魂合い −






それから色々なことが起きた。ナルトは何度も卒業試験に失敗し、3度目の試験でようやく合格した。その際、ミズキの裏切りでナルトは自分の体の中に九尾が封じられているという事を知ってしまい、俺はどうなることかと冷や冷やしたが、あいつはまっすぐに育ってくれた。夢は火影になることだと豪語した時は、そりゃまたでっかい夢だと思ったが、ミズキの攻撃を食い止めてくれた時、こいつは化けると思った。
俺が元いた世界では一人寂しく死んでいったナルトだが、こちらの世界では仲間と呼べる友がいて、カカシさんが言っていたように太陽のような存在になってきていると思った。
そして下忍認定試験に見事合格し、カカシさんが上忍師の元、ナルトは下忍として任務をこなす。
カカシさんも先生になりましたね、と言って笑うと、イルカ先生とお揃いですねー、なんてまるで狙ったかのように言うので上忍師になったのはそのためかっ!?と思わず勘ぐってしまった程だった。
それからナルトたちの中忍試験、そしてそれに乗じた木の葉崩し、三代目の死、暁という組織に狙われるナルトの中の九尾、綱手様の五代目就任、サスケの里抜けと、時代は移っていく。
俺のいた世界とは違っていく未来、俺の知る未来はここにはない。笑顔で迎える未来もあれば、涙で迎える未来もあった。
今日、ナルトは自来也様について修行の旅をすると言って里を後にした。
ナルトを見送って、俺は一楽で残りのラーメンを食べていた。
ナルトはもう一人前の忍びだ。
愛情欲しさにいたずらばかりを繰り返したりしない。忍びとしての自覚を持っている。
強くなれ、ナルト。お前はきっと優しい火影になる。そして里のみんなを照らす太陽となれ。お前は誰よりも強く火の意志を継ぐ忍びだ。

「ナルトは行ったようですね。」

一楽でしんみりしている所にカカシ先生がやってきた。

「ええ、行ってしまいましたよ。ちゃんと見送ってあければよかったのに。今度里に戻ってくるのは早くても二年後なんですよ?」

「わかってますよ。」

カカシ先生は椅子に座るとしょうゆラーメン一丁、と親父さんに声をかける。
まったく、素直じゃないんだから。スリーマンセルの部下だったサスケは里を抜け、ナルトは修行のために旅をし、サクラは五代目に師事している。本当は寂しいくせに、変な所でいじっぱりなんだ、この人は。

「ナルトとは何を話してたんですか?」

「たわいもないことですよ。長旅になりそうだとか、いつものようにすっげえ修行して火影になるって言ってました。カカシ先生は見送りもせずにどこに行ってたんですか?」

カカシ先生は小さく笑った。
そこにラーメン一丁、と親父さんの威勢の良い声と共にどんぶりがカカシ先生の前に置かれる。
早速食べ始めてカカシ先生を横目に俺はナルトの行ってしまった方向へと目をやった。

「ごちそうさまでした。」

はやっ!!俺が一瞬目をそらした瞬間にカカシ先生は食べ終わってしまったらしい。どんな早さだよそれ、熱くなかったのかな?いつも家で食べるときはそんなに早食いでもないのに、これも上忍としての力の現れようなのか?

「実は親友の所に行ってました。」

カカシ先生の言葉に俺は納得した。
慰霊碑、オビトさんの所か。
あれからカカシ先生と俺はよく自分たちの事を話す。くだらないことや辛いこと、後悔していること、最も嬉しかったこと、楽しい思い出、色々だ。
その中でもカカシ先生の写輪眼に関わる話しは自身の記憶の中でも一等辛い記憶だったのだろう、その時のカカシ先生は苦痛に顔を歪ませる程だった。

「この写輪眼を受け継いでいてもちっとも未来なんて見えてこない。俺はまだまだ修行が足りないようです。」

サスケが里を抜けた時、ナルトとサスケが互いに傷つけ合って死闘を繰り広げたと聞いた。自分の部下が互いに傷つけ合う、それはどんなにかカカシ先生をやりきれない思いに駆らせたことだろう。心中察するに余りある。

「いつの日か、また四人で任務をする日がやってきますよ。その時は俺が任務を渡しますから。」

言うとカカシ先生はそうですね、と穏やかな目で言った。
俺とカカシさんは揃って一楽を後にした。里は大分落ち着きを取り戻したとは言え、まだまだ予断を許さない状況が続いている。最近では一週間もまともにお互いの顔を見れない日はざらだった。今日はナルトが里を出発する日と聞いていたので火影様の特別な計らいで半日の休暇を貰ったのだ。それはカカシ先生も同じで、俺たちは自宅へと向かう。

「そう言えば、」

と、川沿いの道を歩きながらカカシ先生が口を開いた。

「ナルトがね、言ってました。」

「なにをです?」

「父親って言うのはイルカ先生みたいなもんなのかなって、思ってたそうですよ。」

俺は目を見開いた。

「あいつ、俺はまだ兄ちゃんで通じる歳だってのに、ひどい奴だなあ。」

「イルカ先生、そんな事言って顔が嬉しそうですよ?」

カカシ先生に指摘されて、俺はへへっ、と笑って鼻をぽりぽりと掻いた。
俺は、この世界で誰かに必要とされ、そして何かを与えられる人物となり得ているのだろうか。
少なくとも、カカシ先生に伴侶として必要とされ、孤独だったナルトに家族のようだと思われる程には、何かを与えられたのだろう。
そう思えば、一度捨てたこの命はひどく大切なもののように思う。
カカシさん、この世界に俺を送ってくれてありがとうございます。俺はカカシ先生や、ナルトたち、アカデミーの子どもたちに出会えてこの上ない幸せを感じています。
辛いことも苦しいこともあるけれど、俺はこの世界で生きていきます。

「イルカ先生、なーに考えてんですか?」

俺が横にいるって言うのにっ!とカカシ先生はぶーたれている。俺はカカシ先生の手を取った。

「カカシ先生のこと考えてたんですよ。」

言えばカカシ先生は満足そうに笑った。

「俺もイルカ先生の事を考えてました。これって似たもの夫婦って言うんですよっ!!」

そう言って繋いだ手をぶんぶんと振り回す。
この上ない愛しさが身を包む。
我が家へと帰る道すがら、俺とカカシ先生は夏草の揺れる土手沿いを歩いていった。
涙が出そうな程、慈しむべき光景だと思った。

 

 

 

終わり


後書きです。

(※)の所には別次元の壮年カカシとイルカの会話が入ります。下記はその会話部分抜擢です。
読まなくても良いと思うのですが読んだら色々と説明に納得ができることもあるかもしれません。
そこの辺りは各自の判断で。読んだ所で特に話に影響もないと思います。

そしてそして題名の「魂合い」というのは意味的に以心伝心とか似たもの夫婦とか言う意味らしいです。
しかし自分で書いてて微妙な話しだと思いましたよ。
浮気してんのカカシ先生だよ。いいのかそれで、とか色々と思うところはありましたが私的にそれなりの幸せな終わりなので良しとします。










「やっと話せた。ずっと交信していたんだがなかなかコンタクトできなくてね。元気?」

「はい、色々と良くしてもらってます。」

「よかった。生きてくれているとは思っていたけれど声もちゃんと出るようになっているようだね。」

「はい、ご心配をおかけしてしまって、すみません。」

「うん、もう二度と、絶対に自ら命を絶たないで。さ、お説教はこの位にして気になっていたと思うから本題に入ろう。こちらのイルカは元気だよ。」

「やはりそちらに?」

「うん、俺も詳しくは解らないけれど、こちらの世界とそちらの世界はとても似ているだろう?別次元の同じ木の葉の里なんだ。似て非なるものと言うべきか。どちらの世界にも自分と同じ姿、名を持つ者がいる。そしてどちらかの世界のものが他の世界へと移ってしまったら同じ等価値のものが返ってくるようだ。質量を同等にして釣り合わせているのかもしれない。俺は四代目から次元を飛ぶ術をいくつか伝授されていてね、一瞬の間だけそちらの世界に何度か行ったこともある。かなり力を消耗するから若い頃に数回だけだったけど。そちらはこちらよりも医学が発達しているようだとは思っていた。だから万に一つの可能性を賭けて君を送り出したんだ。少々時間軸もいじったからこちらの年号よりも古い時代に行ったとは思うけれど。」

「どうして時代を変えたんですか?」

「俺が若い時に君と出会っていたら、俺は変わっていたかもしれない。その思いはいつでも側にあった。だが俺は妻を愛している。君が生まれてくるような時代に出会った人だ。君を知りえることはなかった。だから、もしもそちらの世界で俺と出会い、運命を感じることがあればそのまま受け入れて欲しいと思ったんだ。」

「そう、でしたか。」

「すまないね、全て俺の思うがままに事を起こしてしまった。だが後悔はしていないよ。あの時はあれが最善策だった。ところでこちらの子どものイルカの事なんだが、」

「あの、そのことですが。できればそちらで育ててもらってくれませんか?俺は幼い頃、両親を知らずに育って随分悲しい思いをしてきました。都合の良い話しですが、カカシさんに育ててもらえば、知らなくていい悲しみを知らずに生きていけるのではないかと。」

「そうだね、随分と都合のいい話しだ。我が儘と言ってもいいかもしれない。」

「すみません。」

「でも、俺はその我が儘を聞こうと思う。それがせめてもの俺の償いだよ。あなたを幸せに出来なかった俺の。」

「カカシさん、」

「なんてね、それ程立派な名目があるわけじゃない。本当は妻の方があの子を離したがらなくてね。」

「え?」

「子どもができなかった分、幼子の君が来てから浮かれっぱなしで、あれでは返すなんて言えば俺は殺されかねない勢いなんだよ。」

「あんなに優しげな奥方が、そこまで執着しているのですか。」

「はは、あの人は元々強気な人だよ。ただ、子どもの産めない身体になってから気鬱気味ではあったけど、それももう見られない。今ではいたずらをするあの子を叱りつけたり甘やかしたり、毎日が忙しい。それにしても声に何の不透明さもない。完璧に治っているんだね。そちらの医学はかなり進歩しているようだ。」

  

そして会話が繋がっていくというものでした。
っていうかまあ、どちらにしろパラレルなんで説明も何もないんすけどね。