− flaver 3 −
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屋敷の如月の寝室へと向かう途中、タツハに会った。カカシを見る目が冷ややかだった。最初に会った時の優男の雰囲気がまるでない。爬虫類のような目というのはこういう奴の事を言うのだろうと漠然とカカシは思った。 「何か?」 「男前だね、恋人のうみの中忍が泣くんじゃないの?それとも慣れっこなの?」 その問いには答えず、カカシはタツハを横目に見て言った。 「一つ聞きたいんだけど、伽の間も護衛はするわけ?」 「勿論。」 カカシは煩わしそうにタツハを見やった。 「ま、好きで護衛してるわけじゃないんだから察してよね。それに伽の最中の護衛はいつも俺一人だから。」 「へえ、」 カカシは興味なさげにもういいや、と廊下を歩き出した。が、タツハはカカシの腕を強引につかんだ。 「そんなわけでこれらは置いていってもらうよ。」 タツハはカカシのホルスターからクナイや、巻物、武器を洗いざらい取り上げた。 「悪いね、同じ木の葉と言えども、寝所に武器を持ち込ませるわけにはいかないから。」 「ま、当然でしょ。別に文句はないよ。」 やはりどうでもいいことのようにカカシは言って、今度こそ寝所へと続く廊下を歩いていった。その後ろ姿をタツハはしばらく見つめて、それから影に消えていった。 「はたけです。約束通り参りました。」 言えば中からの錠を開ける音がして扉が開けられた。この錠は高度な封印術が施されているようで、本人以外は開けることができないようになっているようだった。 「さあ、入りなさい。」 カカシはにこりと笑って中に入った。 「まあ座りなさい。」 如月はカカシをソファに座らせた。そして自分も真正面に座る。テーブルの上には高級そうな酒とグラスが置いてある。如月は流れるような動きでその酒をグラスに注いでいく。慣れた手つきだった。一体何度こんなことを繰り返していたのやら。 「実は忍びとは初めてなんだよ。」 如月が落ち着いた声で言うのに対してカカシは何も答えずにただ笑って如月を見ている。 「さ、取りあえずは乾杯といこうか。」 如月はカカシにグラスを手渡した。自分も手に持っている。そしてどちらともなくグラスを合わせて各々飲み干した。確かにいい酒だ、だが、うまくはないとカカシは思った。 「忍びは初めてだが、忍び用に対策はしているつもりだよ。この部屋で忍術、幻術は通じない。そして、体術もすぐに通用しなくなる。」 その言葉と共にぐらりとする感覚がカカシの身体を襲った。 「ま、常套手段だよね。薬なんて。」 ふらつくカカシの身体にそっと手を触れようとして、だがカカシの手が如月の手をはねのけた。 「まだ抵抗する気力があるとは、まいったね。」 まったく困っていないような如月にカカシは冷たい視線を送った。ぐらぐらとする身体は平衡感覚を麻痺させている。普通の人間ならばもう、暗闇に意識を飛ばしている頃だろう。強い薬だ。精神をぶっ壊す程の。 「あー、なーにが常套手段だ、くそったれがっ。」 初めて如月の顔に余裕の色がなくなった。言葉を話せるだけの意識が残っているとは思っていなかったのだろう。 「こんな薬、効くわけないだろう。」 「馬鹿な、一般の忍びですら発狂する効果のある薬だぞ。」 「ざーんねん。俺は一般の忍びじゃない。」 カカシはうっすらと笑みを浮かべた。怖気の走る笑みだ。獲物を狩る目、血に飢えた狼のような。 「暗部はなあ、この何倍以上もの拷問に堪えられるだけの訓練受けてんだよ。こんななまっちょろい薬も、半端な結界も、意味がない。」 カカシはくすくすと笑い出した。そして如月に近づいていくと、その恐怖に歪んだ顔に一発、拳を見舞ってやった。 「随分と楽しい癖をお持ちのようで。しかしおふざけが過ぎたね。」 カカシは部屋の中にある書棚に向かって歩いていく。その足はまったくいつも通りでふらつきすらなかった。完全に薬が効いていない。 「ふう、やっと見つけたよ。」 カカシは小部屋に入っていってお目当てのものを手に取った。 「お、おまえっ、こんなことしてただで済むと思うなよっ。要人警護の主人に向かってこんな無礼、木の葉の里など潰してくれるっ。」 小部屋から出てきたカカシに向かって、多少痛みに慣れたのか、だがまだ床に這いつくばったままの姿で、如月が醜悪な顔でカカシを睨んでいる。先ほどまでの余裕はどうした?慣れた手つきのエスコートは?にやけた目つきの色情狂はどこにいった? 「無駄だ、その扉は、どんなものだって、」 カカシは右腕に神経を集中させた。筋肉が異常に盛り上がる。状態変化など朝飯前だ。普通の体術でなければ扉は開くと言うことだろう?忍術並の体術ならば開くということだ。 「ああ、開きましたねえ。いや、めでたいことです。」 カカシはそう言って扉の取っ手をつかんだ。 「まてっ、お前っ、」 「少し静かにして下さいよ。今、機嫌最悪なんですよ俺は。それから木の葉の里と俺の将来の心配もして下さらなくて結構。そんなものあんたがどうにかできるわけないでしょ?」 カカシは晒されている写輪眼を如月に向けた。結界の解かれた今ならば、写輪眼も使える。かっと見開いて相手を見やれば、如月はふらりとその場に倒れてしまった。 月光に照らされた屋敷の廊下に倒れている者がいた。カカシは走って行ってその者を確認して眉根を寄せた。 「駄目だったのか、」 そこにいたのはカノコの変わり果てた姿だった。カカシは舌打ちした。上忍3人でも止められなかったか。 「くそっ、っんとにむかつく奴らだぜ。殺しても殺し足りねえんだよっ。」 近くに倒れていたジンマの腹にタツハの蹴りが入る。うう、とジンマが呻く。 「大人しく来い、そうすればこいつらの命は取らねえよ。」 タツハはそう言ってカキネを脅しているようだ。人質にするつもりか?しかし同僚をもう2人も殺している。これで殺さないと言う方がおかしいだろう。 「は、離してっ、」 カキネは上忍に対して非力な力で押しのけようとしているが、土台、無理な話なのか、まったくタツハの拘束から抜け出せない。 「よう、随分と楽しそうなことしてるなあ、お前。」 「お前っ、くそっ、もう追いついてきたってのかっ。」 突然に現れたカカシにタツハが慌てた。そりゃあそうだろう。自分の張った結界も発狂する薬も効かずにここまでやってきたんだから、自分よりも明らかに上だと見せつけられたも同じだ。そんな奴を相手にして正攻法で勝てるわけがない。 「タツハ、諦めるんだ。今なら俺が火影に口添えしてやらなくもないぞ。死だけは免れるように配慮して、」 「うっせえんだよっ、ああ、そうだ、お前、こいつの恋人なんだっけ?」 タツハは転がっていたイルカを見てにやりと笑った。 「待てっ、だから交換条件だと言っているんだっ。」 カカシの言葉にタツハはにやにやと笑う。 「はははっ、お前も人の子だなあ。所詮感情なんて、人の繋がりなんてこんなに脆いもんなんだよっ。」 タツハは拘束していたカキネを突き飛ばしてイルカに向かってクナイを差し向けた。 「な、なんだとっ、」 カキネは受け身を取って地面に着地していた。そして感情のない顔で印を作った。煙が上がってでてきたのは、イルカだった。 「お前の負けだ、タツハ。」 いつの間にかカカシがタツハの背後に立って首をつかんでいる。それだけなのにタツハは動けない。カカシの殺気が、動けば首を握り潰すと物語っているからだ。 「ど、してだ、」 驚愕に目が見開いている。 「考えたのはカキネ中忍ですよ。ずっとこの洞窟で色んな想定を考えていました。その一つがこれです。」 イルカが感情のない声で説明する。 「俺も最初は解らなかったよ、イルカ先生がカキネ中忍に変化してたなんてね。ま、すぐに気が付きましたが。」 「弱い者と思いこんでその力加減を見誤れば、いずれ隙もできる。そして次のチャンスへと繋げる。中忍は上忍ほど卓越した技も超人的な体力も持っていませんが、それでも考えて行動し、裏の裏をかくんです。」 イルカはそれだけ言うと、倒れている二人に駆け寄っていった。息はあるらしい、手当をしようと声をかけている。様子から見て命に関わる大きな怪我をしているわけではないようだ。 「お前、ダっサイね。」 カカシはタツハを拘束していく。本当ならばここで殺してもよかった。仲間を私利私欲で殺したことでもう暗殺条項に該当する罪なのだがら。が、イルカの作戦勝ちで折角生け捕りにしたのだ、ご主人様と仲良く生き地獄を味わうがいいさ。 「イルカ先生、二人は大丈夫ですか?」 カキネの変化は解けて、その場に座っているが、ジンマの方も座ったまま、イルカの治療を受けている。 「大丈夫です。それより他の上忍の二人は?後から追いついてくると言う話しだったのですが。」 その言葉にカカシは少し迷ったが、すぐに返事を返した。 「来る途中で二人の亡骸を見つけました。急いでいたのでそのままにしてあります。帰ったら丁重に葬ってあげましょう。」 カキネは泣きそうな顔でカカシを見た。ここまで動揺していると言うことは、このくノ一、仲間が死ぬ所を見るのは初めてか。 「イルカ先生、」 声をかければ、イルカは沈痛な面持ちでカキネを見ている。さすがにカキネのように動揺はしていないが、その顔に憂いが帯びている。忍びの世界に死はつきものだ。だが、仲間だった者に殺されるなんて、そんな屈辱もなかなかないだろう。 「わ、わたしが、伽の任務、受けてれば、こ、こんなことに、ならなかった、のに、」 カキネが突然そう言い出して泣き出した。 「カキネ中忍、亡くなった彼らは無駄死にしたわけじゃない。自分たちの意志で闘って死んだんだ。彼らの守ったものを君の解釈で『こんなこと』に位置づけるのはやめなさい。」 静かに言った言葉にカキネは小さく頷く。 |