− flaver 2 −
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実は、と言えば何事かと思われるだろうが、アカデミーにも休みというものがある。今現在もその休みのまっただ中にあり、夏休みという期間になる。が、生徒たちは休みだが、教師もそうかと言えば決してそうではない。新学期の準備に始まり、教師としての研修なんかもある。確かに授業はないので出勤時間や、平日の望んだ時に休めるのはお得なような気がしなくもないが、決してそうではない。休み期間、それは教師にも一般普通の任務が転がり落ちてくる期間でもあった。 「よし、ここで一旦休息だ。」 上忍のくの一、カエデが足を止めた。そして木の根元に降り立った。イルカたちも足を止めてカエデのいる場所の近くへと足を運ぶ。 「カエデ上忍、里まではもうすぐそこです。一気に帰りませんか?」 イルカと同じ中忍のハツガが息も乱さずにカエデに言った。 「ここまで来れば里までは目と鼻の先だけど、だからと言って休息を怠って疲労した所に敵につけ込まれるのは癪だわ。最後まで気は抜けないからこそ、取れるときに取る休息は大事よ。心配しなくても休息が終わった後の移動は里まで一切休まないから。」 カエデはそう言って竹筒の水をコクリと飲んだ。 「しかし俺は初めて知ったよ。夏休みは教師も夏休みなんだと思ってた。」 イルカの隣で汗を拭っていたザクロがそう言うのを聞いて、イルカは苦笑いした。そう思っているのはきっと、お前だけじゃあるまいよ。 「夏休み期間は普通の授業期間よりもハードだからなあ。」 この任務で3件目だ。しかもランクはBが多いが、こうやってたまーにAも紛れ込んでくる。忍びとしての才を認められている、と嬉しく思う気持ちもあるが、いかんせんこの暑さと連日の研修やら花の水やりやらで、少々疲れ気味ではあった。 「はあ、この任務が終わったら湯治にでも行きたいなあ。」 「イルカ、お前このくそ暑い季節に湯治とか言うなよっ。どうせ入るならプールとか水風呂だろ?」 言われてイルカは確かに普通の人はそうなんだろうなあ、と思った。 「でも俺温泉好きだからなあ。」 「温泉好きにも程があるって。」 ザクロがケタケタと笑う。明るい性格のザクロは今回の班の中でもムードメーカー的存在だった。 「さ、おしゃべりはそこまでにしてそろそろ行くよ。」 カエデの言葉にイルカたちは立ち上がる。そして里までの道無き道の獣道を跳躍する。 温泉かあ、そう言えば前回行ったのは数ヶ月前の雷の国の温泉巡りが最後だったな。あれは良い湯ばかりだった。一ヶ月もかけての湯治、もうあんなゆったりとした旅は忍びを引退しなければできないだろう。 「イルカ、楽しそうだな。」 ザクロに言われてイルカははっとした。自然と顔がにやついていたらしい。うわー、俺なに考えてんだよ任務中に。これじゃあ教師失格だよっ。任務任務っ。 「ま、俺も里に帰ったら恋人が待ってんだけどな。」 「いや、俺は恋人なんていないって。」 「またまたぁ、顔がにやけてた理由が色恋以外になにがあるってんだよっ。」 「ザクロ、イルカも、私語が多いぞっ。」 カエデに言われて2人は黙り込んだ。ああ、上忍の方にまで注意を受けるなんて、本当に教師として俺はこれでいいのか!?とイルカは人知れずため息をついた。 「敵ですか?」 ハツガが緊張した面持ちで聞く。 「解らない、数は多くないようだが。おかしいな、動きがまったくない。こちらに感づかれたのは解っているだろうに。」 カエデが眉根を寄せている。 「何か企んでいると?」 ザクロの言葉にカエデは難しい表情をした。 「偵察してくる。お前たちは気配を消しこの場で待機。敵と接触して相手が上だった場合は即刻逃げろ。里まではもうすぐの距離だ、地理はこちらの方が詳しい。頭をフルに使って逃げ通せ。」 カエデの言葉にイルカたち中忍3人は短く返事をした。それを聞いてカエデは行ってしまった。 「カエデ上忍っ、」 イルカは慌てて走り寄った。敵の気配はない。 「カエデ上忍っ、気をしっかり。」 「私は、もうだめだ。私を置いて、里まで走れ、」 「里まではもうすぐですっ。俺が担いでいきますっ。さ、捕まって、」 イルカが背中を向けるが、カエデは頭を振る。 「だめだ、私は捨て置け、」 「カエデ上忍、諦めちゃあいけませんぜ。早くおぶさられてくださいよ。上忍だからって変なプライドは捨ててくださいよっ。」 ザクロも必死になって言っている。そうだ、こんな所で口論している場合じゃないんだっ。里に帰れば助かるかもしれないんだからっ。 「待っててくださいカエデ上忍、里の病院まですぐですからねっ。」 イルカが決意も新たに言うと、カエデはイルカの耳元で小さく言った。それは本当に小さな言葉で、他の2人には聞こえなかったろうし、イルカでさえも空耳か?と思えるほどの囁きだった。 「気を、抜くな、敵は...なか、に.....。」 カエデの様子を見ようと顔を向けたイルカは、そこで意識がぷつりと切れた。いや、身体も動いているし、頭だって働いている。だが、自分ではないという感覚がどんどん身体の中に広がっていく。 |