翌日、処刑日、美しく晴れ渡った空の元、普段は人が入らない演習場の一画で白い幕が張られていた。
俺はその中に立っていた。火影とカヤ、そしてシズネ、コハル様までいる。仰々しいことこの上ないがギャラリーは少ない方だろう。無理もない、極秘扱いのカヤの我が儘のために行われる処刑だ。誰にも知られることのないようにせねばならないのだから。
そこに白い衣装を纏ってルイカが連れてこられた。罪人でもないのに後手は縛られている。ここまでしなくたっていいだろうに、と心の中で舌打ちしながらも見守る。カヤは扇子で口元を隠しているが薄笑いを浮かべているのがよく分かった。
ルイカはござの上に座らせられた。顔を俯けて目を伏せているようだ。痛々しい姿だ。
罪状はない。だから処刑はすぐに行われる。早く休ませてあげたい。すぐに楽にしてあげる。だから、少しだけ我慢してね。
俺は千本を取り出した。鈴がちりんと鳴る。その音を聞いて、少しルイカが笑ったような気がした。俺を信頼してね、ルイカ。
俺はルイカの体めがけて千本を数本投げつけた。
体に突き刺さるいくつもの千本、そしてその場に崩れ落ちるルイカ。
カヤが高笑いをあげる。火影が眉間に皺を寄せる。
俺は立会人たちの前に跪いた。

「処刑、滞りなく執行しました。」

言えば火影が労いの言葉をかける。

「大儀であった。カヤ殿、これにてあなたの雪辱は遂げられたはず、国へお戻りになられてあとは心安らかに過ごされよ。」

暗にさっさと国に帰れと言っているようなものだった。
が、カヤは立ち上がると、ルイカへと向かっていった。なんだ?死亡を確認するつもりか?
死体の確認、それは死んだふりを見抜くためにも忍びにとっては日常茶飯事のことなので見慣れた光景ではあったが、一般人にとってはかなり異様な行動だろう。だが確認したければするがいい、文句は言わない。
しかし死体を近くで見たがる趣味を持ち合わせていたとは知らなかったな。だが、処刑を強要させるような女だ。神経は常人とは違うのだろう。どこまでも人としての常識を持ち合わせていない女だ。
俺は仕方なくカヤの後に着いていく。

「死体を確認されたいのですか?」

ルイカの前で立ち止まったカヤに声をかけると、カヤは含み笑いをして、あろうことかルイカに向かって唾を吐きかけた。俺は咄嗟に手で阻止する。
カヤの行動を傍観していたギャラリーがこれにはさすがに席を立ってカヤを睨み付ける。

「案外あっさりしたものなのねえ。もっと血しぶきがあがるものかと思ってたのに、つまらないわ。死ぬ時くらい私を楽しませてくれればよかったのに、最後までバカな女。」

カヤはそう言ってころころと笑う。
我慢の限界だった。

「死者に対する愚弄はひかえた方がいいですよ、カヤ様。品格が疑われます。」

俺はそう言って汚れた手甲を取ってルイカを抱え上げた。これ以上この場に、カヤの前にルイカの姿を晒したくない。シズネに視線を送ってついてくるように促す。
仮死状態になっても変化が解けないように特殊な薬を飲んでもらったとシズネが言っていたのでしばらくはルイカの姿を維持しているだろうが、それでも時間が立てば変化は解けるし早く仮死状態から戻してあげたい。

「カカシ、どこへ行くのよ。死んだ女なんか放って私と一緒に来なさい。依頼料を倍額払ってもいいわ、私を国で護衛して。」

強請ることが当然のように命令する女。モリジも哀れな男だったのだと同情する気持ちになりそうな程だ。
俺は火影に視線を送った。火影は好きにしろと手を振った。
俺は覆面を取ると特上の笑みを向けて言った。あんたの好きな顔で言ってやるよ。

「さっさと消えろ、メス豚。」

あ、トントンに失礼だったかな。

「カカシっ、」

カヤが何かを喚いていたが無視をする。後始末、よろしくお願いします火影様。
あらかじめ、処刑が終わったら火影の執務室に付随している医務室に搬送することになっていたので、俺とシズネは瞬身を使って医務室へと向かう。本当ならば設備の整った病院へ行きたいものだが、事は内密に進めなくてはならないので人の目がある所へは行けないのだ。
医務室へ着くと、早速ルイカをベッドに横にしてシズネに診せる。
シズネは手早く、しかし慎重に千本を抜いていく。そして手に集中してチャクラを練り上げ、体にあてていく。伴って顔に赤みが差していき、しばらくしてルイカはうっすらと目を開けた。気が付いたようだ。さすが医療忍者のスペシャリストだけはある、いい腕だ。
俺はほっとして壁によりかかった。
それから、傷口の手当などをして処置は終わった。

「本来なら一週間くらい体がうまく動かないはずなんだけど、カカシ君の千本が丁寧に体に刺さっていたのが良かったんでしょうね、3.4日で全快すると思います。変化はあと数時間で自然に解けると思いますから、そしたら自宅で療養して下さい。」

シズネは気になっていたのか、火影の元へ行ってきます、と言って医務室から出て行った。まあ、カヤをなだめるのは大変だろう、ごめんね。
俺はルイカの元へと向かうとベッドの近くにあった椅子に座った。
ルイカは震える手で胸元で印を結ぶ。そして解、と小さく呟いて変化を解いた。どうやらすぐにでも変化を解きたかったらしい。
俺は苦笑してイルカ先生の額を撫でた。
そして約束通り、取り外された千本のなかから鈴のついているものを手に取り、それをイルカ先生の見ている前で粉砕した。

「これで全部終わりです、お疲れ様でした。」

そう言うと、イルカ先生は嬉しそうに笑って目を閉じた。まだまだ体は完全じゃないのに、そんな状態で変化を解いたものだから余計に疲れてしまったのだろう。
まあ、しばらくはゆっくり休んでください。次に起きた時には、俺が傍にいてあげるから。

 

それから、カヤは帰っていった。ちゃんと依頼料も払っていった。当然だ、あそこまで我が儘をきいてやったんだ。これで支払わなければ国に汚名が付いても文句は言えない。むしろ木の葉を敵に回すだろう。
あれからイルカ先生の体も、シズネの言った通り4日後には回復し、今ではちゃんと普通の生活に戻っている。
アカデミーの復興に力を入れられる状況まで里が回復したので忙しくはなったのだが、イルカ先生は嬉しそうだ。
たまに木の葉丸がナルトの真似をして女体変化の練習をしているのを見て複雑そうな顔を浮かべている時もあるけれど。
大丈夫ですよイルカ先生、俺はちゃんとあなたが好きですからね。
あのくの一はもう俺の意識には現れない。今はただ、あなただけ。


おわり

はい、と、言うわけでお疲れ様でした!!
本当はね、うん、ギャグにするつもりだったのにどうして、こう、こうね、なんて言ってはだめっすね...orz
実はこの話しの裏設定として言葉遊びを少しモチーフにしていたんですが、微妙に気付かれた人は...うん、微妙すぎてわかんないってねお叱りごもっともっ!!
あれです、わたしはあなたをあいうえお、だからてがみをかきくけこ、いやならはものでさしすせそ、そしていのちをたちつてと、って言うんですが、うん、あー○ん、好きです♪
ちょっとGO!GO!7188の「くのいち」って歌があるんですが、その歌詞の中で「汚らわしいっ!」ってのがあるんですが、その台詞を入れられなかったのが今回の残念賞って言うか、そんなん知るかっ!って話しです、はい。