−天国の扉−
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カカシは人殺しだった。当たり前だ、忍者なのだから。任務の為には人をも殺す。赤子だろうが老人だろうが関係ない。 「カカシ、今回の任務はこの本を調べることじゃ。」 その日、3代目から拝命した任務は一風変わったものだった。 「聖書と言う物じゃ。」 「火影様、こういった調査は特別上忍のような、その手のスペシャリストにまかせた方が良いかと思いますが。俺のような戦闘向きの者には荷が勝ちすぎやしませんか。」 思ったままを述べたカカシだったが、火影は渋い顔をして煙草の煙を吐き出した。何か裏がありそうだ。 「過去、何度かその分野に得意な者に調査させておったが、いずれもうまくいかなかったのじゃ。」 「うまくいかないって、誰かに妨害されているんですか?禁術の類で狙われていると?」 カカシは一瞬目を鋭くさせたが、3代目はため息を吐いたに留めた。これはいよいよ持って難解なものらしい。 「刺客が襲ってくるわけではないが、何か不思議な力に阻まれているかのように深く追求できぬ。従ってその本の出所、関連するもの等がまるで分からぬ。一体何を目的としたものなのか、そして何を意味するのか、どんな価値があるものなのか。調査し報告するのが今回の任務じゃ。写輪眼を持つお前ならば何かしら謎を解くことができるやもしれん。期限は設けぬ。多方面に渡って検証してほしい。」 3代目はそう言って今まで調べて分かった事柄の報告書もカカシに手渡した。 「おう、お前こんな所でなにやってんだ?」 覚えのある気配に目を向けると、そこには馴染みのアスマがいた。 「これでも任務中なんですけど〜?」 「ほう、そりゃ邪魔したなあ。」 アスマはさっさと出て行こうとした。 「ちょっと待ってよ。少しは手伝ってよ。」 「おい、任務じゃなかったのか?」 「別に誰にも見せるなとも言われてないし、アスマに言っても特に害はないと思うし。」 「なんかむかつく言いぐさだな。」 そうは言いつつもアスマはだるそうに机を挟んでカカシの前の椅子に座った。 「この本を調べろって言うんだけどさあ、こんなの担当外だよ。」 そう言ってカカシは本をアスマに見せた。 「異国の本か。なんだってこんなしちめんどくせえことやってんだ?あ?しかもこれ聖書ってやつじゃねえか。」 「えっ、アスマ知ってんの?」 まったくもって意外な所から来た情報源にカカシは喜んだ。 「いや、俺もよくは知らねえが。」 「なーんだ、ぬか喜びか。」 カカシは椅子の背もたれによりかかって落胆した。 「俺の言葉だけで任務が終わってどうするよ。確か、あー、神様の教えを説いた本だって聞いたたなあ。」 思い出しながら言っているアスマにもっと情報はないのかとカカシは期待の眼差しを向けたが、又聞きでは信用がおけない。 「おいカカシ、なに呆けてんだよ。お前の任務だろうが。」 カカシはへいへい、とアスマから本を受け取った。 「ところでアスマは図書室に何しに来たわけ?大人しく勉強するような殊勝な頭はお持ちじゃないだろう?」 「お前、失礼な奴だな。俺は今上忍師やってるだろ?」 そう言えばそんなことをちらっとこの間の飲み会で言っていたような気がする。 「それの報告書を書くついでに調べものだ。ここの隣は任務の資料の保管場所だろ。」 ああ、そう言えばそうだったな、とカカシは頷いた。 「せめてこの本の全容を知ってて丁寧に説明してくれる人がいればいいのに。内容を把握するにも、ここまで言い回しが複雑かつ困難だと調べるだけでかなりの労力だよ。」 カカシはため息を吐いた。 「ん〜?それだったらなんとかなるかもしんねえぞ。」 アスマが煙草の火を付けようとしてここは禁煙だったな、と渋い顔をしながらもケースに戻しながら呟いた。 「は?なんで?」 カカシは顔を上げた。 「この間任務で教会の引っ越しを手伝ったんだがよ、」 「は?教会?木の葉に教会なんてあったっけ?」 「ついこの間できたんだよ。異種間の宗教の交流も認めるってのはずっと以前から許可されてたんだが、実践する奴はいなくてな。つい2.3日前に木の葉に神父っつうんだっけ?がやってきて、その引っ越しが任務だったんだよ。そう言えばその聖書もそこでちらっと見て聞いたんだったな。」 「そう言うことは早く言えよな。」 カカシは教会の場所を聞くとさっさと図書室から出て行った。 カカシはアスマから聞いた場所にたどり着いた。小さな庭のある小さな建物だった。全てにおいて小さな作りだったがなんとなく清廉されたものがあるような気がした。 「ごめんくださーい。」 中を見ると、そこにはベンチのような横長の椅子がずらーっと並んでいて、上座には変わった置物やらなにやらが置いてあった。異国へは何度か赴いたことのあるカカシだったが、こういった所へは足を運んだことがなかったなあ、と勉強不足を少々恥じた。 「ご用ですか?」 「ええ、まあ。あの、聖書のことで少し伺いたいんですが、神父様はあなたでよろしいですか?」 男はその通りですよ、と頷いてカカシに椅子を勧めた。カカシは素直に椅子に座った。神父もカカシの隣に座る。近くもなく遠くもない、絶妙な位置だった。 「それで、聖書と言うのはこう言ったもののことですが、それで良いですか?」 神父はいつの間にか黒い表紙の本を取り出した。使い込まれているのか、日焼けしている。 「えーと、中身はたぶん一緒だと思うんですけど、」 とカカシは白い表紙の聖書を取りだした。それを見て神父は目を見開いた。 「これは、一体どこで!?」 神父は驚愕に声を大きくした。カカシはええと、と言い及んだ。神父はちょっとばつの悪そうな顔をして謝ってきた。 「すみません、どうも興奮してしまったようで、お恥ずかしい。」 神父は本当に悔いているのか、かなり申し訳なさそうな顔をしている。こちらが困ってしまいそうだとカカシは心の中で苦笑した。 「これがどういったものかご存じなんですか?」 「私も見るのは初めてですが、たぶん世界に3冊あると言う『白い聖書』だと思います。」 そのまんまのネーミングだな、とカカシは脱力した。 「それで、この聖書は何かいわくがあるものなんでしょうか?中身が違うとか。」 「いえ、中身はこちらの私の持っているものとさほど変わりはしないと思います。ただ、色々と逸話のあるものでして、私もさほど知り得ているわけではないのです。信憑性の薄い噂話程度のものしか知りません。」 「それでもかまいません。知っていることを教えて下さい。」 カカシが言いつのると、神父は頷いた。 「なんでもその『白い聖書』は天国への扉に繋がっているとか。」 本がどうやったら扉になるのだろう?何か術の類だろうか。しかしそんなの聞いたことないし、もしかしたら血継限界の類の可能性もあるかもしれない。 「あの、でもそれはほとんどもう伝説化しているようなものでして。もしも詳しい話しをお聞きになりたいのでしたら大司教様のいらっしゃる大聖堂へ行かれた方がいいかと。それから、大変申し上げにくいのですが、過去にその『白い聖書』の偽物が横行したことがあると聞いたこともあります。もしかしたらこの聖書もその可能性があるので、偽物かどうかの鑑定も一緒にしていただいたら良いかもしれませんよ。」 神父はなにやら自分のことのように親身になって説明してくれた。 「まあ、そうですね。ではちょっとその大聖堂とやらに行ってきます。」 「そうですか、大聖堂は私の故郷の丹の国にあります。道中気を付けて下さいね。」 それを聞いてカカシはちょっと逡巡した。丹の国は、はっきり言って遠かった。忍びの足でも往復2週間はかかる。 「ところで忍者の方ですか?この間引っ越しのお手伝いをして下さった方も同じような服を着ていらしたと思うのですが。」 「あ、ええ、そうです。実はあなたのことはその時に手伝いに来ていた者から聞きまして、不躾だとは思いましたが少々込み入った話なので断りもなく伺ってしまいました。」 「そうだったんですか、あの方のご紹介でしたか。不思議だとは思っていたんですよ。まだ教会のことはほとんどの人に知られていないはずでしたから、こんなにすぐに人がいらっしゃるとは思っていませんでした。それから、教会は基本的にいつでも誰もが出入りしていいものなんですよ。ですから恐縮されることはありませんから、どうかお気になさらず。」 カカシははあ、そうなんですか、と曖昧に頷いた。随分と開放的な場所だったらしい。このベンチはその出入り自由な人々のために設けられたものなのだろうか。 「そうだ、紹介状も書いておきましょう。」 神父は良い事を思いついたと言わんばかりに立ち上がった。 「あ、いや、そこまでして頂いては今度こそ本当に恐縮してしまうんですが。」 カカシがやんわり断ろうとしたが、神父はいえいえ、そんなことはないですから、とやはり朗らかな笑みをカカシに向けてきた。 「実は知り合いが大聖堂で働いているんですよ。その知り合いについでに手紙も渡してください。」 そこまで言われてはカカシも断ることができない。苦笑しながらも、ではお願いしますと言えば、すぐに書状にしたためますと言って神父は別の部屋に行ってしまった。 自分ほどこの場所に不似合いな者はいないのではないだろうか。 「お待たせしてすみません。ではこちらを、どうか実りのある、素晴らしい旅を。お体には気を付けて。」 神父はそう言ってカカシに向かって何か祈るような動作をした。カカシはどうも、と素っ気ない言葉しか出てこなかった。 |