− flaver 2 −
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翌日から、身の毛もよだつ日々が始まった。 「大丈夫ですか?なんだか顔色が悪いですよ。」 と言われて顔を上げた。今は公園のベンチで2人して座っている所だった。なんでこんなくそ暑い時期にベンチで男2人身を寄せ合わにゃならんのだ。 「夏ばてですか?食生活には気を付けてくださいね。あなただけの身体じゃないんですよ。」 と労りの言葉をかけるカカシをこの場でどうにか殺せないものかと口を開く。 「はたけ上忍、はたけ上忍は任務ないんですか?ずっと俺にかまっていていいんですか?」 「あー、俺きっつい任務を終わらせてきたから特別休暇もらってるんですよ。一ヶ月の有給休暇です。」 目の前が真っ暗だった。つまり俺の諜報活動期間が終わるまでずっとこんな状態だって言うのか。 「本当に大丈夫ですか?なんだったら家まで抱っこして帰りましょうか?」 やめてくれ、そんな恥さらしなことできるわけない。いや、この身体の奴だと思えばそれでもいいかもしれないが男に抱っこしてもらってあまつさえそれは恋人なんてシチュエーション、俺の精神が堪えられない。 「大丈夫です。暑さにあてられただけですから。あー、どこか店で涼みませんか?喉も渇きましたし。」 「いえ、俺は乾いてませんから。」 いや、俺が乾いてるんだよ。恋人ならもう少し気遣えよ。 カカシはにこにこと笑っているだけだった。そう言えばこいつと何かを食べたってことはないなあ。このうみのイルカって男は男のくせに料理もなかなかの腕前だとかで俺はしたくもない料理のまねごとまでして上達させたのに。そうだ、料理なんかを食わせてその中に眠り薬でも入れれば夜に動けるかもしれない。いや、いっそのこと毒でも入れるか? 「はたけ上忍、良かったらこれから家で食事でも一緒にどうですか?」 「それは誘っていると取っていいんですか?朝までずっと離しませんよ?」 「聞かなかったことにしてください。」 「はは、そんなに怯えないで下さいよ。無理強いはしないつもりだと最初に言ったでしょう?」 いや、信用ならない。こいつを家に上げることだけは避けなければ。 それにしても暑い、夏なんて大嫌いだ。だが任務なんだから仕方ない、さっさとこいつとおさらばして水風呂にでも入りたい。 「そういえばはたけ上忍の任務ってどんなものだったんですか?終わったのならば少しかいつまんで聞かせてくださいよ。」 「そんな殺伐としたこと、あなたの耳に入れるわけにはいきませんよ。」 いや、このイルカっていう男だって忍びだろう。殺伐もなにもないだろうに。 「きっとはたけ上忍の働きはすごかったんでしょうね。」 「そうですかねえ。」 「そうですよ。きつい任務をやり遂げたからこそこんな優遇された休暇を頂戴できたんでしょうから。羨ましいです。」 「はは、ありがとうございます。褒めていただいて光栄ですよ。」 カカシはにこにこと笑っている。けっ、ビンゴブックに載ってるからって鼻高々でいられると思うなよ。お前の恋人のこの男はもうすぐ切り刻まれるんだよ、俺の手でな。 「なんだか楽しそうですね。」 言われて知らない間に自分が笑みを浮かべていたことに気が付かなかった。でも己は出していない。あくまでもうみのイルカとしての笑みだ。 「いやあ、恋人が里一番の技師かと思うとなんだか嬉しくなってきまして。」 「そうですか、それはよかったです。」 「これからもがんばって任務してくださいね。」 カカシは始終にこにこと笑って頷いていた。恋人であるこのイルカって男がそんなに好きなのかねえ。こんなごつごつしたもさい男のどこがいいってんだか。顔は悪くとも抱き心地のいい女の方がいいに決まってんのによ、こいつの趣味だけはわけわかんねえよ、馬鹿馬鹿しい。 「ああ、なんだか夕立が来そうですね。今日はもう帰りましょうか。」 カカシが立ち上がった。やれやれ、やっとこの男から解放される。ま、家まで送られるし、家に入ってからも監視のようなものは続けられるので解放らしい解放ではないだろうが。 翌日は元々入っていたらしい任務があり、それをこなした。勿論カカシは見えない所で俺を見守るとは聞こえのいい、ストーカー行為をしていた。 「はたけ上忍。俺、決心しました。」 「決心、ですか。一体どうなさったんですか?」 「今日、慰霊碑に報告してきます。」 「慰霊碑、ですか。」 「はい、今まで俺はずっとひとりぼっちで誰にも本当の自分は出せませんでした。ですがはたけ上忍、あなたになら。俺のことをここまで思ってくれるあなたがいてくださるなら、俺は自分をさらけ出すことができると思うんです。」 俺は揺らぎのない瞳でカカシを見た。カカシも俺をじっと見ている。 「俺、今日は慰霊碑にあなたとのことを両親に報告しようと思います。そして帰ってきたら、その時はあなたに抱かれたいと思います。」 カカシは驚きに目を見開いている。それはそうだろう。今までずっと好きだとか愛しているだとか、恋人らしい言葉を言ったことはなかったのだから。これは決定打のはずだ。目の前のカカシは予想通り声すら出ないほど驚愕している。いいざまだなあ、カカシ。 「ですが一つだけ約束してほしいんです。俺は一人で両親と話したい。ですからはたけ上忍。ほんの一刻でいいんです。俺を一人にしてくれませんか?」 至極真っ当な言葉だ。これで否定されればこのイルカという男を信用していないと逆に詰め寄られるだろう。カカシ、お前に否定することはできない。それに終われば抱けるんだ、こんなことは願ったり叶ったりだろう?写輪眼のカカシさんよう。 「解りました。あなたの意志がそこまでとは、俺は誤解していたようです。さ、慰霊碑に行ってきてください。俺はあなたの家で待っていますよ。」 カカシはそう言って俺と入れ違いに家に入ろうとした。 「あの、はたけ上忍、」 俺はカカシを立ち止まらせた。そして初めて自分の方からキスをしようと顔を近づけた。だが、それはカカシの手によって遮られた。 「だめですよ、ここでそんなことされちゃあ。俺の理性が吹っ飛んでしまいます。ちゃんと戻ってきた時に、ね。」 ふふん、随分と殊勝なことだな。だがお前はここで二度とこのイルカって男に生きては会えないんだよ。後悔したって知らないぜ。ま、俺にはどうでもいいこった。カカシを信用させるために嫌々キスしようとしたわけだが、しなくて済んでほっとしたぜ。 ああ、なんていい筋書きだ。これでカカシは後悔するだろう、いい気味だ。 慰霊碑の前まで着くと、俺は誰もいないか細心の注意を払った。 「開呪の印っ。」 俺の意識はイルカの身体から抜けていき、イルカの影法師からするするとはい上がった。 「やれやれ、まったくお前のせいで苦労したぜ。」 足下に転がっているイルカを軽く蹴り上げた。ぴくりとも動かない。この状態は死んでいない。が、長期間にわたって精神を乗っ取っていたのだ。精神の疲労は恐ろしいものだろう。早々起きることはない。 「さあ、死ぬかぁ?」 俺は木の葉のクナイを手に持った。 「な、なに?」 腕が、取られている、と、言うか、この気配、なんでだ、どうして、こいつがここにいるわけが、 「どうしてお前がここにいる、写輪眼っ!!」 俺は驚愕におののき、叫んでいた。 「長かったよ、お前が出て行くのをどれほど待ちわびたか。」 カカシは俺に近づいていく。実力でこいつには敵うはずはない。抵抗するだけ無駄なことは解っている。だが、ガチガチと歯が音を立てる、肌に鳥肌が立つ、こいつの殺気で狂いそうだ、誰か助けてくれ、俺は、殺されるのか...。 「本当ならお前を殺したいんだけど、尋問部隊に引き渡さないとねえ。俺はこれでも里には従順なのよ?」 カカシはにこりと笑った。その笑顔は身を凍らせた。尋問、俺はもう、ここまでなのか。 「でもねえ、私怨があるからもう一発殴っておくね。大丈夫、木の葉の医療は他の里に比べても高レベルだから。」 カカシはそう言って俺の目の前まで来ると俺の首をつかんで立ち上がらせた。そして何の抵抗もできない俺の腹に、強烈な蹴りを入れたのだった。 「ぐふっ、ううぅ、」 俺はあまりの痛みに意識を手放した。 |