−その訳は−
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「本当にいいのか?」 アスマは目の前の男に最終通告をした。だが、ここまできた以上、この男は行くだろう。まったくめんどくせえ。 新たに里の者が4名、里抜けをした。先日アカデミーを襲った抜け忍に関わりのある者たちばかりだった。 「お前、追い忍なんだぞ?任務の中でも確実に後味の悪くなる任務だ。それにアカデミーの生徒はどうすんだ?」 「アカデミーの方は同僚にまかせます。それに、実はこの任務は俺、志願して参加させてもらってるんです。」 アスマは眩暈がした。志願!志願だって!!つい一ヶ月前にもそんなこと言ってた写輪眼野郎がいたことを思い出した。こいつらもしかして似たもの同士なのか? 「なんで急にそんなこと志願すんだよ。」 そんなことを言いつつも、アスマはなんとなく解っていた。 「カカシ、か?」 途端、今まで薄く笑っていたイルカの顔が強ばった。 「あれはお前のせいじゃねえよ。責任を感じる必要はねえ。」 「いえ、責任とかそういう問題じゃないんです。」 「ならどういう、」 イルカは笑みを浮かべた。その笑みにアスマはため息を吐いた。 「解った。だが任務は任務だ。くれぐれも私情ははさむなよ。」 「はい。」 イルカはアスマの顔を見ずに返事をした。 そして討伐隊が出発して数日。 「力量は弟のセンジが中忍クラス、母親のコザメも中忍クラスだな。リュウサは上忍クラスだがもしかしたら暗部クラスかもしれん。ナタネは知っての通り上忍クラスだ。今から班構成を変える。センジ追跡班は上忍1名に中忍3名、コザメ追跡班も上忍1名に中忍3名だ。リュウサは上忍3名に中忍1名、そしてナタネも上忍3名に中忍1名だ。これで行く。特にリュウサについては力量がいささか不鮮明だ、俺が入る。以上だ。」 アスマの班にいたイルカはアスマをじっと見つめている。アスマはその視線を無視したい気持ちに駆られたが、そんなわけにもいかず、ため息を吐きながらも言った。 「それと、リュウサ追跡班の中忍は海野中忍に決定だ。おらおら、お前らさっさとどの班に行くか決めろ、時間ねえぞっ。」 だから私情は挟むなと言ったのに、とアスマはげんなりとしたが、強引に置いてこなかった自分も悪い。 「あら、海野さんじゃない。お久しぶりですね。」 追跡班の中にイルカを見つけると、途端にリュウサは親しげに話し出した。 「あの男はもうくたばりました?実はあのクナイ全てに毒が塗り込んであったんでどんな風に苦しんで死んでいったのかいささか興味があって。教えてくださらない?」 リュウサはそう言ってけらけらと笑った。 「さあさ、やりましょう。ずっと逃げていたばかりだったから飽きていた所だったんです。子どもの拉致も失敗しちゃったし、あなたたちを思う存分に殺したって罰は当たらないわよね?」 リュウサはそう言ってクナイを手に持った。 「随分とおしゃべりだな、どっちにしろお前は今からお仕置きだ。」 アスマは愛用のアイアンナックルを手にした。他の木の葉の忍びたちも戦闘態勢に入る。 「なんで中忍なんか連れてきたんです?足手まといなだけなのに、私も見くびられたものですね。」 イルカの様子を見て満足そうに言ったリュウサはアスマに向かって切りかかっていく。 「殺すのはいつでもできるので今はあなた一人に絞ります。」 わざわざ解説してくれる嫌味な相手にアスマは不敵に笑った。 「けっ、お前はなあ、甘すぎんだよ。」 「そうですか?そんなこと敵に言われたの初めてです。さて、どうやって殺しましょう?あの写輪眼と同じようにクナイで針山のように突き刺してあげればいいですか?」 舌なめずりをして笑うくの一に、アスマは鼻で笑って応えた。 「その必要はなあ、ねえんだよ。」 クナイを振り上げたリュウサの背中にドスっと何かが刺さった。 「ばか、な、あの毒で倒れぬ者など、」 「ここにいるでしょう。」 イルカは持っていたクナイをなおも投げ続ける。 「これでも教師です。的を外すことはしません。」 「そいつは結構だなあ、」 アスマが言うとイルカはクナイをまた投げ続ける。 「もういいだろう、死んでる。」 拘束していたアスマが言うのだ、死んだのだろう。 「随分と残酷なことするんだな、イルカ先生。」 気を失っている木の葉の仲間を起こしていくアスマに、手にも取っていたクナイをしまっていたイルカは肯定するでも否定するでもなく、微笑んだ。 「少し、カカシ先生の気持ちが分かりましたから。」 起きていく木の葉の上忍たちに拳骨をお見舞いしながらもアスマはもう一つ気になっていたことを聞いた。 「イルカは元々毒の効かない身体なのか?」 「実は五代目に解毒薬を作ってもらっていたんです。時間がなくて1つしか作れなかったと言って俺に託してくれました。中忍の俺なら油断もするだろうし、伏兵として役に立つだろうと。」 五代目かよっ。アスマは脱力した。ま、でもそのおかげで助かったわけだ。 「まてまてまて、隊長に隠れてどこ行くんだ?」 暗闇の中、まったく気配のしなかった木の裏側からの声にイルカは動きを止めた。 「トイレに、」 木の裏側から声の主がひょっこりと出てきた。空は曇っていて月明かりも届かずよくは見えないが、アスマに違いなかった。 「トイレか、荷物背負ってか?」 イルカの背中にはしっかりと荷物があり、どう見たところで今から出発する姿だった。 「おいおい、そんなんじゃアカデミーの生徒に笑われるぜ。」 言われてイルカは俯いてしまった。 「まあ、気持ちも解るが、あと2.3日もすりゃあ里に帰れんだ。少しは我慢しろよ。」 イルカはばっ、と顔を上げた。 「その間にカカシ先生が万が一にも死んでしまったらどうするんですか?俺は、助けられるだけ助けてもらって、一度だって感謝の気持ちも、何も伝えていないのにっ。」 アスマはぽりぽりと頭を掻いた。 「これは、黙っておこうかと思ったんだが、」 今度はアスマが口をもごもごとさせて言い淀んでいる。だがため息を吐くと諦めた口調で言った。 「さっき五代目から式がきた。討伐が成功した旨を知らせるために式を送って、その返事だったんだが、」 アスマは一旦言葉を切った。五代目、という言葉にイルカの身体が強ばったのが解った。 「目ぇ、覚ましたってよ。」 イルカは脱力してその場にへたり込んでしまった。 「まったく、めんどくせえ奴らだぜ。」 里に帰ってイルカは荷物も置かずにカカシのいる病院へと向かった。 「あの、身体の方は、」 「ええ、外傷がひどいとばかり思っていたら毒の方がやばかったらしいですね。まさか全てのクナイに毒が仕込んであるとは思いもしませんでしたよ。それよりもイルカ先生の方こそ任務お疲れ様でした。五代目からアスマの式の報告を聞きましたよ、あの女をあなたが倒したんですってね。聞けば暗部クラスのくの一だったとか。イルカ先生も無茶というか、命知らずと言うか、」 イルカは微笑んだ。 「恋は人を狂わせるそうですから。」 カカシは目を見開いた。額宛てをしていないために両目が見えている。イルカにその色違いの目をまっすぐに向けている。 「人のことをどうだとか言う資格、俺にはなかった。」 カカシはなんのことかと首を傾げた。 「俺はカカシ先生よりもむごい方法で殺したんです。人としての尊厳だとか、苦しめないようにだとか、そんなのきれい事でしかなかった。俺はあの女にクナイを突き刺していた間、ひどく満ち足りていました。これでカカシ先生の痛みが少しは理解できただろう?と。クナイで身体が見えなくなるまで突き刺して、アスマ先生に制止の言葉をかけられて、やっと俺は自分を止めることが出来ました。」 イルカはそっとカカシの手を取った。 「あなたの気持ちが、少し解りました。」 カカシはイルカの手をつかみ返すとそのまま自分の口に寄せた。口当てもしていないので、カカシの口の感触が直にイルカの手に伝わった。 「じゃあ、俺が今から言う言葉も、否定しないでくださいね。」 カカシの言葉にイルカは頷く。 「俺のために殺してくれてありかどうごさいました。この手で殺してくれたんでしょう?俺を思って。嬉しいです。」 イルカは慈しみを込めた眼差しでカカシを見ている。教師である自分は、人として道徳を教える立場の自分だったならば、こんな時、カカシの言葉に嫌悪を示したであろう。だが、今、この時の自分は確かに満足していた。カカシの言葉に素直に微笑むことができた。 「あなたが好きですから、当然です。」 言ったイルカにカカシは笑みを浮かべて目を細めた。そしてイルカの胸にそっと手を置いた。 「手に入れた。」 「なにをですか?」 「欲しいと思った人の心です。覚悟してください。人の心が本気で欲しいなんて思ったのはあなたが初めてなんですから。」 「それは光栄ですね。俺も随分と嫉妬深い人間なんですよ。」 「そうなんですか、イルカ先生はなんでも許してくれそうな人間かと勝手に想像してましたよ。」 「とんでもない。俺はそんな聖人君子じゃないですよ。人も殺すし、嫉妬もします。まずは、今度からおしろいの匂いがしたら許しませんから。」 あの時の事を覚えていたらしい。アンコの言うとおりだったな、浮気をした夫に詰め寄る妻のような。 カカシはくすりと笑った。 「女なんか抱いてませんよ。イルカ先生は抜け忍討伐隊の一員になりましたから話しますが、色街に通っていたのは任務のためです。抜け忍の情報収集をするためでした。なんだったらアスマに聞いてもらってもいいですよ?指示したのはアスマですから。」 イルカは聞いた途端、顔を真っ赤にした。そんなこと、考えもしなかった。任務のためだったなどと。 「はは、誤解がこれで一つ解けましたね。」 カカシはしてやったりと笑っている。イルカは苦笑してカカシに軽くキスをした。 突然のことに少し呆然としていたカカシに、 「これでチャラですよ。」 とイルカが言えば、カカシは満足そうに見上げてにやりと笑った。 「いいでしょう、許します。」 おわり |
お互いに敵討ちしてます話になりました。
カカシ先生微妙に壊れてますが改めて読んでみたら結構まともだったことに気が付きました。
なかなか狂気めいた話しは難しいですね〜。