『笑って話そうよ』 |
| −T− 中庭に咲く花の種類も増え、暑くなってきた季節の眩しさに目を細める。小さく咲く花たちが好きだ。眺めていると和やかな気持ちになる。 でも、私は夏が嫌いだ。何もかもが大きく見え主張しているように見える。その堂々たる自然の驚異。夏の海も背高のっぽの向日葵も私は嫌いだった。 いつものように四角い箱の中にいることが嫌いな私は、中庭に出て雑草に絡まりながら咲いている小さな花を眺めていた。 「圭ちゃん」 声を掛けられた先を見ると、クラスの岸本千夏がいた。 「なに?」 彼女とは小学校が一緒だった・・・らしい。覚えていなかった。たまたま、同じクラスになり何の『よしみ』か声を掛けられるようになった。 「期末終わったらさ・・・ちょっと付き合ってよ?」 「ん?何すんの?」 「夏休みも部活やるんでしょ?」 「そのつもりだけど?」 「ん・・・たまにさぁ〜部活覗きに行くから終わったら遊ぼうよ?」 細面の顔立ちに髪は短め、全体的にボーイッシュなイメージを持つ彼女が伺うように私に聞いて来た。 「別に良いけど・・・時間は約束出来ないかもよ?」 「うんうん・・・それで良いよ。番号教えてくれる?」 「あぁ・・・悪いけど持って無いんだ。家に掛けてよ?」 嘘だった。携帯なんてホントは持ちたくないけどぺーやんに無理に持たされてしまった。家族の分しか登録されてない。他を登録する予定もない。 「わかった。そうするよ・・・」 「ごめんね・・・」何と無く謝ってしまった。 午後になると窓から涼しい風が時折、私の髪を揺らした。お腹も一杯になり理解不能の英語の授業。眠たくなっても不思議はナイでしょ?瞼が段々重くなる。 頭の中には、小さな小花が咲いていた。 「ん?」 背中をツンツン突っつかれた。振り返ると、後ろの横田さんが唇に人差し指を当て、‘シッ〜’として見せ小さな白い紙を渡してきた。 頷いて受け取り静かに前を向いた。 『おまえ今、マジに寝てただろ?鼾が聞こえたぜ!ケ・ケ・ケ 木原』 まぁ〜〜〜たくぅ!何送ってきたかと思えば・・・ヒマこいてやんの! 木原の方に顔を向けると、コッチを見て笑ってた。『バァ〜カ』唇を動かして見せた。 放課後、帰り支度をして部活に行こうと真佐子と一緒に体育館に向かっていた時、高杉に声を掛けられた。 「ちょっとイイ?」と言って真佐子の方をチラッと見た。 「じゃぁ先に着替えてるね?」と真佐子が言って更衣室に向かった。 「なに?」 「うん。今日は一緒に帰れるかな?話したい事があるんだ。」 「話?今から部活行かなくちゃならないから遅くなるよ?」 「別にイイよ。僕も部があるから・・・」 「そう?じゃぁ・・・玄関で待ち合わす?」 「いや・・・校門のトコで待ってるよ」 「ほじゃ・・・校門のトコでね。」 何だろう?話って・・・首を傾げながら更衣室に向かった。 男子ハンド部は部員も多く試合体験も多かったが準決勝止まりで、いつも涙を呑んでいた。 それに比べ、女子部は出来たばかりだった。12〜15人のチーム構成が普通で、キーパーを入れて7人で試合をするのだが、3年が4人・1年が3人しかいない。女子部は全員がレギュラーと言う事になる。 6月の総体に向けて対外試合と男子部との練習試合に明け暮れていた。 そんな時、試合を目の前にして女子部の一人がケガをして試合に出れなくなった。このままでは、中総体に出場出来ない。後一人いれば試合に出れる・・・そんな時に私に白羽の矢が当たった。 ルールもクソもない。取り合えずバスケのルールと似てるから心配無いと言われ、いきなりシュート練習と速攻の仕方だけを重点に教えられた。『とにかくシュートをしてくれ』そう言われた。 そんな女子部が中総体で準優勝してしまったのだ。予想外の出来事に大騒ぎだった。次は8月の県体優勝だ!と練習に力の入る毎日だ。お陰で部員が増えた・・・と言っても2人だけど・・・ 今日も、めちゃくちゃしごかれた。もう、クタクタの汗ダラダラ状態。 男子との合同練習は、流石にキツイ。男子も女子に負けるなと練習にも気合が入ってる。 『遅くなっちゃった・・・』鞄を取りに教室に行くと木原と姫が話しをしていた。 私に気付いた木原がコッチを向いた。 「天野 もう、帰るのか?」 姫もコッチを向いて笑顔になった。 「帰るよぉ〜」 「じゃぁ 一緒に帰ろうぜ」 「あっ 高杉が待ってるから・・・先に帰るワ・・・」 返事も待たずに、そう言って鞄を持つと「お先にぃ〜」と言って教室を出て、校門まで急いで走った。 そんな天野の後ろ姿を奥歯を噛締め見つめている木原がいた。 そんな横顔を哀しそうに見つめている羽田がいた。わずかな時間だったけど二人の視線は合う事がなかった。 そして・・・天野の視線の先には、今・・・ 高杉がいた。 「ごめんね。遅くなって・・・待ったぁ?」 「僕も今さっき来たばかりだよ」 「マクドでも行く?」 「うん。イイよ お腹空いちゃったし・・・」そう言って二人で歩き出した。 「総体で準優勝なんて凄いね。天野さんはバレー部じゃなかったっけ?」 「バレー部だったんだけどレギュラー候補から落ちちゃって、添田さんに誘われたの」 「添田さん?」 「そう。3年のお姉さんがキャプテンなのよ。部員全員がレギュラーの部なんてないんじゃナイ?」 「ないねぇ〜そう言う部は・・・1年で試合に出る人は少ないよね」 「そう言えばさ・・・小学校の時の佐伯先生って結婚したんだって・・・知ってたぁ?」 「あぁ・・・天野さんも知ってたんだ。僕も知ってたよ」 そんな話をしながら歩いた。入学してからお互いに話すコトなんてなかったのに、話していて違和感はなかった。 まるでいつも話していたような・・・そんな感じだった。 ファーストフードのお店に入ってからも色々な事を話した。同じ小学校を卒業していると言う共通点からか久しぶりに想い出話に花が咲いて尽きる事は無かった。 「そろそろ 出ようか?」 「そうだね・・・遅くなっちゃったね。久しぶりに話せて楽しかったよ」 「ホントに、僕も楽しかったよ」 二人して微笑み合った。 外に出ると街の店先に看板の明かりが灯っていた。辺りが深い藍色に染まり、明かりの周りがほんのり薄い藍色にぼやけていて優しい明かりが包んでいた・・・夏の涼しさを瞳に感じる。 高杉が遅くなったからと近くまで送ってくれた。同じ校下の高杉とは家もワリと近い。 十字路に差し掛かり、高杉が立ち止まって私の顔を見た。 「ホントは、もう話もしてくれないんじゃないかって思ってたんだ」 「なんで?そんなコトないよ?」 「今更って思うかもしれないけど、天野さんに迷惑かけちゃったでしょ?だから・・・嫌われてると思ってたんだ。だから、迷惑掛けたことを謝りたくてね・・・ごめんよ?」 ちょっと俯いて申し訳無さそうに高杉が言った。なんだ・・・そんな事気にしてたんだ・・・笑みが洩れる。 生徒同士の交流を計るコトが目的で行われた、クラスごとのリクレーション会。その時、ゲームに負けた高杉が、『どんな質問にも答える』と言うバツゲームに、クラスの一人から『1−8の天野さんのコトが好きですか?』と質問されてしまったのだ。 その時の答えが『YES』だったコトで私は渦中の人となったワケだった。 「あぁ 驚いちゃったよ。それもバツゲームだったりしてね?」と言って高杉に微笑んだ。 「え?」 「だから・・・高杉って優しいから嵌められたんだよ。仕方なく言ったんでしょ?」 大体、そんな質問が出たコトが不思議だった。高杉とは、入学してクラスが別々になって殆ど話をしていなかったし、一緒にいた事もなかったのに・・・。 高杉は、目を見開いて驚いたように私を見た。 「そんな風に思ってたのか・・・」 俯いて消え入るような小さな声で呟くように言った。そして、私の方にゆっくり顔を上げると真剣そうな顔つきになった。 「違うよ。天野さんのコト好きですか?って聞かれた時に、どうとでも言い逃れは出来たんだ。だけど自分に嘘を付きたくなかったんだ。それに、クラスの皆がいる前で話した事は、どっちにしろ噂になるだろ?だったら好きなのに嫌いだと思われてるんだと君に思われたくなかったんだよ」 ん?なんか随分ややこしい言い方だな・・・あんだって? 「はぁ・・・?良くわかんないんだけど・・・」 「僕は天野さんのコトがホントに好きなんだ・・・」 私の顔をジッと見てる。目の淵がほんのりピンク色に染まってる。恥かしそうに俯いて、高杉の耳までが赤く染まってしまった。なぁ〜んだそうだったのかぁ〜〜って・・・ オイオイヾ 「・・・・・・・・・」 ありゃま・・・どうすりゃいいのさ・・・なんて言えばイイのさ・・・ トホホ 「やっぱ迷惑かな?結構噂が広まっちゃって教室から出るたびに天野さんのトコに行くのか?ってからかわれて・・・でも、ちゃんと僕の気持ちを伝えたくって・・・ 噂話が落ち着くのを待っていたんだ。また迷惑掛けたくなかったし・・・」 「・・・・・・・・・」 あ・いや・・・ えっ? うぅぅ・・・・ 声にならない・・・ (はぁ〜情けない) 「僕と付き合ってくれないかな?」 うっ・・・コノ展開はなんだ?そうなのか?私のコト好きになってくれる人なんかいたんだ・・・ 驚いた反面、モノ好きなヤツだなとチラッと思った。 付き合うって・・・どうすることなのかな?良くわかんないなぁ・・・今だって付き合ってるじゃん? こう言うコトじゃないんだよな・・・きっと・・・ 「僕の事・・・好き?」伺うように首を傾げて言う。 え゛え゛・・・・・・! 「わ・わかんない・・よ・・・」 「・・・ ・・・」 「・・・ ・・・」 「じゃぁ・・・嫌い?」 うっ!そんな聞き方するなよ・・・そりゃぁ〜嫌いじゃないさ・ないけど・・・気持ちなんか解かんないよぉ〜。 「うっ き・嫌いじゃ・・ナイ・・・と・思う・・けど・・・」 高杉は、私を見て微笑んだ。私を見てるその瞳が余りにも優しそうで、心の中が少し温かくなった気がした。 「うん。それでイイよ?取り合えず・・・今度の日曜日にアイスクリームでも食べに行かない?美味しいお店見つけたんだ。どう?一緒に行ってくれる?」 話が変わってホッとした。いや・・・変わってはいないんだけどね・・・美味しいアイスクリーム?コレは見逃せない。ただ、そう思ったのだ・・・ 「日曜日?あっ 午前中は、部の練習があるんだ。試験始まると練習出来ないから・・・」 「じゃぁ 部が、終わってからなら大丈夫?」 「ん・・・多分大丈夫だと思うよ?」 そう言うと、嬉しそうに頷いた高杉が、とっても可愛く見えた。私って単純かな?でも、今日は楽しかったし・・・高杉も楽しそうだった・・・嫌いか?って言われたらやっぱ頷けないだろ?例え単純な気持ちであっても・・・高杉と楽しい時間をまた、過ごしてみたい。そう・・・思ったんだから・・・ 夏休みに入り、私は相変わらず部活に励んでいた。高杉はバトミントン部。体育館の使用には室内競技の他の部との兼ね合いもアリ、日程が割り当てられていた。お互いの部活のある日は待ち合わせ、公園に行ったり、話をしたりしてたまに会っていた。たまに姫から電話もあったりして木原達と図書館に行ったり映画に行ったりと、私は結構忙しい毎日を過ごしていた。 目次に戻る −U− まだ半分夢の中の世界。カーテンの隙間から射す朝の光に微睡みながら、高杉の事を頭の隅で考えていた。 私にとっては思ってもいなかった出来事が起きてから何度も高杉とは会っているんだよなぁ〜。 やっぱ『付き合ってる』ってコトになるのだろうか?自分の中で高杉への思いが何なのか今も良くわからない・・・ どうして『私』だったのだろう?そんな事を何と無く聞いてみた事があった。 高杉は、ちょっと照れたように『誰から貰うチョコよりも嬉しくて、美味しかったんだよ』その言葉に何も言えなくなってしまった。何度も繰り返し呟いてみる。照れくさくて恥かしくて頬が熱くなる。 心から嬉しさが溢れてくるような・・・ 別に特別なチョコではなかったはずだ。ハートの形をしていたワケでもないし、綺麗にラッピングされていたワケでもないし、お洒落なお店で買ったワケでもない。手作りチョコを渡している女の子達に比べれば私の上げたチョコなんて・・・ 何処のスーパーでも安売りしてるようなチョコだった。あのチョコを選んだのだって単に、少ない量より自分なら沢山入っている方が嬉しいと思って選んだだけだったのに・・・ 高杉は美味しかったと、嬉しかったって思ってくれたのだ。 バレンタインデーが繰る度に頭の隅を掠めた高杉の存在とチョコの行くヘ・・・ 気になってなかったと言えば嘘になる。 だって・・・高杉は私に何も言わなかった。『ありがとう』の言葉もなかったのだ。 高杉は、いつもと変わらない態度で接してくれていた・・・ まるでチョコの事が無かったかのように・・・ だから私は・・・ そうか?そうだったのか?変わらなかったか? 次々と思い浮かぶ想い出の中に高杉がいた事に今更乍に驚いた。 そうだ・・・そもそも何で高杉にチョコを上げたのかな?根本的なことに今、気が付いた私だった。 思わず目が覚めた。上半身を起き上がらせ布団を掴んだまま呆然としている自分に驚いた。 そんな時、下のリビングの電話が鳴った。下からゆきさんの声がする・・・ 「圭ちゃぁ〜ん 電話よぉ〜」その声に飛び起きて下に向かう。 「もしもし?」もしかして高杉!? 「おはよう〜圭ちゃん」 千夏から電話だった。そんなワケないっか?ホッとしたようなガッカリしたような・・・苦笑が洩れる。 「おはよう。どうしたの?」 「ああ・・・圭ちゃんってば今日の約束忘れてるでしょ?」 「ええ?・・・ ・・・」 「今日だよ?先輩達とボーリングに行くの・・・」 あぁ・・・ 今日だっけ?忘れてた。斧田先輩と嶋野先輩と一緒に行くんだった。 「ご・ごめん・・・ 今 思い出したぁ」 「やっぱりね・・・ もしかしたらと思って電話してみたんだぁ」 「10時だっけ?駅前だよね?」 「そそ・・・ 10時に駅前の小さな噴水がある所だよ。」 「わかった。ありがとう。先輩に嫌味の一つも言われるトコだったよ。イヤ・・・ 千夏の方が怖いか?」 ちょっとからかい半分おどけた口調で言ってみる。 「もぅ!圭はぁ・・・ 待ってるからね?遅れないでよ?」 ちょっと困った顔の千夏の顔が思い浮かぶ。 「うん。わかってるって・・・ ちゃんと行くからって言っても説得力ないかな?電話サンキュ。」 「うんうん。全くないよ?ホントに・・・ 電話してみて良かったよ。」 二人して笑い合う。 電話を切った後、キッチンに向かう。冷蔵庫から牛乳を出してグラスに入れていると、後ろからゆきさんが声を掛けてきた。 「ドコかに出掛けるの?」 「あぁ・・・ 友達と部の先輩とでボーリングだってさ・・・」 「あら 良いじゃない?楽しんでいらっしゃいね?お小遣い足りてる?」 ゆきさんは微笑みながら私に聞いてくれる。普段お小遣いもロクにおねだりした事の無い私にいつも気を使ってくれる。でも、そうそう欲しい物なんか無いし必要な物を買いたい時は、その都度貰っているワケだし・・・ 未だにお年玉が残っている・・・ と言うか使わないから減らないと言うべきか? 「うん。大丈夫だよ?9時半には出るからね?」 と小さく笑いを洩らしながら言う。 牛乳の入ったグラスを持って部屋に戻る。 そうなんだよ・・・ 『千夏は斧田先輩の事が好きなんだよなァ〜・・・』 呟いてみる。 今日、一緒にボーリングに行く二人の先輩の一人が、ハンド部男子のキャプテンで3年生の斧田武人先輩。 そして、もう一人の先輩は、斧田先輩の親友(悪友・・・ん?どっちが?(笑)の剣道部主将の嶋野裕樹先輩。 ナニが楽しくて、ナニが嬉しくて・・・ 千夏は、わざわざ人の部活に顔を出したがるのやら・・・ そんなに興味があれば入部しなよ?歓迎するよ。って話したことがあったが、彼女の興味は部活ではなかった。 そう・・・千夏は先輩目当てだったんだ。 私は良いようにパイプ役をやらされたワケだ。 それは・それで良いんだけどね・・・ なにも、保護者じゃ無いんだからさ・・・ いちいち私を誘うなよって思ってしまう。何で私が一緒に付いて行かなくっちゃならないんだ!ぶつくさぶつくさ心の中で言っては見るものの、断われない。千夏の言った言葉が心の中でせつなく回る。 『きっと 終わってしまう恋だから・・・』 千夏は、寂しげな笑みを浮かべて確かにそう言った。 終わってしまう?恋?・・・だから、側にいられるチャンスが欲しかったと・・・ 告白もしないと千夏は言った。そうなのだろうか? 人を好きになるのにそんな想いもあるのだろうか? 大急ぎで時計と睨めっこしながら仕度をして家を出た。 約束の場所に行くと皆もう来てた。まだ、10分前だぞ?早すぎだって・・・ と心の中で言いながら 「ごめんね・・・ 待たせちゃったかな?」 と言う。 「ううん。そんな事ないよ圭ちゃん」千夏が微笑んでくれる。 「また、寝なおしたんだろ?」 と斧田先輩がからかって来る。 「いや・・・ 僕たちが早すぎたんだよ。まだ10時前だよ?」 と嶋田先輩が言ってくれる。 「そぉ〜〜〜ですよねぇ?」 とワザと斧田先輩に背を向けて嶋野先輩に笑顔で答える。 斧田先輩が私の頭をポンポンと叩いて、「行くか」と言った。 皆でボーリング場に向かう。 ボーリング場に着くと結構賑わっていた。早速、ゲームを始める。ゲームは張り合いが無いとつまらない。千夏と斧田先輩・私と嶋野先輩でペアーを組んでゲームをする。私がストライクやスペアーを出せば、千夏から100円貰う。千夏が出すと私が千夏に100円渡す。先輩達も同じことをする。出された100円の中からジュースを買ったり、ゲーム後の支払いをする。最終ゲームのトータルで負けた方のチームが足りない分の資金を出す。 ・・・とこう言うルール・・・ ダシに使われているんだからやっぱ負けられないでしょ? 「先輩!絶対に勝つんだからね!」 気合充分に嶋野先輩に言う。 「そうだよね?絶対に勝たなくっちゃね?」 と微笑んでくれた。 ・・・結果。 もちろん私達の勝ち! “えっへん” 得意顔の私の笑みに、斧田先輩がめちゃくちゃ悔しがった。 結局ゲーム代の不足分は斧田先輩が払う事になった。(ふふふ・・・ もっと悔しがってくれ!) さて・・・ ドコでお茶するのかな?靴を履き替え椅子に座っていると、嶋野先輩が側に寄って来て・・・ 「天野さんは時間大丈夫なのかな?」と聞いて来た。 「大丈夫ですよ?ドコでお茶するんですか?まだ、お腹も空いてるしなぁ〜」 ゲームの合間に色々つまみ食いはしたもののやっぱり別腹。時計はもう1時を回っていたが満腹感はまだ無かった。 「ん・・・ だったら斧田達と別行動しない?それとも千夏ちゃんと一緒が良いかな?」 へぇっ! ん・・・? どう言うコトだ? ふむふむ・・・ まぁ考えるまでもないよね?これは千夏にとってチャンスかもしれないし・・・ 私は、先輩を見上げて頷いた。 「ドコに行くんですか?」 「そうだね・・・ 美味しいケーキでも食べに行こうか?」 「わかりました。じゃぁ・・・ 千夏に聞いてきますね?千夏の返事次第です。」 そう言って嶋野先輩の側を離れ、千夏を探した。千夏は洗面所で手を洗っていた。ボーリングの後は手が妙にべた付いてるから手を洗いたくなるんだよね?私も手を洗いながら・・・ 「千夏・・・ 私と嶋野先輩。千夏と斧田先輩で別行動しないか?って言ってきたんだけど良い?」 「えっ?」 驚いたように私の方に顔を向けた。 「あのね・・・ 千夏。私、思うんだけど・・・ 先輩に言ってごらんよ?もう夏休みも終わっちゃうし3年の先輩達は部活を引退しちゃうんだよ?千夏が言わないって言うならそれでも良いけど・・・ コレはチャンスだと私は思うんだけど、どう?どうしても千夏はイヤかな? ・・・千夏が決めて?」 千夏は俯いて考えてる。どうするかな? 「ん・・・ 自信ないな・・・ 圭がいないと何話して良いのかわかんないよ?」 小さく呟くように言う千夏。やっぱりダメか・・・そう言うモノなのかな? 「そう?先輩と二人っきりになってみても良いと思うよ?今の状態の方が不自然だよ。そうは思わない?千夏が自分の言葉で、自分の思いをそのまま話せば良いんだよ?先輩が卒業するまで私は付き合えないよ?」なるべく穏やかに話そうと思ったけどちょっとキツク言ってしまったかな? 千夏は尚も迷ってる・・・ これじゃ・・・ ダメか・・・ でも、迷ってるなら・・・ 「千夏。先輩達が首を長くして待ってるからもう行こうか?ね?」 千夏は頷いて私に背を押されて歩いていく。 先輩達はゲームコーナーでゲームをしていた。 熱くなって騒いでるヤカラは・・・ “ぷっ” 思わず吹き出しちゃう。 斧田先輩だった。 「せんぱぁ〜〜い。お待たせしましたぁ〜」私は元気良く声を掛けた。 「チビ介どもめ!遅いぞぉ!!」と斧田先輩が叫ぶ。 「嶋野先輩!さっきのコト、斧田先輩に言いましたか?」 ワザと聞く。 「ん? あぁ・・・ 言ったよ。」 なんだ・・・ もう、話してたんだ・・・ 「それで? 斧田先輩はそれで良いですか?」 「俺は、別に構わないよ?チビ介はそれで良いか?」 なぁ〜んだぁ 斧田先輩も了解済みなんじゃん。 「うん。私は良いよん・・・ 千夏がまだ返事してくれないんで・・・ 斧田先輩から言ってもらえます?」 私は、とびっきりの笑顔で言いのけた。千夏が私の方に顔を向けたのがわかったけど無視して嶋野先輩の側に寄る。 「千夏ちゃん。一緒に何か食べに行かないか?俺まだ腹減ってるんだけど付き合わない?」 先輩が優しく聞いてくれたので安心した。これで、千夏が“NO”と答えれば仕方ないよね・・・ どうする?千夏。 「はい。私もまだお腹空いてますから一緒に行きます」 そう言った。 私は安堵の息を吐いた。 「千夏・・・ 」 私が名前を呼ぶと千夏は笑顔で私に大きく頷いてくれた。良かった。 お節介を焼いたと思っていた。そこまでするコトが良かったのか悪かったのか自分では良くわからない。 でも・・・ しないではいられなかった。 目次に戻る −V− 私は、千夏達と別れて嶋野先輩のお気に入りの喫茶店に来ていた。 オムライスとパスタの美味しいお店で手作りケーキが自慢。 中に入ると、白と緑を基本にオレンジ色の小物が店を飾っていた。各テーブルの上には小さな一輪挿しに野の花が添えられていた。 嶋野先輩お薦めの“森のきのこのオムライス”を平らげ、二人で、紅茶のシフォンケーキを頬張っていた。口の中に入れるとケーキの優しい甘味と紅茶のほろ苦い香りが鼻をくすぐり口の中でふわっと溶けていく、一緒に飲むダージリン・ティーと良くマッチする。 「圭ちゃんて幸せそうな顔してケーキを食べるんだね?」 うっとりとケーキを楽しんでいた私に、先輩は笑いを抑えながら言った。 「だってホントに美味しいですよ?ココのシフォンケーキ。お土産に買って帰りたくなりましたよ?」 「そう言ってもらえると僕は嬉しいなぁ〜 圭ちゃんを連れて来た甲斐があったよ」 先輩は嬉しそうにそう言って、また一口ケーキを頬張った。先輩こそ美味しそうに食べてるクセに・・・ 先輩の方が子供みたいな顔してますよ? 「ねぇ 圭ちゃん。どうして別行動しても良いって思ったの?」 何気ない言葉で言った先輩のその一言で思わず咽てしまった。 「ゲホッゲホッ・・・ す・すみません・・・」 突然咳き込んでしまった私は、涙目で苦しいのを抑えながら謝った。 「大丈夫かい?お水飲んだら?」 先輩は心配そうにお水の入ったグラスを差し出してくれた。 「・・・ングッ・・・はぁ〜・・・もう、大丈夫です。す・すみません・・・」 理由?理由は・・・千夏のコトだけど・・・言えないよね?やっぱ・・・ それにさぁ〜 先輩が言い出したんじゃん? 「先輩こそどうしてですか?」 もしかして、千夏のコトに気が付いてたのかな?・・・ 「僕?実は・・・内緒にして欲しいんだけどケーキが大好きなんだよ。圭ちゃんがケーキ好きだって聞いてね?圭ちゃんをダシにココのケーキを食べたくなったんだよ。ほら・・・ 男の僕が甘いもの好きなんてカッコ悪いだろ?」 そう言って照れ臭そうに言って笑った。なぁ〜んだぁ・・・先輩って可愛い。そっか男の人がケーキ好きって言うのはカッコ悪いって思うんだ・・・ぺーやんも遊も奪い合って食べてるけどなぁ? 「ふふふ・・・そうだったんですか? 実は私もケーキに釣られたんですよ?」 コレも嘘では無い。私もケーキとアイスクリームが大好きだもん。『美味しい』と言われればついつい興味が湧くのだ。 「そう?じゃぁ・・・コレからケーキが食べたくなったら圭ちゃんのコト誘っても良いかな?男一人で入るのは勇気がいるんだよ。ダメかな? 斧田なんか付き合ってもくれないんだ・・・ 冷たいヤツだろ?」 首を傾げて上目遣いで私のコトを見ている先輩は、まるで悪戯っ子のような表情だった。なるほど・・・ それで別行動になったのか・・・ 全くっ斧田先輩って・・・ まぁ 『らしい』かな? 「良いですよ。美味しいケーキ屋さんを食べ歩きましょうよ?楽しみですねぇ〜」 時間を忘れて色々な話をして楽しんだ。私はさっき食べた紅茶のシフォンケーキとオレンジケーキをお土産に買って先輩と店を後にした。 私は、高杉のコトが好きなのだと思う。チョコを渡したあの頃。自覚は無かったけど私は高杉と共に過ごした日々が良い思い出として心に残っているコトを知った。そして、『付き合ってくれないか?』と言われた時に全然イヤじゃなかったし、高杉と話したい、楽しく過ごすコトが出来たら嬉しいと思ったんだ。今まで話した中で高杉のように感じた人っていただろうか?初めて私を女の子として見てくれたのが高杉ではないだろうか?優しい言葉に素直に甘えられる事が出来たのは、高杉を好きだったからかもしれない。でも・・・そうなのかな?私は千夏のように誰かに『好き』と言えないでいる自分を知っている。 人を好きになる想いがずっと変わらずにいるコトなんて無いんだ。形有る物は、いつか色褪せ、姿を変えて壊れてしまう。どんなに大事にしていてもだ。 千夏は『終わってしまう恋』だと・・・ でも『好き』だと・・・何故言えるのだろう?千夏達はどうしただろう?斧田先輩のコトだ。どうせつまらない冗談に千夏をつき合わせてるのだろう。千夏は話したのだろうか?『先輩のコトが好き』と私にハッキリ言った千夏のコトが羨ましいと思った。私は『好き』と言う言葉を言えないでいる。『言葉』にする事で『形』が出来るのが怖いんだ。全然自信がないのだ。 だから「先輩に告白しない」と言った千夏には『形』を残して欲しかったのかもしれない。 通りかかった本屋さんの中。先輩はお目当ての本を探してる。私は週刊誌のコーナーの所で何とはなしに雑誌を手に取りパラパラ捲りながらそんなコトを考えていた。 すると突然後ろから肩を叩かれた。振り返るとソコに木原が立っていた。 「おまえ 何真剣に読んでんの?」 ん?何読んでるかって?広げてあるページを見てみる。 『これで貴女も素敵な彼氏をGET出来る!』 こ・こ・コレって・・・な・ナニぃ〜〜〜〜〜〜。若い男女が抱き合って二人でピンクのハートなんか持っちゃてて、お互いの小指に赤い糸なんかが繋いである挿絵なんかあって・・・ ゲェ。 恐る恐る木原の方を見ると不敵な笑みにニヤついてる。 うっ 最悪。 「なんだ おまえさぁ彼氏が欲しいの?」そんなコト言って笑うな!ばか。 「なんで木原がココにいるのさ?」 「なんでって言われてもね・・・この辺ならいたって可笑しくないだろうが?」 ・・・うぅぅ そりゃそうだけどさ・・・なんで今いるのさ。 「そうだ・・・久しぶりにさ おまえん家行ってもいいか?もう帰るんだろ?」 「はぁ?何の用があるのさ?」 「用がなくちゃ行っちゃダメか?ヒマなんだよ・・・」 はぁ〜 こう言うヤツなんだ木原って・・・大体、今から来たら何時に帰るんだよ・・・ ったくぅ。 「悪いけど連れがいるんだよ。先輩と一緒なんだ。」 「おまえ一人じゃねぇ〜の?斧田先輩か?」 と言って辺りを見回してる木原の後ろに先輩がコッチに向かって歩いてくるのが見えた。 「圭ちゃん」先輩が声を掛けてくる。木原が振り返り先輩を見てペコっと頭を下げて挨拶した。 先輩もニコっと笑って「こんにちは」と言った。 「欲しい本見つかりましたぁ?」 「うん。見つかったよ。もうレジ済ましたし圭ちゃんが良かったら出ようか?」 薄茶色の紙袋を私に見せて伺うように私に聞いて来た。別に欲しい本もなかったし私は頷いた。 「じゃ・・・木原。またな」 「おぅ。またな・・・今度、電話するよ。」 「わかった。」 そう言って木原と別れて、先輩と店を出た。 −彰吾side− 自分でも最近ヤバイなと思うほど一人で盛り上がってる。いつもアイツの姿を目で追ってしまう自分に自分が呆れてしまう。どうせなら言ってしまおうかとも思ったが玉砕するのが解かってて言えるか?玉砕するのが嫌で言えないんじゃない。玉砕した後に話せなくなってしまうコトの方が怖いんだ。どんな形でも良い。俺はアイツの側に居られなくなるコトが嫌なんだ。 今では、電話で話もするし家にも何度も行ったことがある。アイツは俺を受け入れてはイナイが避けてもいない。最近は高杉と一緒にいるアイツを良く見かける。楽しそうにしているアイツの笑顔が高杉に向けられているかと思うと言葉にならない想いが胸を突き刺す。どうする事も出来なくて焦る自分。 もしかして会えるかもしれないと今日も何と無く本屋に来てみたら、雑誌を手に取りパラパラやってるアイツの姿を見つけた。 『会えた』悦びを胸の内に秘め声を掛けてみた。 「おまえ 何 真剣に読んでんの?」 アイツの広げてるページを覗き込む。 『これで貴女も素敵な彼氏をGET出来る!』おまえ、何か考えてただろ?それとも高杉のコトでも考えてこんなの読む気になったのか? 「なんだ おまえさぁ彼氏が欲しいの?」 高杉とのコトは、薄々知っているがそんなコトは言葉にしない。全く、天然なんだから仕方ないよな? 「なんで木原がココにいるのさ?」 コレだよ・・・俺がおまえに会えてこんな些細な会話でさえも楽しくって頬が緩んでしまうのを必死に堪えてるのが解かってないんだから・・・ 「なんでって言われてもね・・・この辺ならいたって可笑しくないだろうが?」 溜息混じりにワザと素っ気無く言ってみる。まだ一緒に居たい。こう言う『偶然』を少しでも逃したくない。 「そうだ・・・久しぶりにさ おまえん家行ってもいいか?もう帰るんだろ?」 ダメ元で言ってしまった一言に自分の余裕の無さに心の中で苦笑する。 「はぁ?何の用があるのさ?」 想像通りの返事が返って来ただけなのに、少なからずのショックを感じる。 「用がなくちゃ行っちゃダメか?ヒマなんだよ・・・」 そんな顔で俺を見るなよ。自分が情けなくなるだろうが・・・ 「悪いけど連れがいるんだよ。先輩と一緒なんだ。」 「おまえ一人じゃねぇ〜の?斧田先輩か?」 同じ部の斧田か?ヤバイ雰囲気は感じないが、この先輩も何かとコイツをかまいたがるヤツだ。 そんな時、後ろからコイツを呼ぶ声に思わず舌打ちした。 「圭ちゃん」と声を掛けたヤツが剣道部の嶋野の方だと直感したからだ。振り返り先輩を見てペコっと頭を下げて挨拶した。嶋野がニコっと笑って「こんにちは」と言った。クソっ面白くもねぇ! 「欲しい本見つかりましたぁ?」 「うん。見つかったよ。もうレジ済ましたし圭ちゃんが良かったら出ようか?」 何なんだよっ!なんで二人なワケ?おまえ高杉はどぉ〜したんだよ?んったくぅ・・・ 「じゃ・・・木原。またな」 「おぅ。またな・・・今度、電話するよ。」 「わかった。」 そう言って店を出て行くアイツの背中を見送っていた。いつもそうだよなぁ?報われないねぇ〜俺。 「なんて言って電話するかな?」ボソッと呟いて今まで側にいたアイツの顔を思い出しながら考えてみる。 取り合えず今日は会うことが出来た。早く終わってしまえ!夏休み。 辺りはもう薄暗くなっていて、そろそろ仕事帰りのラッシュが始まる時間だ。 次々と目の前を通り過ぎて行く車のライトの眩しさを避けながら家とは逆方向に歩き始めた。 目次に戻る −W− じりじりとした夏の暑さが少し和らいできた。蝉の鳴き声も未だに聞こえては来るけど、前ほどの煩さはなくなっていた。毎朝楽しみにしていた朝顔の花も咲かせる花の数も随分減ってきていた。 頑張って練習してきた県体では惜しくも3位だったが、悔いはなかった。みんな一生懸命頑張った結果だったから・・・ 楽しかった。こんなにも夢中になれた。そして・・・ また、新しい目標が出来た。何かを成し遂げるコトが出来た充実感がとても心地よかった。 まだ小学生の義弟の遊を起こして、近くの公園にラジオ体操にも通った。折角、朝早くから起きるのなら有意義に過ごそうと嫌がる遊に、朝からジョギングにつき合わせたり、チャリで散歩したりして少し汗をかいて楽しんだ。汗をかいた後はシャワーを浴びてスッキリさせる。その後に食べる朝食は実に美味しい。不機嫌ながらも付き合う遊は、流石に朝食の美味しさに元気になる。 「なんで、そんなに元気なんだよ?」呆れた顔して呟く遊に、ニヤリと笑いながら 「折角の夏休みだ有意義に過ごさなくちゃもったいないだろ?」と言ってやる。側で聞いているペーやんとゆきさんが笑いを堪えながらクックックッと笑ってる。 そんな朝の風景もあったよなぁ〜・・・ なんだかんだと忙しくあっと言う間の夏休みも終わり 新学期が始まった。 いつもと同じように学校へ登校していた私だったが どうも何か違和感を感じている。 新学期が始まってから 何と無く気になってるコトがある。 どうも最近 視線を感じるんだ。ふっと振り返って見るが誰が私を見てるのか解からない。 気のせいか?とも思ってみたがどうも居心地の悪さを感じていた。 「よぅ 天野。何さっきからぼぉ〜っとしてんだよ?」 「ん? あぁ 木原か・・・ 別に何も?何だよ?」 「おまえ最近妙にぼぉ〜っとしてやしねぇ〜か?なんかあった?」 「あぁ・・・ 別に何もないよ」 私は 別段返事するワケでもなく「ト・イ・レ」と言って席を立った。 ん?まただ・・・ やっぱり誰かが私を見てる。 誰だ? 何だろう?この感じは私を見張ってる?・・・・まさかね・・・。 まぁ だからと言って別に悪さを仕掛けてくるでもなく何日か経ったある日。 部活の途中で 教室に忘れ物を取りに戻ると いつもは開け放たれている教室の戸が閉まっていた。 最近では物騒な事件が学校で起こり騒ぎになる事が多々ある為 授業中以外の殆どは戸を閉める事は無いんだ。 何で閉まってるんだぁ?なんて一々思うワケもなく躊躇いも無くガラガラと戸を開けた。 戸を開けた途端に目に飛び込んで来たものは 制服のスカートで頭からスッポリと覆われ 両腕を後ろで一つに縛られ 下半身は下着一枚のあられもない姿で教室の隅っこでしゃがみ込み か細く嗚咽してる女の子とそんな女の子を平気で蹴ったりしてる知らない女の子の二人だった。 戸が開いて私が教室に入って来たことを察した蹴ってる方の女がコッチを向いた。 何か凄っく睨まれたなぁ・・・ まぁ・・・ 相手は一人だし何とかなるだろう。 取り合えず助けなくてはと思い大きな声で「何やってんのさっ!」と怒鳴りながら睨みつけるが蹴るのを止めない。『くっそぉ!てめぇ〜いい加減にしろよな!』無茶苦茶腹が立つ。つかつかと蹴ってる女の側へ行き女の手首を掴み捻り付けた。捻られた痛みに顔を歪め後ず去った隙に泣いて蹲ってる女の子を背に庇うように間に入り込む。 殴りかかってくる相手の手を払い その手を掴む。 お互いが向き合い 手を掴み合い力比べの格好になり睨み合う。 「この辺で止めときなよ?私と喧嘩してもしょうがないだろ?」 「アンタに関係無いだろ?あ・ま・の・さ・ん」 憎々しげに相手が言った。 「何でアンタが私の名前知ってんのさ?アンタなんか知らないけど?」 「そうかもねぇ・・・ 有名人の天野さんにはキッチリ挨拶に上がるつもりでしたよ」 そう言って口元をニヤつかせた。何言ってんだコイツ?挨拶ってなんだよ? 「そんなモノは必要ないよ どうしてもって言うなら今してもらおうか?」 そう言って私も冷たい笑みを浮かべて言い返した。見る見る間に目を釣りあがらせ睨んで来るが 生憎と私の心は結構冷静でちっとも怖くなかった。 「てめぇ〜 生意気なんだよっ!」 「そりゃ〜 どうも」 「人の男取って歩いて 気取ってんじゃないよっ!」 はぁ?何言ったぁ?コイツ・・・お・お・男取ったってぇ?ヴァ・馬っ鹿かぁ〜・・・な・なんじゃそりゃ? 呆れた。取ったもクソも・・・ 私にはそんなヤツはイナイぞ?取った男?取ったってぇ?・・・ ゲンナリとした。 「それって私に言ってんの?」 呆れすぎて笑う気にもならないって・・・ 「5組の水間の事だよっ!知ってるだろ?」 水間?誰だソイツ? 「知らないね。顔も思い出さないよ勝手に勘違いしてんじゃないよ!」 「バッくれるんじゃないよ」 目が釣り上がってきてるし興奮してるんだねぇ・・・なんて冷静に観察出来たりして・・・ 「ソイツってアンタの『物』なワケ?」 「・・・ ・・・ ・・・」 「はぁ?返事も出来ないのに目くじら立ててるワケ?」 呆れ顔で大きな溜息をつきながら言った。バカバカしい。掴んでいた手を乱暴に離してやる。 側の机に腰掛けてチラッと蹲ってる女の子を見た。顔はスカートで覆われたままだ誰なんだろ?泣き声も治まってるし心配は無いな・・・ 「白々しい事言うな!水間に二度と手を出すんじゃないよっ!」 そんな血走った目で言われてもね・・・ 困るんだけど? 大体そう言う台詞ってさぁ TVドラマなんかで男が言う台詞なんじゃないの? それにさぁ 私と喧嘩してたワケじゃ無いだろ?矛先ドコ向いてんだよ!もう いい加減にしてほしかった。もう良いだろ?バカバカしくて話になんないよ。 「もうウンザリしてんだけどさぁ。気が済んだら出てってくんない?」 そう言うと『覚えてろよ』とかなんとかワケわかんない事を言いながらソイツは教室から出て行った。 ほぉ・・・ アレが捨て台詞ってヤツかぁ?TVドラマで良く見るシーンを思い出して可笑しくなる。 やれやれ・・・ 厄日だったよ。蹲ってる女の子のスカートを解いてやる。 「大丈夫?」と声を掛けながら縛られてる手の紐も外してやった。同じクラスの徳田葉子だった。涙でグショグショになった顔にハンカチを差し出してやった。 「落ち着いた?取り合えずさ スカート履いた方が良いよ?」と顔を伺うように優しく言ってやると「ありがとう」と小さく答えた。 「ワケなんか聞かないけどさ。一つだけ聞いて良い?」と言うと徳田はコッチに顔を向けた。浅黒の目鼻立ちがスッキリとした顔が中々に可愛いじゃない?腰くらいまで伸びた長い黒髪を二つに分けて三つ編をしてる。 「アイツ 誰?」 「西尾有里だよ。あの子も5組で水間くんと同じクラスだよ」 「徳田も私が その水間くんとやらをアイツから取ったって思ってるの?」 「違うの? 有里とはダチなんだけど 最近そのせいで気が立ってて怒らせてしまって・・・」 はぁ・・・ 溜息が出るよ・・・ どうするかな?ハッキリさせないとなぁ・・・ とかって考えてた。 「あのね・・・ ハッキリ言ってソイツの顔も知らないし 5組に水間くんがいるって事も今初めて知ったんだけどねぇ〜 なんでこうなっちゃったのかな?」 「詳しくは知らないけど 水間くんが有里に言ったみたい」 ぐぇ・・・ なんじゃそりゃ・・・ 何をどう言ったらこんな話になるワケ?むちゃくちゃ頭に来るよっ!無責任なヤローだな・・・ ソイツと先ず話してみるか・・・ まぁ〜たくぅ 知らないトコで勝手に話進めてんじゃナイつぅ〜の! 「ワケわかんないなぁ〜・・・ てかさぁ徳田とダチだって?こう言う事されるの好きなの徳田?」 「・・・ ・・・ ・・・」 「別に口出しする義理は無いんだけどさぁ 少し考えてみたらどうよ?」 「・・・ ・・・ ・・・」 「徳田 悪いけどまだ部活の途中でグランドに戻らなくちゃなんないんだ。一緒に来るか?」 そう言うと徳田は驚いたみたいだが 流石に一人でいるのが不安らしく頷いた。 |
つぶやき: 天野ってどんな子なんでしょうねぇ?てか結構喧嘩好き?(笑) 作者: 「木原ぁ〜 もう少し頑張れよぉ!!」 木原: 「はぁ?ソレを俺に言うのかぁ?高杉に言えよ!てか・・・作者だろ!」 作者: 「ほぉ〜 イジケ虫くん そんなコト言うと あ〜んなコトやこ〜んなコト書いちゃうぞ!」 木原: 「うっ・・・」 天野: 「木原 誰と話してるんだぁ? 気持ち悪いぞ!」 高杉: 「ハイ 圭ちゃんソフト買って来たよ♪」 天野: 「サンキュ♪」 木原: 『げっ いつの間に『圭ちゃん』なんて呼ぶようになってるんだよ!』 そう簡単に天野と木原をラブラブにしないぞ!と作者はつぶやくのだった・・・(笑) |
−X− とんだ『忘れ物』事件に巻き込まれたものだが なんだってこうもヤヤコシイんだぁ? 見栄えは色々だけど姿形は 同じ人間としてみればドレもコレも大差ない。 なのに『心』ってヤツは実に厄介なものだ。ましてや取っただ取られただと何で目を吊り上げなくちゃなんないんだぁ?『物』じゃ無いんだつーの!と腹を立ててみたところでイライラするだけだし・・・ 圭お得意の『まぁ・・・ イイっか』ってコトで・・・ チョン!取り合えず水間とご対面しなくちゃね? 隣にいる徳田に にっかぁ〜っと笑ってやる。ん?不気味だってぇ?何と無く愉快な気分になって来たよ・・・ 部活も そろそろ終わりの時間。聞けば徳田の家はココから近い 送って行ってもイイんだけれど・・・ そこまでしてやる義理もないだろ?それにやっぱ元々の原因は私らしいし・・・ アイツの気も晴れたコトだろうしな・・・ 「落ち着いたぁ?一人で帰れる?」 「うん ありがとう。もう大丈夫だし・・・ いつもあんなコトばかりされてるワケじゃないんだよ?」 「そりゃ〜そうだ。じゃなきゃ幾らなんでも付き合ってられないよな・・・ でも 無理すんなよ?」 「・・・ ・・・天野って結構優しいんだね?」 はぁ?なんか恥かしくなるようなコト言うなよなぁ〜 いったいどう言うイメージなんだ? 「じゃぁ〜 またな?」 そう言って私は 真佐子達と一緒に更衣室に向かった。 次の日の朝 ヤツ等が玄関脇で待ち伏せしてた。ヤツ等って言うのは西尾有里と仲間らしき2人との3人のコト。わざわざ早くから登校して待ってるなんて よっぽどの暇人なのかぁ?と心の中で呟いた。 ん?奥沢・・・ 有里の右側に立ってる奴って奥沢薫じゃない?同じクラスになったコトは無いと思うけど確か同じ小学校出身で家も近かった筈だよな?アイツもダチなのかぁ? 奥沢は体格が良い。デブって言うんじゃないぞ?例えば女子柔道部員って感じでどちらかと言えば筋肉マンタイプ。まぁそんなコト言われて喜ぶ女の子はイナイがな・・・ ぽっちゃり丸顔で殆ど眉毛が無くて アイペンで細く書いてる 眼は一重のワリには丸みを帯びて黒目がちのアンバランスさが妙に可愛いかもな?そんなコト思いながらヤツ等の横を通り過ぎようとした時に 有里が声を掛けて来た。 「天野 昨日は邪魔してくれたよなぁ?」 「あぁ?邪魔したのかぁ?楽しんだ後だったんじゃないのか?」 「オトシマエは付けてもらう」 「あのさぁ 今時流行らないよ?大体 何もしてないのにナニ目くじら立ててんのさ?」 ホント・・・ こう言う輩はナニ考えてるんだか・・・ 理解に苦しむよ。何でも人の責にしてさ 結局なぁ〜んも一人じゃ出来ないで頭数で来るんだよ・・・ まぁ集団で来られるとかなりヤバイことはヤバイんだがね・・・ 不良だとかツッパリだとか色々言われてるヤツって別にキライじゃナイ。話してみれば結構納得してしまうコトもある。大人達には理解出来ない屁理屈なんだろうけど 案外筋が通っているモノなんだよ?だけどグループでしか行動出来ないヤツって言うのは嫌いだ。この西尾有里ってのは 正しく私の嫌いなタイプ。口じゃ喚くけど一人じゃ何も出来ないって感じがする。多分昨日の徳田のコトだってダチだから安心して手が出せたってトコだろうな・・・ 有里の左側に突っ立てた背の高い子が有里を抑えて前に出た。話し掛けてくる声は落ち着いてるがギロッと睨む眼差しはキツイ。 「水間くんにチョッカイ掛けるのは止めてくれない?不自由はしてないだろ?昨日のコトは 仲間内のドタ事だ アンタには元々関係無いコトだし 水間くんと離れるならチャラにする。私達もそんなコトで一々モメてたくないんだ。天野さんもそうだろ?」 「あのさ・・・ もしかしてココ何日かストーカーしてたのは アンタ達なのか?水間くんがナニ言ったか知らないけど ホントに寝耳に水ってヤツだよ 顔も知らない。マジだぜ?」 「本当に知らないのか?」 怪訝そうに目を細めて私を窺っている。如何にも疑ってるよな? 「知らない。そのコトは 私も頭に来てるんだ。ソッチの決着はキッチリつけさせてもらう。私もモメたくは無いよ?」 「天野ぉ〜 ナニやってるんだぁ? 授業始まっちまうぞぉ〜」 突然 後ろから声を掛けられた。振り返ると木原と高野がコッチに向かって走って来る。 「その言葉忘れるんじゃナイよ?」 「わかってる」 3人は校舎の中に入って行った。その後ろ姿を何と無く見送る。ナニやら有里のコトを宥めているようだ。そもそも その水間ってヤツが変なコト言い出すからこんなコトになったんだ。顔も見たコトのナイ相手に めちゃムカついてる。 「なんだ?どうした?大丈夫か?」 走って来た木原が心配そうに聞いて来た。なんだか可笑しいよな木原ってさぁ。タイミングが良いって言うか悪いって言うか・・・ なんか可笑しいよな?木原って・・・ 後ろからゆっくり高野も付いてくる。やや笑みを浮かべて・・・ 「何が大丈夫?話してただけだよ?」 何も無かったように素っ気無く言う。 「そうか?なら良いけどな。何かあったら言えよ?」 「なぁ〜んもナイって」 溜息を一つ 何を木原は心配しているのだろうな?肩の力を抜いて木原に微笑んでやった。 教室に入ると徳田がコッチを見てた。なんて顔してんだか・・・ そんな情けないような顔しちゃってさ。私は気付かない振りをして椅子に座った。 水間のコトは今日中に話を付けるつもりでいる。 噂にでもなってたら また五月蝿そうだし もうパンダにはなりたくないよな・・・ ん?ハタッと気がついた。気がついてゲンナリとする。私は木原に振り返り小さく手招きして呼び寄せた。 木原が気付いてコッチに来る。 「なんだぁ?どうした?」 「あのさぁ もしかして知ってんの?」 「あぁ?何のコトだぁ?」 「今朝の経緯」 「水間のコトだろ?」 木原は サラリと口にした。ヤッパな・・・ 肩の力が抜けて虚脱感を笑いで紛らすしかないよ。渇いた笑いにやっぱ顔が引き攣ってたか?あぁ〜ぁ きっと前から感じてた違和感って言うのはこう言うコトだったんだな・・・ 本人の知らぬまに『パンダ』ヤラされていたんだなぁ・・・ な・なんかムカッ!今度は腹が立ってきたよ。 「知ってたなら何で 教えてくれないんだよ!」 「何だぁ?教えて欲しかったのか?自分のコトだぜ?今まで知らなかったのか?」 “ウグッ”そんなコト言われちゃうと反論出来ないじゃんかさぁ〜・・・ 「そ・そんなコト言われたって知らなかったモンはしょうがないじゃん・・・」 語尾がダンダン小さくなる。‘はぁ〜’どうしたって溜息が洩れる。なんか頭が痛くなってきたよ。机に顔を突っ伏してしまった。そんな私の肩を指先で突っ突く木原が 私に声を掛ける。 「なぁ 何か有ったらオレに言えよ?力になってやってもイイぜ?」 頭をちょこっと持上げて上目遣いで木原を見ると 口の端を少し歪めてニヤリと笑っている。 あぁ・・・ もうイイヤ・・・ 喋る気も出て来ないよ・・・ あぁ・・・ イヤダ・イヤダ くっそぉ〜・・・ チャイムの音が耳障りに鳴り響き バタバタと自分の席に戻るクラスメイト達。担任が教室に入って来て ガラガラと出入り口の戸を閉める。 「きりぃ〜っつ」学級委員の声に立ち上がる。 まぁ イイさ。慌てるコトはナイよな? 私はいつでも私らしくしてればイイんだ。 そう 私は私でしかナイんだから 大丈夫だ! ドコにでも こう言う輩は一人はいるんだ。悩むだけ無駄だ・・・ 何てコトはナイんだ・・・ 心の中で自分に言い聞かせる。 さてさて・・・ 圭にとっては煩わしいだけの一日が始まったようだ・・・ |
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