楽しい酒を飲んだ帰り道。夏の終わりの夜道を連れだって歩けば、くすくすと思わず笑みが浮かんできて、どうしたんです?なんて不思議そうに聞くものだから、両手を夜空に伸ばした。

「こうしてると、星がつかめるような気がします。」

「はは、イルカ先生は浪漫がお好きですね。」

風が吹いて、道脇の、腰丈ほどもある夏草がざわめいて、その匂いが心地よくて、ただただ嬉しくて。
しばらくそうしてぼんやりとしていれば、後ろから気配が近づき、自分の伸ばしていた腕に別の腕が絡まって、それは自分と同じように両手の平を空に向かって伸ばされた。

「か、カカシさん、」

その腕の持ち主の身体が密着しているとか、ほんのり酒臭い息が側にあるとか、そんなことで動悸が激しくなってしまって、気付かれてしまう。
わななき、身体を離そうとしたけれど、でも、そんなこと自分からはできなくて、顔は真上を向いたままで。

「ああ、ほんとだ、つかめるような気がします。」

「そ、そうです、よね。」

声は震えていなかっただろうか、不自然なことはなかっただろうか。気付かれては、いないだろうか。

「あなたがあんまり嬉しそうにしているから、俺までつられてしまいました。」

「はは、子どもっぽいですよね、お恥ずかしい。」

伸ばされていた腕がイルカの腕をはっきりとした意志でつかみ取り、降ろされれば、それはとうとうイルカを背中から抱きしめるような形となり、イルカは心臓が壊れてしまうのではないかと思える程に、胸が早鐘を打つ。
もう、酒に酔って動悸、息切れが、なんて通用しないであろう。

「そういう所が、ひどくあなたを愛しく思わせて仕方がない。」

背中の体温が熱い、どうしよう、どしよう、震えて声が、身体が言うことを聞かない。

「好きです。」

低くて穏やかな声が耳元に響いてきて、イルカは思わず息を止めてしまう。

「好きですよ、イルカ先生。」

再び言われた言葉にイルカはもう堪えることなぞできなかった。
身体の向きを変え、真正面にカカシを見れば、声と同じく穏やかな色を湛えて自分を見ている。確かにその瞳には自分が映っている。
ああ、どうしよう、それだけでもう、どうしようもなく嬉しくて泣きそうだ。

「俺っ、俺も、カカシさんが、好き、好きなんです。」

カカシは口布を引き下げた。今まで露わにされなかったその口元が優しく笑むのを夢のように見る。そしてその口が近づいてくれは、イルカは目を閉じてその感触を待ちわびる。
すぐにやってきたその感触は、柔らかくて、ひどく幸せを思わせるものだった。
夏草の揺れる、秋口の夜でした。