熊のような犬に襲われて,主人が命がけで助けてくれた日

 ある日,神通川の富山火力近くの堤防を主人の散歩に付き合っていた時のことである。主人は俺が付き合う時は必ず神通川の堤防へ散歩に行くことになっている。この日はたまたま萩浦橋から海の方へ行くことにしたようだ。
 
 散歩の途中で堤防の下に真っ黒の小熊のような大きさの二匹の犬を見かけた。二匹は飼い主に首輪をつかまれるような格好で俺とピタッと視線があってしまった。いやな予感がした。と,その時である。そのうちの1匹が飼い主の手を振り払って,一目散にこちらへ向かって堤防を駆け上がって来た。それを見た主人と俺はこのうえない恐怖で全身が震えた。そのとき,主人は咄嗟に俺を抱えあげた。俺は主人の咄嗟の判断に助かったと思った。その熊犬は唸りながら,抱えられた俺めがけて,主人に体当たりしながら飛びついてきた。主人は,俺をかばうように,体をまわしながらその体当たり攻撃によろけながら耐えていた。そのうちにそいつの勢いに押されて,堤防の斜面をおりながら必死の護衛をしてくれた。俺といえば,ただ主人に抱えられて恐怖で声も小便もでなかった。

 さすがに主人は強い。しばらくの間,主人が俺を守って頑張ってくれていると,熊犬の飼い主がもう一匹の熊犬の首輪をつかんだまま,あわててこの凶暴な熊犬をつかまえに来た。その後,主人が熊犬の飼い主におそろしい声でどなっていた。相手はただひたすらあやまっていた。当然である。このような常識のない熊犬の面倒をまともに見れないものが熊犬の飼い主たる資格はない。反対に子分になっていれば良い。それで知能の低い猫の主人にでもなっていれば良い。
 
 俺の主人のように理知的な者の所には俺のような良犬が来るのである。後から聞いた話であるが,主人は40kg近くもあるその熊犬が飛びかかって来た時,その熊犬の顔を思い切り殴ろうと思ったが,効き目がない時にどうなるか怖くてやめたと家族に話していたようである。実際にそうしていたらどうなっていただろうか。とても主人がそいつに勝てるようには見えなかったが。(H10夏)

イラストは主人の指導による奥さん作