|
カカシはちょっとズタボロだった。 「はい、これ、」 「お疲れ様です、拝見しますね。」 受付の人はカカシから報告書を受け取るとさらさらと目を通した。 「はい、結構です。お疲れ様でした。」 受付の声に安堵してカカシはきびすを返そうとした。が、なにやら匂いがした。いい匂いだ。嗅覚を刺激する、今最も必要とするものの匂い。 「あのっ、もしよろしければこれっ、」 受付の人が大きな音を立てて椅子から立ち上がってカカシの側まで寄ってきた。 「それ、あんたの夜食かなんか、でしょ。俺は、その、家に帰れば、」 そうは言いながらもカカシの目は男の手の上に乗っている握り飯に釘付けだ。 「俺は大丈夫です。晩飯も食いました。でもあなたはずっと長期の任務でほとんど食事らしい食事も取っていないのでしょ?報告書を見れば分かります。味の保障はしませんがこれはあなたに差し上げたいんです。どうか食べてやってくれませんか。」 男の言葉にカカシはごくりと生唾を飲み込んだ。実のところものすごく腹が減っている。だがそれを理性が押しとどめる。でも、食べたい、非常に食べたい、っていうか我慢できなかった、そんな美味しそうなものを前にちらつかされでは理性なんか吹っ飛ぶ。 「あっ、」 と言って男が握り飯を引っ込めた。あ、やっぱり惜しくなったかな、まあ、そうだよね、自分の夜食だもんね、って言うか、俺、なんかかわいそうな人みたいだとカカシはしおしおと自分が萎んでいくような気分になった。 「あなたの手、血がこびりついてます。その手で食べるのは良くないです、血液感染は侮れないんですよね、俺、いつもこんな考え知らずで、すみませんが俺の手で食べもらっていいですか?」 男はそう言って握り飯を包んでいた布を取って裸にするとカカシに向かって差し出した。 「あの、お面、少し上に上げるから向こう向いてくれると嬉しいんだけど。」 言うと男は顔を真っ赤にした。 「す、すみませんっ、俺、やっぱり全然考えがたりなくて、絶対見ません、見ませんからどうぞっ。」 男は眼を瞑り、首が引きつるんじゃないかと思うほど顔を逸らし、だが腕は動かさないようにじっと立つ。 「あ、あの、もうひとつあるんで食べますか?」 「いただきます。」 男はもう片方の手で持っていたもう一つの包みを開けてまたカカシに差し出す。 「あ、あの、俺の手、そんなところにまで米粒付いてました?」 男はまだ自分の手に米が着いていて、それをカカシが舐め取っていると勘違いしているらしい。 「塩分が、」 「は?」 「塩分の補給、あんたの手の表面の、それを摂取してる。」 「あ〜、なるほど、そうでしたか。あ、じゃあそっちの手と言わずこちらも舐めますか?」 と言って男は片方の手もカカシへと差し出した。 この男、やっぱりちょっとずれてるなあ、塩分が必要だって言うなら食堂かどこかで食卓塩でも取ってこればいいのに。 「あの、もう塩分は大丈夫そうです?」 男に言われてカカシは意識を男に向けた。 「いえ、もう少し必要な気がします。」 どの口がそんなことを言うかと自分でも呆れながらカカシはこの場を長引かせたくて嘘をついた。 「え、あ、そうですか。うーん、あと舐められそうな所って、うーん。」 男は真剣に悩んでいるようだ。 「顔、舐めていい?」 言った途端、カカシは憤死しそうになった。なんだよ言うに事欠いて顔舐めさせろって、やばい、変態だって思われるっ! 「あ、顔、なるほど顔ですか。ええ、いいですよ。」 男はカカシに顔を向けた。少し顎を上げてまるで口付けを待っているようではないか。 「あんたのおかげで随分まともになったよ、ありがとう。」 「そうでしたか、良かった。」 男はカカシの言葉にそれはそれは嬉しそうに笑った。 「うっ、」 カカシの呻きに男が不安げな顔になる。ちなみに目を瞑ったままである。 「あの、どうかしました?大丈夫ですか?」 男が心配そうに聞いてくるが事実を述べるわけにはいかなかった。まさか男の笑顔に胸がきゅんっとなったことなど。 「俺、俺もしかしてこの本当に男に、そんなまさか、心頭滅却心頭滅却、無想無念、明鏡止水、あああ、ちっとも頭から離れない、なんてことだ全然鼓動が収まらない。」 カカシの呟きに男は首をかしげている。 「あの、ほんとに、もしかして病院に行かれた方がいいのでは?」 男の言葉にカカシはしばらくの間沈黙し、やがて深く深くため息を着いた。 「あんた、名前は?」 「は?」 「名前を教えてほしいんだ。」 「あ、はい、海野イルカです。アカデミーで教師をしています。」 誰も職業なんざ聞いてないのだが、そんなことですらかわいいと思ってしまう自分が心底、心底不思議だが、何故か嫌な気分ではない。 「もう大丈夫だから、握り飯と、その、塩分助かったよ、ありがとう。」 「いえ、お役に立てたようでなによりです。」 イルカは目を瞑ったまま再び笑顔になる。カカシはイルカが目を瞑っているのをいいことにその唇にもう一度そっと口付けた。イルカはきょとんとしている。 「え、あれ?今、顔に、」 イルカの呆けた顔にカカシは苦笑した。これは落とすのに苦労しそうだ。 「じゃあ俺はもう行くから、目を開けていいよ。それじゃあね。」 カカシはそう言うと瞬身で窓から受付の外の大木へと身を移した。 「やっばい、まじかわいい、どうしよっ、俺、俺、変態になっちゃった?でも、どうしよう、好きになっちゃった。」 血塗れの暗部はぶつぶつと呟きながら、それでもどことなく嬉しそうな雰囲気を纏わせて自宅へと帰っていったのだった。 凄惨な任務の後だというのにカカシのその日の記憶は幸せでふわふわとしたもので閉じ、夢の中へと旅立ったのだった。
|
おおお、りりか、る?
って言うか、片恋っ!?片恋きたよって言うか、手、どこかで洗って来れば済んだ話なのではとかそこはほら、ドリーマー?
マジカルドリーマー(ヤダ○ン)どうか見守って〜、くださいええ、生暖かい目でどうぞorz
ご拝読どうもでした♪