イルカがさらわれた。
それを聞いた時、カカシは己の失態に舌打ちをした。抜かった。いくら自分がSランク任務で里外にいたからと言ってイルカの警護を誰か別の人間に頼んで行けば良かった。
新聞の一面に勘違いの記事が掲載されたその日から、カカシとイルカは何故か里の公認カップルと言うことになってしまった。それを聞いて大喜びする者、嘆き悲しむ者、嫉妬する者、祝福する者と賛否両論が巻き起こったのだが、実際は困っている友人を匿っているだけなのだといくら言っても誰も信じてくれない。これでは彼女も結婚もできなくなってしまうとイルカは家に帰りますとひたすら恐縮していたのだが、それではまったく何の解決にならないし、自分は今現在特定の彼女がいるわけでもないし、特別結婚願望もないことだし、とりあえずはこのまま続行しましょうということに落ち着いた。はたけカカシの家に匿われているという事実だけでもちゃんと確定させておけば、刺客もおいそれとは襲ってこないはずなのは確かなのだから。
そうして日々は過ぎ、カカシが久しぶりに拝命した少しばかり長期(と言っても2週間)の任務から帰ってきたらこれだ。舌打ちしたくもなる。自己嫌悪でどうにかなりそうだ。イルカが無事であればいいのだが。
カカシは任務で疲れた身体に鞭打って火影の元へと向かった。だが執務室にはいなかった。かろうじてサクラが資料の整頓をしていた。

「サクラ、火影様はどこにいらっしゃるんだ?イルカ先生がさらわれたって聞いたんだけど。」

サクラは痛ましげな顔でそうなんです、と答えた。

「今、イルカ先生の捜索対策本部がアカデミーの体育館に設置されてますから、綱手師匠はそちらにいらっしゃると思いますよ。」

「え、体育館?」

通常、何かがあった時は火影邸の会議室に召集されて報告を受けるもので、対策本部をわざわざ設置なんて前代未聞だ。大蛇丸の対策を練った時だってそんな仰々しいことしなかったのに。

「えっと、それはどういう...。」

「カカシ先生、恋人をさらわれて辛いと思いますけど、気をしっかり持って冷静になってくださいね。」

冷静って、冷静だけど、なんかちょっと様子がおかしくないか?と思いつつ、サクラに見送られてカカシはアカデミーの体育館へと向かった。
だが体育館に行くまでに何人もの人達からサクラと同じように慰めの言葉をもらい、そのたびに足を止めていたので、カカシはとうとう透遁術で姿を隠して向かうことにした。
そして体育館へと向かう途中で老若男女入り乱れた人々の長蛇の列が現れた。何か景品でも当たるのだろうか?
気になるものの、カカシは体育館をめざす。だが長蛇の列も体育館まで続いている。何か嫌な予感がしてカカシは体育館に入った。そこで目にした光景、それは...。

「はーい、うみのイルカの情報提供者の方は2列にお並びくださーい。押さないでくださいねー。1人1人事情聴取しますから情報は完結に述べられるように用意しておいてください。」

長打の列は情報提供者の列だったらしい。ありえない...。とりあえず見なかったことにして奧へと進むと、対策本部がやっとお目見えした。が...。

「イルカを最後に見た地区の聞き込みをもう一度だっ。」

「その日の行動を洗いだしてもう一度現場検証するんだ。」

「イルカと会話をした者の調書をもう一度見直して不自然なところがなかったか再チェックだ。不審な言動をしていたものは拘束して自白剤を投与してかまわん。イビキ特別上忍には許可を取ってあるっ。」

異様に熱気の籠もった捜査員たちの姿があった。その中に火影を見つけたカカシはそっと彼女に近づいた。

「火影様、これはどういうことですか?」

透遁術を使って姿の見えていなかったカカシに驚くでもなく、火影はため息を一つ吐いた。

「任務ごくろうだった。姿はそのまま消しておいた方がいいぞ。お前はさながら恋人を奪われた悲劇の男だからな。余計な混乱を招く。」

混乱、ですか...。まあ、ここまで来るまでもそんなような経験をしたことからも彼女の言うことに一利はあると思い、カカシはそのままの状態で火影からの直接の言葉を待った。

「それでイルカ先生が拐かしに遭ったのはいつなんですか?この状況から見てまだそんなに日は経っていないように見えますが。」

「うん、今朝方イルカが無断でアカデミーを休んでな、通常では考えられないことからイルカの家、今はお前の家で同居しているんだったな。だからお前の部屋に行ったら何か荒らされた形跡があった。しかもだ、まずいことに血痕もあった。今その血痕がイルカのものか、それとも犯人のものかは分析の途中で分からないが、とりあえず流血沙汰があったことは確かだ。そんなわけで今日は朝から対策本部を設立して少しでも早くイルカを奪還すべく尽力していると言うところだ。タイミングが良いのか悪いのか、今日に限ってお前が帰ってくるとはな、心中察するに余りあるが、ヤケだけは起こすなよ。」

火影の真剣な表情にカカシははあ、と曖昧に頷いた。心配なのは確かなのだが、ここまで大事にしていいのだろうか。あれでは里の機能が一旦は停止してしまうのではないかと懸念してしまう程人員を割いているように思えて仕方がない。

「お前もこの捜索に加わりたいと思っているだろうが、今の状態ではお前の姿があるだけで混乱して捜索どころじゃなくなる。お前の気持ちは痛いほど分かるが、お前をこの捜索に加えることはできない。すまないが分かってくれ。」

火影の言葉にカカシはため息を吐いた。実はもとから加わる気はない。独自の方向でイルカを探そうと思っていたのだ。

「分かりました。では俺はこれで失礼します。ちみにSランク任務はちゃんと成功しましたから、詳しいことはサクラに報告書を託しましたので。」

「分かった。ではこれより3日間の給与を与える。身体を休めて精進しな。」

「はっ。」

カカシは短く返事すると体育館から出て行った。
とりあえず自宅へ戻ろうとしたカカシだったが、自分の部屋があるマンションに行くとなにやら現場検証をしているようで、しかも人垣が立ちはだかって近づくこともできやしなかった。
仕方ないのであまり人の来ない、さびれた神社に行くことにした。そこでやっと姿を晒してほっと一息つく間もなくカカシは忍犬を口寄せした。
任務を終えたばかりの忍犬たちは少し薄汚れていた。

「やあみんな、お疲れの所悪いんだけど、俺の部屋の匂いを追跡してくんない?」

忍犬たちが首を傾げている。パックンが代表してカカシの前に立った。

「なんでまたお前の部屋の匂いなんじゃ?」

「イルカ先生がさらわれたんだよ。犯人はきっとイルカ先生の匂いを完全に消し去っただろうけど、俺の部屋の匂いまでは消してないだろうからそれを追跡する。俺の部屋っていざと言う時のために特殊な香を焚いてあるでしょ。忍犬の鼻でもぎりぎり分かるか分からないかの薄い奴。でも通常の方法では消しきれない匂い。」

「あの匂いか、しかし薄すぎていまいち追跡し辛いのが現状だぞ。途中で追跡が途切れる可能性も高い。」

「うん、そうだろうね。だから手分けしてちょーだい。連休もらったからちゃんと念入りにシャンプーしてやるからさ。」

カカシの言葉に忍犬たちは仕方ないとため息をついた。

「じゃあ頼むね、散っ!」

カカシのかけ声に忍犬たちはあっと言う間に分散していった。
カカシは境内に腰を落とした。口寄せをしただけでチャクラがもうやばい。さすがにSランクの任務後はきついらしい。
だがそこでイルカを諦めるわけにはいかない。カカシは兵糧丸をかみ砕いた。じんわりとチャクラが少しだけ回復してきた。微々たるものだがないよりは遙かにました。
その時、遠くで犬の鳴き声がした。聞き覚えのある声だ。カカシは立ち上がった。
そして遠吠えのあった方向へと走っていくと、パックンたちが待っていた。やってきたカカシを先導するように前を走りだす。

「カカシ、ここからは匂いが薄まっておる。みなで方々に散って探したが確定に至るまでの匂いが拾えなかった。だがこちらの方向なのは間違いない。あとはしらみつぶししかないな。」

パックンの言葉を聞いてカカシは頷いた。

「お前たちはここまででいいよ。ありがとう。」

カカシが言うとパックンはがんばれよ、と言って消えていった。追従していた他の忍犬たちも次々と消えていく。
木々の間を飛び抜けて、カカシは額宛てをずらして写輪眼を開けた。チャクラの消耗が半端ではないが背に腹は替えられない。
そうして走り続けてしばらくして、ふと、木々の間に不自然な歪みがちらりと見えた。
幻術だ。
カカシはその場に降り立った。巧妙に隠されているが確かにここから入り口があるらしい。カカシは解の印を結んだ。すると幻術が晴れて獣道が現れた。
カカシはその道を気配を殺しながら進んでいった。
そしてとうとう見つけた。粗末な小屋だ。ずいぶんと使われていないのだろう、カカシもこんな所に小屋があるなど知らなかった。もうほとんど誰も知ることがないであろう、さびれた小屋だ。屋根がかろうじて乗っかっているような。
中から人の気配がする。カカシは近くに生えていた木の上からそっと小屋をのぞき見た。
はたしてそこにイルカはいた。猿轡を噛まされ、半裸状態で縛り付けられている。抵抗したのだろう、縛られている手首が痛々しくみみず腫れになっている。
しかも殴られたのか、鼻から血が流れていた。もう止まっているようだが見るに耐えない。自分がふがいないばかりに彼をこんな目に遭わせてしまった。
しかし、すぐに救出に向かいたいのは山々だったがどこで犯人が監視しているかわからない。幻術を解いたことで侵入者の存在には気づいているはずだからなんらかのリアクションはあるだろう、それを待ってから行動しなければ、イルカの身に危険が及ばないように慎重に行動するためにもここは我慢してじっとしていなければ。
やがて、遠くから人の気配が近づいてきた。やってきたその人物は普通の木の葉の忍服を着ていた。顔見知りではないがどこかで会っているのかもしれない。
男は小屋の中に入るとイルカの身体を足蹴にした。

「移動する、起きるんだっ。」

男はそう言ってイルカの縛った髪を強引に引っ張った。イルカが呻く。
こんの野郎っ!
カカシは無我夢中で殺気を全開にした。途端、男の動きは止まった。イルカの方は元から意識があったのかなかったの分からないがとりあえず起きる気配はない。
カカシは小屋の扉をゆっくりと開けて中に入った。硬直する男、ぐったりとしているイルカ。カカシの怒りのボルテージが上がっていく。

「お前、自分がなにをしているのか解ってんのか?」

押し殺そうにも滲み出る怒りを隠しきれずにカカシが一歩一歩近づいていく。

「ぼ、僕はカカシさんの、ために、」

男が顔を真っ青にしつつもイルカを拘束して身を引く。

「俺のためだと?俺の大切な人間に暴力をふるって拘束することが俺のためだと言うのか?」

カカシはクナイを手に取った。

「お前は簡単には殺さないよ。」

たぶん拷問行きだろうと思ってカカシは男に少し同情した。
男はイルカを手放した。観念したのだろうか?利口な選択だと持ったカカシだったが、次の瞬間男はカカシの足にすがりついた。
げっ、と思ったがここで突飛な行動をするこの男を刺激したらなにをやらかすか解らないため、カカシはとりあえずなすがままにしておくことにした。

「どうして、どうしてなんですか。この男はあなたにふさわしくなんかないっ。僕の方がよっぽどあなたを満足させられるっ。」

どういう意味なのか怖くて聞けなかった。しかし男はカカシのズボンの裾を止まることのない涙で濡らす。
この服、任務帰りで汚れてんだけどいいのかなあ?
よくよく男を見れば、自画自賛するだけあってなかなかに綺麗な顔立ちをしていた。そっち系の人なのだろうか。ぞわっと鳥肌が立つ。

「あのねえ、誤解してると思うけど、お前なんかお呼びじゃないんだよ。満足もなにもお前知らないし。」

カカシの言葉に男がぐっと唇をかみしめた。

「そこまでこいつがいいって言うんですか。あなたが命をかけて任務をしている時に同僚と飲みに行って笑っているような男がっ。僕だったらあなたの帰りを心待ちにして苦しくて眠れない日々を送ると言うのに。」

言っていることはかわいいような気もするが、所詮は男である。しかも自分にとってほとんど初対面に近い男に言われても薄気味悪いだけだ。

「あのねえ、論点がずれてんだけど。まあいいよ。とりあえずお前はしょっぴくから。式を飛ばすから逃げないでよ。」

カカシはそういうと印を結んだ。鳥形の式を火影に向けて飛ばす。そういえばイルカは大丈夫だろうか。放り出されても意識を取り戻してなかったような気がするが。
カカシは男をさっさと拘束してイルカのそばに駆け寄った。拘束するときに男がほんのり顔を赤らめてこんな至近距離初めてとかなんとかほざいていたが完璧に無視した。

「イルカ先生、大丈夫ですか?けがしてるんですか?」

カカシはそう言ってイルカの体を起こした。

イルカはうーん、と言ってから寝ぼけ眼で辺りを見回した。そしてすぐそばにカカシがいることに気づいて、わっ!と声を上げた。

「かっ、カカシ先生、お帰りになってたんですか、おかえりなさいっ!」

どうやらここがカカシの部屋でカカシが帰ってきたと勘違いしているらしい。
ちょっと、いやかなりこの人忍びとして大丈夫なんだろうかと不安になってくる。

「イルカ先生、覚えてますか?あなた誘拐されてたんですよ。今だって拘束されたままだし、あー、これだめだな、鍵がないとあかない手錠タイプだなあ。」

イルカの手錠を見ていたカカシはため息を付いた。厄介な手錠だ、カカシは嫌々ながら再び男に向かった。男は嬉しそうに頬を染めている。だからその嬉しそうな顔をやめてほしい。

「鍵、もってんでしょ、どこにあんの?」

「言ってもいいですけど、キスしてください。」

男の言い分にカカシはにこりと笑った。

「写輪眼っ!!」

「僕の左ポケットです。」

カカシの瞳術でぼんやりとした口調で白状した男の左ポケットから鍵を取り出してイルカの元へと行く。そしてイルカの手錠と足枷をはずした。

「大丈夫ですか?」

「え、ええ、あの、俺、どうしたんでしたっけ?」

「だから誘拐されたんですって、俺の部屋で。覚えてないんですか?」

「カカシ先生の部屋で、ええと、俺、なんで半裸なんですかね?」

「いや、俺に聞かれても。それより鼻血、大丈夫ですか?もう止まっているみたいですけど、殴られたんですか?」

「え、鼻血ですか?」

イルカは自分の鼻を触った。その瞬間。

「ああああっ!!」

イルカは大声を上げて顔を真っ赤にした。

「すみません、全部思い出しました。」

そう言ってイルカはカカシをちらりと見てさらに顔を真っ赤にする。なんだ、一体俺が何かしたか?カカシは首を傾げる。

「イルカ先生?」

「あの、俺は殴られてません。誘拐されて拘束されて抵抗して少し暴れてたんですが、どうやら幻術か何かで眠らされてたみたいで。手首がちょっとひりひりしますが怪我らしい怪我はそこだけです。」

「え、でも部屋に血痕があったらしいんですが、」

「あー、実はカカシ先生の寝室でエロ本を発見しまして、それを見て鼻血出しちゃって、上に着てたパジャマに血かべっとり付いちまったもんですから手で揉み洗いしてベランダに干そうとしたところであの男に取り押さえられちゃって、いやあ、油断していたとは言え面目ない。」

イルカはぽりぽりと笑って頭をかいた。
だから部屋には血痕があり、イルカは上半身裸なのか。鼻血の原因もよく理解できた。
真実って所詮はこんなもんだよな。まあ、何はともあれ大したことなくて良かった。
カカシはその場にどかりと座った。

「カカシ先生、大丈夫ですか?かなり疲れてらっしゃるみたいですけど。」

「ええ、まあ、任務明けでちょっと走り回ってしまったので。でもイルカ先生が無事でよかったです。走り回った甲斐がありました。」

「カカシ先生。」

イルカは嬉しそうに微笑む。

「助けに来てくださってありがとうございます。ほんとに助かりました。今夜はサービスしますからね、俺、なんでも好きなの準備しますし要望に応えますからね!!」

イルカはどんっ、と自分の裸の胸板を叩いた。それを聞いてカカシも微笑む。

「嬉しいですね、サービス、なににしてもらおうかなあ。」

カカシは頭の中で今夜の晩御飯を思い浮かべた。

「おい、イチャイチャするのはそこまでにしな。まったく、見せつけんじゃないよ。」

いつの間にか火影以下、捜索隊らしい人々が小屋の中に入ってきていた。小屋の外にもかなりの人数がいるらしい。気を緩めていたとは言え、気づかなかったカカシは少々呆然とした。
犯人は一人だって式に書いたのになんでこんな大勢でやってきてんだよ?って言うか火影はとりあえず待機しとくべきなのでは?とカカシは不思議に思った。
それにしても捜索隊の人間たち、どうしてみんな赤い顔をしたりにやにやしたり膨れっ面をしてるんだ?ここは喜ぶ場面なのではないのか?いや、むしろさっさと犯人をしょっ引かないのか?カカシは顔に出さず頭で少々混乱した。

「ま、愛の力って奴だな。ったく、心配かけさせやがって、イルカにも特別に休暇を3日やるからカカシにうんとかわいがってもらいなっ。」

火影はそう言って背を向けた。

周りにいた、ギャラリーなのか捜索隊なのかもはや分別がつかなくなった人々から火影に向かってやんややんやと気前がいいとかさすが火影様だとかの賛辞が飛ぶ。

「ま、張り切り過ぎないようになっ。」

そう言って火影は最後にカカシに向かって何かビンのようなものを放り投げてきた。キャッチしてよくよくビンのラベルを見ると、あはんうふんな図柄と共に超強力精力剤と思われる内容の商品名が書いてあった。初めて見るものだ。どうやら火影のオリジナルらしい。
カカシはがっくりとうなだれた。

「カカシ先生、それなんです?」

イルカがなんだったのか興味津々で寄ってきた。

「イルカ先生は、見ない方がいいと思います。って言うか、もう帰りましょう。ここにいるのに耐えられそうもありません。」

周りから愛の勝利だの恋人を救ったカカシは男の中の男だのでうるさいほどだった。
お前らここには野次を飛ばすために来たのか?と思わずにはいられない。
十中八九そうだろうが。
イルカとカカシは連れ立って小屋から出た。そこにフラッシュが焚かれる。どうやら新聞記者がもう集まってきたらしい。どうしてこんなに迅速な対応が取れるんだよその力をもっと別な方向に使えと思いながらカカシはイルカと共にフラッシュを手で避けつつ家路に就いたのだった。

カカシの部屋はあの男が荒らしたのか、それとも鑑識が部屋をくまなく調べたためか、又は以前からそうだったのか、少し散らかっていた。

「あー、すみません。カカシ先生が不在の間、なんか俺もちょっと忙しくてあんまり片付けとかできなくて。」

イルカは台所に買ってきた食材を置くとあたりに散らかっていたものをさかさかと集めて片していく。どうやらこのちらかりは元々だったらしい。

「いえいえ、いいんですよ。ここに住むように仕向けたのは俺ですし、俺は潔癖症でもないですし。」

「はは、ありがとうございます。アカデミーでここ一週間、3人も結婚する奴が出て、連日連夜祝賀会だったんですよ。俺の同期も一人いて、嬉しくてつい幹事役引き受けちゃって、色々準備とかしてたら日常生活にしわ寄せきちゃって、いや、ほんとすみません。」

イルカはすみませんと口にしながらもなんだか嬉しそうだ。同僚の結婚を心底喜んでいるのだろう。こういう所が好ましいよな、とカカシも嬉しくなる。

「ほんと、来る時は一気に来ますよね、結婚ラッシュ。」

イルカは粗方片付けると、食材を手にする。カカシも手伝うために腕をまくって台所に立つ。

「イルカ先生は結婚願望ないんですか?」

「うーん、ないですねえ。って言うか相手の方がいないですよ。まずは相手探しからです。」

「ふーん、どんなタイプがいいんです?」

「そうですね、カカシさんみたいな人がいいです。一緒にいて落ち着くし気兼ねしなくていいしって言うか。あ、いや、ちゃんと上忍として敬服してますよ?」

イルカはきりりと顔を引き締めた。カカシがにこりと笑う。

「じゃあ結婚しますか?」

イルカがきょとんとしてカカシを見た。

「またまたあ、カカシ先生ほどもてる人が俺なんか相手にしないでしょ。ほらほら、これ皮むいてくださいね。俺干しっぱなしだった服取り込んできます。」

イルカはぱたぱたとベランダへと向かった。カカシは肩をすくめてじゃがいもの皮むきに取り掛かったのだった。

 

その頃ベランダで、イルカはしゃがみこんで顔を真っ赤にしていた。

「ちっくしょう、なんであの人あんな意表突くことばっか言うんだよ。」

すっかり冷たくなってしまったパジャマを取り込んでぎゅっと握り締めた。

「まあ、あんまり気にしてないみたいで良かったけど。」

実はイルカがカカシの部屋に行ったのには理由があった。
カカシが不在だったとき、イルカはたまにカカシの部屋に行ってベッドに横になるのだ。
一緒に生活を始めて、最初は純粋に自分以外の他人の空気と言うか、匂いというものが嬉しかった。だがカカシが任務で不在になったときに寂しさのようなものが募り出した。イルカはそれらを紛らわすためにカカシの部屋に出入りしてはカカシの存在感を肌で感じて満たされていたのだった。
だが、先日カカシの部屋でエロ本を見つけた。
やはりカカシもこういうものを読むんだよなあ、やっぱ成人男性だもんなあ、とぺらぺらとページをめくっていったイルカだったが、段々とやばい思考になっていった。
このエロ本はいわばカカシのおかずである。カカシはきっとこの本で...。
そう思った途端、イルカは鼻血を噴いたのだった。
エロ本自体の効果ではなく、この本でカカシが、と想像したところでの鼻血である。
ショックだった。まわりからなんやかんや言われていても自分たちはノーマルだといい続けていただけにカカシに対して居た堪れない気持ちになる。まるで裏切り行為のような。
だから隠していこうと思ったのに、あんなこと言われたら動揺してしまうじゃないか。

「って言うか、これからどうすればよいのやら。」

イルカはため息を付いた。なにせ好きになってしまった人が同じ部屋で同居しているのである。
前途多難。
この四文字を思い浮かべつつ、イルカは立ち上がった。なるようにしかならない、うじうじ考えるのはやめだ。
とりあえず今日は自分のためにがんばってくれたカカシのために腕をふるって彼の好きなものをこさえてやらねば。
イルカは洗濯物を大雑把に畳むと台所へと向かったのだった。

 

そして案の定、翌日のスポーツ新聞の一面には、『愛の大勝利、カカシ、イルカを悪の手から救う!!』とでかでかと書き出されたのは言うまでもない。


はいっ、禁忌シリーズらしい(?)第二段です少しは進展あったかしらって言うか進展してなかったらカカイルじゃないじゃないとかごもっともなわけですorz
え、はい、うん、とりあえずあと一話くらいは続けないと自分が許せないので(怖)だってカカイルなはずなのにカカシ←イルカじゃないっ!?
だめですよここはほら、がんばれskunaってなもんででもテンション少々前回に比べて低いような?ってそれはガイがいないからです。
でも恋愛要素にガイを盛り込むと何かただならぬことになりそうで、まあ、それはそれで(マテ)
と、まあ、ここまで読んでくださってどうもですw
続きはどうぞ期待なさらずっ!!(殴
orz