−  flaver 2 −





「任務、ご苦労じゃった。」

と、目の前の火影は労いの言葉を口にした。
執務室で火影を目の前にしてカカシは立っていた。
ええ、本当に苦労しましたよ。だからそんな俺に労いという意思表示を目に見える形にして証明してくださいね。カカシはにっこりと笑って言った。

「一ヶ月の有給休暇を所望します。」

「却下じゃ。」

すぐさま言われた言葉に俺はふふふ、と薄ら笑いを浮かべた。

「火影様、お言葉ですが俺はこの2年、休みもせずに毎日毎日毎日毎日ずーっとあの街の治安維持をしてきたんですよ。」

「それが任務じゃ。」

まだ言うかこのじじいはっ。でもそう言っていられるのも今の内だよ。なんたって俺は付け入る弱みを握っている。俺は視線を向けずに呟いた。

「雷の国の温泉ツアー。」

ぼそ、と呟いた言葉に火影はぴくりと耳を動かした。

「雷の国食い倒れツアー。」

火影の額が汗ばんできている。ちなみに季節は夏だったが火影の執務室は空調完備なので涼しく快適に設定されている。

「雷の国の自然観察ツアー。」

「ええいっ、わかったわい、一ヶ月でもなんでも好きに休めっ。」

火影は堪えきれなくなったのか、それとも切れたのか、声を荒げた。
ま、当然でしょ。本来なら2.3ヶ月交代でする任務を2年もさせておいて。その理由が2国間の友好関係を確立するためのツアーによって生じると思われる雲隠れの忍びたちの反乱の一掃を暗に秘めていたからなんて。
任務遂行者には一言だって言わないし、しかもそれ一人にやらせるし。ま、いいよ、これでしばらくはずーっと休める。
俺はにんまりと笑った。

「ありがとうございます。火影様の多大なるご厚意、平に感謝致します。」

「とって付けたような謝辞は結構じゃ。さっさと帰るがよい。」

言われなくとも、と俺は部屋を辞した。
扉を閉めて廊下に一人になると、俺は小さくガッツした。
よしっ、これで一ヶ月タダ休みだ。しかも有給休暇だっ。遊んで暮らせるっ。
それに、やっとイルカ先生とご飯が食べられる。
俺は楽しくて楽しくてやってられません。というオーラを存分に出しながらアカデミーへと続く道を歩く。
あれからアジトを壊滅させたり、繋がりのある奴らの裏付けを取って木の葉の里に報告したりと忙しくはあったものの、イルカとの約束を思い出しては元気を出した。この任務が終わればご飯だっ。また作ってもらおう、一緒に出かけて色々話すんだ。イルカは待っててくれると言ったから、ちゃんと待っていてくれるはずだ。俺のこと、忘れたなんていわないよね?
俺はそんな馬鹿なことがあってたまるかよ?と笑いながらアカデミーの職員室の戸を開けた。

「イルカ先生いる?」

だが、職員室の中は閑散としたもので、2人しかいなかった。あれ、なんでこんなに人が少ないんだろ、そういえば子どもたちの姿もないようだったけど。

「なんでこんなに人がいないの?」

「あの、今は夏休みで、教師は任務に出ている者がほとんどでして、」

と丁寧に説明してくれた男に俺は夏休み、ふうん、と解ったような解っていないような言葉を返した。俺アカデミーって実は数ヶ月しか行ってないんだよね。それからずっと任務だったからちょっと常識っていうか、解らないんだよねえ。
ま、とりあえず夏休みという何か特別な休みがあって、今は教師たちも授業ではなく任務に出ているからいないと。
はぁ、とため息を吐いた。
ひどいよイルカ先生、待っててくれるって言ったのに待たずに任務かよ。俺、寂しいなあ。

「あの、失礼ですが、あなたは?」

「はたけカカシです。あーあ、イルカ先生、任務なのかあ。」

「えっ、あなたがあの写輪眼のカカシでいらっしゃるっ!?」

男は急に慌てだした。あー、そういえばビンゴブックに載ってるんだっけ。里の忍びを熟知してもさほど意味もないので読んでいるのは少数派だろうに。俺も有名になったのかねえ、一部には。

「よく知ってるね、その二つ名。」

「ええ、そりゃあもう、俺ビンゴブックマニアなもんでっ。」

なるほど、マニアだからこんな反応なんだな。
未だに慌てている男にこれ以上何を聞いても無駄だろうな、と思って俺は背を向けた。

「あのっ、イルカにご用でしたら家、お教えしますよ!!」

えっと、個人情報ってそんなに簡単に流失しちゃっていいのかな?と思いつつも俺はくるりと足を逆方向に向けて男に向き直った。

「ぜひ、教えて下さい。」

 

それから男に教えてもらった住所へ向かってまた歩く。日差しは強いし熱気は籠もっているで最悪な午後だったが、それでもこれからイルカ先生の家に行くのだと思うと心が浮かれた。
しかも男の言うことには、先日任務から帰ってきたばかりで今日は休みだというおまけ情報までもらった。よしよし、今日はどこか涼しい所で酒でも飲みますか。あなた酒もいけそうでしたよね、雷の国でつまみを土産にしましょうかとまで言ってたもんねえ。
ふふふ、夏はやっぱりビールですか。冷酒もいいですがそれはまた秋口の方が情緒ってもんがあっていいでしょう。
そんなことをつらつら考えながら、イルカの家に着いた。
イルカの家は古い家だったがちゃんと掃除やある程度の草むしりもしてあるのか、きれいなものだった。玄関の引き戸から見えた縁側の前に小さな庭があり、雨ざらしのバケツやら植木鉢の余ったのであろう、重ねられたものが置いてあったりと、なんだか懐かしい感じのする物が沢山置いてあった。
あの人らしい家だ。としっくりと心に馴染んだ。
玄関には呼び鈴もなくて、俺は戸をガラガラと開けて一歩中に入った。

「イルカ先生ー、」

と呼び掛けると、家の中からはーい、と懐かしい声がした。
ああ、本当に数ヶ月ぶりだな、この人の声。その声の主がどんどん近づいてくる。そうそう、それでイルカ先生は驚くわけだ。あれ、カカシさん、お久しぶりです。なーんて満面笑顔で言ってくれるといいなあ。そんでもって任務お疲れ様ですなんて言ってくれたら、疲れなんて吹っ飛びますよ。
とうとうイルカ先生は玄関先の俺の目の前まで来ると笑顔で言った。

「どちら様ですか?」