教材研究編 森鴎外「舞姫」

※ この文章は「現代文指導法の研究 第2集」(昭和60年教育研究グループ奨励事業 研究成果報告書 1986.3.29 )に書いたものをホームページ用にほぼそのまま収録しました。現在の文学研究をふまえていませんが、識者のご助言をまちたいと考えます。本編の「希求する心」と併せて読んでいただきたい。
 文中「読者」とあるのは、一般の方の読みやすさを考えてであり、適宜、生徒と置き換えていただいて結構である。


さまざまな解釈を楽しむ

 文学作品を読む楽しさは、さまざまな解釈を試みるダイナミズムにある。読者は 「作品の前の平等」であり、生徒と教員が顔を合わせる学習の場では、実に多様な見方と出会うことができる。
 一見、誤読に見える中にも、そう読む理由があり、読者の人生が作品と響きあった結果と考える。本稿も、読者たちの素朴な疑問に促され、励まされて完成した。こうした文学作品の享受の楽しみは、学習の場に臨むものの役得といえるだろう。

作品の共感をはばむもの
 森鴎外の「舞姫」はさまざまな解釈が交錯する作品であるが、共感するには、いくつかのハードルがある。
読者は次のような点でつまずきがちだ。
 文語文を読み慣れていない
  現代人にとって苦手の文語文で長文であり、読み通す息の長さが必要なこと。
 作品の時代背最を理解し、共感していない
  豊太郎の「立身出世主義」を単なるエゴイズムと考えての反感
  エリート官僚の挫折という一面的な理解
 小説の特性を理解していない
  限定視点(二元的、内的とも)による作品であり、語り手が全知でなく、他者の内面は間接的に描かれていることに気付きにくい。
 人物像への不信、筋立てへの疑念を感じている
  豊太郎が自分の悩みをエリスにうち明けず、不安に気付かない誠実さへの疑念
  また、エリス像が「美化されすぎ」で不自然と感じること。
  エリス発狂が「唐突さ」であり、作者の作為と考えること。

 読者の感想によると、以上の問題点から、主人公に共感する手掛かりを見つけられず、物語の筋や、場面場面での心理に入り込めないことが多いように思う。


学習の目標
 a 明治期の文語文を読み慣れて、興味とともに読み通すこと。
 b 限定視点の小説であることを意識すること。
 c 登場人物の心理の推移を追うことで、共感すること。
 d 近代史、近代文学史上における森鴎外の存在をつかむこと。
 e 文学現象に対する多様な視点と興味を持つこと。


学習の構成と評価
 以上の目標の達成をめざして、次のような授業を試みた。
1 使用教科書   角川書店「現代文」
2 単元名     5 近代の小説(一)「舞姫」
3 単元の学習指導計画
@ 年間学習指導計画への位置づけ・休業時の課題
 「舞姫」を読むには充分な下調べが必要だ。そのため特に年間学習指導計画の中に位置づける際に、春季休業や、夏季休業時などを利用して課題を提示し、生徒が問題意識を持って作品にあたるよう条件整備することが必要になってくる。
 また、それぞれの生徒の読みを班活動の中で出し合い、他の班員と意見を交換することで多様な観点を見につてけ、発表を通じて確認することを目標としている。
 課題プリントは、教材観にそって作成したものである。生徒がグループで担当するようにしたい。 (資料1)
A 班分けと、それぞれの班の目標設定、討議。(2時間)
B グループによる発表学習(9時間)
 学習の目的と方法をはっきり自覚させるため、各班の協議のもと、プリントを作成し、発表はそれにもとづいて行う。
   1 段落のまとめ    2 語句・表現の調査  3 課題プリントの答え
   4 自分達の疑問点   (小説に基づいて会話、独白、手紙等の再現、イラストなどの制作)
 など、他の者にもわかるよう丁寧に書くこと、担当部分についての共通見解を作り、全体との繋がりをみておくこと、自分達の課題を大事に考えることを指示する。
 発表の際には、登場人物の、会話、独白、手紙、等を再現してみるなど、他のクラス員にもよくわかってもらえるよう工夫を凝らすこと。発表者以外は、その部分の質問を用意してくること。その時間に読む部分の理解にむけて努力することを提示する。
 その他、鴎外年譜の作成の指示や、また希望者には「舞姫」の中の名場面例を参考にし、カットやシナリオを作ってみることを提案する。   (資料2)
 以上の活動を通じて、生徒が主体的に関わりをもつことが重要と思われる。
C漢字の小テストによる語句の把握(段落毎、各週始め)
D「舞姫」についての感想文・小論文集の作成。
 授業の終了後に、感想文の提出を義務づけ、各生徒が、どのように作品と関わったかを評価する。
 テーマは、「舞姫を読んで」 「『青春について』と『舞姫』」など、森鴎外、「舞姫」、に関係するものならば自由とする。
E「普請中」などの実カテスト問題の実施。
 また、時代背景、作者の年譜などについての知識の定着をみるために、実カテストなどで鴎外の他の作品をとりあげ、採点講評を通じて全体的な理解を深めたい。


教材観
 以下、課題例(資料1)にもとづいて、導入部分及び登場人物について検討する。各々の人物の性格がわかってくると、小説は面白くなってくる。

導入部分
 ここでは、導入部について簡単にまとめることにしたい。
 小説「舞姫」の中心的な事件が全て終った後の憂愁のうちに、この部分が書き出される。冒頭の「石炭をばはや積み果てつ」以下、明治時代についての予備知識なしでは理解できないような事柄が示される。物語の世界に身を置くためには、この導入部分で時代背最、地理関係などを充分に把握する必要があるだろう。
 本文中でも「路用」の多額な事が切実に語られているが、当時のドイツと日本との距離感は、船旅自体の悠長さについての理解とともに、生徒らの想像力を充分に喚起する必要がある。
 また主人公が、新生の国家である母国の期特を担って留学の途についたこと。国家の期待に見合う自負もあり、五年前勇躍してセイゴンにやってきたこと、そして今やその頃と全く対照的な憂愁を抱いていることも、併せて検討したい。西欧を離れ日本に近づくに従って、主人公の愁いは次第に深くなる。
 この思いを紛そうという執筆動機を述べている点でも重要な部分である。

豊太郎の心理を探る 
エリスの心理を探る 
           ※ 本編 「希求する心」を参照してください。
その他の登場人物の心理を探る  ※ 豊太郎の母、エリスの母、相沢


森鴎外「舞姫」課題集   (資料1)

 日頃読み飛ぱしがちな小説を、精読するための指針としてこの調題をつくりました。まずなにはともあれ本文を読み通してください。その上でこれらの問いにあたってみましょう。
 この休み期間中に、一と二の課題のそれぞれについてノートに書いてみて下さい。また三は一二を含んだ段落毎の課題です。君達にグループ発表してもらいますから教科書の該当する簡所に印をつけておいて下さい。
 ここに掲げた問いは、文章を読む際の基本的な視点をもとにしています。
 見落としていた疑問点は思いの外に多い筈です。君自身になかった問題意識を大事にし自分の物としましょう。自問自答の過程を通じて、文章と自分自身の内なるものとを深く呼応させて下さい。
 この課題集を通じて、君達が文章の読みを一層登かにする事を願ってやみません。
 教科書に基づいて、段落分けをしておきます。(課題番号、教科書対照表省略)


課題集一 豊太郎の心理を探る。

  各課題の下の(1)〜(80)は、「課題集三 全体課題」の番号です。

(a) 第U段の始めから、主人公の家庭と生い立ちをまとめよ。またそのことで主人公が自分の将来にどんな期待を抱いていたかを想像せよ。(8)
(b) 「我が名をなさんも、我が家を興さんも今ぞと思う心の勇みたちて」とあるが、「名をなす」『家を興す」とはどういうことか。また、その時が何故「今」であるのか。 (9)
(C) どうして主人公は「あだなる美観に心を動かさじの誓い」をもっていたのか。前の部分と関連させて考えなさい。(14)
(d) 主人公の生きかたや考えかたが留学後どのように変ったか、「立身出世」「所動的」「自我」「歴史・文学」の四つの語句を用いて書こう。(二百字程度) (20)
(e) 「何故に一顧したるのみにて、用心深き我が心の底までは徹したるか。」「臆病なる心は憐憫の情に打ち勝たれて、」について、それまで主人公は何に対して「用心深く」「臆病」だったのか。
 又、この少女に対してはどうだったのか。 (25)
(f) 母の最後の手紙の内容をここに記せないということ、江戸時代の厳格な武家の出である母が、その手紙を書いた直後に死んでいるということから見て、
 @母の死の原因は何であろうか。
 Aまた仮りに母の死に、何等かの意図があったならば、それは何か。母の立場から書いてみよう。 (36)
(g) 西洋の自由な自我に目覚めてしまっている主人公は、こうした母の死と、その裏に隠された愛をどのように受けとめざるを得なかったか。主人公の立場から書いてみよう。(37)
(h) 主人公が自分の免職をエリスに告げる際に「かれが身のことにかかわりしを包み隠し」たのはどういう気遣いからか。(39)
(i) 「余が悲痛感慨の刺激によりて常ならずなりたる脳髄」とは、主人公の心のどんな状態をいうのか。 (41)
(j) 免官された時点で日本に帰ったなら、豊太郎はどうなるのか。(42)
(k) 「憂きが中にも楽しき月日を送りぬ。」について「憂さ」と「楽しさ」を書いてみよう。 (44)
(1) 「わが学問は荒みぬ」を二度も繰り返している事について、
  @ ドイツに留まった主人公にとって「学問」をすることはどんな切実な意味を持っていたのか。
  A 何故それができなくなったのか。
  B 「学問」以外に身につけたものは何だったのか。(47)
(m) 子供ができることは登太郎にとって何を意味するのか。「さらぬだにおぽつかなきは我が身の行く末なるに、もしまことなりせぱ、いかにせまし」の部分から考えてみよう。(48)
(n) 「大洋に舵を失ひし舟人が、、、我が中心に満足を与へんも定かならず。」この比喩を豊太郎の現在の状況に即して説明しよう。(55)
(O) 相沢に「この情縁を断」とうと約束してしまったのは何故か。 (56)
(p) 「心のうちに一種の寒さをおぼえた」とはどんなことか。(57)
(q) 主人公がロシア行きを承諾したことは、彼の心情にどのような変化をもたらしたか。 (60)
(r) 「余をらつし去りて青雲の上に落としたり。」とあるが、ドイツとロシアでの境遇を、建物、人物、室温、待遇、等で対比してみよう。 (65)
(S) 「ああ、余はこの文を見て初めて我が地位を明視し得たり。」とあるが、どのような地位を悟ったのか。エリスとの関係、大臣との関係、及ぴ帰国への主人公の望みから述べよ。(69)
(t) 『我が心はなほ冷然たりしか」とは何について、どういう思いが豊太郎の心に湧いてきたのか。(70)
(u) 「承りはべり」と答えたことについて、
 @主人公の胸にはどんな葛藤があったのか。
 A又、主人公のどんな弱さが源因か。(74)
(V) 「ただただ我は許すべからぬ罪人なりと思ふ心のみ満ち満ちたりき」とあるが、誰に対してどのように「罪人」なのか。 (75)
(W) 「四階の屋根裏」の燈火と、それを見上げる主人公、舞い散る大きな雪片という印象的な光景の暗示するものは何か。 (76)
(X) 「この恩人はかれを精神的に殺ししなり」「我が脳裏に一点の彼を憎む心、今日までも残れりけり。」とあるが、相沢を豊太郎が憎むことから、豊太郎がエリスに対してどんな決断をしようとしていたと想像できるか。  作者が別の場で書いた次の文章をもとに説明しなさい。
「太田は弱し。某大臣に諾したるは事実なれど、彼にして家に帰りし後に人事を省みざる病にかかることなく、又エリスが狂を発することもあらで相語るをりもありしならぱ、太田ば或いば帰東の念を断ちしも亦知るべからず、其かくなりゆかざりしは僥倖のみ。」(「舞姫」につきて気取半之丞に与ふる書」) (80)


課題集二 エリスの心理を探る
(a) 本文中の言葉「かれは驚きて『君はよき人なりと見ゆ』おぽえず我が肩によりしが恥じて我がそばを飛ぴのきつ」を手掛かりに、エリスがこの時点で主人公をどう思っているのか考えなさい。(25)
(b) 父の死後、信頼していたドイツ人の男性の言動やそれを肯定してしまう母の在り方は、エリスの心に何をもたらしたか。(32)
(C) 自分を愛し守ってくれた父の死に際して、代償を一切求めずに金を貸してくれたのみか、文学の「本」を貸し、「趣味」を教え、「なまり一を正してくれる東洋人に対して、エリスはどんな気持ちを抱いたのか。 (38)
(d) 学費を打ち切られた豊太郎を、貧しい我が家にひきとることについて、
 @母はどう言っただろうか。 また、それに対して自分の気持ちを貫いたなかには
 Aエリスのどのような心情と意志があるのだろうか。
 母に打たれて泣いていた時と比べてどんな変化があるのか。(43)
(e) 『今朝は日曜なれぱ家にあれど、心は楽しからず。」という豊太郎の気持ちをエリスはどう感じているのだろうか。想像しよう。(49)
(f) 「我ももろともに行かまほしきを」と冗談を言っていたエリスが、「なにとなく我が豊太郎の君とは見えず」、、「よしや富貴になりたまふ日はありとも、我をば見捨てたまはじ。」と言い始める心の動きをとらえよ。(51)
(g) 病の身をおして「凍れる窓を開け、乱れし髪を朔風(北風)に吹かせて」豊太郎の乗った馬車を見送るエリスの心にば、どんな感情が湧いているのか。 (52)
(h) ロシア行きを「なし難い」事と思っていた主人公の予想に反して、エリスが「旅立ちのことにはいたく心を悩ますとも見え」なかったのは何故か。エリスの手紙の中から探ろう。(64)
(i) エリスの「否」という手紙の書き出しは何を否定しているのか。「君を思ふ心の深き底をば今ぞ知りぬる。」という続きの文章の「今ぞ」に注目して以前はどうだったのかを考えてみよう。(66)
(j) 「母とはいたく争ひぬ。」とあるが、何について、それぞれどう主張しあったのか。想像してみよう。(67)
(k) またその結論はどうなったのか。豊太郎がペルリンに帰ったあとどういう予定を立てているのか。(68)
(l)「帰り来たまはずぱ、我が命ぱ絶えなんを。」という言葉に見られる、エリスのその時までの不安と期特を書いてみよう。(71)
(m) そうした不安と期待の交錯が表現されている、エリスの言葉を本文中から檀してみよう。(72)
(n) 豊太郎の帰りを待っているエリスの描写があるが、彼女にとって「襁褓」を縫うことはどんな意味を持っていたのだろうか。主人公がロシアに行った時からその習慣が始まっていることを思いあわせて考えよ。(77)
(O) 「かくまでに我をぱ歎きたまひしか。」という言葉は、豊太郎へのどういう恨みから発しているのか。(78)
(P) エリスの発狂の必然性を考えてみよう。(79)



課題三 全体課題

T 導入部
(1) 「石炭をばはや積み果てつ。」という冒頭の一文について。
 @当時の船の動力源は何か.また、
 A長い船旅のどういう時点にいるのか、の二点に注意しよう。
 B叙実の背景から感じとれる太田豊太郎の感慨を「はや」と完了の「つ」に注意してとらえよ。
(2) 「五年前」にこのセイゴンの港まで来た頃の主人公はどんな思いを抱き、どのように行動したか『心ある人はいかにか見けん」をもとに考えよ。
(3) 今回、帰国の途上で日記が書けなかった理由は、何であるというのか。本文中からそれに該当する箇所を抜き出せ。
(4) 「学問こそなほ心に飽き足らぬところも多かれ、浮き世の憂き節をも知りたり。」について
 @海外留学してきた先での「学問」に対するどういう反省か。
  ※ 「こそ己燃形」は逆接で次の文章につながる事が多い。
 A「昨日の是は今日の非なる我が瞬間の感触」とあるが、どういうことか。
(5) 「人知らぬ恨み」の「恨み」は、単に「だれかを恨む」ということではなさそうだ。どういう意味か。
(6) 「これをのみあまりに深くわが心に彫りつけられたれぱさはあらじ」とは主人公の体験がどんな影響を心に残したのか。「これ」「さ」の内容を考えて答えよ。
(7) この段は『舞姫』全体でどんな時間的、空間的位置を占めているのか。小説の構成上から答えよ。


UA
(8) 第二段の始めから、主人公の家庭と生い立ちをまとめよ。またそのことで主人公が自分の将来にどんな期待を抱いていたか想像せよ。
(9) 「我が名をなさんも、我が家を興さんも今ぞと恩う心の勇みたちて」とあるが、「名をなす」「家を興す」とはどういうことか。また、その時が何故『今」であるのか。
(10) 「検束に慣れたる勉強力」とはどういうことか。
(11) 「菩提樹下と訳する時は幽静なる境なるぺく思はるれど」について、菩提樹の下で釈迦が悟りを開いたという東洋的な物事の身方を持つ主人公は、ペルリンの町にどんな印象を持ったのか。
(12) 「胸張り眉そびえたる士官の、」の述部を抜き出せ。また、この部分(士官)と対になっている部分はどこか。
(13) 「初めてここに来し者の応接にいとまなきもうべなり。」について、そうなる理由を補って、解釈しなさい。
(14) どうして主人公は「あだなる美観に心を動かさじの誓い」をもっていたのか。前の部分と関連させて考えなさい。
(15) この時の主人公の仕事内容はどんなことか。


UB
(16) 「所動的、器械的の人物」について、
 @どういう意味か。   A何故そうであったのか。 Bそれから変ってきた理由は何か。
(17) 「奥深く潜みたりしまことの我」と「昨日までの我ならぬ我」とはそれぞれ何か。
(18) 「生きたる辞書」「生きたる法律』とはどんなことのたとえか。
(19) 「ひとたび法の精神をだに得たらんには、紛紛たる万事は破竹のごとくなるべし』を解釈せよ。
(20) 主人公の生きかたや考えかたが留学後どのように変ったか、「立身出世」「所動的」「自我」「歴史や文学」の四つの語句を用いて書いてみること。(二百字程度)
(21) このように変ってきた主人公に対して、官長はどのように思っているのか。
(22) また、留学生仲間の一群は、主人公をどう見ているのか。
(23) 自分の事を「有為なる人物」であり「あっぱれ豪傑」と思っていた主人公の、意外な性格の弱さを示す表現をこの四点抜き出せ。
(24) 主人公が周囲の人々とどんな関係にあったかを、簡条書きに整理して説明せよ。



VA
(25) 「何故に一顧したるのみにて、用心深き我が心の底までは徹したるか。」「臆病なる心は憐憫の情に打ち勝たれて、」について、それまで主人公は何に対して「用心深く」「臆病」だったのか。
 又、この少女に対してはどうだったのか。
(26) 本文中の言葉「かれは驚きて・・・『君はよき人なりと見ゆ』・・・おぼえず我が肩によりしが・・・恥じて我がそばを飛ぴのきつ。」を手掛かりに、エリスがこの時点で主人公をどう思っているのか。
(27) エリスの母親が私を見て「戸を激しくたてき」ったのは何故か。
(28) 「これ、過ぎぬと言ふ少女が父の名なるべし」を解釈せよ。
(29) エリスと母親はそれぞれ何を「言ひ争った」のか。想像せよ。
(30) エリスの家が貧しいことを示す描写を幾つか書きだしてみよう。」
(31) エリスにとっての緊急の問題はどういうことか。
(32) 父の死後、信頼していたドイツ人の男性の言動やそれを肯定してしまう母の在り方は、少女の心に何をもたらしたか。


VB
(33) 「ああ、なんらの悪因ぞ。」という言葉は何を指して発せられたものか。
(34) 「学問の岐路に走る」とは具体的にどんなことか。
(35) 官長が主人公を免職した理由を二つあげよ。
(36) 母の最後の手紙の内容をここに記せないということ、江戸時代の厳格な武家の出である母が、その手紙を書いた直後に死んでいるということから見て、
 @母の死の原因は何であろうか。
 Aまた仮りに母の死に、何等かの意図があったならば、それは何か。母の立場から書いてみよう。
(37) 西洋の自由な自我に目覚めてしまっている主人公は、こうした母の死と、その裏に隠された愛をどのように受けとめざるを得なかったか。主人公の立場から書いてみよう。
(38) 自分を愛し守ってくれた父の死に際して、代償を一切求めずに金を貸してくれたのみか、文学の「本」を貸し、「趣味」を教え、「なまり一を正してくれる東洋人に対して、エリスはどんな気持ちを抱いたのか。 (38)
(39) 主人公が自分の免職をエリスに告げる際に「かれが身のことにかかはりしを包み隠し」たのはどういう気遺いからか。
(40) 主人公とエリスが恋に陥っていく過程を、それぞれの周囲の人間との関係の中で捉えてみよう。
(41) 「余が悲痛感慨の刺激によりて常ならずなりたる脳髄」とは、主人公の心のどんな状態をいうのか。


VC
(42) 免官された時点で日本に帰ったなら、豊太郎はどうなるのか。
(43) 学費を打ち切られた豊太郎を、貧しい我が家にひきとることについて、
 @母はどう言っただろうか。 また、それに対して自分の気持ちを貫いたなかには
 Aエリスのどのような心情と意志があるのだろうか。
 母に打たれて泣いていた時と比べてどんな変化があるのか。
(44) 「憂きが中にも楽しき月日を送りぬ。」について「憂さ」と『楽しさ」を書いてみよう。
(45) 「昔の法令状目の枯れ葉を紙上にかき寄せしとは異にて」を、次の「今は、、、」と対句と見て、解釈しよう。
(46〉 「旧業をたづぬること」とはどういうことか。
(47) 「わが学問は荒みぬ」を二度も繰り返している事について、
  @ ドイツに留まった主人公にとって「学問」をすることはどんな切実な意味を持っていたのか。
  A 何故それができなくなったのか。
  B 「学問」以外に身につけたものは何だったのか。


WA
(48) 子供ができることは登太郎にとって何を意味するのか。「さらぬだにおぽつかなきは我が身の行く末なるに、もしまことなりせぱ、いかにせまし」の部分から考えてみよう。
(49) 「今朝は日曜なれぱ家にあれど、心は楽しからず。」という豊太郎の気持ちをエリスはどう感じているのだろうか。想像しよう。
(50) 豊太郎が「不興げな面持ち」を見せるのは何故か。
(51) 「我ももろともに行かまほしきを」と冗談を言っていたエリスが、「なにとなく我が豊太郎の君とは見えず」、、「よしや富貴になりたまふ日はありとも、我をば見捨てたまはじ。」と言い始める心の動きをとらえよ。
(52) 病の身をおして「凍れる窓を開け、乱れし髪を朔風(北風)に吹かせて」豊太郎の乗った馬車を見送るエリスの心にば、どんな感情が湧いているのか。
(53) この部分での豊太郎の相沢に対する思いをしるしてみよう。
(54) 相沢はエリスをどう考えているのか。
(55) 「大洋に舵を失ひし舟人が、、、我が中心に満足を与へんも定かならず。」この比喩を豊太郎の現在の状況に即して説明しよう。
(56) 相沢に「この情縁を断」とうと約束してしまったのは何故か。
(57) 「心のうちに一種の寒さをおぼえた」とはどんなことか。
(58) 大臣の豊太郎に対する気持は、どのように変化してきているのか。



WB
(60) 主人公がロシア行きを承諾したことは、彼の心情にどのような変化をもたらしたか。
(61) 「答への範囲」とはロシア行きについていうと、具体的にはどういうことか。
(62) 「強いて当時の心虚なりしを覆い隠し、耐忍してこれを実行することしぱしぱなり」の「当時」「これ」を明らかにして解釈しなさい。
(63) 座頭がエリスを除籍するといってきたのは何故か。
(64) ロシア行きを「なし難い」事と思っていた主人公の予想に反して、エリスが「旅立ちのことにはいたく心を悩ますとも見え」なかったのは何故か。エリスの手紙の中から探ろう。
(65) 「余をらつし去りて青雲の上に落としたり。」とあるが、ドイツとロシアでの境遇を、建物、人物、室温、待遇、等で対比しよう。
(66) エリスの「否」という手紙の書き出しは何を否定しているのか。「君を思ふ心の深き底をぱ今ぞ知りぬる。」という続きの文章の「今ぞ」に注目して以前はどうだったのかを考えてみよう。
(67) 「母とはいたく争ひぬ。」とあるが、何について、それぞれどう主張しあったのか。想像してみよう。
(68) またその結論はどうなったのか。登太郎がペルリンに帰ったあとどういう予定を立てているのか。
(69) 「ああ、余はこの文を見て初めて我が地位を明視し得たり。」とあるが、どのような地位を悟ったのか。エリスとの関係、大臣との関係、及び帰国への主人公の望みから述ぺよ。
(70) 『我が心はなほ冷然たりしか」とは何について、どういう恩いが豊太郎の心に湧いてきたのか。
(71) 「帰リ来たまはずぱ、我が命は絶えなんを。」という言葉に見られる、エリスのその時までの不安と期待を書いてみよう。
(72)そうした不安と期待の交錯が表現されている、エリスの言葉を本文中から捜してみよう。


X
(73) 「相沢に問ひしに、さることなしと聞きて落ちゐたり。」とあるが「さることなし」の内容は何か。
(74) 「承リはべり」と答えたことについて、@主人公の胸にはどんな葛藤があったのか。A又、主人公のどんな弱さが原因か。
(75) 「ただただ我は許すべからぬ罪人なりと恩ふ心のみ満ち満ちたりき」とあるが、誰に対してどのように「罪人」なのか。
(76) 「四階の屋根裏」の燈火と、それを見上げる主人公、舞い散る大きな雪片という印象的な光景の暗示するものは何か。
(77) 豊太郎の帰りを待っているエリスの描写があるが、彼女にとって「襁褓」を縫うことはどんな意味を持っていたのだろうか。圭人公がロシアに行った時からその習慣が始まっていることを思いあわせて考えよ。
(78) 「かくまでに我をぱ歎きたまひしか。」という言葉は、豊太郎へのどういう恨みから発しているのか。
(79) エリスの発狂の必然性を考えてみよう。
(80) 「この恩人はかれを精神的に殺ししなり」「我が脳裏に一点の彼を憎む心、今日までも残れりけり。」とあるが、相沢を豊太郎が憎むことから、豊太郎がエリスに対してどんな決断をしようとしていたと想像できるか。  作者が別の場で書いた次の文章をもとに説明しなさい。
「太田は弱し。某大臣に諾したるは事実なれど、彼にして家に帰りし後に人事を省みざる病にかかることなく、又エリスが狂を発することもあらで相語るをりもありしならぱ、太田ば或いば帰東の念を断ちしも亦知るべからず、其かくなりゆかざりしは僥倖のみ。」(「舞姫」につきて気取半之丞に与ふる書」)


 なお、この課題の作成にあた.って、富山中部高校第三学年国語科資料(一九七八年度、神島達郎先生による。) を参考にさせて戴いた。この場を借りて感謝したい。
 また、15年前の冊子をスキャナで取り込んだため、漢字等の読み込み間違いを直しきれていないと懸念される。お許しいただきたい。