「え、ライダ上忍、外勤中心の任務に従事することになったんですか。」

「ええ、だから自然消滅ってやつですね。なんだか曖昧な別れになっちゃいましたけど、お互いにあっさりとしたもんだったんで、いいですよ。」

カカシの言葉にイルカはそうですか、と少し意気消沈した。ライダとて、きっとカカシのことが好きだからこそのあの暴挙だと思えば、多少は許せる気持ちになると言うのに、そんなにあっさりと関係を解消してしまうなんて、なんとなく人の心の移り変わりは儚いと思ってしまう。
今、イルカはカカシと共に居酒屋に来ていた。あれから何故かカカシはイルカの事を気に入ったらしく、頻繁にご飯に誘うようになったのだ。
カカシの話しは面白かったし、考え方も似ていてついつい話しが盛り上がってしまうのだ。
最初は例の噂もあってカカシを遠目でびくびくしながら見守っていた職員室の同僚たちも、カカシが人畜無害だと理解していったのか、今では気さくに声をかけている者もいるようだ。

「でも、最近殺人事件もなくなってほっとしましたよ。なんだったんですかね、くの一ばかりを狙うなんて。」

「ええ、でもおかげで俺にまとわりついていた変なうわさ話もなくなりましたから、もういいんですけどね。」

「ええ、あとは犯人を見つけるだけですね。」

イルカの言葉にカカシはそうですねえ、と持っていたビールのジョッキを持ち上げたのだった。
そして帰り道、カカシはイルカを連れてあの老犬を埋めた大木の所へとやってきた。
もう埋めた痕跡はほとんどない。ちゃんと草が生い茂っていて土に還ったのだと思わせる。

「ねえイルカさん、もう気付いてるんでしょ?俺が好きな人。」

カカシの言葉にイルカは目を彷徨わせた。そんなのいくら鈍いイルカだとて十分に分かっている。でなければここまで頻繁に誘わないだろうし、それにカカシが自分に向けてくる一言一句も、その視線も意識させざるを得ないようなものばかりなのだ。

「俺ね、あの老犬が羨ましいって思ったんだよ。イルカさんに抱きしめてもらえて羨ましいなって。瀕死であと少ししか生きられない老犬に羨望するビンゴブックの上忍って、なかなかいないと思わない?」

「あの、でもそれは、」

「欲しいんだよね、この手が、腕が、体が、」

カカシはイルカの手を取り、その体を引き寄せて密着させた。相手の鼓動が聞こえるようだ。こんなに間近で直球な言葉を、思いを伝えてくる人間など知らないイルカは慌てて離れようとするが強い力で体か動かない。

「本当に、欲しいんだ。」

切なげな声のカカシにイルカはぞくりと背中がわなないた。イルカとてカカシのことは嫌いではない。むしろ好きだし、ここまで意見の合う人物はそうそういないだろうと思う。だが恋愛となると、恋人となると話しが別なのだ。

「カカシさんは、山小屋で介抱した俺に恩義を感じているだけですよ。それは恋愛感情じゃないですって。このまま仲の良い友人でいいじゃないですか。それでも俺の中でカカシさんが一番大切な人間なことには変わりないんですよ。」

それを聞いてカカシはそっとイルカから身を離した。その表情は悲しげでイルカも悲しくなってしまう。

「酷いよ、そんなことを言って。俺はあんたが好きなだけなのに。」

「カカシさん、」

「俺ね、恋ってしたことがなかったんですよ。ライダの時はどうも彼女の策略のようなものがあって、恋らしい恋ではなかったように思うけど、イルカさんに対するこの気持ちは嘘じゃないし、偽物なんかじゃないのに、それを否定するの?俺のことが受け入れられないっていうなら諦めも付くけど、俺の気持ちを受け流してなかったことにするのは、酷いよ。」

イルカは俯いた。確かにカカシに失礼だったかもしれない。

「ねえ、一度だけでもいいから俺と試してみてよ。そしたら、絶対にイルカさんをその気にさせてみせるからさ。」

「その気って、それは、」

どういう意味とは聞けなかった。カカシはそういう目でイルカを見ているのだろう、つまりは相手をその対象として。
イルカは一瞬その姿を想像して顔を真っ赤にした。山小屋でカカシの全裸を見ている者としては安易に想像がついてしまうのだ。

「あ、今俺の体を想像したでしょ、エッチ。」

「なっ、それはっ、だって、山小屋で、緊急事態で、」

カカシはくすくすと笑ってイルカの頬に触れた。ひんやりとしたカカシの手が火照った顔に気持ちいい。

「俺は諦めませんよ。元来、俺はあきらめの悪い男なんですから。」

そう言ってカカシはイルカの頬に触れるだけのキスをした。呆気に取られているとカカシはそのままイルカに背を向けてまた明日、と言って去っていってしまった。
残されたイルカは呆然とその後ろ姿を見送っていた。その顔が真っ赤になっている。先ほどの比ではない。これではもう、相手が特別だと言っているようなものだ。

「好きになって、いいのかな?」

さやさやと草が揺れてイルカの言葉に応えているかのようだった。
命の恩人だからという理由だけで男の自分を好きだと言う男がどこにいるのか、それはきっかけに過ぎないのだ。諦めよう、老犬を羨ましいと言った上忍にほだされてしまったのが運の尽きだ。

「好きになってみようか、だって、あの人は俺の一番大切な人になっちゃったんだから。」

イルカは老犬のいる木の根元に向かってまた来るよ、と言って歩き出したのだった。

おわり

はい、と、言うわけでお疲れ様でした!!
な、なんか最初はぽやぽやしてたのに最後の最後で結構グログロでしたね...。
ま、まあ、カカシ先生最強伝説(原作とはほど遠い設定orz)っちゅうことで!!
ちなみにライダの名前ですが、原型は懶惰(らんだ)という熟語で、怠惰とか怠慢とか、そういう意味だそうで(オンライン辞典参照)
ライダの物言いが怖いと感じるのはなんと言うか、本当にこういう風に実際に言う人、いそうだよな、と思うところでありまして、なんてちょっと真面目に後書き書いちゃいました!!(照
最近暗いものが多かったのですが、今回の作品は、まあ、少しは浮上してる?と思い、たい!!
楽しんでいただけたらばそれにまさるものはないわけなんですけどね><b
ここまで読んでくださってありがとうございました〜♪