イルカはその頃有給を取って引きこもっていた。
こんなことじゃだめだ、逃げてばかりで仕事まで休んでしまうなど忍びとして失格だ。普段から子供たちには忍びとしてなんたるかをあれほど厳しく言い聞かせているのに自分はこの体たらく。
だが、カカシと顔を合わせると思っただけで足がすくむ。
本当だったらあそこでカカシにおめでとうございますと言えば事は丸く収まったのだ。自分たちの関係こそが偽りなのだと、その隠し子とやらは隠し子ではなくカカシの愛を一身に受けるべき子供なのだと弁解しなければなかった。それなのに自分は弁解もせずあまつさえカカシに自分の気持ちを押し付けて逃げた。

「最低だ...。」

イルカは自分に向けて呟いて暗い笑みを浮かべた。

「海野中忍、何かおっしゃいましたか?」

そこにシズネがやってきた。手には食事の乗った盆を持っている。どうやら昼食らしい。もうそんな時間になってしまったか。

「いえ、大丈夫です。本当にご面倒をおかけして申し訳ありません。」

「いいんですよ、今は以前ほど忙しくもないし、元はといえばアイドル計画なんてものを実行に移してしまった火影様の采配にも少しばかり問題があったんですから。」

イルカの前に盆を置いてシズネは明るい笑みを浮かべた。つられているかも笑みを返す。
ここは火影が代々受け継いできた庵である。火影邸の中庭にあるのだが強い結界と幻術でその存在を知っている者はごく限られている。
イルカは昔火影邸で世話になっており、火影の信頼も厚かったことからこの庵の存在を知っていたのだ。
カカシの家から荷物をまとめて自宅へ戻ってイルカは、カカシから隠れるためにこの庵を使わせてもらったのだ。勿論火影の了承は得ている。火影の耳にもカカシの隠し子話は届いていたらしく、何も言わずに匿ってくれたのだ。そして外に出られないイルカのためにシズネがこうしてたまに様子を見に来てくれるのだ。
かえって申し訳なさが募るが、今は利用させてもらいたい。もう少し落ち着いたら、そうしたらカカシにちゃんと言わなければ、『おめでとう』と。

「カカシ先生はどうしてますか?」

「彼は今のところ待機ですね。緊急の任務もないですし、やはり気になりますか?」

問われてイルカはうな垂れた。自分などが心配したところでカカシにとってそれは迷惑以外の何ものでもないと言うのに。

「食事、温かいうちにどうぞ。」

シズネはいつもと変わりなく明るく言うと庵を後にした。イルカはその後姿に深深と頭を下げたのだった。
そして昼食も食べ終えイルカは畳の上で大の字になり少しばかりうたた寝をしていた。
ふと目を開けると辺りは暗くなっていた。いつの間にか日が暮れていたらしい。
する突然、何の前触れもなく轟音と閃光が辺りを包んだ。
敵襲かっ!?だが火影邸の庵に敵襲など、とイルカはそれでも臨戦態勢を整えた。こんな時でもホルスターやベストは身に着けているのだ。クナイを手に影に隠れる。
だがその首筋に刃物が押し付けられた。
いつの間に!?まったく気配がつかめなかった。相手は上忍クラスかと意識を向けたところで刃物は退けられた。
恐る恐る振り返るとそこには今最も会いたくて、そして会いたくなかった人物がいた。

「カカシ、先生...。」

 

そこにはカカシが困ったような笑みを浮かべて立っていた。

「探しましたよイルカ先生。こんなにうまく隠れられては見つけるのに一苦労でした。まあ、こちらには助っ人がいたんでここまで早く見つけられたんですが。」

カカシはそう言ってイルカを抱きしめた。一瞬何が起こったか分からなかったイルカは慌ててその腕から離れようとした。だが抱え込まれて身動きが取れない。

「ねえイルカ先生、俺の事好きなの?」

言われた途端、イルカは抵抗するのを止めた。怖くて相手の顔がまともに見られない。

「俺はねえ、イルカ先生が好きだよ。気づいたのは昨日だけどイルカ先生が愛しくてたまらないよ。」

イルカはそっとカカシを引き離した。今度はすんなりとカカシは離れた。

「もう、いいんです。ストーカーも最近は本当にいなくなって、俺は一人でも生きてゆけるんです。カカシ先生に甘えなくても、恋人の振りをしなくても大丈夫になったんです。今まですみませんでした。俺のせいでカカシさんの子供がないがしろにされたんでは申し訳ない。」

イルカの言葉にカカシは盛大なため息を付いた。

「そもそもそこがネックなんですよね。俺も強く出なかったから悪いんですが、今日はそんな誤解を解くために来ました。何の解決策もなくイルカ先生をただ見つければいいってもんじゃないってのは分かってましたからね。さ、外に出ますよ。会わせたい人がいます。」

カカシはそう言ってイルカの手を取ると庵を出た。はたして、中庭には数人の顔見知りと、そして知らない人物がいた。
まず顔見知りの人間はサクラとイノ、そして見知らぬ女性が一人。あの女性がカカシの子を?とイルカはなんともいえない気持ちになって女性から視線を逸らした。

「イルカ先生、ごめんなさいっ!」

イノが突然イルカに向かって頭を下げた。

「イルカ先生、私もごめんなさい。」

サクラもしおらしく頭を下げた。イルカは訳が分からなくて慌てて彼女たちに頭を上げさせた。

「2人ともいいから、どうしたんだ?何かいたずらしたのか?正直に言えば許してやるから言ってみなさい。」

久しぶりの恩師の言葉に2人は顔を見合わせて話し出した。

「カカシ先生の隠し子って話、違ったんです。」

とサクラ。

「本当はカカシ先生の子供じゃなくて別の子供で、勘違いして噂を広めちゃったんです。」

イノの言葉にイルカはそうだったのか、と2人の頭を撫でた。

「よく言えたな、自分の過ちに正面から見据えられるのは強い証拠だ。お前たち成長したな。」

イルカの言葉に2人はかすかに笑みを浮かべた。イルカも笑顔で頭を撫でてやった。

「とりあえずこれで俺の隠し子説は消滅しました。そこで真相ですが、ヒナ。」

ずっと隣にいたカカシがその名を呼ぶと見知らぬ女性がイノとサクラの代わりにイルカの前に立った。カカシの子ではないと言うならばこの女性はカカシとどんな関係が?とイルカはごくりと生唾を飲み込んだ。

「はじめましてイルカ先生。犬塚ヒナです。アカデミーでは弟がお世話になりました。」

その言葉にイルカは目を見開いた。確かキバには上に姉がいると聞いていたがハナだけではなかったのか。

「キバのお姉さんでしたか。」

イルカの言葉に女性は頷いた。

「忍びの才能はからっきしなんですけど忍犬の育成には自信を持っています。実はシズと言う犬が妊娠しまして、そのお相手がカカシ上忍の所の忍犬だったんです。もうすぐ出産だと言うのにお相手の忍犬をちっとも連れてこないからとつねっていた所をあの子たちに聞かれていたようで、誤解を招く言い方をしてしまった私も少し考えなしでした。あの子たちを責めないでくださいね。」

ヒナに言われてイルカはその場にへなへなと崩れ落ちそうになってカカシに支えられた。

「これで誤解は完全に解けたね。火影様にはちゃんと事情を説明する係りを向かわせましたから大丈夫です。お前たちはもういいよ、ここまで来てもらって悪かったね。」

カカシの言葉に3人は微かに笑みを浮かべて各々立ち去って行った。
中庭で2人っきりになってしまうと、途端、イルカは居心地が悪くなった。

「あの、それじゃあ俺は家に帰りますから、手を離してくれませんか?」

未だにイルカはカカシに体を支えられていて、手はカカシに掴まれていた。拘束されているというほどの拘束力はないものの、イルカはその手に戸惑っていた。

「家って勿論俺たちの家だよね?」

「え、あの、でも、俺、」

「俺、言いましたよね、あなたが好きだって、あなたが愛おしいって。」

「それは、俺をストーカーから守るための、」

「こんな誰もいない所で誤魔化すための嘘を言っても意味ないんじゃない?2人っきりで告白するのは、相手に知ってほしいって思うからだよ。」

カカシは横抱きにしていたイルカの体を正面から抱きしめた。

「好きだよイルカ先生。あんたを俺の家に入れた時から全部あんたが特別だった。それに気づかせてくれたのはガイなんだけどね。」

情けないことに、とカカシは笑っているようだ。抱き締められていてまともにカカシの顔を見ることができない。

「まだだめ?」

カカシの困ったような言葉にイルカは瞬間的に顔を上げた。そこには嬉しそうなカカシの顔があった。
反則だ、そんな嬉しそうな顔。

「う、す、好き、です。カカシ先生が、好き。」

「うん、ありがとう。」

カカシはそっとイルカの口に口付けを落とした。
そこに焚かれるフラッシュの数々。

イルカはあまりのことに硬直してしまった。カカシはわざとカメラに顔が映るように笑顔を向けてイルカにこれみよがしにキスする。

「はーい、これでイルカ先生は正真正銘俺のものだから手を出したり色目使った奴は死刑ね?」

にこりと氷の微笑を浮かべてカカシが言うとカメラは瞬く間にまたフラッシュを焚いた。そこだけ真昼のようだ。
俺、もしかして大変な人を恋人にしたのかな?とそんな思いが頭をよぎったイルカだったが今はその考えに蓋をした。
今はまあ、こんな状況ではあるが幸せ、そう、幸せなのだからこれで良しとしようじゃないか。
カカシに顔のいたるところにキスをされるがままにされていたイルカは現実逃避のために旅立ったのだった。

 

その頃火影の執務室ではアスマとシカマルが火影を前に説明をしていた。

「なんでイルカがここにいると分かったんだ?」

「カカシ先生が写輪眼をもってしても居場所を確認できない特殊な環境と言ったらもう火影関係以外にありえない。火影様はサクラを弟子にしているからサクラに火影様の周りで変わったことがなかったかを聞いた。そしたらいつも昼食はシズネ上忍と共にしているはずなのに今日はいなかった。任務で出ているわけでもないらしい。つまりシズネ上忍は何か特別なことをしている。まあ、憶測の範囲を出なかったがイルカ先生は火影関係の場所で匿われておりシズネ上忍に何らかの形でコンタクトを取っているんじゃないかと踏んだってわけだよ。それでシズネ上忍の跡を付けてみればビンゴってわけだ。」

シカマルの言葉に火影は頷いた。まあ、いつまでも匿ってやれるわけではないとは思っていたがこんなに早く突き止められるとはな。

「それであいつらは仲直りしたのか?」

「さあ、そこまでは俺は。でもイルカ先生の性格じゃあカカシ先生に陥落するのは時間の問題だと思うっすけど?」

「おそらくもう元鞘だ。記者たちにも向かわせたしこれでDVDの売り上げはうなぎ登りだな。」

火影は満足そうににこりとその美しい顔に笑みを浮かばせた。その笑顔にアスマとシカマルが少々ひいた。

「火影様、もしかしてそこまで読んで...。」

アスマの言葉に火影はそれに関しては何も言わずにご苦労だった、と労いの言葉だけを言ってアスマとシカマルを執務室から丁寧に追い出した。
廊下でアスマはぽつりと呟いた。

「所詮は火影に転がされる忍びの命運って奴か。」

シカマル言葉にアスマは歩き出した。

「まあ、仕組まれてようがなんだろうが2人が幸せになるんだったらどっちだっていいことだ。」

 

翌日、スポーツ新聞には『禁忌ボーイズ愛返り咲き!真実の愛が今ここに!!』といううたい文句と共にDVDの宣伝がでかでかと掲載されていたとか。

おわり
 

と、言うわけで禁忌シリーズとりあえず終わっとけ!と言うことで終わらせてみました段々テンションが下がりまくって最後には普通になってしまったよorz
そしてお題の喉元の刃、無理やりすぎましたね!ええ、そんなに書いた人が一番理解してます!(涙
色々書いてて収集がつかなくなってこんなことになってしまいましたひたすら土下座です。
一瞬でもくすりと笑ってもらえればそれで良しと自分に無理やり納得させて、そして逃げますっ!!(卑怯者っ
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました><b