カカシは意地が悪かった。
いつもいつもイルカに突っかかる。

「イルカ先生の家ってゴキブリがまるまる太って繁殖してそうなイメージがあるんですよね。」

「はあ、それは、すみませんねぇ。」

「良かったじゃないですか。火事や地震の前触れの時にゴキブリって引っ越すらしいですから。いい目安になりますよね。」

「...報告書お預かりします。」

イルカは引きつり笑いを浮かべてはカカシの言葉を受け流すのだった。
いつもこうだ、なんやかんや言ってイルカで憂さ晴らしをしているかのような言動はもうかれこれ数ヶ月は続いている。はっきり言って、ストレスでどうにかなりそうだった。
最初は普通に会話してたと思うんだけどなあ、なんでこんな風になっちまったんだか。
イルカは円形脱毛症になるんじゃないかと毎朝洗面所で鏡を前にするたんびにため息を吐くようになってしまった。
そんなイルカを見かねてか、火影がイルカに簡単な里外の任務を宛った。2.3日かかる届け物の任務だ。
ずっと教師と受付の二足のわらじで、ついでにカカシの陰険な言動で疲弊していたイルカはありがたくその任務を拝命した。
が、その任務中に敵に遭遇してイルカは術にかかってしまった。
その名もさとりの術。
その名の通り相手の言動をさとってしまう術である。それじゃあ相手の居場所やなんかが分かってお得な気もするが、そこを突いてのかく乱目的で仕様することもある。
実際イルカも敵忍のかく乱で這々の体で敵を撒いて帰り着いた次第であった。
深夜、里に帰り着いたイルカはさっそく解術をしてみたがどうにもうまくいかない。仕方ないので病院に行ってみたがやはり解けない。最終手段として火影様直々になんとかしてもらうことになった。

「これはまた、複雑にこんがらがっとるのう。下手に解術しようとして余計に複雑化してしまっておる。」

火影の言葉にイルカは真っ青になった。

「ええっ、じゃあもう一生このまんまなんですかっ!?」

「安心せい、複雑化しておるが治る。じゃが今すぐには無理じゃの。一旦調べるから明日また来るがよい。」

『反省の意味合いも込めての。』

「はあ、わかりました。」

火影の心の声もばっちりと聞いてイルカは火影邸を後にしたのだった。まあ、明日一日くらいならなんとでもなるか、とイルカはその時は大して気にもせずに自宅へと向かったのだった。

 

が、甘かった。
清楚で可憐と評判のくのいちが、

『今日のセレクトはエログロナンセンスにしようかな。いつも思うんだけどエログロナンセンスとAVは違うんだけどなあ、まあ、AVも見るけど。今日はどんなのにするかなあ。』

子ども好きで穏和な男が、

『最近の萌えは幼女傾向が薄くなってきた気がするな、でもぷにぷには捨てがたい。やっぱりあのラインと曲線美は触手と組み合わせることで効果を発揮する。恐ろしい、やはり時代がどんなに突き進んでも俺の萌えは幼女だ。』

厳格でダンディな男が、

『おにゅうのパンツはギンガムチェック♪』

...。
誰か耳栓、いや、無理だ、頭の中に直接入ってくるんだから仕方ない。
でも、誰かどうにかしてくれ、人を見る目が変わりそうだ...。
そう、イルカの考えは甘かった。人の心の中は結構駄々漏れると厳しいものがある。相手は当然聞こえていないと思っているからガンガン妄想するわけで、聞いているこちらとしてはなんともいたたまれず、そして顔に出すこともできない。火影は解術の研究のために受付にはいない。
早退、しようかな、と腰を上げようと思ったその時、受付所にカカシがやってきた。
こいつの頭の中はどんなことになってんだ?と少し興味が湧いたイルカは椅子に座り直した。
カカシはいつものようにイルカに報告書を提出する。

「最近枕元に抜け毛があるんじゃないですか?髪の艶も何だかなくなってきたようですし、いいシャンプー知ってますよ、高いけど。紹介しましょうか?」

「報告書、ください...。」

『欲しい、欲しい、どうしても欲しい、殺してでも手に入れたい。このイルカという男を。』

イルカは机につんのめった。

「はぁっ!?あんたなに考えてんだっ!!」

イルカの言葉にカカシの目が大きく見開いた。

「あ、」

しまった、つい言ってしまった。イルカは報告書を隣の同僚に預けて窓からすたこらさっさと逃げ出すことにした。
が、カカシの手の方が早かった。上忍なのだから当たり前である。
そしてイルカに耳打ちした。

「人の思考が聞こえるようですね。ここ2.3日任務で里外にいたそうですから任務中に何か厄介な術でもかけられたって所ですか?」

ずばり言い当てられてイルカは何も言えずに固まった。

「どうせばれてしまったのなら仕方ないですから、俺の考えてたこと全部聞かせますよ。実際の声でね。」

「ちょっ、まっ、お前ら助けっ、」

が、イルカの言葉は途中で遮られ、カカシはイルカを抱え込むと瞬身を使ってその場から去ってしまったのだった。
中忍が上忍に敵うはずないだろ、イルカ...。と同僚はイルカの無事を祈るのみに留まった。
その直後。

「む、イルカの奴どこに行きおった。せっかく解術の方法を編み出したと言うのに。反省の余地がないの。もう少しさとりを体験させるか。」

やれやれと言って自分の椅子に座る火影の姿が見られたとか。