。代わりに俺が答えますから。あの口ぶりから言ってイルカ先生には話してもいいようですしね。」

「まだ何を隠してんですか?」

じっとりとカカシを見るが、カカシはどこ吹く風と視線をスルーして色々ですよ、と答えた。

「ま、内容が内容なんで人目につかない所で話しをしましょう。」

カカシはそう言ってイルカの手を取った。そして次の瞬間には火影邸から見晴らしの良い高台へと場所を移動していた。どうやら瞬身を使ったらしい。

「ちょっ、一言声をかけてから移動して下さいよ。」

イルカは虚を突かれて一瞬呆けた後に、口を尖らせた。
その様子にカカシは穏やかに笑みを浮かべて、側にあった大木の木の根元に腰を下ろした。イルカもまねてカカシの隣に座り込む。

「今回、如月に別件で調査依頼がきていたんです。かなりの大物でしてね。実はその大物がとある花魁にそれはもうご執心で、しかし最近その花魁は元気がない。どうしたのかと聞けば血の繋がった妹が行方不明となっている。その先に如月の名前が出た。しかし如月は火の国の要人で迂闊に手を出すことができない。そこで木の葉に依頼がきて、丁度イルカ先生が任務で行っていることから、それに便乗して探りを入れることにしたんです。しかし思ったよりもえげつないことになっていて、本当、気が滅入る思いでしたよ。調べれば調べる程、その愚行が浮かび上がってきましたからね。」

イルカは沈痛な面持ちでカカシの言葉を聞いている。

「帰り際に寄った色街の大店、あそこにその花魁がいましてね。妹さんの形見を手渡してきました。泣いていました、やりきれません。」

「でも、それならばなおさら如月にそれ相応の償いをさせなければならないのでは?」

イルカの言葉にカカシは眩しいものを見るように目を細めて見やった。

「正攻法でいくら責めても如月はのらりくらりと交わしてしまうでしょう。それだけの権力と財力があります。ですがそんな上流社会において、如月はミスを犯しました。」

「なんですか?」

「上の立場の者に恨みを買いました。」

「その大物って人ですか?」

「いいえ、違います。」

イルカは首を傾げた。全く解らない。

「それはいずれ解ることです。楽しみにしていましょう。ただ一つこれだけは言えます。如月は罰を受けますよ、必ずね。」

カカシはにこりと笑った。イルカはまだ解らなかったが、カカシがここまではっきりと言うのだからそれ相応の罰は下るのだろうと思った。

「さ、腹も減りました。これから一杯ひっかけていきませんか?」

カカシが立ち上がった。

「でしたらおでんでもどうですか?それから帰りにラーメンおごりますよ。いい店知ってるんです。」

「いいですね、行きましょう。」

カカシはイルカの手をつかんでその身を起こした。そして高台から繁華街へと向かって歩き出したのだった。

 

後日、新聞を読んでいたカカシは小さな見出しに目を留めた。
土の国の大名を総括する男が一人の花魁を身請けした。花魁は見目美しく、賢くもあり、男の仕事をよく手伝い、土の国の人々は二人を似合いの夫婦と褒めそやしているそうだ。
これからだ。これから表舞台の裏側でひっそりと、一人の男が破滅の道を辿ろうとしている。それはまだ目には見えないけれど、だが確実に堕ちていくのだろう。
復讐なんて虚しいけれど、だが、罪を償おうとしない罪深き者に制裁は必要だろう?

「如月、お前は最も恐ろしい女に睨まれたんだよ。今まで殺してきた女たちの恨みを受けるがいいよ。」

カカシは呟くと立ち上がった。
もうすぐここにイルカがお弁当を持ってやってくる。着替えなくては。
カカシは新聞を畳んでテーブルに置いた。

 



やっと終わりましたよいよい。
なんとか恋人っぽくなりました。カカシの強さをひたすらプッシュしてみようかという浅はかな私の考えば見事に砕け散りました。
いえいえいいんですよこのくらいがんばりましょう次作に。