その一時間後、火影からどうも様子のおかしかったカカシを見てこいと言われてアスマがカカシの家へとやってきた。が、留守であった。
盗まれるものが一切ない家なので鍵はかかっていない。アスマは一応、と家の中に入った。そこで卓袱台の上にイルカ宛ての手紙と保険の書類を見つけて、悪いとは思いつつもアスマは中身を読んだ。

「あの馬鹿っ、」

アスマは呟くと受付へと向かった。案の定、カカシはSランクの任務を受けた後だった。時間にして2時間ほど前。もうすでに里から出発してもおかしくない時間だ。
その時、受付業務の交代時間になったのか、イルカが入ってきた。それを目聡く見つけてアスマは声を掛ける。

「よう、イルカ。悪いが付き合ってもらうぜ。」

そう言って了承も得ないまま、アスマはイルカの腕をつかんで瞬身でひとけのない公園へとやってきた。

「アスマ先生、一体どうしたんですか?俺、これから受付だったんですよ?」

「いいからこれを読め。」

そう言ってアスマはカカシの手紙と保険の書類をイルカに手渡した。
そこには、

『海野イルカさま

あなたが好きです。そんなあなたが好きだというお金を俺はあまり持っていません。
親父がかけていた保険は俺が任務中に死亡した時にもらえるものだそうで、受取人はイルカさんにしておきました。本当は生きている時にあげたいんですけど、もしも俺が任務中に死んだ時は受け取ってください。
俺は忍びなので本当は任務で稼ぎたいんですが、ちょっと事情があってなかなか高額の任務が受けられません。これは秘密なのであまり人には言わないで下さいね。
出会ってからこの数ヶ月、俺は本当に幸せで毎日イルカさんのことばかり考えています。
これからもきっとそんな日々を送るのだと思うと生きてきて良かったと思うんです。
また一緒にイチャイチャしましょう。

はたけカカシ』

 

読み終わり、保険の書類を見てイルカはなんとも言えない表情を浮かべた。そんなイルカにアスマは問いかける。

「イルカ、お前はカカシの地位や名誉や、持っていると思われる巨額の富が目的で奴に近づいたのか?」

火影同様、カカシのことをできの悪い弟のように思っているアスマは、もしもイルカがそういった考えを持つ性根の腐った奴ならば鉄槌を食らわせるつもりだった。だが返ってきた答えは意外なものだった。

「最初は、そうですね。そう思っても仕方なかったんじゃないですか?カカシさんはそれだけ有名だった。言っておきますが俺がたぶらかしたんじゃなくて、カカシさんの方から告白してきたんですからね。面識だって一度受付で会っただけなんですから。」

言われてアスは頷いた。確かに一目惚れだと言っていた。たぶらかすにもイルカは本当に普通の中忍で誘惑する云々以前に男である。

「でもある時から気付いたんです。カカシさん、本当は貧乏なんじゃないかと。どんな時でも忍服だし、買い物してくるものはいつも庶民的なものでお買い得品が多い。しかも動作のひとつひとつが所帯じみてて居酒屋でもしょっちゅう席を立ってトイレで何をしているかと言えば財布の中身の確認。これでは疑えと言われているようなものです。」

驚いたことにイルカはカカシが貧乏だと気付いていたらしい。

「お前の言うとおりだ。奴の一張羅は忍服で、他はもう何年も前の服でぼろぼろだし、一日2食で生活するほどゆとりがない。最近はお前さんとでかける金を作るために一日一食、しかもおかゆよりも薄いおもゆで生活する毎日だ。」

「そこまでとは、知りませんでした。」

「俺だって知ったのは最近だ。以前にも増して痩せてきたからどうしたのかと問いただせば『デート代がかさんじゃって』って嬉しそうに言うんだよ。俺はそんなあいつに栄養価の高い弁当を差し出すことくらいしかできねぇ。」

「痩せてたんですか、最近とみにスレンダーになってきたと思えば、そうですか。」

イルカは切なげに小さく笑った。

「お前、金が好きなのか?」

「ええ、好きですよ。両親が災厄で死んでからかなり苦労しましてね。人一倍お金には執着があるんです。たぶん、中忍の中では一番貯蓄率が高いんじゃないでしょうか。下手な上忍よりも資産運用できてると思いますよ。株もそこそこ成功してますし。」

どんな中忍だよ、とアスマはちょっと身震いした。

「けど、勘違いしてもらっちゃ困ります。確かに最初はこの人金持ってそうだな、って軽い気持ちで付き合いました。けど、金持ち相手に体を差し出すほど俺は不自由はしてませんよ。」

「それじゃあ、お前さんは、」

「ほだされたって言うか、あの人こんなもさい俺にどこぞの姫君みたいに触れくるんですよ。大切に大切にしてくれるんです。両親が死んでずっと自分の立てた人生設計のままに突き進んで、いずれは俺よりも少し収入の高いそこそこ胸のでかい女と結婚して子どもは2人、成人したら老後は里から少し離れた一軒家で年金と貯蓄を切り崩して平々凡々と過ごそうと思っていた俺にあっさりその道を踏み外させるほど、好きになってたんです。彼のことが。」

そう言ったイルカの顔は幸せそのものだった。

「それにしてもどうしてアスマ先生がこの手紙と保険の書類を持ってるんですか?俺宛に郵便で届くならまだしも、カカシさんから託されたんですか?」

イルカの言葉にアスマは苦渋に顔を歪めた。

「イルカ、よく聞け。カカシは金を稼ぐためにSランクの任務を請け負った。」

「あの、別にいいんじゃないですか?カカシさんは里の誉れの上忍ですし。」

カカシが貧乏だと気付いてはいても実力が下忍並だとは気付いていなかったらしい。だが事は一刻を争う。

「カカシの実力は下忍並なんだよ。噂ばっかりが一人歩きして上忍って肩書きを持ってるだけなんだ。だから給料も下忍並みで貧乏生活をするしかない。火影様も承知だ。」

やべえな、もう一時間以上経ってる。どんな任務かも調べないとならないし、まずは火影に報告か、とアスマは再び頭をかきむしった。

「そんな、カカシさんっ、」

悲痛な声を上げて、真っ青になったイルカは走って行ってしまった。

「なんだよ、愛されてんじゃねえかよ。」

緊急事態だと言うのに、アスマは妙に微笑ましい気持ちになった。

「死ぬんじゃねえぞ、カカシ。」

アスマは呟いて火影邸へと向かったのだった。

だが、果たして事態は深刻だった。なにせ“里一番の技師であるカカシ”であればちょちょいとできる任務に援軍を投入なんてできるはずもないのである。
情報に偽りがあったとして緊急に援軍を向かわせてもいいが、カカシの本当の実力が露見してしまえば取り返しがつかない。困ったことになった。
だがそこに風呂敷包みを持ったイルカが駆け込んできた。

「イルカ?お前どうしてここに、」

「依頼ですっ、」

息を切らせてイルカは風呂敷包みを2人の前に置いた。

「Sランク任務を依頼します。火影様とアスマ先生両名にはたけカカシの救出を依頼します。」

風呂敷包みには恐ろしい額の札束が用意されていた。中忍1人が所持するにはでかすぎる額だ。

「イルカ、お前、これ、」

「株を全部売り払って貯金も切り崩してきました。俺が借金なしで差し出せるぎりぎりの額です。これだけあれば火影様を雇うに相応しい額のはずです。あ、アスマ先生は友情ってことで除外されてますがいいですよね。」

言われてアスマと火影は顔を見合わせた。そしてお互い笑い出した。
未だかつて火影に任務を依頼してきた者がいようか、いや、おるまい。それだけイルカは必死だったのだろう。考えて考えて自分の好きな金を差し出してまでもカカシを救おうとしている。

「いい恋人持ったな、あいつもよ。」

アスマはにっと笑った。

「火影様、こうなったら依頼を受けるしかないんじゃないですか?木の葉の威信をかけて。」

「仕方あるまいて。少々里を開けるがご意見番の2人がおればなんとでもなるじゃろう。そう決まったら早速行くぞ。アスマ、すぐに発つぞ。」

「はっ、」

果たして、前代未聞の依頼は受理され、火影とアスマはカカシ救出に向かったのであった。

 

 

その頃カカシは途方に暮れていた。
なんとかがんばって城に潜入したはいいものの、早速侵入がばれて城内はくせ者をひっとらえよと大騒ぎになっている。
カカシは気配を殺して隠れていた。ちなみに奪取すべき巻物すら手に入れていない。そんな状態で大騒ぎとなっているのだから最悪の状態である。
このままでは出て行けない。だがいずれはここも見つかってしまう。台所の床下の貯蔵庫に身を潜めていたカカシはひたすら騒ぎが落ち着くのを待っていた。
だが、その騒ぎがなにやらますますひどくなってきた。
遠くから聞こえてくる見張りの男たちの声が聞こえてくる。

「新手が来たぞ、体勢を整えろっ、くそっ、なんで避けたはずなのに傷ができるんだっ。」

「だめだ、なんて強さだ、なんだあの猿の化け物は、うわああっ、」

猿の化け物?見えない刃物を操る?カカシはそろそろと貯蔵庫から身を乗り出した。
遠くから火遁やら土遁やらが押し出されてくる。

「げっ、」

カカシを再び身を潜ませようと体をかがめた。

「馬鹿者っ、幻術じゃっ、隠れるでないわっ、」

聞き覚えのある声にカカシは驚いて目を見開いた。炎の中から見知った老人がやってくる所だった。炎は確かに幻術だったらしく、炎から出てきたと言うのに焼き焦げが一つもない。

「思ったとおり、巻物の奪取もしとらんようじゃな。」

「は、はい、面目ありません。」

「良い、巻物の方はアスマが向かっておる。」

炎の幻術のおかげで周りに敵が人っ子1人いなくなった所でカカシは口を開いた。

「あの、それで、どうして火影様が?」

尤もな疑問に火影はにっと笑って口を閉じた。意味が分からなかったが、とりあえず助かった。カカシは貯蔵庫から出てると火影の隣に立った。

「非常に疑問なんですが、火影様が里を離れていいんですか?」

「直々に依頼を受けての、なかなか割の良い任務じゃったから受けたまで。逃走ルートを確立するぞ。わしについてこい。」

そう言って火影は走り出した。その後をカカシはついてくる。
難攻不落の城とは言え、火影が相手では分が悪い。巻物を奪取したアスマと合流した一行はさっさとその城を後にしたのであった。
そして深い森の中、火影とアスマは立ち止まった。カカシも合わせて立ち止まる。あとは里に帰るだけなのだが、ここで小休憩なのだろうかと首を傾げる。

「あの、火影様?」

「依頼人がどうしても同行したいと言うものでな。仕方ないからここで待機させておった。もう出てきて良いぞ。ちゃんと任務は成功した。」

火影の言葉に木の陰に身を潜ませていた人物が姿を現した。その姿を見てカカシが驚愕の声をあげた。

「イルカさんっ!?」

カカシは慌ててイルカの側へと走っていった。だがイルカまでもう少しと言う所でイルカはカカシの顔を思いっきり殴りつけた。

「あんたは馬鹿ですっ。」

大好きな人に殴られたショックでカカシはその場にへなへなと座り込んでしまった。

「確かに俺は金が好きですよ。金があればこそ、生活は豊かになるしゆとりができます。けど、大切なものがそろっていなければただの紙くずなんですよっ。」

イルカは泣いていた。顔を真っ赤にして怒りながら泣いていた。カカシは慌てて立ち上がっておろおろとしていたが、やがてそっとイルカを抱きしめた。

「イルカさん、泣かないで下さい。」

「どうして無茶な任務なんか引き受けたんですか。あなた実力は下忍並なんでしょう?死ぬつもりだったんですか?死んで保険金を俺に差し出して満足なんですか?」

「そ、そんなことありません。俺はできれば生きてイルカさんにお金をあげたかったんです。そしたら喜んでもらえると思って。その、イルカさんの言うとおり、俺は下忍並の実力しかないんで給料も少なくて、大金はなかなか稼げなくて。」

「だからってSランクの任務を引き受ける下忍並の男がどこにいますかっ!?」

「ごめんなさい、あの、本当に。だから泣かないで。」

「あんたが泣かせてんですよ。俺がどんだけ心配したと思ってんですか。貧乏だっていいんですよ、お金なら働けばまた手に入ります。だから、どうか俺の前から消えていなくならないでください。俺から好きな人を奪わないで下さい。」

「はい、奪いません。って、好きな人って誰ですか?」

天然でとぼけたカカシにイルカはぷるぷると震えてカカシにもう一撃食らわせた。

「この状況であんた以外に誰がいるって言うんだっ!!」

意識が遠くなる中で、カカシはこの世のものとは思えないほどの幸福に包まれながら涙ながら思った。
だって、イルカさん、あなた一言も好きだって言ってくれなかったじゃないですか...と。

 

 

そうして、痴話げんかを聞いていたアスマは昏倒したカカシを担ぎ、カカシ救出任務は幕を閉じたのだった。
その後、ほとんど無一文になってしまったイルカは金の無駄遣いとしてカカシと同居することになった。
そこでイルカは目の当たりにする。カカシの下忍並、いや、最悪下忍以下の忍びとしての実力を。
聞けばアカデミーは一日で卒業、上忍師に師事はしたものの、上忍師は基礎能力よりも技の開発を重点に置いた方法で下忍を育成していたため実力はまるで付けられず、その状態でここまで来たと言う。
はっきり言って勉強不足である。
教師魂に火が付いたイルカはカカシを猛特訓することにした。同居してますますイチャイチャできると思っていたカカシは家に帰るともれなくイルカのスパルタ学習が待っており、思ったよりもイチャイチャできないことにがっかりしたが、一緒になって忍びの勉強ができるので、まあ、良しと思って日々鍛錬の毎日を送る。
やがて元もとの身体能力とイルカの教育の甲斐あって、噂の中だけの里一番の技師はたけカカシから、本物の実力を伴ったはたけカカシになり、中忍仲間の言うとおり、本当に玉の輿状態になるイルカなのだが、それはまた別の話。

 

はい、お疲れ様でした!!
実はイルカ先生をもっと黒くする予定だったんですがそれじゃあカカシ先生が可哀相だろうと言うことでカカシ先生のヘタレ具合120%くらいでがんばってみました!
お題と全然直結してねえよどこが燃えさかる炎なんだよというご意見ごもっとも!!
あ、でも出てきましたよね、火影の幻術、ね、あれ燃えさかる炎だったよね?
...orz
はいっ、と、言うわけでどこまで続くのか、果たして終わりは来るのか、そんなシリアスお題(もうダメポ)次はいつの更新なのか!?
それは風の向くまま気の向くまま(寅さんかよ!)ちゃんと題名を使えよお題の人に失礼だろと1人ツッコミをする平日の夜中なわけですorz