翌日、俺たちは二人揃って長谷川組に向かった。何があるか分からないので装備はしっかりとしていく。
長谷川組に着くと普通にチャイムを押した。中からお手伝いさんらしい女性の声が出た。

「はい、長谷川です。」

「こんにちは、実は先日から俺の事を探してるらしいという話しを聞いてやってきた者なんだけど。」

言えば女性は少々お待ち下さいと言ってインターフォンは切れた。
しばらくして門が開いて中から数人の男たちが出迎えてくれた。その中に荒木もいる。

「どうも、荒木って人います?実は以前公園で襲撃されまして、荒木って人に頼まれたってそいつらが言ってたんだよね。」

言えば荒木が前に出た。

「私が荒木だ。話しは中で聞こう。」

そう言って荒木は背を向けた。俺とイルカさんは頷いて中に入る。いかつい男たちが見守る中、屋敷の中に入っていき、座敷に通された。
座敷では荒木と俺たち二人で対峙して座った。お茶が運ばれてきたが口を付けずにさっさと本題に入る。今日は俺もイルカさんも仕事を休んでここにきてるんだから。

「で、ホームレスを殺したのは組長のせがれかな?」

俺が言えば荒木は目を細めて俺を睨み付けた。そんな眼圧じゃ俺には効かないね。

「俺を襲撃させたのは口封じのつもりか?それとも牽制か?どちらにしろ効果はなかったようだけど。」

俺が言うと荒木はしばし瞑目してゆっくりと目を開けた。

「知ってどうする。」

「自首させる。カズさんは俺の知人だったんだ。無念を晴らさせて貰う。」

「そういうわけにはいかん。」

話しにならない。組長の息子だろうが犯罪は犯罪だ。ちゃんと罪を認めろ。
その時、どたどたと騒がしい足音がやってきて座敷のふすまが開いた。そして中に入ってきたのは組長の息子の一人だった。いかにもチンピラそうな奴だと思った奴だ。
そいつは俺とイルカさんを見てにやりと笑った。

「俺を捜してる奴らってのはお前らか。」

自分が犯人だと口を割った馬鹿息子に俺は笑い返した。横目に見えた荒木の眉間に皺が寄っている。ビンゴだな。

「カズさんを殺したのはお前だな。」

「あのホームレスのことか。だったらどうした。あいつら一人殺しくらいでかえって掃除になっていいたろうが。」

「理由もなく人を殺すのはよくないな。ちゃんと自首して罪を償え。」

だが馬鹿息子はにやにやと笑ってポケットから黒い鉄の塊を取りだした。なんだあれ。見たことはないが武器だろうか。

「坊ちゃん、そいつはしまって下さい。」

「うっせえよ荒木、こいつらも口封じしちまえばいいんだよ。」

馬鹿息子ががなりたてる。やはり武器のようだ。だがどういったものなのか分からない。飛び道具ではあるようだが。

「カカシさん、あの武器、見たことありますか?」

「いえ、イルカさんでもありませんか。」

教師をしているイルカさんは俺よりも武器については博識だ。過去のものから最新のものから把握して子どもたちに教えないと対戦する時に不利になるからだ。
そのイルカさんを持ってしても分からないか。異世界独特のものか。しかもこの世界は俺たちの世界よりも発達している。どんなものか想像もできない。

「おいお前ら、首をつっこんだこと、後悔するんだな。」

馬鹿息子がその鉄の塊をこちらに向ける。

「坊ちゃん、おやめ下さい。」

俺は懐からクナイを取りだした。イルカさんも身構える。

「ほう、さすがにヤクザの家に来るからには武器を持ってきたみいだな。だがそんなナイフみたいなもんじゃこいつにはかなわねえだろうよ。」

あそこまで言わしめるのだから威力は強いのかもしれないな。俺はイルカさんに目で合図した。イルカさんも頷く。
次の瞬間、バンバンと大きな音がしてものすごい早さで鉄の小さな玉が飛び出してきた。写輪眼でもなんとか判別できたくらいのスピードだ。脅威だな。
俺たちの体はふすまを突き破って廊下に転がり出た。が、その体は次の瞬間丸太となった。俺とイルカさんは変わり身の術で姿を隠したのだった。今いるのは中庭の庭木の影だ。

「やはり変わり身にしてよかったですね。あれは一体なんなんですかね。」

イルカさんが小声で話す。

「どうやらあの鉄の塊についている筒状の所から鉄の玉が高速で出るみたいです。あの丸太にある攻撃跡と言い、爆破音と言い、かなりの威力のようではありますね。ですがそれを操っている本人が隙だらけなのですぐに黙らせることはできそうです。しかし困りましたね。」

俺はため息を吐いた。イルカさんも苦笑している。

「自首するような人には到底思えませんね。」

イルカさんの言葉に俺は頷いた。改心しようという心がまるでないようだ。ここで警察に訴えても証拠がないので逮捕まで踏み込めないんじゃなかろうか。

「困りましたね。」

「ええ、困りました。」

「これ以上困ることなんかあるのかってばよ?」

第三者の言葉に俺たちは振り向いた。そこには鮮やかな金髪と、黒髪の元部下がいた。

「な、ナルトっ!!それにサスケっ!?」

イルカさんが思わず大声でその名を呼んだ。あ、イルカさん、俺たち隠れている最中だったのにそんな大声出しちゃ...と思って屋敷の方を見てみれば、俺たちを探していたであろう奴らが一斉にこちらに顔を向けた。あ、ばれちゃった。が、イルカさんはそれどころではないのか口をあんぐり開けている。

「お前たち、どうしてここに...。」

「あー、一時撤退だなこりゃ。」

「異世界にきてまで潜入捜査していたのか。」

サスケが怪訝そうな顔をしている。仕方ないだろ、これは不可抗力なんだよ。
俺はイルカさんとナルトとサスケの手をつかむと瞬身を使ってその場を後にした。4人も同時って結構疲れるな。そして俺たちのアパートに着いた。

「あれ、ここどこだってばよ?」

ナルトかがきょろきょろと物珍しそうに辺りを見回している。

「俺とイルカさんの愛の巣だ。」

堂々と答えてやった。

「へえ、愛の巣かあ、なんかいいなあ。俺も作りたいってばよ。」

「ウスラトンカチ、作るにはまず相手が必要だろうが。」

なんて和やかに話してはいたが、大人4人でいるには少々狭い空間ではあった。

「まあ、座れ。茶でも煎れるからな。」

ナルトははーいと、と言ってイルカさんを座らせて自分も卓袱台を出して座った。サスケは壁によりかかっている。座らなくていいようだ。
俺はてきぱきと茶を煎れると卓袱台の上に置いた。

「ナルト、早かったな。俺はもっと時間がかかるかと思ってたぞ。」

「ひっでー。俺だって上忍だし、綱手ばあちゃんとか、ツテはそれなりにあるんだぜ。それにサスケも遠征から帰ってきたことだし。」

俺の入れた茶を飲みながらナルトはにしし、と笑った。
サスケは興味なさげに窓の外を眺めている。
里抜けして大蛇丸の所に行っていたサスケだったが、あれからナルトたちの説得などで里に帰ってきていたのだが、里抜けした処罰として激戦区の遠征に行かされていたのだ。いつ戻るか分からないので今度会えるのはいつだろうな、とイルカさんと話したこともあったっけ。

「ちょっ、ちょっ待って下さいよ。どうしてカカシさんはそんな平然としてるんですか?それにナルトだって。お前、俺たちが里抜けするって知ったのはあの夜が最初だろ?どうしてそんなにカカシさんと示し合わせたみたいな会話ができるんだ?だいたいどうやってここに来られたんだ。」

「まあまあイルカさん、実はこれが鍵なんですよ。」

俺は懐からクナイを取りだした。少し変わった形をしているそのクナイはかつて俺が先生から貰ったものと酷似している。

「そのクナイ、自作のものですか?見たことのないもののようですけど。」

イルカさんの言葉にナルトが誇らしげに頷く。

「そ、俺が自分で作ったクナイなんだぜっ。」

「これは時空間忍術で使う術式の書いてあるクナイです。これを目印にしてナルトはここまでやってきたんですよ。まさかサスケまで来るとは思わなかったがな。なんで来たんだ?」

「俺の術式じゃあ自分一人運ぶので精一杯だってばよ。カカシ先生、よくイルカ先生引き連れてこの世界に飛べたよなって、俺、あれからカカシ先生のこと少し見直したんだってばよ?」

いつものようにチャクラ切れで一週間寝込んだことは言うまい。

「そんで、色々やってみてサスケの写輪眼と俺の時空間忍術なら4人を一緒に連れて帰るのもそこまで負担はかからないだろうってことになってさ。」

にしし、と笑うナルトにイルカさんの体が強ばった。

「お前たちは、俺たちを連れ戻すためにここに来たのか?」

イルカさんの表情が硬くなる。いざとなったら闘うつもりなのか、緊張感が迸る。

「ち、違うってばよイルカ先生。」

ナルトが慌ててわたわたとしている。あはは、こいつは相変わらずおもしろいな。

「おいカカシ。お前の説明不足だろう。今までこういうことになるかもしれないとイルカ先生に話したことはなかったのか。」

サスケが冷静にツッコミを入れる。う、そう言われるとなあ。でもあんまり期待させちゃうと後々辛くなるかと思ったんだから仕方ないじゃないか。

「カカシさん、どういうことなんですか?」

イルカさんがにこやかに聞いてくる。目が笑っていない。

「あの、俺だってそう確信してたわけじゃないんですよ。ほら、里抜けする時にナルトからこのクナイをもらったんで、もしかしたら俺たちの里抜けについて里が協議してお咎め無しで帰れる算段がつけば知らせてくれるかなって思っただけで。」

「つまりカカシさんはいつかナルトが来て全てに片が付いて帰れるかもしれないということを自分だけが知っていたと言うことなんですね?」

う、そう言われると悪いことした気分になるけどさ。

「あの、すみません。」

俺はしゅーんとして項垂れた。

「これが7代目火影になると噂されていた男だとは信じられないな。」

サスケの漏らした言葉が余計に心にぐさりときた。

「それはともかくさ、さっきはなんであんな所に隠れてたんだってばよ?別にこの世界で犯罪者してたわけじゃないんだろ?」

ナルトが心底不思議そうに聞いてきた。俺はおおまかな説明をしてやった。ナルトは自分の経験から、そういった弱者に対する虐げだとかにかなり敏感なのでできれば話したくなかったんだけどな。

「そいつらぶっ飛ばしてやんないと気が済まないってばよ。」

ナルトは自分の握り拳をもう片方の手のひらで受け止めてぎらぎらと目を光らせた。

ああ、言うんじゃなかったかな。余計にややこしくなりそうだ。

「お前暴力的だねえ。イルカさん、どう思います?」

「反省の余地なしでしたからね。まあ、それなりに体験してみるのもいいかもしれませんね。」

「うーん、そうだなあ。サスケがいるんだったら万華鏡写輪眼の月読で精神崩壊一歩手前までするってのはどうだ?」

「カカシ先生、なかなかえぐいってばよ。」

ナルトが言うのを聞いてまあ、暗部時代が長かったんだからそれなりに薄暗い方法を思いついちまうのは仕方ないよな、と思った。

「うーん、血が流れるよりは綺麗に終わるかと思ったんだがな。」

「じゃあ二つともの方法を取ればいいんじゃないのか?ナルトの言うように少しは痛みってものを体感させてやって精神的に追い込めばいいだろう。別にどちらか一つの方法しかできないわけじゃあるまいし。」

サスケの言葉に一同は頷いた。

「あ、ところで里の見解はどうなったんだ?」

気になっていたのか、イルカさんがナルトに聞いた、だがナルトは嬉しそうに笑った。

「俺が7代目火影になることなったってばよ。」

なるほど、予想通りだったな、と俺は思ったがイルカさんは意外だったのか、目を見開いた。

「お前、とうとう火影になったのかっ!?」

「うん、イルカ先生に一番に報告はできなかったけど、俺、ちゃんと火影になったってばよっ。」

「そっか、お前、火影になったのか、そうか、良かったなあ。」

イルカさんは涙目になってナルトの頭をがしがしと撫でた。よっぽど嬉しかったらしい。ま、俺も嬉しいけどな。

「でもそしたら6代目火影の娘さんはどうなるんだ?」

「ああ、色々もめたみたいだけど、忍びにもやっぱり選ぶ権利はあるってことで白紙になったってさ。里抜けするほど嫌だったのかって一部ではカカシ先生が非難されてたこともあったけど、イルカ先生って恋人がいたんだから仕方ないってみんな大体寛容だってばよ。」

ナルトの言葉にイルカさんが苦笑した。まあ、一緒に里抜けしたんだから俺とイルカさんが恋人同士だってことは里中にばれてしまったことだろう。俺は別いいけどね〜。

「で、どうする。今すぐ決行して里に帰るのか?」

「いやいや、立つ鳥跡を濁さずってな。ちゃんと後始末もしたいから数日待っててくれ。里に帰る日にあの馬鹿息子にはおしおきする。そうだな。今は寒いがお前らなら野宿でも平気だろ。」

「うわ、横暴だってばよ。」

「だってここで大人が4人は寝転がれないぞ。俺とイルカさんが一つの布団入ったとしても、」

が、途中で俺の口を塞いだイルカさんが言葉を無理矢理遮った。

「あああああっ、どうせこの世界とおさらばするんなら溜めていたお金もいらないんだからホテルにでも泊まってこい。これはこの世界のお金だっ。」

イルカさんは自分の持っていた財布をナルトに手渡した。ナルトは素直に喜んでいる。この世界を見て回れるのが嬉しいのだろう。

「俺たちは外でもかまわない。この位の寒さなら耐えられる。」

サスケが言ったがナルトがぶーぶーと文句を言う。

「いいじゃん。少し見て回ろうぜ。火影になったら忙しくてなかなか遊べないんだからさ。」

ここには遊びに来たのかナルトよ...。ま、いいけどね。

それからナルトはイルカさんからお金の額の見方などを習ってサスケを連れてアパートから出て行った。その際にベストは脱いで袋に詰めて持っていった。そうすれば多少は違和感はあってもそれほどおかしな恰好ではないだろう。

「部屋がやっと広くなりましたね。ナルトなんて俺よりでかいんだからせまいことせまいこと。」

俺はへらへらと笑った。だがイルカさんは笑ってくれない。う、やっぱり怒ってるのかな。

「あの、ごめんね、イルカさん。黙ってて。」

素直に謝るが、イルカさんは硬い表情のままナルトたちの飲んでいった湯飲みを持って流し台へと向かった。俺は自分のぶんの湯飲みを持ってイルカさんの背中を追いかけた。

「あの、イルカさん?」

「本当はそんなに怒ってません。俺、もう二度と木の葉には戻れないって思ってたんです。両親や3代目の眠る慰霊碑にも挨拶できないままこの世界に来て。でも後悔はしませんでした。俺、カカシさんとならどこでだって一緒にいられるなら大丈夫だって自分で自分を奮い立たせてたんです。この世界でもちゃんと暮らして行こうって。けど、俺、やっぱり木の葉に帰れるって思ったら、嬉しいんです。それってなんかカカシさんに対する裏切りみたいで、さっき怒ったのだって、そんな自分の心の裏返しなのかもしれません。」

「自分を責めてたの?」

イルカさんは背中を向けたまま頷いた。俺はその背中を後ろから抱きしめた。

「イルカさん、誰だって自分の愛する里を、故郷をやむなく離れるのは辛いですよ。俺はね、それでも俺についてきてくれたイルカさんの気持ちが嬉しいんです。現にあなたはここにいる。黙っててごめんね。俺の方こそ自分勝手だった。でも、イルカさんのことだけは絶対に誰にも譲ったりはしませんから。それだけはこれからも許して下さいね。」

俺はイルカさんの首筋にキスを落とした。イルカさんはくすぐったそうにしてこちらに顔を向けてくれた。良かった、ちゃんと笑ってくれてる。

その日、この世界に来てはじめて、と言うかやっと、と言うか体を重ねた。やっぱり知らない土地で不安を抱えらながらの生活ってのは余裕がないもんだからねえ。無理強いはできないし。
俺は久しぶりのことで少々疲れて寝入ってしまったイルカさんをぎゅっと抱きしめた。
ま、これで俺とイルカさんが離れられないってことが証明されたわけだ。これでこれからは余計なちょっかいは出して来ないだろう。ま、出してきてもまた逃げるだけなんだけどねえ。