始まりはいつだったか分からない。だから終わりもいつだって分からない。いつもそんな気持ちで暮らしていた。
彼のことが好きだから、だからその時が来たら静かに去るだけだと。そう決めていた。
だからその時も失望なんかしなかった。むしろ喜ぶべきだと自分を諌めた。

 

カカシの結婚が上層部で決定されたという噂がたった。
カカシはとんでもないと、結婚なんかしないと、あなただけだとそう言って何度も何度も愛を囁いてくれた。
必死だった、彼は必死になって自分を求めてくれた。それはつまり、真実だということだ。彼はきっと上層部から結婚を言い渡され、そして簡単に断れない状況にいるのだ。だから自分に必死になって言い募るのだ。
その日、カカシが任務で里を離れていた時、許婚という女性が自分の前に現れた。涙ながらに結婚を阻んでくれるなと訴えられて、もういいかと思った。彼を解放してあげようと思った。
去る時が来たのだ、そう自分を納得させようと思った。だが決心したはいいものの、心の苦しみはなかなか取れなかった。だから記憶を封印した。全ての記憶を、彼に関わる全てを、当然里のことはおろか自分のことも忘れなければならない。それでは忍びとして生きていけない。決行はいつがいいだろうか、任務に出たときがいい。思いっきり遠くへの任務を買って出て、そして行方不明になろう。全てを忘れて、彼を解放してあげよう。
本当に開放したかったのは、自分かもしれないけれど。

 

「ねえ、イルカ先生、どうして逃げたの?俺はあんたを愛してるのに。あんたしかいらないのに。」

カカシが一歩、イルカに近づいた。雨脚が強くなってきた、顔に雨粒が当たる。

「あなたが、結婚するから。」

イルカの言葉にカカシが薄く笑った。

「はは、結婚、結婚なんか、しないって言っただろう、何度もっ。」

カカシが近くの木を拳で殴りつけた。大きな衝撃音と共に木が倒れていく。
空がどんどん暗くなる。木々の湿った匂いがする。もうすぐ、嵐が来る。

「なんでわかんないのかなあ?ねえ、どうすれば分かってくれる?どうして俺の言葉が信じられない?あの女の言葉は信じたくせに。」

イルカは眉間に皺を寄せた。

「調べたんですか。でも事実でしょう、信じるも信じないもない。あなたは結婚する、それだけだ。」

カカシはくるりと回って空を仰ぎ見た。遠くで雷がなっている。低く体に響く雷鳴と一瞬の雷光がカカシの顔を照らす。

「もう、手遅れだよ。」

「何がです?」

「あんたは俺のものだ。死んだって渡さない、あんた自身に拒絶されたって俺が奪い返してみせるよ、何度だって。」

カカシは唐突にイルカの頬を両手でつかんだ。目の前がカカシの顔でいっぱいになる。

「だから、逃げたって無駄だよ。イルカ先生?」

カカシは口布を下ろすとイルカに口付けた。荒々しい口付けに息が苦しくなる。
雨が土砂降りになって滝のように降りかかる。それなのにカカシは一向にやめようとしない。
冷たい雨の中で、口付けだけが熱く火照らせる。
イルカの体がわなわなと震え出す。怖くてたまらない。どんどんと背中を叩いても離してくれない。
カカシは唇を離した。イルカは今にも泣き出さんばかりに震えている。寒さだけのせいではない。
カカシがイルカの体を強く抱きしめた。

「連れて行くから。」

そう言ってカカシはイルカの体を抱え上げた。イルカが抵抗する間もなくカカシは木の上を伝って走り出した。
荒れ狂う嵐の中、カカシはイルカを抱えてひたすら走る。
雨嵐の中、稲妻が空を走る、雷鳴が轟く。暗く冷たい道を狂ったように走り抜ける。
誰にも奪われるものかとイルカをしっかりとつかみながらカカシは跳躍する。
カカシの体温を服越しに感じながら、イルカはやがてカカシの服をそっとつかんだ。
隠し偽っていたからこの惨劇は起きたのだと悔やんでいたユキ、愛する人が他の人のものになると言われて逃げ出した自分。
偽ることを辞めるといって立ち向かう決意をしたユキ、自分は?
イルカはカカシの服をぎゅっとつかんだ。

「連れていって、ください。あなたと、どこまでも行きたい。」

ぐっとイルカの体を掴んでいたカカシの腕に力がこもった。
雷はやがて鳴り止み、遠くの空にうっすらと光りが雲の間から漏れ出す。
晴天は、すぐそこまできていた。

 




おわり

はいっ、と、言うわけでお疲れ様でした!!
って言うか、なんでしょう、や、ちょこっとミステリー風味にしてみたいな、なんて思ったのが運の尽き...orz
なんか、ねえ、色々と伏線が消化しきれていないって言うか、元々伏線なんかどこにもないだろってな感じでしかも最後の最後までイルカ先生とカカシ先生の名前がまったくこれでもかと出てこなくてどこがカカイルかっ!?とお怒りになる姿が、ああ、目に浮かびます(石投げないでっ!!涙
ほんと、オリジナル色が強すぎて、ああうあ、あたいって奴ぁっ!!
次回はもっと木の葉に密着したものを書きたい、書きたいよっ!!尽力いたしたいと思いますorz