価値
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もうすぐ俺の誕生日がやってくる。 ことの始まりはつきあい始めた去年のクリスマスのことだった。 「実は、家にクリスマスツリーはないんです。」 なんていじらしく言ってみると、カカシさんはまかせて下さいと言わんばかりの笑顔で言った。 「俺、用意しますよ。二人だけで過ごすんですから小さめのがいいですよね、観賞用の。その代わり、イルカ先生はクリスマスにごちそう作ってくださいね。」 俺はその言葉ににこにこと微笑んださっ、ああ、俺は確かにあの時はらぶらぶなんて言う言葉も頭に浮かんださっ!! 「カカシさん、これ...。」 眩いと言うか、もういっそのこと色んな意味で直視できない、世界で一番高価な石でできたクリスマスツリーがそこにはあったのだった。 「これ、ダイヤですか?」 「はい、綺麗ですよね。俺、石にはあんまり興味はなかったんですけど、これはなんだか綺麗だなって思ったんです。」 ああ、そうですかい...。 「あ、あの、カカシさん...?」 「いやあ、思ってたのよりも結構精巧に作られてますよ。使ってるチョコもちゃんとしたものだそうで、あ、色が違うのはそれぞれ違うチョコだそうです。えーと、確か説明書がポケットの中に、」 ガサゴソとポケットを漁っているあなたを見て俺は魂が抜けそうになりましたよ。 「ただいまかえりました。」 「丁度良かったです。もうすぐできあがる所なんですよ。風呂にします?ご飯にします?」 衝撃は後で受けることにしよう。 「風呂に行ってきます。」 「はい、わかりました。プレゼント、すごいもの用意したんですよ。イルカ先生、きっと驚くだろうなあ。」 ええ、きっと驚きますよ。 「お湯、いただきました。」 「はーい、お酒はビールでいいですか?」 カカシさんは缶ビールを持って座った。俺も座る。 「カカシさんが作ったんですよね?」 「はい、そうですよ。」 目の前に並んだ食べ物は全て、どれをとっても不味そうだった。 「いただきます。」 「はい、召し上がってください。」 俺は唐揚げらしい塊を食べた。う、生焼けだ。忍者なので腹の強度はそれなりにあるから大丈夫だが、感触がまたなんともぐにょぐにょする。味はそれなりなんだけどなあ。 「どうですか?」 う、正直に言った方がいいのか、しかし傷つけるよなあ。嘘を言うべきか?しかしこの後彼も食べるだろう。それでは意味がない。 「すみません、カカシさん、味は美味しいんですが、生焼けです。」 カカシさんはそれを聞くとかあぁっと顔を赤くした。 「あの、カカシさん、」 「うわ、ほんと俺、かっこわるいなあ。いつもイルカ先生が作ってくれるから今日くらいはって思ってたのに、ごめん。」 しょぼんとするカカシさんがなんだか、なんだかすごくいじらしい。 「ありがとうございます。俺はそういうカカシさんの気持ちだけでもすごく嬉しいんですよ。唐揚げは身をさいてまた別の料理にも活用できますから。どうか捨てたりはしないで下さいね。」 言うとカカシさんは、はい、と頷いた。 「へへ、これだけはちゃんと胸を張って渡せます。どうぞ、イルカ先生、誕生日おめでとうございます。」 俺はありがとうございます、と言って包みを受け取った。それなりの重さのものだがなんだろう? 「あ、あの、この材質って、あの、」 「ああ、心配しないで下さい。違法なことは何もしてませんから。」 いや、それ以前に確かこの骨、一pあたりとんでもない額がついてるって以前3代目に聞いたことがあるんだけど、それをこんな大量に、しかもなんて見事な仕掛け箱なんだ。 「なかなか大変でしたよ。あ、ちなみに回数は開けやすいように12回にしました。やろうと思えば66回だとか125回だとかあったんですけど、開けようとするたびにそんなに時間かけてたら中身が見えませんものね。」 そう、仕掛け箱とはその名の通り、開けるために細工を仕掛けてある箱のことで、回数はその仕掛けの数のことを指す。 「はあ、ありがとうございます。」 俺は小さな声で呟くように再び礼を言った。 「イルカさん?あんまり嬉しくなさそうですけど、もしかしてこういった細工物はお嫌いでしたか?」 いいえ、実はものすっごい好きです。3代目の部屋に置いてあった6回の仕掛け箱なんか欲しくて欲しくて子どもの頃、何度も羨ましい目で見たりもしましたさ。 「あの、カカシさん、一つおたずねしたいんですけど、これおいくらですか?」 「はい?」 がっくりきている俺の姿におろおろしていたカカシさんだったが、俺の質問の意味が分からないのか首を傾げている。 「だから値段ですよ。これ、いくらしたんですか?こんな高価なもの...。」 「え、これ高価なんですか?実家にたまたまあった硬そうな材料があったんでそれを使って自分で作ってみたんですけど。」 は?今何を言ったこの御仁...。 「あの、作ったって?」 「いやあ、実は俺、こういった細かい細工ものは得意なんですよね。」 「あの、それはともかく、あなたの家にはこんな材質がごろごろ転がってるんですか?」 「あー、転がっているって言うか、うちのじいさんがそういうの集めるの好きだったみたいで。なんか無駄に溜まってるんですよね。」 「それってダイヤもですか?」 「は?ダイヤ?ああ、もしかしてクリスマスツリーのですか?あー、もしかしてイルカ先生、何か勘違いされてます?」 それから聞いたカカシさんの話しは、まさしく作り話か?と思えるほどに現実の話しだった。 「あの時はさして興味もなかったんですが、ほら、きらきらしてる石って女性になんだか人気でしょ?サクラや紅に見せたら目の色変えましてね。ああ、これはきっといい品なんだなって思って、いつか何かに使おうと思って宝石商に研磨してもらったんです。ダイヤの原石数個で快く承諾してくれました。いやあ、なんだか特しちゃいましたね。そんな時に先生がクリスマスツリーが欲しいって言ったんで、これを使えばきらきらして綺麗だろうなって思ったんです。」 俺はそれを遠い話しのように聞いていた。ん、待てよ!? 「あの、それじゃあバレンタインのあの有名店のチョコはなんなんですか?」 「え、有名なんですかあの店。実は以前スーパーのチラシに『バレンタイン企画、あなたの考えたディスプレイチョコ、最優秀賞の方にあなたのデザインしたチョコをプレゼント!!』っていうのがありまして。ほら、俺、そういうの考えるの好きなんですよ。この仕掛け箱もそうなんですけどね。」 「それじゃあ...。」 「ええ、俺のデザインが優勝したんで賞品としてもらってきたんです。あ、でもちゃんとイルカ先生との夢の家をイメージしてデザインしたんでちゃんと愛はつまってますよ。でも、」 カカシさんは口を噤んだ。 「俺、なんかまた失敗しちゃたかな?料理もイルカ先生みたくうまくできないし、なんだがプレゼントはあまり好きなものではなかったようだし。」 「えーと、カカシさん?」 「はい?」 「俺の料理、好きですか?」 「そりゃあ勿論。俺、いつだってイルカ先生の作る料理が世界で一番のごちそうだって思ってますよ。俺の贈るプレゼントなんて足下にも及ばないです。」 にこりと笑った顔に俺はふふ、と笑い返した。 「プレゼント、ありがとうございます。俺、本当はこういって仕掛けもの、大好きなんです。ただ、あんまり高価なもののようだったのでなんだかいたたまれなくて。」 「えっ!?もしかしてクリスマスの時もバレンタインの時もそういう風に思われてました!?」 カカシさんは失策したなあ、なんて頭を抱えている。 「惚れ直しましたよ、カカシさん。」 カカシさんは顔をばっと上げて破顔した。 「イルカ先生に喜んでもらえて良かった。」 カカシさんはそれから俺をぎゅっと抱きしめた。 |
はいっ、と、言うわけでなんだかありがちネタで申し訳ないorz
なんだかカカシ先生がなよなよしてる...。
いいんです、イルカ先生の誕生日なんだから彼を立ててあげないとっ!!