『いつのまにか・・・』 −鈴シリーズ T−

                            深森 鈴(リン) vs 緒形 命(マコト) 

    『再会』

電話が鳴ってる・・・ ベットの中から手を伸ばし目覚まし時計を薄目を開けて睨む。
やっとウトウトし始めた気持ちイイ時間だったのに 夜中の2時を過ぎていた。
誰だよこんな時間に掛けてくるヤツは・・・ 言葉にもなってないような独り言。

「もしもし・・・ 深森さん?」
「はい そうだけど・・・」 誰だ?コイツ?
「オレですよ。わかんないんですか?」

「・・・ ・・・」

こんな夜中にかけてきて わかんないんで・す・か?だと?
全く ただでさえ寝ぼけ頭の俺がわかるか!ちゅーの!!

「酷いなぁ〜 オレ 泣いちゃいますよぉ。」
泣いちゃう?バカかコイツ・・・ さっさと名乗れよ!

「あのさぁ〜 オレ明日・・・ あっ!もう今日か?あ・はは・・・ 休みなんすよ。深森さんも休みでしょ?どこか行きませんか?10時頃に迎えに行きますよ・・・」

「・・・・・!・・・・・」

「あっ!じゃぁそう言うことで・・・  ツーツーツー」
はぁ? な・なんじゃコイツ名前も名乗らずに し・しかも・・・ 勝手に決めて勝手に切りやがった・・・
全く!無駄に起こされた・・・ いつ来るって?知るか!!寝る!!!
俺はベットに潜り込んだ・・・

そして 俺が目覚めたのは9時を少し過ぎた頃・・・
寝ぼけ眼で取りあえずはコーヒーをセットして洗面所へ・・・ 歯を磨きながらふっと思い出してしまった。変な電話・・・。
誰だったんだろ?まぁ・・・ イイっか?コーヒー飲みながら無造作に頭を掻き上げる。
今日は天気が良い。溜まっていた洗濯物をかたずけて さて着替えでもするかな?って思ってた時に電話が鳴った。

「もしもし・・・ 深森さん?オレっすよ!」
「もうすぐ深森さん家に着きますよぉ。カギ開けといてね・・・ ほじゃ・・・」
「ちょ・ちょっと待ったぁ〜!」
「ん?・・・」
「オ・オマエ誰なんだよ?」 電話の向こうで笑ってやがる!
「あっ!着いちゃった。会ったらわかると思うけど? ツーツーツー」

あ・会ったらわかるって・・・ そう言う事かい!?

まぁ家に誰からか電話が掛かって来ると言う事に不思議は無いのだろうが 俺の場合は別なのだ。
俺は『電話』が嫌いなのだ。今時 携帯を持ち歩けと散々言われてもコレだけはイヤだ。
だが どうしても仕事上持ち歩かなくてはならない。仕方ないから仕事用として持ってはいるが仕事関係以外からは全くと言って良いほど掛からないようにしている。自宅の電話だけで結構だ。
自宅の電話でさえ必要最低限のみ番号を教える。言いたい事があれば会った時に前もって伝えてくれれば済む事だ。
もう一つ付け加えるなら「手紙」なんてモノは中坊時代に魔が差して一度 ラブレターなるモノを書いた以外は書いたことが無い。
しかも 書いたラブレターの中身はいたってシンプル。たった3行。

「良かったら付き合ってみてよ。 返事待ってます。  深森 鈴」

良くもまぁコレが手紙だと言えるかって言われたら開き直るしかないが・・・
いや・・・ この際そんな事はどうでも良いんだ・・・
そんなワケで 俺のところに電話があるなんて言うのは ごく少数の限られた人間しかいないのだ。
増してや電話の声の主に全く心当たりがない。

ココは静かだ。商店街も無いし学校も離れてる。近所では犬が数匹飼われているが泣き声もほとんど無いし 車もあまり通らない。
窓からは木々の緑も眺められる。俺はこの場所が気に入ってる。
そんな静けさの中 間違いなく一台の車がコッチに向かってくるのが見えた。
でも その車も やっぱり見覚えが無い。
ヤレヤレ 今日は厄日だ。折角の休みをだい・な・・・・
あれ?アイツ・・・

ピンポンピンポンピーンポーン  ガチャガチャ・・・
ドアが開くよりもアイツの声が聞こえてきた。

「み・も・り・さぁ〜〜〜〜ん」
ドアから人懐っこい笑顔のアイツが顔を覗かせた・・・

「オレ 来ちゃいましたぁ〜♪」
「ま・マコトッ・・・!」
「あったりぃ〜♪ピンポンピンポン♪」

頭の中は真っ白け。端から見ればとんでもないマヌケ顔してるに違いないだろう。
彼の名は 「緒形命(オガタマコト)」俺が前に勤めてた会社にアルバイトしに来てたヤツだ。
な・なんでコイツがココにいる?
言葉もなくて呆けてる俺を見てヤツは笑いながら言った。

「深森さん・・・?取りあえず上がってイイっすか?」
「・・・・・?・・・・・」
「おっじゃましまぁ〜す♪」
ヤツは俺の肩に手を置くとクルリと方向を変えて俺を部屋の中へ押して行く。
な・なんなんだ?何が起こった?俺の頭の中には短い疑問文が次々に浮び上がる。

「お・オマエは何しに来てんだ?」
「やだなぁ〜深森さん ちゃんと電話したじゃないですか?今日遊ぼうって・・・ ね? そ・れ・に・・・ オレは別にイイっすけど・・・ ソレってパジャマのま・ん・まってやつでしょ?」
「・・・・・へっ?・・・・・」
「パジャマの深森さん連れて歩くのもなぁ〜・・・」
そ・そうだった!まだ着替えてない・・・ くそったれ!俺は取りあえず着替えようと 「ちょっと待ってろ!」と言ってドタバタとベットルームに向かった。
別に パジャマだろうがスッポンポンだろうが気にする相手ではナイが このままだと本当にパジャマのまま外に連れ出されそうだ。
穿き慣れたジーンズに白のハイネックとセーターを着て 髪を手グシで整えながらリビングに向かうと ヤツは俺が入れておいたコーヒーを勝手に飲んで待ってた。

「ゴチになってます。深森さんのも入れておきましたから飲んで下さい。」と言ってニコっと微笑んだ。
何考えてるんだコイツは・・・ 俺の折角の休日に・・・
「おまえが何でココにいるんだ」
半ば呆れながら・・・ それでも言わずにいられるか?
「やだなぁ〜 深森さん。記憶喪失ですか?」
はぁ〜?あんだってぇ?全く聞いた俺が馬鹿だったよ・・・
「何度も電話したんですよ?全然捕まらなくってさぁ。携帯の方は知らないし 番号探すの大変だったんですからね?オレの苦労も解かって下さいよ?」
「わっかたよ。もう何も言わないさ・・・ で 突然遊ぼうって?何だソレ・・・ わざわざ家にまでやって来るとは思ってなかったよ。」
「仕方ないでしょ?深森さん 会社辞めちゃってるし 今の職場が何処かも知らないし・・・ 電話番号と住所探すの大変だったっすよ?オレん家に来てって言ったって来ないでしょ?じゃぁオレがココに来る方が早く会えるってもんでしょうが?そうでしょ?」
まぁ・・・ そりゃ〜そうだな。なんて妙に納得してどぉ〜するんだっ!

俺の勤めてた会社にアルバイトの求人募集を見てやって来たのがコイツとの出会いだった。
背が高く まだ高校生だったコイツは俺よりも図体が良い。浅黒の肌は引締り程よく筋肉が付いていて端から見ると羨ましく思えるほどだ。その癖人懐っこい笑顔は無邪気で見てるだけでコッチまで綻んでしまいそうになる。デカイ身体で俺の後を付いて回り 仲間内でも『懐かれてるな』と言われるほどだった。

まぁ・・・ デカクてもまだ高校生だ。言われた仕事はソツなくこなすコイツを見直しつつ懐かれているコトに正直言って嬉しく思ったものだった。当時 コイツには出来たばかりの彼女がいて何かと相談を受けていた。彼女の誕生日に何をプレゼントしたら喜ぶだろうか?なんて下らない事で悩んでいる様は 呆れながらも 俺には忘れてしまった感覚を呼び起こされた気がして コイツの悩む様を見ては楽しんだものだった。バイト期間を延長し高校卒業間際まで続けていた彼が大学に入った後も何かと会社に訪れては昼飯を一緒に食べたり 仕事帰りに近くのファミレスで話したりして良く付き合わされた。と言ってもいつも二人では無く 常に会社の同僚や女の子達が何人か一緒だったが 俺にとっては良い想い出の一つになっている。そんな命が海外留学に行く事になって会えなくなってしまった。アレから何年経ったんだろか?久しぶりに会った筈なのにまるでずっと側にいたような親近感を覚える。だからこうして行き成り訪ねて来られた事に不思議と腹が立っていなかった・・・ と言うよりどっちかって言うと些か嬉しくさえ感じている事に気付かざるを得ないだろう。

「深森さん なぁ〜に考えてるんです?そろそろ出掛けません?」
「あぁ・・・ そうだな・・・ ん・ドコに行くんだ?」
「そりゃぁ・・・ ドライブと言えば海っしょ?」
はぁ?海って・・・ 冬だぞ オマエ!めちゃ寒そうじゃん。俺 寒いのイヤなんだけど・・・ と思いながらもコイツってばそんな嬉しそうに笑ってんじゃナイ!
何だかなぁ〜・・・ まぁイイか。久しぶりに出掛けてみるのも悪くないよな・・・
なんて考えてる内にオマエ何うろついてるんだぁ?と・戸締りなんかしちゃってるワケ?

「深森さん 戸締りOKです。っと・・・ コレも持って行きましょうね?」
と言ったアイツの手には俺のコートが・・・
軽く溜息を一つ落とし『今日は振り回されるだろうなぁ〜』と何と無く思って思わず頬が緩んでいた。


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    『アルバイト』 −出逢い編 @−

   −深森視点−

ちょっと飲みすぎたかな?ここ2・3日は飲み会が続いてしまって余り寝てないからだろう・・・ 頭がイマイチすっきりしない。
まだ 開店前の事務所で缶コーヒーで手を温めながらボーっとしてた。
みんなが出勤して来るまでには時間がある・・・ ちょっとウトウトさせてもらおうか・・・

「ガチャ」 扉が開く音がする・・・ 微かに瞼を開き片目で時計を確認する。まだかなり時間は早い。聞き慣れない靴音に小首を傾げていると 静かに事務所のドアが開いた。
「おはようございます。」と元気な声が事務所に響いた。
この店にあんなに元気な挨拶をして入って来る奴がいるだろうか?知らず笑みが零れる。
事務所に入って来たのは 今日から冬休みの間 ココでアルバイトすることになった高校生だろう。
そう言えば言ってたっけ?店長が高校生が2人今日から来るって・・・
履歴書の写真を思い出す。
彼等が面接に来た時 俺は休みを取っていたから彼の顔を見るのは今日が初めてだった。

そして 今 目の前にいるのは 思わず何センチだよ?と聞きたくなるような背の高さと画体の良さ やや浅黒の端正な顔立ち でも 彼の瞳は純真な幼さを感じるほどに真っ直ぐで好感が持てた。 多分・・・ 緒形命(オガタマコト)の方だろうな・・・ なんて思いながら彼を楽しく観察してると 「あれぇ〜早過ぎたっすか?」なんて頭を掻きながら俺をチラッと見る彼の姿に 何と無く大きなクマのぬいぐるみを思い出し笑いを堪えながら ズボンのポケットからチャリ銭を無造作に取り出す。

「あぁ・・・ バイトくんかな?まだ 時間あるからコーヒーでも飲むかい?」
俺はそう言って小銭を彼に投げた。
「おっ!おごりっすか?」彼はニコニコしながら投げられた小銭を持ってコーヒーを買いに行った。さしずめ典型的な体育会系と言えるだろう・・・
そんな彼の後ろ姿を目で追いながら静かに瞼を閉じ何時しか浅い眠りに落ちていった。


   −緒形視点−

「ナニやってんだよ。アイツ・・・」
今日からバイトだからって バイト先の店の前でアイツ(田辺信一)と待ち合わせた。
まだ バイト時間には早すぎるほどの時間だが アイツを待ち始めて10分経つ。
冬間近の早朝は ジャケットを着ていても吐く息は白く冷たい。
「まぁ・・・ 店の前だし 先に入っていてもいいかな?」
冬休みの間に少しバイトして小遣いを稼いでおきたかった。
高校生活も来年は3年生 大学受験を控えてやっぱ友達と卒業旅行に出かけたい。
そう思って探したバイト。親に言えば旅行費ぐらいは出してくれるだろうが やっぱ自分で稼いで行きたかった。
自宅から歩いて15分程度のこの場所は 願ったり叶ったりだった。
面接に来た時も この店の雰囲気も悪くなかった。

面接が終わって帰ろうと店の外に出ると・・・
オレも小さい方では無いがオレより5cmは高いだろう。195cmはあるだろうガッシリとした身体で口の端を少し上げてニヤリと笑った顔は そこ等のホストを思わせるほどカッコ良いじゃねぇ〜か。
その兄ちゃん(中富篤)がオレに缶コーヒーを2本投げてよこした。
ちょっと長めの金髪の前髪を掻揚ながらオレに近づいて声を掛けて来る。

「飲めよ」
「ありがとうございます。頂きます。」
「決まったのか? いつから来る?」
「はい。明後日から来ます。宜しくお願いします。」
「そっか・・・ ヨロシクな!」
隣で信一も頭を下げてる。中富が胸ポケットから煙草を出し「吸うか?」と聞いて来た。
オレは苦笑しながらも「イヤ、結構です」と答えた。
「そっかぁ 遠慮すんなよ?」と言って煙草を一本出して火をつけ旨そうに煙を吐いていた。
「今日は、ドンがいねぇ〜からな・・・ 面白いヤツだぜ?明後日は来るから楽しみにしとけよ」
「ドンで・すか?怖いですか?」
「は・はは・・・ 怖いっちゃ怖いか?明後日は早めに来た方がいいぜ?じゃぁ〜な」
中富が店の中に戻って行った。
「だってよ?早めに来るか?」
「そ・だな・・・ 初日だしね 様子見ようか?」
ドン?この店の?店長は40歳前半ぐらいの肩幅ガッチリの流石に店長と思える落ち着きがあり 人当たりの良さそうな人だった。
店長の上になるのか?怖いのか?どんな男だ?・・・・ そう思っていた。

朝 かなり早くバイト先に着いてしまったオレは外の寒さに耐えられず店の裏口を開けて中に入って行った。裏口を開けると中は店の倉庫になっていて店に通じるドアとその反対側の事務所に通じるドアがある。事務所のドアを開けると 華奢な後ろ姿が目に飛び込んできた。 机に腕を組み 組んだ腕の上に顔をうつ伏せて眠っているようだった。ドアを開ける音に目覚めてしまったのか 顔を上げてオレの方を見る。

コッチを見た彼の顔の可憐さにドキッとして 思わず大きな声で「おはようございます」と挨拶の言葉を発していた。彼はオレの顔を見て微かにクスッと笑み「おはよう」と返してくれた。
何と無く気恥ずかしくて 「あれぇ〜早過ぎたっすか?」なんて頭を掻きながら何と無く目を逸らしてしまった。どうしようか?なんて・・・ 時間にすれば僅かなものなのだろうがオレはすっかり戸惑ってしまった。

そんなオレに「あぁ・・・ バイトくんかな?まだ 時間あるからコーヒーでも飲むかい?」と小銭をオレの手めがけてポイッと投げて来た。想像外の出来事に思わず投げられた小銭を受け取り「おっ!おごりっすか?」とまたもや声高らかになってしまった。恥かしい。めちゃ恥かしいぞ!だがオレの頬はどうしても緩んでしまいそうだった。「買って来ます」と どうにか言葉にして事務所を出た。

な・なんでこんなにドキドキしてしまうんだ?相手はどんなに可愛くても 思わずフラッとしそうな優しい声でも 抱きしめたら壊してしまいそうな華奢な躰でも・・・ オイ!な・何を考えてるんだオレ!アイツは仮にも男だぞ!オレはそっちの趣味は無いぞ!しかし あの笑顔は犯罪だよ・・・ と思わずうな垂れてしまう自分に唖然とした。


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−出逢い編 A−

   −緒形視点−

事務所のドアを開けると金髪のあんちゃん(中富篤)と信一が来ていた。「おはようございます」とあんちゃんに挨拶すると「よぅ!」と片手を上げてニヤリとした顔でオレを見た。椅子に座ってた信一が唇を尖がらして文句を言う。
「命!待ち合わせしたじゃないかっ!僕 外で暫く待ってたんだよ?酷いよぉ〜」
オレがまだ来て無いと思って暫くオレを待ってたらしい。そこへ あんちゃんが来て『寒いから中に入れ』と連れて来たらしいのだ。ブチブチと文句を言う信一に「ワリ〜。早く来すぎてオレも寒くてさぁ」と言って片手で拝むようにすると苦笑いを浮かべながらも頷いてくれた。

「さて バイトくんが二人揃ったところで簡単にいつもの仕事内容と今日のノルマを話しておこうか? 俺は深森 コッチは中富だ。店長が不在の時は俺か中富の指示に従ってくれれば良い。」
そう 彼が話し出した。
『深森』って言うのか・・・ 彼の話し方は的確に的を射た解かり易いものだった。

話の途中で何人かの社員達が出勤して来た。「おはようございます」と挨拶する度に「バイトで入った緒形くんと田辺くんだ」と 俺たちを深森さんが紹介をする。
そう言えば・・・ 中富さんが『ドン』と言ったのは誰の事だろう?店長だろ 深森さんに中富さん・・・堀田さん・・・ はそんなに怖そうな人じゃないよな?今日は遅番だっけ?なんてコトをアレコレ考えていると如何にも気が強そうなテキパキと手際良く開店準備の指揮を取っている女子社員が一人。

彼女は確か・・・ 青木麻美って言ったっけ?結構色白のスマートな身体つきにスッと伸びた形の良い足 足首なんかキュッっと締まってて結構そそられるかも?身体のワリにはやや福与かな頬は丸みを帯びていて下唇の横には小さなホクロ。笑うと幼さが残る目元が時折細められてキッと人を睨みつける時がある。中々気の強そうな我侭女って感じ。まぁ ソレはソレで妙に色っぽかったりするんだけど・・・
『あぁ・・・ アレに決まりだな?』何かと面倒そうだし 煩そうだよなぁ・・・

バサッ!
「・・・ ! ・・・」 へっ?
「緒形ッ 聞いてんのか?こらっ!」
「うっ す・すみません・・・ 聞いてませんでした」 自然と声が小さくなる まぁ当然か?
中富さんが側に置いてあった雑誌を丸めて俺の頭を叩いたんだ こう言う時は素直に謝るのが早い。
頭を深く下げてから中富さんの顔を窺うと呆れた顔で苦笑いしてた。チェッ。
横では クックックと喉で笑いを堪えながら「何?青木に見惚れてたの?」なんて・・・ オイオイ 言ってくれるなよ?深森さ〜ん。

「・・・ってコトで 以上!二人はマズ倉庫で商品確認をしながらプライス付けをするように 吉野くん 二人に倉庫の説明とプライスの作り方などを教えてやってくれるかい?」
近くを通りかかったパートの吉野実花さんに深森さんは声を掛けた。
「はい。じゃぁコッチに来てくれる?」と彼女が俺たちを倉庫に連れて行った。

ん・・・ 仕事は記憶力と忍耐だな・・・ やたらと商品区分がややこしい 同じような商品を両手に持って『ドコが違うんだぁ?』なんて頭の中で ?マークが飛び交う。ましてや する仕事の単調なコト。人間の集中力なんて高が知れてるもんだ 大きなアクビを噛み殺して重たくなってくる瞼が閉じないようにするのは大変なコトだ。隣では信一が 何が楽しいのか商品を手に取り次々とプライスを付けている。
「なんか楽しそうだな信一?」と呆れたように言ってやるとニコニコしながら服を一枚手に取り
「コレなんか 命に似合いそうだな?」なんてほざいてる。 言ってろよ?

「どう?進んでるぅ?」
説明を一通り済まして店に戻っていた吉野さんが窺いに来た。
「いや・・・ 正直 退屈っすよ?」と彼女の耳元で小さく囁くように言うと クスッと頬を薄く染めて小さく笑った。彼女は大学生で 初めバイトでココに来たのだが もう1年もココにいるのでパートにしてもらったらしい。160ソコソコの身長にショートカットの髪型。俺より年上だなんて黙ってたら絶対に解かんないぜ?
「そろそろ お昼なんだけどドウするの?一緒に食べに行く?」
俺たちは3人連れ立って近くの中華飯店に出かけた。

「こんなトコに こんな店があるなんて知らなかったね?命」
信一が俺と同じ天津飯を美味しそうに口に頬張りモグモグしながら嬉しそうに言った。
「結構 旨いよな? ・・・ご飯粒付いてるぞ」そう言って顎のところに付いているご飯粒を取ってやった。
信一は「バカッ」っと小さく呟いて「早く 食べろよ!」なんて言ってやがる。何なんだよ?ん?何赤くなってんだぁ コイツ?
「彼方達ってホントに仲が良いのね? もしかしてアヤシイかも?」
「はぁ?何ソレ?」 アヤシイって・・・ 何言ってるのかわかんねぇ〜なぁ〜・・・
「だって 普通しないでしょ?そう言うコトって」
「何?そう言うコトって?」 いや・・・ マジで解かんないっす!
「ご・は・ん・つ・ぶ・・・ よ」
あぁ〜・・・ ご飯粒ね・・・ ん?可笑しいか?
「そう? じゃぁ・・・ 吉野さんも付いてたら取ってやるよ?ア・ヤ・シ・イ関係してみる?」
チョッチ 斜め45度の何気な笑みを向けてみる・・・。 やや俯いた上がり目線が決まったか?
「バッ・バッカねぇ〜 考えとくわ?」 なんて・・・ 満更でも無いみたい。脈アリかぁ?
なんて思っていたら店の入り口から堀田さんが慌てたように入って来て 俺達を見つけると
「お昼時間に悪いけど 直ぐに店に戻ってくれないか?」 と言った。
何やら慌てたご様子で・・・ 何かあったのか?
「わかりました。直ぐに戻ります」と吉野さんが返事をし 食べ掛けの炒飯をそのままに財布を持って立ち上がった。俺達も吉野さんと共に立ち上がり 慌てて会計を済まし付いて行った。


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