−天国の扉−
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翌週、カカシは神父が帰ってくると言っていたソネノの教会へと足を向けていた。 「どうしたんですか!?何があったんです?」 カカシは一人のシスターに聞いた。シスターは暗い顔で祈りの仕草をした。 「ソネノの所持していた白い聖書が、奪われました。」 「そんなっ、ソネノさんは無事なんですか?」 「はい、彼女は大丈夫です。でも、神父様が、」 カカシは目を見開いた。 「神父が襲われたのですかっ!」 「いえ、襲われたわけではありません、誘拐されて、」 「誘拐?では犯人にまだ捕まっていると言うことですか?」 「いえ、実は、そうではないのです。神父様は戻ってきました。ですが数日間飲まず食わずの生活を強いられてしたようで、体が衰弱して現在病院に運ばれています。」 「数日間?どういうことですか?」 「はたけ様っ、」 ソネノがカカシに走り寄ってきた。目尻には涙が浮かんでいる。目も赤い。泣きはらしたかのようだった。 「どういうことです?数日前に来た時神父様は外出してしばらく帰ってこないと聞きました。あの時にはもう誘拐されていたと言うことですか?」 ソネノは頷いた。 「数日前、神父様のお帰りが遅くて心配していた時、手紙が届いて。神父様を返してほしければ聖書と交換しろという脅迫状でした。誰かに知られれば人質は殺すと。人の命に比べれば、聖書などただの紙の束です。みんなで話し合って、誰にも気付かれないように、脅迫状の主と連絡を取り合い聖書を受け渡し、今日やっと神父様が帰ってらして、でも衰弱した姿で、数日前までは元気だったのに、私が聖書を持っていたばかりにっ、」 ソネノはその場で泣き崩れた。罪の意識が強すぎて耐えられなかったのだろう。 「あの時、はたけ様の言うことをきいていれば、規律を重んじたばかりに今回の件を軽んじた私が、いえ、私がこの教会に身を置かなければ神父様を危険な目に遭わせずに済んだのに、」 涙声でそう言うソネノの言葉にカカシは眉根に皺を寄せた。 「大丈夫です。この子は優しい子ですが、克服する力はあります。でも、今は存分に泣かせてあげましょう。」 カカシは頭を下げるとその場から立ち去った。 「カカシさん。」 「来ると思っていましたよ、イルカさん。」 カカシは顔を上げずに呟くように言った。 「あなたを疑いたいわけじゃない。でも、どうしても納得できないんです。イルカさん、あなたはどうして聖書に関わりのある人たちの場所に頻繁にあらわれるんですか?偶然にしてはできすぎている。」 いくら自分に都合よく楽観的に考えようとも、不自然な程の偶然はどう考えても意図的なものを感じてしまう。 「すみません、疑われるのは最もだとは思いますが、今は何も言えません。ただ、いずれお話はできるだろうと思います。俺を信じろと言うのは勝手な話しだと思いますが、もうしばらくこの状態のままでいて下さい。」 イルカはカカシに向かって頭を下げた。 「分かりました、信じます。」 あっさりとしたカカシの言葉にイルカは顔を上げた。 「ですが一つ条件があります。」 「なんでしょう?俺にできることならなんでもします。」 あまりに迷いなく言われて、カカシは気まずげに苦笑した。 「では目を閉じてください。」 イルカは言われた通り、目を閉じた。カカシは今更ながらに自分の邪な考えに尻込みしそうになったが、ここまできてはもう引き返すこともできない。自分で蒔いた種だと思い、カカシはイルカの顎に手を添えた。 「もういいですよイルカさん。」 イルカは目を開けた。一瞬のことで状況がよく分かっていないらしい。 イルカは本当にそれでいいのか?と少々不安のようだ。 「いいんです。元からイルカさんは信頼できる人だと思っていましたし、今のは、その、まあ、イルカさんの覚悟を試したとでも思って下されば。」 「えーと、では今ので俺の覚悟は立証されたと言うことになるんですか?」 やや納得のしていない顔をしていたイルカだったが、カカシがそれでも満足そうに笑っているのを見ると、やっと納得したようだった。 「イルカさん、しばらくは俺の近くにこない方がいい。犯人は次に俺を標的にするでしょうから。あなたに危険が及ぶのは忍びない。」 「いえ、俺は大丈夫です。」 「だめです、あなたが危険に晒されると思う俺が耐えられません。」 言うとイルカはくすくすと笑った。 「俺は結構頑丈にできてるんですよ。この間だってそれなりに動いていたでしょう?」 イルカは取り合おうとしない。カカシは困ったな、と小さく苦笑した。さりげなく心の内を吐露したつもりだったが、それにも気付いていないようだ。 「イルカさんが心配なんですよ。」 「俺もカカシさんが心配ですよ。」 言われてカカシはやれやれとため息を吐いた。このままではいたちごっこだ。 「分かりました。でも、無茶はしないでくださいね。」 「はい。」 |