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「魔王を倒してほしい、ですか?」 カカシはぽりぽりと頭を掻いた。一般の子どもたちがしているゲームに登場するラスボスのことを一番に思い浮かべたがたぶん違うことなんだろうなあ、と思った。が、 「遠い場所に有火司(あるひじ)国と言う国があってな、そこの国主を退け魔王が民を苦しめているそうだ。そこで民たちは魔王を倒してほしいと今回木の葉に依頼をしてきたんだ。国主は囚われの身らしくてな、その救出も頼まれた。」 「はぁ、有火司国ですか。それまた随分と遠いですねえ。」 カカシはその国までの地理を思い浮かべた。忍びの足ですら往復で2ヶ月かかる。木の葉崩し直後の混乱は治まってきたものの、まだまだ忍び不足は深刻な問題である。そんな時期に働き頭である自分が長期で里を空けていいものなのだろうか?目の前でその豊満な胸の前で腕を組んでいる火影に少し難色の目を向ける。その視線に気付いた火影はため息混じりに言った。 「お前の言いたいことも分からないではない。だが今回は依頼主からの要望もあってな、お前が適任なんだ。」 「実は依頼料が半端でなくいいんです。通常のSランク任務の20倍の額を提示してこられました。働き次第ではそれ以上の追加報酬も考えると。」 火影の隣で立っていたシズネの言葉にカカシは正直驚いた。Sランク任務の20倍、この一件のみでその額ならば頷いても仕方ないだろう。 「ちなみに同行者も1人付ける。これも依頼者側の要望だ。希望の人材はいるか?」 「ああ、じゃあ海野中忍を。」 にへらと笑ってカカシが言うと火影は眉間に怒りマークを浮かべた。 「任務に私情をはさむつもりかい?」 「とーんでもない、俺は海野中忍の実力を評価してるんですよ、それとも火影様は海野中忍の実力では心許ないと?」 恋人であるイルカを指名して私情ではないと言い張るふてぶてしいカカシを前に火影はため息を吐いた。 「分かったよ、それくらいの我が儘は許してやる。後はシズネに聞け。シズネ、例の依頼主からの諸々の説明をしてやれ。実際に目で見た方がいいだろう。」 火影の言葉にシズネは頷いた。目で見る?何か依頼者から目に通すべきものを預かっているのだろうか?カカシは疑問符を頭に浮かべた。 「はたけ上忍、こちらです。」 シズネの案内にカカシは資料の入った封筒を持って執務室から出て行った。そして案内された部屋に入ると、部屋の中には長持ちがひとつ置いてあった。そしてシズネはその長持ちの中からおもむろに何か装飾品のようなものを取りだした。 「今回の任務ではこの装備を装着してもらいます。」 「はぁ〜?」 カカシはそれを手に取ってよく見てみた。鋼の甲冑のようだ。しかし他にも兜や革製の手袋、ブーツ、そしてなんだかよくわからない異国の服がいくつもある。はっきり言って派手だった。忍びとしての影となって行動するという本来の姿を所望されているわけではないのだろうか。それにしたって恥ずかしい恰好だ。 「これを身につけろって言うんですか?」 「身につけるだけじゃありません。今回の任務では木の葉の武器は一切持ち込めません。」 「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあどうやって戦えって言うのよ。忍術だけじゃチャクラの消耗が激しくてすぐにばてるんだけど。」 「分かってます。何も武器を一切持っていくなと言うわけではありません。」 どっちだよっ!とカカシはツッコミを入れたくなった。 「実は武器も依頼主から提示されたもののみ持っていって良いと。それがこれです。」 と、差し出されたのは重そうな剣だった。柄の部分に豪華な装飾がなされており、あまり実戦向けとは言えない。しかも武器はこれだけらしい。 「あー、俺に死ねと?」 カカシはにこりと微笑んだ。その笑みにブリザードが巻き起こる。だが火影の右腕として日々借金取り立ての業者から追い回される身であるシズネに効果はない。 「里一番の忍びであるはたけ上忍ならば大丈夫です。それに一度拝命した任務をおいそれと返上するなんてこと、しませんよね?」 シズネの笑みにカカシはため息をついた。さっきの我が儘をあっさりと許したのはこういう状況からか。あの腹黒め、と思った所でもう遅い。それに元から任務を返上しようなんて意志はない。ただ、どうにか自分のやりやすい方向に持っていきたかっただけなのだ。 「有火司国に入国する直前で着替えるわけにはいかないわけ?」 「任務に出る時からずっと身につけていてほしいそうです。」 これを来た姿をアスマや紅にだけは見せたくないなあと思いつつ、それも依頼主からの要望ならば仕方ないと思った。女装だとか半裸状態になるきらびやかな服じゃないだけましだろう。 「同行する忍びにも同じ恰好をしてもらうんだよね?」 「いえ、同行者の服はこれです。」 と、シズネが指し示したのはいたってシンプルな服だった。 「えーっ、俺だけこんな仮装みたいな恰好するわけ?それってちょっと不公平なんじゃない?」 「依頼主からの要望です、諦めてください。ではよろしくお願いしますね。他の詳しいことはその資料に書いてありますから。」 にこやかな笑みをカカシに向けてシズネは部屋から出て行った。さすが火影の右腕だけはある。反論の余地すらなかった。 カカシは長持ちの中の甲冑と、手元の資料を見て諦めることにしたのだった。 そして翌日、誰ともかち合わないような朝早く、カカシはイルカと共に里を経った。 「不思議な要望の任務ですが、里外の任務は久しぶりです。」 イルカの言葉にカカシは和んだ。まあ、イルカと同じ任務と言うだけでも価値はある。少々恥ずかしいくらいは我慢しよう、とカカシは思ったのだった。 そして一ヶ月かけてカカシとイルカは有火司国までやってきた。 「すみません、今夜一晩宿を取りたいんだけど。」 とカカシが戸を開けて入るとすぐに主人がやってきた。 「いらっしゃいませ、どうぞこちらへ。ご案内いたします。」 主人はそう言ってカカシたちの前を歩いて案内した。そして割りと良質な部屋まで案内してくれた。 「さ、どうぞ。」 主人に言われてカカシは部屋に入った。それに続こうとイルカも入ろうとした所で主人に止められた。 「ああ、あんたはだめだよ。」 「え?」 もしかして別々の部屋に案内するつもりだったのだろうかとカカシは口を開きかけたが、言う前に主人が当たり前のことのように言った。 「だってあんた勇者の従者だろう?同じ部屋に寝るなんてとんでもない。馬小屋くらいが丁度いい。」 従者っ!?自分の恋人をよりにもよって従者!?それはそれでおいしいシチュエーションだが恋人と別々の部屋なんてとんでもないっ!しかもよりにもよってなんで人が休むべき場所ではない馬小屋を指定してくるのか、カカシは殺気を出して主人を威嚇した。 「いーい度胸してんねえ。よりにもよって俺の恋人をそんな所に寝かそうなんざ喧嘩売ってんのと同じよ、主人。」 写輪眼を出してぐるぐると回転させようとしていたカカシだったが、そこにイルカが待ったをかけた。 「ちょっと待ってください。主人、勇者とおっしゃいましたがその勇者っていうのはどういう意味なんですか?」 イルカの穏やかな問いかけにカカシからの威嚇に逃げ腰だった主人が少し落ち着いて話し出した。 「意味もなにもそのまんまだよ。あんたら魔王を倒しに来たんだろ?その恰好は勇者の出で立ちに違いないし。」 主人の言葉は2人にはよく分からなかった。依頼者からもらった資料にもそんなことは一言も書かれていなかった。これは何かある。2人は頷きあった。 「とりあえず、俺とイルカ先生は同じ部屋だから。勇者だか従者だか知らないけどそんなの知ったこっちゃないね。」 カカシの有無を言わせぬ言動に、主人は何か物言いだけではあったが、すごすごと引き返していった。 「なんだかちょっとややこしい事態になってるようですね。情報が正確に伝えられなかったようです。これは一度探りを入れた方がいいですね。」 部屋に入ってベッドに腰掛けたカカシはそう言って窓から外に視線を向けた。魔王に支配されているとは言っても人々の日常は概ね平和そのものである。 恐怖政治を強いられているわけでもないようだし、これは何か裏がありそうだ。 「わかりました。ですがその役は俺が引き受けます。カカシさんは良い意味でも悪い意味でも目立ちますし、俺の方がきっと集めやすいと思いますから。」 イルカの言葉にカカシは渋々頷いた。確かにこんな装飾のついた服では動きにくいし人々の目がある。 「頼みます。」 「はい、では夕食までには帰ってきますからね。」 イルカはそう言ってカカシに軽くキスした。いつもは自分からそんなことをしないイルカにカカシはびっくりして目を見開いた。 「い、イルカ先生!?」 「さっきは、俺のことで怒ってくれて、その、ちょっと嬉しかったです。やっぱり他に部屋もあるのに馬小屋かよっ!って卑屈になりそうだったんで、あ、いえ、でも任務中ですからね、本来私情はだめなんですよ。」 そう言って少し顔を赤くしたイルカは部屋から出て行ってしまった。 それから夕食時になってイルカは戻ってきた。宿の食堂で一緒に食事を取る。主人がやっぱり何か物言いだけではあったがきっぱりと無視した。 「それで調べてみたんですが、どうやらこの国に魔王が現れたのは最近ではないようです。しかしこの国の伝説というのがありまして、なんでも国の危機に勇者が現れて魔王を倒すのだそうです。ですが何年待っても勇者は現れない。焦れた民は仕方なく勇者の代わりの人材を宛ったというわけなんだそうですよ。その服も剣も勇者である証だそうで、なんともおかしな話しではありますが、それでこの国の人たちが安心するなら仕方ないのかもしれないですねえ。」 イルカの言葉にカカシは脱力した。なんともばからしい話しだ。 「ま、それでも俺たちが来たからにはさっさとその魔王とやらを倒して帰ることにしましょう。俺欲求不満ですよー。」 恥ずかしげもなくそう言ってカカシは意味ありげにイルカに視線を送った。 「なっ、任務中ですっ。馬鹿なこと言ってないでさっさとご飯食べて体を休めますよっ。」 イルカは顔を真っ赤にして無理矢理ご飯を頬張った。それを見てカカシはにやにやと笑うのだった。 さて、カカシとイルカはとうとう有火司国の首都へとたどり着いた。さすがにここらは魔王の存在が近いからか、なにやら薄暗い雰囲気を醸し出していた。人々の表情も暗い。が、カカシを見つけるとみなは喜びに満ちた表情で出迎えてくれた。ちょっとこちらが引いてしまう位だった。 最初は頑として一緒の食事、一緒の部屋にするのだと言い張ったカカシだったが、住民の対応がどうにもそれを許してくれなかった。 「たった一晩のことですし、そんなに目くじら立てないでください。前回の馬小屋に比べれば随分とましになった方ですよ。それにね、干し草のベッドっていい匂いがして以外と寝心地がいいんですよ。」 そう言って苦笑してイルカは納屋へと行ってしまった。その後ろ姿を見てカカシはさっさとこの任務終わらせてやる、と闘志を燃やしたのだった。 そして翌日、よく晴れた日、カカシとイルカはさっそく城へと向かった。城の中では魔王の手下らしい奴らがうろうろしていたので片っ端から片付けていく。一段落してカカシとイルカは別々に行動することにした。 「イルカさんは城の中で牢のある場所を探して囚われの身の人たちの救出をお願いします。俺は魔王を倒してきますから。」 「わかりました。お気を付けて。」 イルカの言葉にカカシは嬉しそうに笑った。 「頼りにしてます、イルカ先生。ではまた後ほど。」 そう言って2人は一旦分かれた。 「勇者よ、ここまで来たことは褒めてやろう。だがお前にわしは倒せん。お前はここで死ぬのだっ!!」 魔王はそう言って立ち上がった。カカシは剣をかまえた。ここまで剣一つで無理に闘ってきたが、やはり慣れない武器だからか使い勝手が悪く疲れる。 依頼書によれば剣で闘えとなっているが、はっきり言って素手で闘った方がなんぼもましだった。 「戦いを放棄するつもりかっ!?」 魔王の言葉を無視してカカシは印を組んでいった。そして右手にバチバチと青い閃光を迸らせる。 「な、なんだそれはっ、魔法かっ、魔法を使う勇者だったのかっ!」 「雷切っ!!」 カカシは叫んで魔王に突進していった。そしてあっさりやっつけたのだった。 「あーあ、やっぱりなんかあっけないなー。なんでこんな任務にあんだけの報酬が出せるんだろ。」 カカシはぶつぶつとぼやきながらイルカの方を手伝おうとその場所から出ようとした時、人々の話し声と足音が聞こえてきた。どうやらこちらに向かってきているようだった。 「勇者よっ!」 第一声と共に姿を現したのは恰幅の良い男だった。たぶんこの男が王だろう。ふさふさのくるくるした髪の上に王冠がきらきらと輝いている。 「よくぞ魔王を倒してくださった。やはり伝説通りであった。感謝するぞ。」 顔を紅潮させてカカシを絶賛する王らしい人にカカシはどうも、と愛想もなく応えた。 「褒美にわが娘、王女を取らせよう。」 「...は?」 カカシは何言ってんだこの親父、と言わんばかりに目の前の男を凝視した。自分で言っておいてなんだがどこの馬とも知れない男に自分の娘をやるってか!? 「おお、来たな、こちらが我が自慢の娘だ。」 王女はなるほど、この王の娘とは思えない美しさだった。ひとえに王妃の賜物だろう。木の葉でもこれだけの美しい女性は見たことがない。 「見た目もさることながら我が姫はこの国一番の器量好しでな、慈愛に満ち、優しく思いやりもある。」 姫がそろそろとでできてカカシの前でお辞儀をした。かわいらしくも優しげな顔立ちだった。礼儀正しいしきっと天使のような性格をしているのだろう。 「さあ、遠慮することはない。今日は城をあげての祝賀会じゃ。」 依頼者から任務のお礼に食事に招かれることは多々ある。これも付き合いのうちと大抵は参加するのが暗黙の了解となっているが、この有火司国とは大して交流もないし友好関係もない。まだ木の葉も安定しきっているわけではないし、ここは辞退した方がいいだろう。何か雲行きも怪しいし、と断ろうとした所でイルカが目に入った。こちらを見て我慢しているような、拗ねているような、不安なような顔をしている。 もしかして、嫉妬してる?カカシはにやりと笑った。 「そうですねえ、姫との婚儀は願ったりもないことですよねえ。」 カカシの言葉にイルカが目を大きく開け、そして耐えるように眉根を寄せた。かわいいことこの上ない。 「顔も美しくて心に汚れひとつない、まるで天使のようなお姫様、素晴らしいですね。この世の男はきっとこぞって姫に求婚することでしょう。」 カカシは王に向かってにこりと笑った。そしてイルカの側に来ると胸に抱え込んだ。 「けど、そんなの俺にとっちゃつまらないしくだらない。」 え、と王たちが固まった。 「俺はね、卑屈になったり嫉妬したり、小さなことで怒って泣いて、体にいくつも傷があって無骨で下手に不器用で。でも、不器用なりに一生懸命になって相手のことを考えて、あったかく包んでくれる、そんなイルカ先生を愛してんですよ。ね、イルカ先生?」 カカシはそう言って、驚いている一同の目の前でイルカに濃厚なキスをしてやった。 「今回の任務は終了しましたので、後日改めて報酬を入金して下さい。木の葉の忍びのご利用、ありがとうございました。」 カカシはそう言うとどろんと煙をあげて忍服に着替えた。ついでにイルカにも術をかけて服を忍服に着替えさせてやった。 「ちょっ、カカシ先生任務中はずっとあの恰好って要望がっ、」 「もう任務終わりましたし、コスプレは終わりです。さっさと帰りましょう。」 カカシは口布に斜め額宛てのいつもの出で立ちになってコスプレよりもよっぽど怪しい恰好で、未だに呆然としている王たちに会釈をしてイルカと共に城を出たのだった。 「いいんですか?あんな態度取って、俺は、その、別に良かったんですよ、祝賀会に出ても。」 城を後にしてそう言うイルカは、口ではそんな事を言っておきながらどこなく嬉しそうな顔をしていた。 「いいんですよ、別に義務でもないし。俺としてはいち早くイルカ先生とイチャパラしたくて仕方なかったんですから。だって俺はイルカ先生だけの勇者ですから。ね、姫?」 「誰が姫ですかっ、もう、帰りますよっ。」 カカシに背を向けて歩き出すイルカの首筋がうっすらと赤い。それを見てカカシはにやりと笑った。
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はい、お疲れ様でしたっ!!
えっと、どこが血の海なんでしょうか!?
ほら、闘った時にきっと血の海ができあがったと思うのよたぶん。
もうそんなんばっかやねあたし...orz
全然お礼になってへんな〜、おかしいな〜、と、言うわけで精進しようと思いますっ!!