「The miracle of Christmas」




「去年のクリスマスは 雪降ったっけ?」

辺りはもう夕闇に包まれ 車が通り過ぎる度に 窓でライトが追いかけっこしてる。
なんとなく光を目で追いながら 手元のカップコーヒーを啜る。
誰も居なくなった オフィスで どうでも良いような書類を手にしてペンを走らす。
時折り頭に浮ぶ面影に ぶんぶんと頭を揺さぶり 夢中になって仕事をこなして行く。
一人家に帰るには 早過ぎる時間。
こんな日は 長い夜を一人部屋で過ごしたくは無かった。
どうしたって思い出してしまう。だから他の事で頭の中を一杯にしていたかった。


街では 陽気なX’mas song がこれでもかと言うほど流れている事だろう。
アベック達は肩を抱き合い 当たり前の様に歩いてたりして 年に一度のイベントに浮かれてる。

考えてみれば 一人で過ごすクリスマスは何度目だろう?
イベントが近づくと レストランを予約し 当たり前の様にホテルの部屋を確保してた。
来るもの拒まずで どうせこんなものだと諦め どうでも良いような女達を接待して過ごしたあの頃・・・
プレゼントを当然と言うようにねだり 手にする女達に呆れながらも付き合っていた。
朝目覚めた時に横にある 女の裸体に反吐が出そうになりながらも 笑顔を見せて答える自分に 『馬鹿か』と心の中で呟き どうしようもない枯渇感に襲われた。

何もかもが色褪せて まるでモノクロの世界に閉じ込められたような毎日を坦々とこなしてる。
心の片隅で今もなお燻り続けている想いに 夢見る事さえ恐怖を感じる。
『忘れろ! 忘れてしまえ!』 と息を殺して願う内は 決して忘れていないのだと思い知る。
手に入れることが出来ないのなら せめて失いたくないと心に仮面を被ってみたが 日に日に募る想いに耐えられず 側に居られなくなってしまった。
何かがプッと音を立てて 今にも切れて 触れてしまいたい想いに自制が効かなくなってしまう自分が恐ろしかった。
本人の意思とは別に走り出してしまった想いは 決して報われる事など無いのに・・・



初めて出会ったのは 高校の入学式の時だった。
少し長めの黒髪を後ろで一つに束ね 銀縁のやや小さめの眼鏡を掛けていた。 眼鏡の奥ではやや切れ長の意志の強そうな瞳の輝きに憂いが漂っているようだ。 程よく筋肉が付いていて 肩幅が広く 背が高くスラッと長い手足の何気ない仕草の一つ一つに 同じ男として僅かな嫉妬めいて 憎らしいほど魅力的だった。

そんな彼と話すようになり いつの間にか気が付けば 周りから「お神酒徳利」と言われるほど 俺の側には彼が居た。余り感情を顔に表さない彼だったが周りが言うほど彼は無表情ではないと俺は思っている。時折り見せる優しい笑み 片方の眉を少し上げて困ったような顔をする時もある。 確かに口数の少ない彼に俺の方がついついお喋りになってしまうのだが・・・
お互いに彼女なんかも出来て 俺は浮かれ気分で色々な相談をしたこともあった。
気の合う『親友』としていつまでもこの関係が続くものだと 俺は信じていた。

そして 俺は思いがけずに ある光景を目撃してしまう。
あれは 高二の夏。
部活で帰宅が遅くなった俺は 近道をしようと近くの公園を横切ろうとした。
公園の高い電柱から少し離れた木々の間にアベックらしき二つの影が重なっていた。
『なんだよ こんなトコでいちゃついてるのかよ!』と心の中で毒突き通り過ぎようとしたが見慣れた後ろ姿に立ち止まってしまった。『彼だ!』彼が細い肩を抱き口付けをしていた。
体温が一気に急降下し 上手く酸素が取り入れられず息苦しさに頭がふらついた。
思わず倒れてしまいそうになるが足を踏ん張り耐える。
『ココに居てはイケナイ』その言葉を頭の中で繰り返す。

なんとか家に辿り着いた俺は 夕食も食べる気がせず 部屋に閉じこもる。
先ほど見てしまった光景が何度も頭の中を過る。
『ただキスしてただけじゃんか 何を動揺する事がある?男と女だ 今更何を驚く事がある?』
自分に言い聞かせるように何度も呟き 湧き上がってくるこの感情が何なのかワケも解からず ただ哀しかった。

だが 忘れようと思えば思うほどに 日々想いは募っていった。
不意に彼の唇に触れたくなる 彼の胸元に顔を埋めてみたくなる衝動に駆られる。

俺達は同性だ。決して女の子が嫌いなワケではなかったが。何人もの女の子と付き合ってみたが心が満たされる事はなかった。彼の顔を見ると現実に引き戻されてしまう。
苦しくて でも失えなくて 同じ大学に進もうとの約束をあっさり破り 彼と距離を置く事にした。
だが それも無駄な努力に終わった。段々と俺の周りから彩が無くなっていった。

見知らぬ誰かに否定されようが非難されようが そんな事はどうでも良い。
ただ唯一の想い人さえ 側にいてこの想いを受け止めてくれるなら・・・。
きっと目の前の景色さえも輝いて 眩しいくらいに色付く事だろう。

俺は大学を卒業し就職すると共に 親に口止めをして誰にも何も告げずに姿を消した。
もう 彼の側には居られない。 『忘れたい』 『救われたい』その想いだけだった。



どれだけの時間を費やしていたのだろう?
気が付けば・・・ 今更乍に一人オフィスに篭ってる自分が可笑しくなって 喉の奥で声を堪えて笑う。
『そろそろ 帰るか・・・』 と帰り仕度を済ませ外に出ると 雪は降ってなかった。
時折り 頬に当たる冷たい風が 抜け殻のような俺の心を嘲笑っているような気がして キツク唇を噛締めた。

雪の無いイブの夜。
今は唯 早く部屋に戻り疲れた躰に 熱いシャワーを浴びて 眠りたかった・・・



赤と緑のクリスマスカラーに彩られた街の真中に 見上げるほどの大きなクリスマス・ツリーが色とりどりの電飾を放ち きらきらと輝く様は 雪の柔らかな純白の綿帽子も無く 何所となく乾いていて寂しそうだ。
こんなにも存在を強調しているにも関わらず コレからが本番とばかりに活気付く人間達の目には この存在も今や眺める者は少ない。
街のざわめきに背を向けて 足早に通り抜けた。 早く一人になりたかった。
電車に乗って帰る気にもならず 丁度通りかかった空車に手を上げタクシーに乗り込む。
運転手に手短に帰路を話し タクシーの窓にもたれ掛かるようにして目を閉じた。



マンションのエントランスからホールを横切りエレベーターのボタンを押す。
降りてきたエレベーターに乗り込み 目的の階に着くと静かに扉が開いた。
マンションの独特な匂いと冷たい雰囲気に ホッとしながら部屋へ向かおうと歩き出したその時 自分の部屋の前に佇む影に 思わず息を呑んだ。
心臓の鼓動が耳元で大きく乱れ出す 信じられない光景に目を見開く。
一歩前に進む事が中々出来ないでいた。踏み出した途端に眩暈が起きそうだった。
なんとか心を落ち着かせなくてはと呼吸を整える。

ドアに寄りかかり長い足を交差させ 腕を前に組んで目を閉じていた彼は 間違いなく俺の想い人だった。
一歩一歩彼に近づいていくと気配を感じたのか ゆっくりと視線を俺に向ける。
ちょっと怒ったような声で「遅いぞ」と言いながらも優しい笑顔を浮かべている彼に 涙ぐみそうになるのを必死で堪え 久しぶりに聞く彼の声に心が震えた。
無表情を装い「よくココが解かったな」と素っ気無く言ったつもりの言葉は 自分でも情けなくなるくらいに弱弱しいモノだった。

直視出来ない彼の顔を避ける為 俯いて避けるようにドアにカギを差し込む。
ガチャと小さな音がしてドアを開け部屋に入ると 後ろから彼が部屋に入って来た。
部屋の電気を点けようと手を伸ばした時 いきなり後ろから抱きしめられた。
ドキンとした。彼の甘いコロンの匂いに一瞬にして包まれ 思いがけない彼の行動に頭の中は真っ白になりそうだった。 両目を瞑って息を呑んで押し堪えて耐えていた。
不意に俺の髪にゆるく何度もキスを落としながら 「何故 俺を避ける?」と言った言葉に何と答えれば良いのか返事が出来なかった。
コレは現実に起きている事なのだろうか?それとも夢なのか?

身体の向きを変えられ名前を呼ばれた。 優しい響きに顔を上げると温かな柔らかいモノが唇に触れた。
彼の大きな手が俺の頬を撫ぜ 額に瞼に頬に優しいキスが降って来る。
もう何も考えられず立っているのがやっとだった。強く抱きしめられ「俺の側を離れるな」と彼に耳元で囁かれて また 唇を塞がれた。 顎を掴まれ唇を彼の舌で愛撫するように舐められ舌が差し入れられる。 口内を探索し奥で縮こまって震えている俺の舌を捕らえると何度も吸われ舌を絡めてきた。
長い優しい口付け。大粒の涙が頬を伝い しがみ付いた彼の服を濡らす。
思いがけない神様のプレゼントだろうか? だとしたらつかの間の幸せを噛締めて素直に身を委ねても今宵だけは許されるのだろうか?
「逢いたかった」そう呟いて彼の背中に小さく震える手をまわす。

‘ふっ’と窓辺が明るくなっているのに気がついた。カーテンの隙間から細かな白いものが空から舞い降りている事に気がついて 「あっ 雪!」
俺の言葉に彼が窓に視線を向ける。俺は彼からそっと離れて窓に近づくとカーテンを開けた。
電気の点いてないこの部屋をおぼろげな雪明りが照らしている。

『クリスマスの夜に雪が降った今夜の事は きっと忘れる事はないだろう』
俺を追って来た彼に肩を優しく抱かれ 俺は彼の広い胸の中にすっぽりと納まる。
今確かに感じる温もりに心が満たされて行くのを感じていた。
「愛してる」心の中で何度も呟きながら・・・






な・はは・・・
ちょっとクリスマスを題材に何か書いてみようかな?と思って書き始めたらボーイズになってしまいました。
精々私が書けるのはこのくらいなモノです。(苦笑)
最後まで付き合って読んで下さった方には 深く感謝致します。ありがとうv
たまに思い付いた題材で短編をUPしていきたいとチョコッと考えています。



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