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9月15日 今日は誕生日です、俺のね。別に感慨深いものがあるわけじゃないけど、やっぱりそれはそれ、イベントってのは大切でしょ。 海野イルカ。俺この人が好きなんだよねぇ、どこがいいっていうのはちょっと口では形容しがたいんだけどさ、 イルカ先生は花壇の整備をしていた。うーん、一生懸命雑用している姿もお素敵です、輝いてるよ、星が飛んでるよ。 「イルカせーんせっ、」 俺はイルカ先生の真後ろに立った。イルカ先生はこちらに見向きもしないでせっせと花壇の雑草を抜いている。 「イルカ先生、あの、」 「なんですか?ちょっと今忙しいんですよ。用があるなら手短にお願いします。」 顔をちょっとだけこちらに向けたけれども、作業を中断することなく邪険に聞いてくる。 「今日、俺の誕生日なんですよ。」 「はぁ、」 「ぶっちゃけなんか下さいよ。言葉だけでもなんでもいいです。ね、イルカせんせっ。」 イルカ先生はふぅ、とため息を吐いて立ち上がると、こちらに振り返って、手に持っていた花を差し出した。 「これあげます。」 イルカ先生は3本の花を差し出した。その花は花びらも芯も見事なほどに、まっ茶色だった。 「えっと、これは、」 「いらないんなら捨てます。」 「いえいえいえいえいえ、とんっでもない。ありがとうございます〜。うれしいなぁ。」 なんだか寄せ集めであまりプレゼントって感じのしないプレゼントだけど、でもイルカ先生がくれたんだもの、大切にしよう。 「えっと、イルカ先生は今日の予定とかは、」 「今日はずっとアカデミーにいます。午後からは受付です。時間が空くのは夜の11時過ぎです。」 あちゃあ、そっか。今日は一日ずっとお仕事なのかあ。二人っきりでお祝い、なんてできないよね、やっぱ。 「えっと、それじゃあお仕事がんばってくださいね。あの、お花ありがとうございました。」 俺はそう言って立ち去った。イルカ先生、やっぱり俺の誕生日、忘れてたのかなあ。 実は、イルカ先生とはまだ恋人とかそういう関係じゃない。俺が一方的に好きです、好きですって毎日言ってるだけ。 「それにしても見事な茶色だねえ。雑草なのかな、まあ、雑草だから花壇から引っこ抜いたんだと思うけど。」 そういえばイルカ先生の整備していた花壇には色とりどりのコスモスが咲いていたな。
今日はもう任務も終わったし、特別な任務も入ってないし、後は家に帰るだけなのだが、 イルカ先生、俺のことどう思ってるのかなあ。やっぱりうざい奴、とか思ってるのかなあ。 はぁ、とため息をついていると、土手の道沿いに誰かがやってくるのが見えてきた。 「カカシ先生、なにやってるんですか、こんなところで。お昼寝?」 いのが聞いてきた。お昼寝って、もう夕方に近いのに昼寝もなにも、なあ。 「ちょーっと考え事。お前らは買い物でもしてきたわけ?」 二人の手には買い物袋が提げてあった。 「そ、今日は珍しく任務が早く終わったもんだからいのと買い物してたのよ。」 サクラがにこにこと笑って言った。うっ、何か棘を含んだ言い方だな、おい。 「あら、カカシ先生、花なんか持っちゃって、誰かにあげるの?」 花屋だけあっていのがさっそく俺の持っていた花を指差した。目聡いねえ。 「ちがーうよ。これは貰ったの、大切な人からね。」 二人は顔を見合わせてきょとんとしている。なによ、俺にだって惚れてる人はいるのよ。その態度はないんじゃない? 「やっぱりねえ、これってチョコレートコスモスだわ。」 聞いたことのない名前だった。そんな名前の花があるのか? 「え、色が茶色だからチョコレートコスモスなの?」 サクラが思ったままを言ったが、いのはバカにしたようにふふん、と言って腰に手を当てた。 「この花はね、見た目の茶色もさることながら、なんと言っても香りがチョコレートなのよ。」 えっ、嘘っ、とサクラはいのの持っていた花をぶんどってくんくんと鼻を近づけた。 「ほんとだ、チョコレートみたいな甘いにおいがする。どっちかって言うとバニラみたいな感じかな。」 俺はあわてて自分の持っていた花の香りを嗅いだ。確かにチョコレートみたいな香りがする。 「でもおかしいわね、この花って木の葉の里じゃあんまり見かけない花なのよね、最近の卸市場でも見たことがないし。」 「いのは花の卸市場にも行ってるのか?」 「ええ、父さんは任務でいない場合が多いし、朝稽古の帰りに寄るついでにね。だから今、木の葉の里にある花は大体把握してるのよ。」 いのは自慢げに言った。店屋の子どもなだけはあるってことか。 「木の葉の里って結構派手好きだから花も原色系がよく売れるのよ。 「ふーん、それじゃあカカシ先生の自称大切な人はこの花を育ててたってこと?」 サクラがやっぱり少し棘のある言葉で言ったが、俺は否定した。 「いやー、自称大切な人はねえ、雑草除去の時に引っこ抜いたその花をくれたまでだよ。」 棘には棘を、と返したもののサクラにはあまり有効ではなかったらしく、返って自分で言った言葉に落ち込んだ。 「それはおかしいわ。さっきも言ったように、愛好家の間だけで栽培されているような品種だから適当に生えてくるようなものじゃないし、 いのが力説する。花屋の子どもだけあって、花のことには自信があるらしい。いのがここまで言うのならばいのの言うとおりなのだろう。 「悪いけど用事思い出したから、俺は行くよ。お前らも日が暮れる前に帰れよー。」 俺はそう言って足早に目的地へと向かった。
夜も更けて11時を過ぎた頃、イルカは肩をこきこき言わせながら自宅へと向かっていた。 そこにはカカシがいた。 「なんですかこんな夜更けに。」 イルカは少々驚いたものの、こういったことはもう日常茶飯事となっていたので、すぐに落ち着きを取り戻した。 「あの、今日なんですけど、花、ありがとうございました。」 「え、ああ、別に。それで何ですか?」 花の礼は渡したその場でもらっていたし、今更また言いに来たとは思えない。 「茶でも飲んでいきますか?」 聞くとカカシはしっぽがあれば間違いなく振り回しているだろうと思わせるほどはしゃいで飲みますっ!!と元気よく答えた。 「あの、今日もらった花、」 「雑草で悪かったですね。だってあんたなんでもいいって言うから。」 カカシはだが嬉しそうに笑っている。なんだよその顔は。 「あれ、雑草じゃないんでしょ。チョコレートコスモスって言うんだって聞きました。」 ぶっ 俺は飲んでいた茶を吹き出した。 「ばれてしまったものは仕方ありません。そうですよ、その花は俺が育てたものです。 顔は赤くなっていないだろうか。 「俺、図書館でずっと調べてたんです。チョコレートコスモスの育て方とか種を蒔く時期だとか。 「そんなの幾通りか種蒔く時期をずらせば手間なんてかかりませんよ。あんたは大袈裟すぎます。」 「でも、俺、嬉しいんですよ。バレンタインの時のことちゃんと覚えていてくれて、俺の誕生日も覚えてくれていて。 この男は、どうしてここまで恥ずかしげもなく言えるのか、一度どんな頭の中身なのか見てやりたい。 「あの、イルカ先生、ありがとうございます。俺、本当に生まれてきてよかった。生きててよかった。ほんとに嬉しい、嬉しいです。」 ちょっ、ちょっと、なにこの人っ、泣き入ってきてるんですけど!? 「ああ、もう、降参ですよ、降参しますから泣きやんで下さいよ。俺がいじめてるみたいじゃないですか。」 泣きながらカカシ先生はにぱあっ、と笑った。 「俺ね、色々考えてたんです。」 「何をですか?」 もうどうにでもなれと開き直り、俺は戸棚から菓子入れに入ったせんべいを取り出してばりばりと頬張った。 「イルカ先生が今日、自分の家から育てたコスモスを持ってきて、 だからその嬉しそうな顔をなんとかしろ、と言いたい気持ちを押し止めて別の言葉を紡ぐ。 「これでも中忍です。一個小隊を束ねるだけの頭は持っていないとまずいでしょう。 俺はすっかりぬるくなってしまった茶をすすった。 最初は散々追いかけ回されて、マジ切れしたことだって数え切れなくて、 俺はため息を吐いた。 「あ、あの、すみません、もう遅いですね、俺、退散した方がいいです、ね。」 寂しげに言うカカシ先生に俺はぷっと笑った。 「カカシ先生、お誕生日おめでとうございます。俺、あんたのことが好きですよ。」 その時のカカシ先生の顔は、しばらく忘れられそうにない。 先ほどからまた泣き笑いを始めてしまったカカシ先生を横目に見つつ、俺は極上の笑みを浮かべた。
終 |
後書き
わーい、カカイルで初めての話しがバースデーです。これでも結構必死でしたが意地で書き上げました。
ちゃんとチョコレートコスモスって実在するんですよ!?ローカルなラジオ番組で聞いたのが元ネタです...。
しかし会社の休憩時間にちょこちょこ書いたので真後ろに人が通るたびに冷や冷やしてました!!(仕事しろよ!)
しかし9月15日に間に合ってよかった(汗
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