ズバリ柔道整復は、患者にとって無いほうが良いというお考えでしょうか?

いきなり極論を求める質問ですね。柔道整復師の歴史的な発生状況を考えると、名倉以来の骨接ぎの流れと柔道場での応急施術です。そして法的に急性期の外傷を応急的に扱うという地位を定められている柔道整復師ですが
、かつて医師のいない地域では立派に存在意義があり地域に貢献されていました。

そして今でも農村部において地域医療の一端を代々担っておられる柔道整復師の方々が沢山おられます。しかし医師余りの現在、また整形外科医が二万人を超えた現在、急性外傷担当職種としては、余程医療過疎の地域でなければ柔道整復師は存在する必然性はなくなっているのではないでしょうか。

柔道整復師教育も当然ながら外傷に偏っていますし、柔道整復師のいわゆる施術というものには、どうやら脱臼の整復・骨折の固定術など以外には独自・独特なものはないようです。そして現実に脱臼・骨折が疑われる激しい症状の患者さんはまず病院を受診されるでしょう。また接骨・整骨院にこられても骨折が明らかなものはすぐ病院に送るよう指導されておられます。しかし柔道整復師によっては捻挫だけなのかあやしい症例、あるい経験的診察からどうやら骨折が疑われても、程度が軽いと判断すれば、医師の同意が要る『骨折』ではなく『捻挫』であるとして医師に紹介しないで自分で施術を施してこられた可能性があるのではないでしょうか。そして捻挫の傷病名にしたのなら、そのまま固定しておけばよいのに、余計な施術、すなわちマッサージや電気治療を施しながら動かしたりしますので、偽関節にしてしまう例すらあるのです。
富山県の調査では柔道整復師を訪れ施術を求める方で50才以降の御夫人が46%を占め、男性も含めると50歳以降の方が70%だそうです。自分の体調を深刻に悩んでおられる方よりも、一時的にせよ痛みを柔らげ、すっきりと気持ちのよくなる施術、そして何より柔道整復師との人格的なコミュニケーションをもとめて通っておられる方が多いのではないでしょうか。そして実際柔道整復師が施術所で行っている施術の大半は『柔道整復』術ではなく、あんま・鍼、灸と同じくマッサージ、鍼灸、電気治療であるというように聞いています。極論を言うのなら、柔道整復師があんま・鍼、灸とは異なる独自の存在とし『柔道整復』を売り物にする施術所が、都会で必要とされる理由はないのではと思えるのです。もし患者さんが深刻に自分の体調に不安を覚え診断と医療を期待して来られたのなら、柔道整復師はそういう患者さんに手を出してはいけないと思います。それは患者さんのためにであるのはもちろん、これからは柔道整復師自身のためにもそうすべきです。
そしてもし患者さんが気持ちのよい施術行為と人格的ふれあいを求めて来られているのなら、それに保険適用を求め、更にあんま・鍼、灸にはない受領委任払いといった特殊な扱いを求め続ける根拠はないのではと思っています。

教育内容や人数制限のもとでは、在っても良いというお考えでしょうか?。もし、条件付きで認めようというのであれば、その内容について。

上に述べましたように柔道整復師が扱える対象疾患が、脱臼・骨折・打撲・捻挫のみと法律で規定されているように、柔道整復師の授業や実習は殆ど骨折・脱臼、そして外傷に対する処置・治療です。ところが実際、急性外傷の患者さんが今は施術所を訪れることは殆どありませんので、柔道整復学校で受ける骨折や脱臼に対する勉強や実習は現実には無駄になっており、整骨見習いの方々以外、卒業生は卒業してみて施術所の現実に驚くといった状態になりつつあるのではないでしょうか。
捻挫や打撲であってもその基礎に危険な状態が隠れていないかどうか、鑑別診断の必要上、様々の疾患について勉強するのは間違ってはいないのですが、法律での規定からかそういった一般の整形外科疾患はもとより、悪性腫瘍を理解する病理学や50才以降の方々のかかり易い生活習慣病的など一般的疾患のカリキュラムは軽視されています。
柔道整復師は外傷のとりあえずの応急処置が施術内容であり、医師ではないのでレントゲンやCTやMRIなど、或いは血液検査など様々な補助手段を駆使して確定診断を行う資格はありません。ですから施術を行っていて、これはおかしい、悪性のものが隠れているかも知れない、内科的疾患が関係しているかも知れないと早く察して、出来ればはじめから察して、自分が扱える患者ではないと判断し、そのまま医師を紹介出来る鑑別能力と、自分で施術したいという誘惑に勝つ力が職業上、特にこれからは求められるではないでしょうか。
2002年の国家試験問題を見ていて驚きました。科目としてあるはずの『柔道整復理論』の問題を見つける事ができませんでした。すなわち、東洋医学、東洋思想に立脚していると言われ、それらしい教育はしているといっても、国家試験問題として問える、世間に公開出来る、そして学生が学ぶべき柔道整復学や柔道整復理論は存在しないのではないと考えざるを得ないのです。いわんや大学教育をやです。

暴言かもしれませんが、―――せめてレントゲンだけでも返してあげる訳にはいかないものでしょうか?そうすれば、外傷もキチッと診断でき、柔道整復施術における施術ミスも少なくなる筈ですし、最も患者さんのためになるのではないでしょうか?

これこそ柔道整復師の昭和の初期からの悲願でした。レントゲンさえあれば我々でも正しい診断ができるのだからと。しかし診断学の進んだ現在、骨折であればレントゲンで見つかるはずとは決して言えないのです。たとえば小児の場合レントゲンでは見えず関節造影が必要な骨端軟骨板離開という病態があります。これは変形治癒しやすく生涯にわたって問題を残します。また小児には骨折線がわかりにくいタイプの若木骨折があります。またMRIでしかわからないbone bruiseという病態もあります。また手根骨の骨折や大腿骨頚部骨折にはどう探しても当初は見えず、周囲の骨が吸収されてはじめて見えてくる場合もあります。また労働やスポーツに多い疲労骨折はその初期はレントゲンではわからずアイソトープによるシンチグラムやMRIでしか診断はつきません。まして骨における悪性腫瘍の発生や転移癌の存在は、その初期にはレントゲンでは鑑別できないことが多く、またまぎらわしい骨髄炎やパジェット病など骨の病気と鑑別する為に血液検査などあらゆる手段が必須です。そして癌の転移による病的骨折などはむしろレントゲンで単純な骨折とだまされ易いのです。一番おそろしいのは首や腰への施術で手足のしびれや痛みが増悪して受診される患者さんで、レントゲンでは何も異常がなかったり単に変形性脊椎症であってもMRIや脊髄造影で調べるとヘルニアや脊柱管内腫瘍や黄色靭帯の肥厚による高度の狭窄状態が完成していて、これに脊椎を伸展させる機械的物理的な施術やカイロで行うようなコキッといわせるアジャストメントが行われていたのかと思うとぞっとすることがよくあるのです。よくぞこの程度で脊髄損傷にならないですんでよかったとほっとしますが、やはりそれではすまず、施術によって脊髄が傷められ麻痺症状が生じたりした患者さんも珍しくないのです。特に高齢者は危険です。
とまれ、私が言いたいのは、医師はあらゆる方法、検査手段を用いて正しい診断を行う義務があり、投薬、手術を含め正しいと思う治療を施す義務があります。無数の疾患を鑑別する為に患者さんに痛みをともなう検査を勧めることもあります。そして結果的に誤診であればもちろんのこと、たとえ診断も治療も間違いがなくても、今は治療結果だけでも糾弾され、責任をとらなければならなくなってきています。
私は柔道整復師の方がたとえ単純レントゲンの診断を許可されても、真剣に診断と治療を求めて施術所を受診される患者さんが大きなリスクを背負っているという状況は殆ど変わらないということが言いたいのです。自分の体を憂い、真剣に診断と治療を求めておられる方がもし施術所にこられたら、柔道整復師によって直ちに病院を紹介されるべきです。つまりいち早く病院に責任を転嫁すべきなのです。柔道整復師はそういう意味で、有責の医療担当者であるという幻想は捨てるべきであり、そうしないと患者さんも柔道整復師自身も危険なのです。医師と柔道整復師の違いはそれほど決定的です。個々の能力や人格とは関係なく法の立場と責任が。

現実には検査を駆使する必要性のある患者は少ないでしょうし、一般の病状、病態が深刻な人(命に関わるほどではなく、入院するほどでもないが、やはり生活をする上では支障があるという人)でも、そういった高度の医療を望んでいる人は少ないと考えます。ですから短絡的な発想であると承知の上で、症状が軽微な患者(症状がひどくないと判断するのは自分、患者本人)にはどのような対応をされるのでしょうか。私も日赤に足をくじいて行ったことがありますが、X線しか撮って貰えませんでした。治療もありませんでした。湿布薬と痛み止めの薬だけで、日赤がよくなかったのかも知れませんが。

その通りです。症状が軽微な患者さんは一時的にせよ痛みを忘れることのできる施術、慰安行為で満足され、もともとそれ以上のものは求めておられないかも知れません。しかし医師の場合は、病院に来られたからには、いくら症状が軽微であって診断も軽微と言う訳には行きません。上にも述べたように、そして何回も言うように徹頭徹尾診断に責任があり、後日、始めに見落としたという責任を追求され、今は裁判で負けます。上にも述べたように『柔道整復師にもレントゲン撮影と診断権を』という悲願があります。上でそれでも危険であると申しました。これまで通りX線や診断権なしで同意という診断責任を医師に押し付けるか、X線権を獲得して、ついでに診断責任も全てかぶりますか、という選択がもし許されれば柔道整復師の方々はどちらを選びたいのでしょうか。
医師は高い検査を野放図に勧めることはあり得ません。個人負担も高いし、痛みや害を与える検査もありますから、検査を行う根拠が患者さんに十分示されねばなりません。検査の同意が必要ですから、根拠がなければ検査は出来ないのです。そしてあえて検査を拒否される方も増えています。逆に交通事故・労災事故や自分の思い込みで患者さんがしてくれと迫る検査を、その根拠がないといって大変な努力をして断ることも少なくありません。
X線検査でも患者さんの了解が要りますし、赤ちゃんのX線検査は親が撮ってくれと迫っても断ることもあります。日赤病院ではあなたの足首の捻挫は、X線以上の検査を行う根拠を示せなかったのでしょう。もし内出血でもあったとすれば固定しなかったのは問題ですが、ちゃんと治癒して今はなんともないのでは。

条件の一つに、保険を扱うことがいけないということがあるならば、保険を扱わなければ問題ないということなのでしょうか。又、保険を扱うことの問題点を指摘して下さい。

その通りです。もし実際に急性外傷に柔道整復なる『技術』を駆使していないのなら、あんま・鍼、灸にはない受領委任払いという特殊な扱いを柔道整復師が受ける理由はありません。気持ちのよい施術・慰撫・慰安行為に対する対価は、あんま・鍼、灸のようにきちんと患者さんの満足度に応じて請求して現金徴収し、それを『医療』であると認める保険組合から患者さんが還付して貰う療養費払いにすべきです。そうすればそこに人格的で『評判のよい柔道整復師』と、患者さんの知らない所で受領委任払いで儲けていた柔道整復師の間におのずから需要の差別化が発生してくるでしょう。こんなに安くて申し訳ない、から、こんなにとられるのならもう二度とこないまで。
又、一般の社会保険組合も、あるいは医科の請求額に比べ柔道整復師の請求は圧倒的に少ない等という理由で査定や調査になかなか踏み切らなかった地方自治体も、これまでのようには唯々諾々と支払う時代はもう終わったと思うのですが。

柔整関連の発表内容が極めて目立ちます。二〇〇〇年に発行された『整形外科医療の周辺問題』という資料集でも、柔整を的確に糾弾されておりましたが、今大会でも『整形外科医として代替療法を考える=国民の立場で=』というテーマであるにも関わらず、柔整について繰り返し糾弾されているように思います。その意味や理由を教えて下さい。経済的な視点でのみ論議されているようにも思えますが。

経済問題ではありません。勿論、一部の柔道整復師が一ヶ月二十日以上施術して一件あたり三万円以上のレセプトを積み上げるような、驚くべき水増し、架空請求を許している、その気になればいくらでも悪用できる、そして良心的な方まで違法請求に引きずり込む強い誘惑となる制度そのものは問題です。そして卒業すればそのような優雅な生活にすぐなれると宣伝し、学生を集める学校産業の姿勢も問題です。
しかし最も強調したい点は、百名施術されて、例え九十九名は気持ち良かったと満足しておられるとしても、たった一例、診断が欠けていた為に不幸な状態になった方がおられるのであれば、それはそういった見逃しを許す制度が間違っているということなのです。そしてそのような例は決して少なくないのです。
約千人の整形外科開業医の半数以上が、そういった不幸な例をしかも複数例経験していることが五月十八日の毎日新聞で報道されています。しかし実際施術所に通っていておかしいと感じた方は、不安になって正しい診断と治療を求めて開業医よりもむしろ大きな病院か大学病院へ行かれるでしょうから、深刻な事例はもっとあるはずです。
実際私達は日常外来で毎日のように経験し、手術で後始末をせねばならないことが多いのです。これは柔道整復師個人の乱暴な施術による事例もありますし、X線などで『診断出来ないのだから見落としても仕方がない』場合も多いのです。
柔道整復師による施術は、急性外傷の応急的処置という領域に限って、しかし触診以外は診断を得る手段なしに行うことを許されていますから、その領域をわきまえて施術される限り、理論的には診断ミスで責められるということはないはずです。しかしこの領域を超えてというか、領域にあてはまる例など殆どなく、慢性の疾患や変性疾患による症状を、慢性の外傷と言い換えて『みなし』診断名をつけて施術し続けると、これほど危険なことはない(これは患者さんにとっても柔道整復師にとってもですが)と主張しているのです。
そしてそれを認め続けている保険組合も含め、制度の責任も大きいのです。医師は診断と治療の両方の責任を負い、それを果たさねば訴えられます。柔道整復師は対象が急性外傷に限られていますから、その応急処置に限っては診断と治療の責任を負うことはありません。しかし本当の急性外傷の患者さん以外(殆どはそうでしょうが)の施術を続けていく限り、無資格者と同じく、傷害罪に等しい過ちを犯す『可能性を常に負っている』ことを自覚して頂きたいのです。

慰安行為という言葉を関連の方からよくお聞きしますが、どのような内容或は行為を指すのでしょうか。わかる範囲でご指摘下さい。

あんま・指圧・マッサージ、鍼、灸などの方には異論が有ると思いますが、そういった施設で行われている施術と変わらないものと私は理解しています。柔道整復師が独特の施術として誇れるのは、おそらく麻酔なしに行う脱臼整復・骨折整復でしょう。しかし実際こういう症例は体育やスポーツの現場で働いておられる方を除き、現在一般の施術所を最初に訪れることはまずありません。田舎の学校の校医さんが柔道整復師で占められていた時代もありました。現在は体育教育、クラブ活動、社会人やプロスポーツの現場で、コーチやトレーナーをされている柔道整復師の方が多くおられます。こういった方々は、現実的に応急の脱臼整復などの『柔道整復術』が必要とされているかもしれません。しかし一般の町の施術所で行われていることは、マッサージ、鍼、灸、電気療法が多いのではないでしょうか。そしてそれ以外のいわゆるカイロのような療術は、誘惑があるでしょうが、決して行われるべきではありません。
あんま・指圧・マッサージ、鍼、灸なのような施術は元々保険診療になじまない部分があるとされています。ましてそのうえ柔道整復師だけに受領委任といった特殊な扱いが許されるのはおかしいと思っています。

「長期的に漫然と施術を行う」と言われておりますが、どの位の期間の施術を続けることを指して言われているのでしょうか。

医学的には急性期の捻挫は靭帯損傷の程度に応じて約三週間のギプス固定を行います。これは固定であって、マッサージや電気治療ではないのです。脱臼に対しては更なる組織の損傷を避ける為に麻酔下に愛護的に整復し、最低三週間は固定が必要です。この期間の安静固定が組織の自然修復にとって最も大事ですから、いろんな施術を施してむしろ治癒機転を妨害するような事はしてはいけないのです。一般的な常識としての治療期間は、打撲・挫傷は二週間、脱臼・捻挫は三週間、骨折は二〜三ヶ月程度でしょう。しかし変形性関節症や変形性脊椎症などは、慢性に繰り返される外傷によって発生してきたものであるとか、挫傷とは慢性に繰り返される慢性挫傷なのだなど、一般的に理解困難な理屈を『柔道整復学』と称して施術対象を拡大してこられた業界です。むしろそちらの施術理論を国民に開示されたらいかがでしょう。一部の柔道整復師のように挫傷・捻挫がいくつもの関節で連日発生し、3ヶ月も半年も施術を続けるようなことをされますと、患者さんは勿論、その当の柔道整復師自体が被る危険も増します。つまり後日患者さんに、外からでは診断のつかない問題が見つかった場合、正しい診断と治療開始を故意に遅れさせた責任を問われます。もし施術で期待出来る改善が見られなかったり、まして新たな症状が発生したり症状が悪化したりすれば、施術そのものが法を逸脱した障害行為と見なされる危険も増すわけです。

柔道整復は整形外科に比すると、医療事故はどの程度多いのでしょうか?。その比率等について。

今回の日本整形外科学会におけるパネルで日本臨床整形外科医会のアンケートの発表がありました。これは1回めのアンケートで実際の事例を整形外科医の署名付きで拾い上げたものです。そして最近2回めのアンケートを実施されました。それは柔道整復師による施術により患者さんが傷害を被ったり症状の悪化をきたした例に関して開業医からの過去一年間の報告です。以下はその約五千人の開業医へのアンケートから得られた1060名の回答の内容です。柔道整復師による施術により患者さんが傷害を被ったり症状の悪化をきたした例が、ある456名、確証がないので答えにくい393名、ない173名。過去一年間でどのくらいありましたか、一〜五件300名、六〜九件37名、十件以上26名、その内容として転移を含む悪性骨腫瘍の発見の遅れ・死亡 23名、不適切な施術による骨折106名、不適切な施術による症状の悪化356名、骨折・脱臼・靭帯損傷を施術して強く傷害を残した118名、その他91名、などです。パネル直後の毎日新聞で報道されたのはこれらを足した694例というデータです。
頻度を計算するための分母となるべき、接骨所で施術を受けた方の総数はもちろんわかりません。しかもこれは開業医の側からの一方的な報告です。問題はこれら694例の方々のうち、柔道整復師にクレームをつけたり、まして裁判に訴えたりする方はおそらく殆どおられないだろうということです。何度も言いますが医師であれば責任をとことん追求されるのです。法律上そういう資格であり立場だからです。柔道整復師は医師ではありません。その立場の違いが決定的である事を多くの柔道整復師の方々や指導者は理解されません。医師と同等と教えておられるのではないでしょうか。かたやとことん責任追求され、かたや責任追求を免れうる資格が同等であるはずはないのです。
私は柔道整復師の方々が、一旦訪れた整形外科、或いは病院に不満をもって今度は施術所を訪れて来られ、満足を得られている患者さんの数や、その意見を是非調べて欲しいと思います。そして整形外科医へ猛省を促したいと思っています。。

患者は整形外科でも柔整でも良い所に行きたいと思うのですが、患者は何故整形外科を受診せずに柔整に来院されるのでしょうか。現在患者は整形外科が近隣に存在するにも関わらず、柔整に来院されており、柔整から整形外科へ患者が回ったり、逆に整形外科から柔整に回る場合もあると思われますが、この件について患者への忠告も含め、何がそうさせているのか、患者の無知に起因するものなのか、浜西教授のお考えを是非お聞かせ下さい。

柔道整復師の業務が元々柔道現場で発生した応急処置的職種であること、そして急性外傷だけがその施術対象であることを知らない方々が現実に沢山受診しておられるのは、知らせて来なかった、或いはそうでないように宣伝してきたのですから当然です。ですから柔道整復師は結果的にせよ意図的にせよ、法律的には無知な方々を施術対象としているといっていいと思います。もちろん看板に脱臼・骨折・打ち身・捻挫とちゃんと書いておられる年輩の柔道整復師の方には大きな異論が有ると思います。患者さんは知っていてそれでも来られるのだと。私の外来を初めて受診される方の二割は、よく聞くと何らかの医業類似行為施設を経験してから来られます。それらの方々は医療を期待して柔整に行き、失望し或いは症状が悪化して病院に来られます。多くはあきらめておられます。しかし中には法律的に柔整に医療としての診断と治療を求めるのは間違っていたのだと聞かされ、驚き、そして自分の無知さ加減に恥ずかしさを感じる人、施術所で看板はおろかそういった説明が一言もなされなかったことに怒りを感じる人など様々です。しかし、単に施術を受けても一向に症状が良くならないので不安になって、施術所に見切りをつけて病院に来られた方は幸運といっていいと思います。多くのからだサイエンスの読者にとって言葉が過激に過ぎるかも知れませんが一部の施療士による明らかに暴力的施術によって悪化したり、麻痺をきたした人はもとより、時間経過と共に悪化するはずの疾患を持っておられた方にとって、施術所で、場合によって数ヶ月間に及び施された施術は、単に時間の無駄であっただけでは済まないのです。病院であれば当然受けるべき検査・診断、そして的確な治療を受けて治癒するチャンスを逸した、チャンスを大きく減らした、或いは故意に減らされてしまったことになります。
言い換えれば疾患による障害をより多く残す、そして疾患によっては命を縮めてしまうという代償を払わねばなりません。そして実際その代償を払っておられる方が少なくないのです。上で述べた臨床整形外科医会によるデータは開業医の集計であり、20%の回答率を考えると開業医だけでもこの五倍はあるはずとも言えます。しかし施術で不安になった方は、開業医ではなく当然大きい病院や大学病院に行かれることが多いので実数はさらに計り知れません。私達も調査を始める準備をしています。もちろん悪意をもった開業医団体が恣意的に水増しした数であると書き立てる柔整業界紙も、読者の皆様からの反論も沢山あるでしょう。しかし大事な体の変調を相談するのに、人の口コミで評判の施術所を訪れ、体を委ねてしまった自分を恥ずかしいと感じた方は何も言いません。私がしつこく聞いて初めて、実はこういうところで施術をして貰ったのだと答える患者さんも少なくないのです。
しかし、みすみす治るチャンスを潰された、或いは施術で悪化したと怒りを覚えた昨今の患者さんは、病院ではクレームは日常茶飯ですが、施術所にクレームをつけられるのではないでしょうか。そういったクレームの実情や和解の実態を知りたいと思いますが、良心的な柔道整復師の方々や、まして本年柔道整復専門学校に入学した4020名の学生達は知る事がないのではないかと不安になります。あるいは新しい柔道整復師保険制度の稼動状態も知りたいと思います。
もし柔整施設で、施術で満足しておられる方々が多くおられるとすれば(150万人おられますが)そういった方々は自分の体の中で何が進行しているのか、病気が隠れているのではといった不安はさておき、とにかくその日その日に痛みを一時的にせよ柔らげてくれることをしてもらうことに意味があるのでしょう。
その点では患者さんで医師、病院と柔道整復師施設と鍼・灸・按摩・指圧マッサージ施設などの違いを知っておられる方は少ないのではないでしょうか。ただ整骨院・接骨院の看板を見ると一杯病名が書いてある(違法です)、何か病院みたいだ、全部保険が利くようだ、かっこいい若い先生が優しくしてくれるといった程度の差ではありませんか。
忙しい病院や開業医をまず受診された方は、検査や診断は受け入れて一応安心されますが、痛い注射や薬しか処方されなければ、或いは事務員が片手間で行う物理療法に失望し、3軒隣の柔整やアハキに行かれるのでしょう。3200人が資格を得るはずの3年後を待たずどんどん施術所が増えています。
手術やリハビリテーションなどとは無縁の大多数の整形外科開業医にとって、生命線である電気治療などの消炎鎮痛処置が、この4月の改訂で例えば月12回4箇所の施術で比較すると柔道整復師22620円に対して整形外科医は8460円にしかならないなど、柔道整復師の1/2〜1/4にまで引き下げられました。ですからこのままでは整形外科開業医が潰れるのは時間の問題ですが、そうなるとその周りに集中していた施術所も困りますね。潰さないように柔道整復師の方の協力が必要になるかも知れません。

不正請求及び慢性疾患を扱うことについて浜西教授は、不正請求について何も言及されていないように思いますが。東京新聞の高橋さんの発表内容に「問題は、保険の適用は患者にとっても有利なため、両者が口裏を合わせれば不正が発覚しにくい」とあります。患者からすると寧ろ保険適用して頂きたいと望んでいるように感じます。今回の発表内容からすると、「国民が適切な医療を受ける権利を守るためには、医師による同意の問題、受領委任制度を再考する必要がある」というのは国民のニーズと相反していないでしょうか。

患者さんは自分の痛みへの施術行為が『病気に対する治療行為』であると認定され、保険適用され、しかも窓口支払額が少ないほうが有難いのは当たり前です。そちらの業界の言葉で『国民のニーズ』を勝手に作らないで下さい。こちらが聞きたいのは、実際行われている柔道整復による施術がもし鍼・灸・マッサージとあまり変わらないとすれば、同じ行為に健康保険が適用されることは正しいのか、ということです。それは保険組合が判断することであるなら、受領委任払いという昭和十一年からの特殊な取り扱いを柔道整復師だけが許されていることがさまざまの弊害を生んできたという事実を認めますか、という点です。もし認めるならばその制度を廃止すべきなのか、いや同じ慰安行為者であるあんま・鍼、灸にも全て同じ扱いを認めるべきなのか、どうお考えですか。
私達の意見はそちらからみるとまさしくバッシングのように思われるかも知れませんが、整形外科開業医にしてみると昨年開業医が支払われた約6500億の収入の70%は薬や注射や医用材料や器械の減価償却などの経費できれいに消えたのに、柔道整復業界に支払われた3000億の保険収入のいったい経費はどれくらいなのだろうかと邪推してしまうのです。施術所の必要経費というのはいったいどのくらいなのですか。読者の方から教えて頂きたいと存じます。

高年のご婦人が何故気持のよいことを求めていると判断されるのかが、今一つ理解出来ません。

五十過ぎの女性は更年期を迎え体中の不定な症状に悩まされる方が多く、四肢のむくみや関節のこわばりなど運動器の症状が出やすくなります。心理的・情緒的にも一時的に不安定になり、感情の浮き沈みが激しく、何よりも自分の体のことが気になりだします。自分の体の調子や痛みが気になって気になって仕方がない、中高年鬱病という病態になる例も珍しくありません。又、自分の子育てはほぼ終了し、夫はまだ外の世界にいますから、外へ出かける時間的、経済的ゆとりも生まれます。そして様々な健康情報がテレビや新聞や口コミで流れ込みます。勿論糖尿病や高血圧といった、いわゆる生活習慣病も発病してくる年代ですから一層不安になります。
上でも述べましたが、富山県の調査で、整形外科に限らず開業医を新しく訪れた新患1645名を調査すると、接骨院へまず行った方は23%で383名、その年齢分布をみると、50過ぎの女性で46%と半数近くを占めています。このデータは接骨院では不安が解消されず、後で開業医を訪れた方々ですから、実際は接骨院の施術で満足され、施術を受け続けておられる方々はこの何倍かおられるはずですが、基本的にどのような年齢層、社会層の方がまず接骨院を利用しようとされたかが分かります。
医師でもない者が行うことを許されている施術は、原因疾患を診断し、かつ治療するものではありません。しかしそれが判っていて尚施術を求められる方が150万人もいるとすれば、施術が外に現れている痛みや不定な症状に対して施されるものであり、施術が終わるとなんだかすっきりするので患者さんはとりあえずそれに満足されるからだとしか考えようがありません。そして五十歳以降の女性が約半数を占めるのです。もしからだサイエンスであるいは社団日整で施術所に通い続けられる方々の数や年齢分布など正しいデータがあれば是非教えて下さい。

患者が接骨院の方がいいと仮に選択し望んだ場合、柔整師のレベルが上がるように、整形外科の先生のご協力とご指導が求められるところだと思います。薬・注射・手術を嫌がる人は多く、整形外科で一定の治療を受けてから、見離された患者が接骨院に訪れているのも事実では?。患者としては、整形外科でこう診断されましたと柔整師に伝えますので、傷病名がハッキリ判り、後療法としての運動療法や電気療法、生活指導もしやすいのではないでしょうか。そして、患者は気持ちのいいことだけを求めているのでなく、その痛みを取ってくれたり指導してくれる人の人格に惹かれて行っている場合も多いと思います。
母の例ですが、整形外科で治療をして頂いた内容は、殆ど接骨院でされる施術と変わりませんでした。ローラーや赤外線照射等、あとは湿布薬のみです。それについてはどうなのでしょうか?。病名をつけられて保険適用であると思いますが。受領委任を正しく不正がないように出来れば、患者にとっては全く同じであると言えますが。質問が長過ぎませんか
過去にケガした所が今になって痛むというお年寄りや中年層が意外に多く、やはり一日を快適に過ごしたいためにも、週に二・三回接骨院通いするのが習慣になっている人の場合、どちらが悪いということになるのでしょうか。我慢出来ない患者さんが悪いのでしょうか


院で診断を受け、仮に疼痛処置として電気治療が処方された場合に、これは近所の施術所と同じであると判断され、又、いわゆる患者サービスをくらべてみて、その結果話をじっくり聞いてもらえ、その人格に惹かれて施術所に行かれるのは全く患者さんの自由です。何度もいうように初回の診断や初療の責任はあくまで医師にあります。しかし治療の選択権は患者さんにあります。その選択肢の中に人格的に優れ、痛みを一時的ではあっても柔らげるように気持ちのよいことをしてくれる柔道整復師のいる施術所が含まれて当然です。
勿論人格的に優れた柔道整復師がおられる施術所の看板には、対象疾患として法律に定められた骨折・脱臼・打ち身・捻挫だけしか書いてないはずです。そしてこれまではそういう看板もよく見られました。しかし看板でそれが曖昧にされていたり、肩凝りや腰痛など他の病態や、まして椎間板ヘルニアなどの病名を羅列して堂々と法律を犯している施術所は、人格だけで動いているのではないことは明らかで、患者さんにとっても業界にとっても要注意ではないでしょうか。患者さんが施術所の限界を知っておられ、それでもやはり施術を選択し、柔道整復師による『運動療法や電気療法、生活指導』を受け入れるのなら、それを止めることも責める事も出来ません。
その代わりその結果については、患者さんが自分の責任で負うていただかねばなりません。それが分かっているから接骨院から病院に来られる方は、あまり接骨院に通っていたことを自分からは話しませんし、柔道整復師を裁判所に訴えることもなかったのです。
しかし、最近は権利意識の強い患者さんが増えており、その中には施術所で結局騙されていたと怒り出し、何かアクションを起こさずにいるものかとはらはらさせる血の気の多い方もいます。しかし現実には患者さんのすみわけが徹底していて、薬と注射に医院に通いつつ、しかも(違法であることを知ってか知らずか)同じ日に施術所にも通うしたたかな方が多数おられます。又、医院の中には収入には全く繋がりませんが、患者さんへの出血サービスと割り切って柔道整復師を雇用しているところも少なくありません。
要するに柔道整復師のもとで施術を受けることを選択された方は、うちの先生は医師ではないので診断に責任が取れないことを知っていなければならない、施術される方はそれを知らせておかなければならないということです。医師の同意書と同じです。今は病院ではリハビリテーションの手技にもいちいち患者さんの同意書を必要とします。施術の同意書がいるのではないでしょうか。しかし、法的に対象疾患ではないものに施術を施す同意書を取れといっても無理な話かも知れません。せめて『柔道整復師の手はレントゲンよりも正確だ』、などと言わないで、痛みはとりあえず楽にしてあげますが、医者ではありませんから病気を発見したり、その進行を食い止めることは出来ませんし、考えてもいません、それでもよろしいですか、とまず問うべきではないでしょうか。

浜西千秋 近畿大学医学部教授(整形外科)の御意見に対する私見

相山接骨院

からだサイエンス誌2002年6月号掲載