イルカとカカシは机の上に乗っている資料をじっと見ていた。2人とも言葉がない。不自然な沈黙は、だがイルカの方が耐えられなかった。

「あの、カカシ先生、お嫌でしたらその、棄権しても良いのではないでしょうか。」

イルカの言葉にカカシははっとして顔を上げた。イルカは困りましたね、と顔に書いてあるかのごとく眉根を下げている。
確かに要望は厳しいものだった。だが自分は上忍としてどんな仕事もやってきた。任務を選り好みするわけにはいかない。しかもこれは里を活性化する壮大なプロジェクト、らしいのだ。さっぱりその意図には賛同はできないが、それでも里の住民が望むのならば、喜んで拝命したい、いや、せねばならんだろう。

「イルカ先生、任務ですよ。それにずっと、というわけでないですし、お互いにがんばりましょう。」

カカシの言葉に勇気づけられたのか、イルカはどことなくほっとした様子でそうですね、と頷いた。

「しかし、どうしてこんな任務を男である俺たちに任命されたんでしょうか?自分の個人的な意見として言わせていただければ、ここはもっと華やかなくの一なんかが適任なのではないでしょうか。」

イルカの言葉にカカシは頷いた。そして資料の表紙にででんと書かれた文字を少々うんざりとした心持ちで見た。

『木の葉アイドル企画』

...。

その題字の下には『暗部アイドルはたけカカシ&受付アイドル海野イルカの両名によるユニット型アイドル始動』と副題が付けられている。
この企画を考えたやつ、いつか闇討ちしてやろう、と心に決めながらカカシはぺらりと資料をめくった。

「俺、もうすぐ三十路なんですけど、アイドルで通じるんですかねぇ?」

イルカがははは、と乾いた笑いを浮かべた。一歳年上の俺はもっと三十路に近いんですけど、とは言わずにカカシはぺらりぺらりと資料をめくっていく。

「まあ、男の俺たちを推薦した所でそういった一般的な問題は除外されていることでしょう。」

「でも、俺別に受付でアイドルみたいな扱いを受けてたわけじゃないですよ?いつもいつも窓口で休む暇もなく報告書を受け取って手が空いたと思ったらなんでかみんなのお茶くみさせられて、男だからとか女だからとかいう思想を掲げたいわけじゃないですけど、交代制でみんなでお茶くみしてほしいって常日頃から思ってるくらい雑用ばっかりさせられてましたし。」

「俺も暗部でアイドル扱いなんかされてませんよ?むしろ特攻して斬り込み隊長しろだとか潜入して色仕掛けしてこいだとか名指しで指名されて馬車馬の如く働かされてきましたよ。」

2人は同時にため息を吐いた。

「まあ、まだ時間はあります。どういった形でアイドルとしての活動を行うかは、今後このマネージャーとやらが指示してくるそうですから、それを待ちましょう。」

カカシは資料をイルカに手渡して立ち上がった。資料を受け取ったイルカも慌てて立ち上がる。

「ええと、では今後よろしくお願いします、カカシ先生。」

「はい、こちらこそ、イルカ先生。」

カカシとイルカは互いに握手した。いまいち盛り上がりに欠ける対面だった。

 

 

そして数日後、カカシはそのマネージャーに呼び出された。

「ようっ、カカシっ!!今日も青春してるかーっ!?」

マネージャーはガイだった。資料に名前が書いてなかったのは故意に違いない。書かれてあったら何が何でも棄権したものを。
うんざりと自称ライバルの男を見て、カカシはイルカの到着を心待ちにした。この濃ゆい男と2人きりと言うのはさすがに厳しい。
そして待ち合わせ時間ぎりぎりになってイルカはやってきた。その姿は神にも思えた。

「イルカ先生、遅いですよっ!」

カカシの半分涙まじりの訴えにイルカは申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。

「すみません、受付業務からなかなか抜け出せなくて。任務だって言ってるのに後から後から報告書を手渡してくるもんですから火影様に代わってもらってきました。」

へらりと笑ったイルカにカカシはお疲れ様です、と心から労いの言葉をかけた。

「よしっ!ではそろった所で今日のスケジュールを言うぞっ!今からとある場所で早速路上ライブだっ!!」

「ちょっと待てよガイ、ライブって、俺たち持ち歌なんてないでしょ?何を歌うって言うのよ。」

「それにとある場所ってどこですか?住宅街でするとご近所の方に騒音などで迷惑がかかりますし、観客が立ち止まってその道を人垣で埋めてしまっては通行の妨げとなってしまいます。」

「はははっ、心配することはないぞ!!場所は木の葉中央公園だ、ちゃんと火影様に許可は取ってある。それから歌は誰でも知っている木の葉の忍歌だっ☆」

キラーン、と白い歯を見せてガイはポーズを決めた。
そしてその様を茫然自失の目で見つめる2人。
木の葉中央公園は大通りに面しており、比較的目立つ場所である。しかも今は帰宅時間丁度。木の葉のあらゆる人種が公園横の大通りを闊歩する時間帯である。
そんな時間帯に木の葉の忍歌を斉唱しろと言うのか!?
新手のいじめですか...?と思わずにいられようか。

「さっ、行くぞっ!あまり時間もない。日が沈んでしまっては見づらいからなっ!!さあ、よーいどんで競争だぞっ☆」

ガイはさらさらのおかっぱ頭を風になびかせながらスーターターの正姿勢を取った。頼むからそのスーツでその恰好はやめてくれ!とカカシは痛切に願った。

「よーい、どんっ!!」

自分で言ってガイは走り出した。仕方なくカカシとイルカも走り出す。

「そう言えばアイドルなんですから何か衣装とかあるんですかね?思ってみれば俺たち普通の忍服ですよね?」

走りながらイルカに聞かれて確かに、とカカシは頷いた。しかし自分たちにアイドルの服、一体どんな恰好をさせられるのか、マネージャーがガイだけに不安は募る。よもやあの緑色の全身タイツとは言わないだろうなあ?あんなの着てしかも木の葉忍歌の斉唱なんかしてる所をアスマや紅や暗部時代の後輩やその他諸々顔見知りに見られたらもう二度と木の葉の土は踏めない。と、言うか遠征に出るしかない。

「あ〜、しかしこんな所、生徒や保護者や同僚に見られたら、もう仕事に行きにくくなっちゃいますよねえ。まさか覆面するわけにもいかないし、って言うか、俺たちのユニット名ってなんですかね?」

イルカは遠い目をして現実逃避に入ったようだった。気持ちは痛いほどよく分かる。

「まあ、なるようになりますよ。案外楽しいかもしれませんよ?」

ははは、と乾いた笑い声を上げてカカシは無責任に言った。

「カカシ先生はいいですよね、ナルトたちは手元を離れてるから任務で遠征に行きやすい状況ですし。俺なんてしがない内勤だから里外任務ですらこの所は閑古鳥なのに。」

ぶちぶちと愚痴を言うイルカにかける言葉もなくカカシはまあまあ、と宥めに入った。早くもユニット解散の危機だろうか。

そしてとうとう木の葉中央公園に到着してしまった。
すでに公園にはガイが自力でセッティングしたのだろう、簡易ステージが用意されていた。
お前って奴はいつだって真剣勝負だよな、とカカシは無駄に張り切っているガイを憎々しげに見つめた。そんなガイにイルカがとことこと駆け寄っていく。

「ガイ先生、俺たちってこのままの姿でいいんですか?何か衣装とかはいいんですか?」

「おお、衣装か、衣装はイルカの場合はそのまんまでいいぞ。カカシは暗部服だぞ。変化して着替えておけよ!」

それを聞いてイルカは心底羨ましそうな目でカカシに視線を送ってきた。暗部姿と言うことは暗部面を着けるので顔が見えなくなると考えているのだろうが、普段から右目以外は隠しているし、この髪色の暗部はカカシ1人なのでバレバレだし、しかもカカシ&イルカ、とステージの上の看板にでかでかと書いてあるのでこの際顔が見えてようが見えていなかろうが同じようなことだと思うのだが。
カカシはイルカの側までやってくるとぽんぽんと肩を叩いて言った。

「これが終わったらやけ酒、付き合います。」

「よろしくお願いします。」

イルカはぺこりと頭を下げた。

「よーしっ、セッティングOKだっ!!ああ、それから司会は俺がするからな、紹介するまでステージの裾で待機していてくれよっ!!」

ガイの言葉にカカシとイルカは重い足取りでステージの裾へと向かった。そしてカカシは暗部姿に変化した。イルカはその姿を見て感心したように頷いた。

「こうして見るとなんだか別人みたいですね。いつもと随分様子が違って見えます。」

「そうですか?でもこの服、そんなにいいもんじゃないですよ?実際の布地は忍服よりも柔軟性重視で防御力はほとんどないんですよね、そこでこのガードなわけですが、これも布製なんですよ。つまり自分の身は自分で守れって奴です。ゲートルも一般の忍びのものよりも面倒な方法で巻き付けなきゃならないんですよ。ポーチを付ける位置も少々取り出しにくい場所にあるんで慣れないと大変です。一体誰が考案したんですかね、恰好ばかり良くて使い勝手の悪いこと悪いこと。」

「ははは、そういうもんなんですか。暗部と言えば取っつきにくいイメージがありましたが、それを聞いたらなんだか親近感が涌きました。」

「そう言ってもらえると、暗部の後輩たちが喜びます。」

カカシはにこりと笑った。その時、大音量と共にガイの声が辺りに響き渡った。

「レディースアンドジェントルメーンっ!!みんな待たせたなっ、これよりカカシ&イルカの路上ライブを開催するぞっ!!仕事疲れのあなたもっ、修行疲れの君もっ、2人の歌を聴いてリフレッシュだっ!!」

...。

「逃げていいですか?」

イルカがぽそりと言った。

「ここまで来てそれはまずいです、さすがに。」

と、言うかブッチしたらもれなくあの濃ゆい男がどこまでも追ってくるのだと思うだけで逃げる気も失せると言うものだ。

「覚悟を決めましょう、ここまで着たらもう運命共同体です。」

無理矢理作った作り笑いを浮かべてカカシはイルカの手をつかんだ。逃げられないようにホールドである。
イルカは引きつり笑いを浮かべてそうですね、と頷いた。

「待ちに待った2人の登場だっ!!カカシ&イルカ、禁忌ボーイズっ!!」

「そのネーミングはねえだろうがこの野郎っ!!」

カカシは飛び出していってガイの後頭部にかかと落としをお見舞いしてやった。

 

それから大音量のバックミュージックが流れだし、カカシとイルカは仕方なくステージのマイクスタンドの前に立った。
目の前の広場には何故だかもう観客がひしめいていた。どうしてこんなに人がいるんだこの公園にっ!!
広場はもう満員なので木の上から見る者もいる。空中でやけに鳥が舞っていると思えばそれは全て忍びが変化したものだった。
お前ら暇だな、とカカシは虚ろな目で正面を見据えた。
そして聞き覚えのあるイントロが流れだし、カカシは覚悟を決めた。隣を見るとイルカがやや青ざめた顔でそれでも気丈にマイクを握りしめていた。
天晴れです、イルカ先生。
心の中でガッツを作りながらカカシは口を開けた。
そして、歌い出した。誰もが知っている木の葉の忍歌を。
だが異変は起こった。少々騒がしい中、1台目を歌い終えた所までは良かったのだが、2台目から観客たちが一緒になって歌ってきたのである。ある者は涙を流し、ある者は首を激しく振りヘドバンをかましている者もいる。こんな穏やかな曲調でどうやったらそんな風にリズムに乗れるのか、余計な詮索をしたくなる。
そして異様な雰囲気になりつつある会場を前にしてとうとうイルカは半べそになってきた。横目でそれを見ていたカカシが勇気づけるためにイルカの肩に手を置いた。
その時黄色い悲鳴が上がって数人が失神して倒れてしまった。
もう収拾がつかない。木の葉の忍歌は3台目まであるのだが、歌いきるとカカシとイルカは曲の最後が終わるのを待たずにステージの裾に引っ込んだ。
イルカはがくりと膝を折った。

「俺、もうダメです。」

「イルカ先生、でも任務では一週間、アイドルとして里の活性化に貢献してほしいとのことです。あと6日です、がんばりましょう。」

カカシはそっとイルカの手を取ってにこりと微笑んだ。自分だけ逃げようったってそうは問屋が卸さないよイルカ先生。

「よーしみんなっ!カカシ&イルカ、禁忌ボーイズの路上ライブは終了だっ!!熱い声援ありがとうっ☆これからも彼らの活動に注目していてくれっ!!」

ガイの言葉に里抜けを真剣に考えようかと思ったカカシだった。

 

その日の任務はそれで終了だったらしく、カカシ、イルカ、ガイの3人は夕食&打ち上げのために居酒屋の暖簾をくぐった。
ガイがビールジョッキを持ち上げて乾杯の音頭を取る。

「今日は2人ともよくがんばってくれた。明日っからはこんなもんじゃなく、バリバリスケジュールを詰め込んであるからな、楽しみにしていてくれ☆ではカンパーイっ!!」

ガイの恐ろしい言葉に2人は気分を盛りさげつつかんぱーい、と小さな声で言った。
打ち上げということになっているので今夜の飲み代は経費落ちとなる。それだけがとりあえず救いだったのでイルカは遠慮せずに嬉々としてじゃんじゃん注文している。それを横目に見つつ、カカシは突き出しのタケノコの含め煮を一口食べてガイに問いかけた。

「でもなんでユニット名が『禁忌ボーイズ』なのよ?もっと他にも言いようがあるだろうに、お前のネーミングは最悪だよ。」

「ああ、このユニット名は俺の発案じゃないぞ?俺ならもっとナウくてヤングなものを考えるな、例えば、」

「いいから、誰が考えたんだ?」

「公募だっ☆」

...。
木の葉の先行きが不安になったカカシだった。大体いつのまにそんなものを公募してたんだ。全然知らなかったぞ。

「ちなみにどういう理由で禁忌のボーイズなんだよ。」

「なんでも受付のアイドルと暗部のアイドル、本来ならば相まみえることのないこの二大勢力が一週間という限られた期間、タッグを組む。犯されざる領域を踏み越えて誕生したこのユニットはある意味タブーを打ち破った甘美な神の気まぐれ、すなわち禁忌の2人ってことらしいぞ?」

意味がわからない。大体自分がアイドルだとか言われてもただただ場違いだと思う以外に実感が湧かないのだから理解も不能である。

「あー、まあいいよ、それじゃあボーイズってのはなんだよ、いい大人を捕まえて。」

「いつまでも少年の心を忘れない、と言う意味らしいな☆」

やはりさっぱり意味が分からないがまあ、何か思い入れがあるのだろう。たった一週間のことだし、もう諦めよう。

「すみませーん、天然ウナギの白焼きもお願いしますっ!!」

イルカが店の一番高い料理を順に頼んでいる様を見てカカシはビールを一気に飲み干したのだった。
なるようになれ、だ。

 

そして、一週間は怒濤のうちに過ぎていった。ラジオ出演に始まり、生放送のテレビ番組の出演、寝る間も惜しんでドラマの撮影に写真撮影に握手会、勿論連日路上ライブは行われた。日増しに観客が多くになっていき、とうとう警備員まで配置しなければならないほどの盛況さだった。
なんだってこんなに人気が出るのか、カカシとイルカの2人はもう少しの我慢、という言葉を合い言葉に一週間をなんとか乗り切ったのだった。
そしてファン(?)には夢のような、2人には地獄のような一週間が過ぎてしばらくした頃、カカシの部屋にイルカが訪ねてきた。
一週間のアイドル生活でお互いに以前よりも親しくなり、自分たちの部屋も互いに教えていたのだ。
突然にやってきたイルカにカカシは首を傾げながらも部屋に上げてソファに座らせ、温かい飲み物を出した。

「どうかしたんですかイルカ先生。なんだか顔色が優れないようですけど。」

イルカは言われてはっとした顔をすると唐突にカカシの袖口にしがみついてきた。尋常ではない。目まで怯えている。カカシは手落ち着くようにイルカの手を取った。
イルカはおずおずと話し出した。

「俺、最近付け狙われているような気がするんです。」

「えっ、刺客ですか?」

木の葉崩しからある程度の時間が経過して治安も大分回復したと言うのに侵入者が再びやってきたのだろうかとカカシは危ぶんだ。

「それが分からないんです。襲ってくるかと思えばずっと視線を感じるだけで何も行動は起こしてこないし、大体俺は内勤のしがない中忍です。火影様の覚えは多少いい方かもしれませんが、それでも重要な禁術の保管場所だとかの特別な場所にほいほい入れるような管理をまかされているわけでもないのに。最近ずっとそんな調子で神経を研ぎ澄ましてるんで夜もおちおち寝てられないんです。同僚に話しても友達に話してもみんな気のせいだって、俺、俺どうしたら、」

うう、とイルカは男泣きに涙を滲ませた。
共にあの苦行の日々を乗り越えた人間が苦しんでいる。カカシはイルカのために一肌脱ぐことを決意した。

「わかりました、イルカ先生。しばらく俺の家に滞在してください。俺は鼻が利くと3代目に太鼓判を押された男です。その刺客の正体を突き止めましょうっ。」

それを聞いてイルカはカカシの手をぎゅっと握った。ごつごつとした男らしい手だったが、何故か守ってあげたくなってしまう。

「か、カカシ先生、ありがとうございます。なんてお礼を言ったらいいか。ほんと助かります。よろしくお願いします。」

イルカは深々と頭を下げた。

「頭を上げて下さい。俺たち共にがんばってきた仲間じゃないですか。困っている所を助けるのは当然ですよ。さ、そうと決まったら荷物を取りに行きましょう。イルカ先生の家に一緒に行きましょうか、その時も刺客が現れるかもしれませんし。」

「はい、それじゃあお願いします。」

カカシはイルカと連れだってイルカの家へと向かった。周りを注意深く見ながら歩を進めて不審人物がいないかよく確認する。

「あ、カカシ先生。」

何か思いついたのか、並んで歩いていたイルカがカカシの方に顔を向けた。

「一緒の家で暮らすんですから、家事、まかせてもらっていいですか?1人暮らしが長いんで結構なんでもこなせるんですよ!お世話になるんですからそれくらいしないと。」

「そんな、気にしなくていいのに。」

カカシが苦笑しながら言うと、いいえこれだけは譲れませんとイルカは鼻息を荒くしてカカシに詰め寄った。

「こうして俺のためにカカシ先生ががんばってくれるんですから、俺、なんでもしたいんです。させてくださいよっ。」

イルカの揺らぎのない決意にカカシは根負けした。

「イルカ先生は男気がありますねえ。わかりました、では頼んでいいですか?」

「はいっ、任せてください。確かカカシさんは和食がお好きでしたよね?俺、がんばって作りますからっ。」

「楽しみにしてます。外食を抜かして誰かが自分のために料理を作ってくれるのってなんだか久しぶりでくすぐったいです。」

カカシの言葉にイルカはこぼれるような笑みを浮かべた。アイドル任務からこっち、イルカの作り物めいていない笑顔を見るのは久しぶりだった。なんだか自然とがんばろうと思えてくるから不思議だ。

 

そしてイルカの家について荷物をまとめて再びカカシの家に向かう途中、カカシは誰かが自分たちをつけている気配に気が付いた。気付くか気付かないかぎりぎりのラインである。相手もなかなかやるようだ。だがカカシには通じなかった。カカシは相手の出方を見ることにした。

「あ、カカシ先生、途中で買い物していきましょうか?今日のご飯はなにがいいです?」

気付いていないイルカがカカシに微笑んできた時、追跡者は動揺したのか、その気配を揺らがせた。カカシはそのチャンスを見逃さずに追跡者の間近まで瞬身を使って飛んでいった。
そこにいたのは1人の暗部だった。カカシが目の前に来たのに驚いたのか、ひどく動揺している。その動揺を逆手に取ってカカシは男を地面になぎ倒し、うつ伏せにして腕をひねり上げた。

「お前どういうつもりだ、イルカ先生を付け狙って何を企んでいる?」

暗部の男は、腕をひねり上げられ、苦痛に悶えていながらもなにやら嬉しそうに、だが何故か緊張しているのか、どもらせながら正直に話し出した。

「え、あ、あの、俺、守ってたのはうみの中忍じゃなくて、カカシ先輩の方で...。」

「...は?」

よくよく話しを聞くとあのアイドル週間の時のカカシに衝撃を受けてそれ以来ファンになってたまに見かけたらその様子をしばらく見ているのが習慣となっているらしい。
...言葉もなかった。

「じゃあイルカ先生を付け狙ってたんじゃないの?」

「あ、ええ、まあ、うみの中忍もいいんですけど、俺としては同じ暗部だったカカシ先輩の方が、」

拘束を解かれた男は身体をくねらせながらもじもじとそう言ってカカシをげんなりさせた。
こういった勘違い野郎が早くいなくなればいいと切実に願うばかりである。

「分かった。お前のことは暗部の後輩ってことで特別に許すから。それよりも他に追跡者はいなかったか?イルカ先生が最近付け狙われてるらしいんだよ。」

「えっ、そうなんですか!?それは大変だ。あ、だからカカシ先輩とうみの中忍は同居することになったんですね。」

「お前、なんで知ってんだよ。」

「だって『今日のご飯なににしますか?』って言ってましたでしょ?聞きましたもん。俺、地獄耳なんでそれを聞いて動揺しちゃって。もう、大スクープですよっ!!」

何がスクープなのかは知らないが、とりあえずこいつは犯人ではなかったらしい。だとしたら残してきたイルカが心配になってきた。

「おいお前、他の人間にもイルカ先生が狙われているかもしれないってそこはかとなく噂を流してくれ。そしたらきっと犯人の方も何か行動を起こすかもしれないし、返って断念するかもしれない。」

情報をあえて流して相手を混乱させようという作戦である。

「えっ、公表していいんすか?」

後輩の暗部が興奮気味に叫んだ。カカシは奇妙なものを感じたがあえて無視するとにした。そんなことより今は早くイルカの元に帰ってやらないと。

「なんでもいいから頼むぞ。じゃあな、もう跡付けるなよっ!」

カカシはそう言い捨てるとイルカの元へと走っていった。はたして、イルカはその場にいて、カカシの姿を見つけるとほっとした様子で走り寄ってきた。

「カカシ先生、大丈夫でしたか?戦闘になって上忍同士の邪魔になったらまずいと思ってここで待機してたんですが、どうでした?犯人、わかりましたか?」

イルカの不安そうな顔にカカシは申し訳なく思いつつも真実を話した。

「いえ、イルカ先生を付け狙っている者ではありませんでした。俺の後輩でした。お騒がせしてすみません。」

「そうだったんですか。」

イルカはほっと息を吐いた。

「じゃあ買い物に出かけましょうか。とりあえず人の追ってくる気配はなくなりましたし。」

「はい、それでカカシ先生は何がお好きなんでしょう?」

「そうですねぇ、俺としては季節ものの、」

と、言うあんばいで2人は商店街へと向かったのだった。

 

そして翌日、スポーツ新聞の一面に『木の葉のカカシ&イルカ、禁忌ボーイズとうとう同棲っ!!』という見出しが出たのは言うまでもない。

 

 

続く、のか?

すみませんすみません、○ン○○ッズファンの方すみませんっ!!
でも私彼ら好きですよっ、ほんと好きなんでっ!!
カカイルなのにくっついてない二人です。orz
くっつくけるまで終われません、と言うか終わらせてはいけませんっ!!
そんなわけでいつ続き書くんだとかとりあえずいろいろありますがお題消費がんばります☆