|
ぐったりとしてしまった敵忍の身体をこれでもかと拘束し、式を飛ばして処理班を呼んだ。あとはなんとかなるだろう。それよりも心配なのはイルカ先生の方だ。
俺は雁字搦めにした敵忍を放り投げてイルカ先生の側へと走る。
手を取って脈をとる、大丈夫だ、ちゃんと生きている。だが長期間にわたって精神を乗っ取られていたんだ、すぐに病院に連れて行って処置させてやりたい。
その身体をそっと抱きかかえた。そして病院へと走った。
チャクラを足に溜めて尋常ではない早さで向かう。普通ならばしない民家の屋根も伝い、誰を見ても誰と会っても無視して病院だけを目指す。
間に合わないといけないんだ。あのカエデという上忍のように死んでしまってはだめなんだ。俺と再び目を合わせてくれっ、本当のあんたでないとだめなんだ。
病院に着くとドアを壊れるほどに強く開け放って、我先にと受付へと向かう。
俺のただならぬ様子に医療忍者たちが走ってくる。
「どうしたんですかっ!」
「精神の乗っ取りを長時間受けている。脈は正常のようだが意識がない。すぐに調べてくれっ。」
言えば医療忍者たちは手慣れた動作でストレッチャーに乗せて処置室へと向かう。
その後ろ姿を見送って俺はようやく張りつめていた肩の力を抜いた。
俺にできるのはここまでです。あとはあなたの意志の力だけが頼りだ。あなたは強い人です。ですから、必ず戻ってきて下さい、この世界に。そして今度こそ、一緒にご飯を食べましょう。俺はまだ、あなたにおかえりなさいとも言われてないんです。
俺は祈る気持ちで待合室へと向かった。
ごめん、ごめんね、もっと早く助けてやりたかった。けれどできなかった。その身体はいわば人質だ。迂闊にどうにかできるものではない。ならば少しでも相手に接近してその行動を制限させ、機会を待つしかなかった。
最初は気付かなかった。会ったのは2.3日だったし、声は同じだった。だが、誰ですかと問われた時、愕然とした。覚えていないと言うのか?そんな馬鹿なことがあっていいのか?だが聞けば任務で頭を打って記憶が曖昧だと言う。それで俺に関する記憶が抜けてしまったのだろうか、悲しいけれど、そういうこともあるのか。
お茶でもと言われて家の中に通されて、冷たいお茶を一気に飲んだ。
イルカ先生が俺を忘れるなんてあるわけないと思っていただけに少々ナーバスになっていた。あまりの衝撃にいつもの洞察眼も鈍っていたのだろう、だからすぐには気付かなかったのだ、この男がイルカ先生を乗っ取っているという事実に。
はっきりと気が付いたのは俺を写輪眼のカカシと褒称した時だった。
イルカ先生は以前、はたけカカシと名乗った時には俺が写輪眼のカカシ、つまり上忍クラス以上の他里にとってそれなりに有名な忍びとは知らなかったはずだ。
ビンゴブックを見る者と見ない者には差がある。見ない者はとことん見ないし、見る者はとことん追求して見るのだ。
俺は暗部に在籍しているので里にはあまり駐留しない。知っているとすれば知り合いか上層部の人間か、ビンゴブックを読んでいる者くらいだ。イルカ先生は以前俺の名前を聞いても無反応だったからビンゴブックを読んではいないか、読んでいたとしても過剰に反応することのない性格だったのだろうと思われた。
だがあの反応、これはおかしいと思った。だから早々に席を辞した。
それから身辺調査を開始した。いつからあんな状態だったか解らないが、アカデミーにいて敵忍と接触する機会は滅多にないだろう。ならば夏休みにしているという任務で接触した可能性が高い。
どんな任務をしていたか、その中で不審なことはなかったか。一つ一つ丁寧に調べていった。そして一つだけ気になった任務があった。
密書の運搬の任務だ。上忍1名、中忍3名のフォーマンセルでの任務。この任務で上忍のくの一が死亡していた。しかも里の近辺で敵に襲われ、里の病院に着く直前に事切れたと言う。その上忍を抱えて運んでいたのがイルカだ。
おかしいだろう、密書を奪うつもりならば里の近辺ではなく、もっとこちらにとって状況が不利な時に襲うものだ。しかも戦闘した時の敵忍の死亡は確認されていない。上忍が戻ってきたということは敵を倒したという意味に繋がるが、敵の死体を確認した者はいないのだ。
事切れる前に敵忍は燃やして始末したと上忍が言ったのだとイルカが報告したそうだが、それだけだ。事後確認をしに行った者はいない。
イルカは里を裏切るような忍びではない。それは周知の事実だったのだろう。だから誰も疑おうとは思わなかったのだ。
だが俺は気付いたのだ。
イルカ先生の匂いがしていない。
体臭も仕草も口調もその表情や感情の起伏ですら彼だと思わせる。紛れもなく彼自身だった。違和感などまるでなかった。
だが、あの清浄な匂いがしていない。それはそうだ、あれは俺だけが思って感じる匂いなんだから。あの人があの人であるその存在から、その存在が俺に与えるものの一種のオーラと言えるものなのだから。
そんなことですら最初は見落としていた。それだけ彼に会えることに歓喜し、そして覚えていないと言われて落胆した。
俺はその任務に同行した中忍たちに話しを聞きに行った
ハツガという忍びは特に変わったことはなかったと言っていたが、ザクロと言う忍びの話しには興味深いものがあった。
「イルカねえ、ちょっと最後の時は意外だったと思いましたがね。」
「何が?」
人気のない道の真ん中で、夜更け、任務帰りでくたくただった所を呼び止めて聞いた。
「イルカとは気があったんで任務の時によく話してたんですけど、」
ザクロは気さくな男で、任務帰りでも嫌な顔せずに話してくれた。イルカと気が合うのも道理のような気がした。
「亡くなったカエデ上忍を抱えて走ったのがイルカなんですけど、病院に着いて医療忍者に引き渡した後、さっさと帰っちまったんですよ。まあ、カエデ上忍に万が一の事があった時、任務報告は元々ハツガっていうもう一人の中忍がすることになってたんですぐに帰ってもいいんですがね。病院に着く前に事切れて、もう助からないと解ってはいても、イルカは心肺蘇生だなんだが終わるまで、死亡確認がしっかりとされるまではずっと付いていると思ってたんですよ。でもイルカはすぐに帰っちまった。まあ、みんな疲れてました。最後の最後であんなことになっちまって。ちなみに俺は死亡確認が終わるまで付いてました。はは、忍びとしては甘いと言われるかもしれませんがねえ。」
ザクロはそう言って少し悲しそうに笑った。
忍びは常に死と隣り合わせだ。いちいち仲間の死に感情的になってしまっては任務などこなせない。だが、仲間の死に心を痛めることは至極真っ当な、人として当たり前の感情だろう。そしてイルカは、そんな人としての感情を人一倍持ち合わせている。
「あ、でもその後でちゃんと葬式には来てたし、きっとあの時動揺してたのかもしれないです。自分の背中で死んだと思えば、辛い思いもしたことでしょう。」
しんみりとした雰囲気になり、沈黙してしまったが、ふくろうがほうほう、と鳴いてザクロははっとした。
「やっばっ、俺もう帰らないと。すみません、話しの途中なのに。」
「いや、こちらこそすまない、でもこれから何か用事でも?」
「いやあ、恋人が待ってるんですよ。」
「はは、それは羨ましい。」
「じゃ、失礼しますね。」
ザクロは照れ笑いを隠すように会釈して帰っていった。
恋人か、イルカ先生とはそう仲ではなかったけれど、この気持ちは恋情なんだよなあ。
里に帰ってきてようやくこれからと言う時にこんなことになっているなんてね。つくづく俺たちには難が降りかかる運命のようですねえ、イルカ先生。
でもねえ、困難があればあるほど愛は燃え上がるそうですよ。俺は努力を惜しまない人間です。
イルカ先生、どんなことをしてでもあなたを取り戻しましょう。
ザクロの言葉に敵忍の存在を確信した俺は、単独で行動することにした。ここで公にしてしまい、何かの術が不完全なままで身体に残ったり、人質に取られてそのまま逃げられたりと思えば俺は気が狂いそうだった。
もう一度2人でご飯を食べましょうと、待っていますからと言う言葉を現実とするためになら、俺はなんだってやりますよ。
そうして俺は考えに考えたのだ、どうやったら敵忍を追いつめることができるだろうかと。
安全に彼を解放させるにはどうすればいいのかと。
身近にいるためにはそれらしい関係がなくてはならない。幸いにも俺との出会いは里外のこともあってか、敵忍の耳に入っていなかったようだ。会話からして記憶が曖昧として誤魔化していたが、それを利用すればいい。俺たちは恋人同士だったのだと。だからずっと一緒にいましょうと。
恋人が自分を忘れられたというならば少々強引に推し進めたとしても納得はできるだろう。抵抗されても強引に事は勧める。泣きつきたいのならば泣きついてもいい。火影でも同僚でも言えばいいさ。だが、今は完璧にイルカ先生になりきっているとは言え、何か事を荒立ててほころびが出るのは避けねばならないだろう。その人物になりきるために情報は仕入れてはいるだろうが、全ての記憶まで、情報までは持っていないはずだ。
今は夏休みというある種独特の状況にある。そこに狙いを定めたことからも必要以上の知り合いとの接触は好むところではないと伺えた。
だから誰かに何かを頼ろうとはしないだろう。そうして追いつめていけばいい。どうやら写輪眼のカカシという俺の二つ名を知っていることから見ても俺がそれなりに腕の立つ忍びとは理解しているに違いない。俺にばれないように四苦八苦するだろう。そうやって極限状態になるまで精神疲労を起こせば、いずれボロを出す。そうだ、これは長期戦だが勝機はあるのだ。
俺はひたすら待った。その機会を。
そしてやっとその機会はやってきた。
その日は朝から少し様子が違っていた。聞けば慰霊碑に自分たちの報告をしたいので一人にしてほしいと言う。
一人にしてほしい。それはつまり一人にならなければできないことをすると言うことだ。イルカ先生の自宅に薄い結界を張り、ずっと忍犬に見張らせていたので怪しいことは何一つできなかったはずだ。何か尻尾を出すつもりなのだ。俺に気付かれないように。
あまつさえ報告が終われば抱かれてやるとまで言ってきた、笑ってしまう。
最後とばかりに自ずからキスまでしようとしてきた時にはさすがの念の入れようだと関心したものだ。
残念だけどあんたからのキスは受け付けないよ。身体はイルカ先生でも、中身は敵忍だろう?吐き気がするよ。だから最もらしく理性が飛ぶなんて言って誤魔化した。
いや、理性が飛ぶという言葉はあながち間違っていなかったのかもしれない。イルカ先生を乗っ取ったお前をその場でイルカ先生ごと殺してしまいそうだったから。
慰霊碑に向かっていったあいつを、気配を無にして追跡した。暗部の俺にとっては造作もないことだ。
そしてようやく現れた敵忍を確認した時、どれほどの歓喜が自分を襲ったか解るまい。
なぶり殺して想像できる限りの残虐さで精神崩壊させてやろうとも思ったが、イルカ先生の身体が心配だった。ま、殺すのは本意ではないし、それなりの報復もしてやった。これだけで済んでありがたいと感謝してほしいね。
随分と長いこと待合室で待っていた。最初は朝方だったと言うのに今では深夜を回っている。こんなに処置が長引いているのか?頼むから助けてれ、頼むから。
両手を握りしめてひたすら乞う。
そして、ようやく主治医らしい男がやってきた。
「うみのイルカを連れてきたのはあんたかね?」
俺は立ち上がった。そして男の真正面に立った。
「あの人は大丈夫なんですか?後遺症は残らないでしょうか?どうなんですか?」
主治医は俺の血走った目を見て穏やかに笑った。
「精神は衰弱して今は昏睡状態だが、検査は全てグリーンだ。このまましばらく休めば回復するだろう。精神面の治療は高度なテクニックが必要だったから時間がかかったが、もう大丈夫だ。安心しなさい。」
聞いて俺は不覚にも泣きそうになってしまった。
ああ、ありがとうございます。あの人を助けてくれて感謝します。
「あの、今見舞っても、大丈夫でしょうか?」
「意識もないが、いいのかね?それに今日はもう遅い。」
「顔を見たらすぐに帰ります。」
「解った。病室は203号室だ。安静にしてやってくれ。」
「勿論です。」
俺は主治医に頭を下げると203号室へと向かった。
中にはイルカ先生しかいないようで、俺はノックもせずに病室に入った。
中は明かりも消されていて暗かったが、廊下から漏れる僅かな明かりでぼんやりと薄暗い程度だった。
ベッドに近づいて顔を覗き込む。穏やかな寝顔だった。腕には点滴のチューブが繋がれていたが、それ意外には何もない。
「よかった、よかったね、イルカ先生。」
その名前をようやく呼べる。相手が敵忍だと解った時から、その名前は呼ばないことにしていた。食事も決して一緒にはしなかった。一度、家で一緒に食べますかと聞かれて殺気を放ちそうになって焦った。
イルカ先生が料理好きという情報があっての言葉だったのだろう。だがお前の作った料理など誰が食うか。
ああ、早くあなたの声が聞きたいですよ。あなたに呼ばれるカカシさん、という声を聞きたいんです。
「できれば一週間以内に起きて下さいね。」
でないとまた任務で里を出なければならないから。一ヶ月の有給休暇は実質任務をしていたようなものだった。実に理にかなっていない。
俺はイルカ先生の顔をそっと手で撫でた。そして静かに病室を出た。
「無茶しおって。」
火影はご立腹だった。まあ、イルカ先生は火影のお気に入りらしいとはなんとなく解っていたからねえ。
「一人でなんでもかんでも背負い込むとはどういう了見だ。里外ならまだしもここには色々な部門のスペシャリストが揃っておるのだぞ。それを危険も顧みずに強行するとは。」
執務室で火影はピリピリとしていた。いつもはゆったりとくゆらせているキセルの煙も荒々しい。
「まあ、いいじゃないですか。敵忍も捕獲しましたし、イルカ先生も無事に取り戻せました。で、捕虜は何を目的としてイルカ先生の身体を乗っ取ってたんです?どうやって入り込んだんですか?機会と言えばカエデ上忍が亡くなった時だとは思いますが。」
言えば火影はキセルを灰吹きにカーンと打ち付けた。
「そこまで調査済みとはな。どうせわしが言わずともあらゆる手を使って調べてしまうのであろう。」
よく俺の性格をご存じで。
火影は諦めたのか、ため息を一つ吐いて語り出した。
「あやつの目的は諜報活動だったらしい。里の人物の影に入り込んで精神を乗っ取る術を使うそうだ。山中家に伝わる心転身の術に似ているようだがもっと長時間に渡って相手を乗っ取り、自身も影の中に入り込むという巧妙な手口じゃ。相手の仕草や情報をあらかじめ記憶し、違和感なく馴染ませることができるようだ。乗っ取ったのはカエデが襲われた時だそうだ。元々狙いはイルカだったようで、カエデは囮だったのだろう。カエデの影に潜み、イルカの性格を把握し、カエデを担がせた時に影から影へと進入したのじゃろう。」
囮で殺されたのか、カエデという上忍も悔しかったろうに。
「処遇はどうされるおつもりで?」
「勿論、里から出すわけにはいかぬ。裏に誰がいるかを吐かせて、それで終わりじゃ。」
終わり、それは命をも消すということなのだろう。
「イルカの状態はどうじゃ?」
「どうしてそれを俺に聞くんですか?」
「毎日見舞いに行っているという情報が入っておる。」
「そんな情報が入っているならイルカ先生の状態だって耳に入ってきているでしょうに。」
火影は一旦口を噤んだ。図星だったらしい。
「今回の一件で、イルカの状態異変に気付いたのは里の中でもお前だけじゃった。それほどまでにあやつの術は完璧だった。どういった経緯で知り合ったかは知らぬが、お前にとってイルカは唯一無二の存在なのじゃろう?」
俺は答えずに目を細めて笑った。
「そんなこと言っておだててもらってもねえ。休暇の延長でもしてくれるんですか?」
「そんなわけがなかろうて。お前の任務はもう決まっておる。出発は明後日じゃ。資料を渡す。頭の中にたたき込め。」
火影はそう言って机の上から用紙を手にとって俺に差し出した。火影直々の任務、また暗部の仕事のようだ。
俺は用紙を受け取ってそのまま執務室を出た。
やれやれ、酷使してくれる。まあ、資料を見る限り仕事と言っても長期のものではない。要人暗殺か、久々に暗部の面を着けての任務のようだ。2部隊投入とは余程強固な陣営と見た。それを率いての出陣か。
俺は病院に向かってゆっくりと歩いていく。
道すがら、木の影に入って暑さを凌ぐ。夏休みとやらも、もう終わりか。ひぐらしが鳴いていた。
病院に着いてさっそくイルカ先生の病室へと向かう。
イルカ先生は未だに目覚めない。それだけ精神の負担が強かったのだろう。それを思えば腸が煮えくりかえる。
ベッドの側にあった椅子に座って様子をうかがう。血色はいい、点滴とは言え、必要な栄養は摂取できているのだろう。
「イルカ先生、今日は任務が入ってしまいましたよ。明後日には出発しないといけません。あわよくば、任務に赴く前にあなたと会いたかったんですがね。」
うまくいかないものですね。折角一ヶ月の休暇を取ったと言うのに、あなたがいなくては意味がないんですよ。
いつもは髪を一つにひっつめて縛っているが、眠っている状態なので今は髪を下ろしている。その髪を少し手にとってさらさらと泳がす。
「そう言えば、乗っ取られている時の記憶ってどうなるんですかね?あなたは覚えているんでしょうか?それとも眠らされたままで意識なんてなかったんですかねえ?もしも意識があったのならば、一つだけ謝らなくてはね。ふり、とは言え、あなたにキスしてしまった。恋人としての態度を取らなくては不自然でしたからね。本当は嫌だったんですよ?意識はあなたではないと解っていたし、他の男とそんなことをするのは趣味ではないですからね。でも、あなたの身体だと思えば堪えられたんですよ。ふふ、因果なものですね。」
入院して以来、こうやってイルカ先生に語りかけるのは日常と化していた。主治医によれば話しかけるというのも一種の治療効果があるらしい。そんなことは知らなかったが、時間があるかぎり、迷惑にならない程度にずっと居座った。
イルカ先生の一件は極秘扱いとなっている。里の近辺にて敵忍に易々と進入を許し、あまつさえ死人まで出したこの一件は里にとっては恥となってしまうだろうし、里の住民に余計な混乱を招くだけだと判断したそうだ。
だから見舞客も来ない。イルカ先生は長期の単独任務に出ているということになっているらしい。
俺はイルカ先生の手を両手に取った。
「でもねえ、イルカ先生。俺はね、まあ、任務に行く前に起きてくれれば最高だとは思いましたが、あなたがただ生きてくれているだけでこんなにも嬉しいんですよ。」
俺はイルカ先生の手にそっと口づけた。
「好きですよ、イルカ先生。」
その日はそれで退散することにした。休暇は明日で最後だ。
俺は静かに病室のドアを閉めた。
|