|
「いっそ、孕ませてあげましょうか。」 雨の中森を抜けて走り続け、カカシさんは俺を山小屋に連れ込み拘束し、それからはただ、淫行に耽った。強姦ではない、恥ずかしながら自分も同意した上での行為だった。 俺だってあんたが好きなんだ。本当は誰にも渡したくなどなかった。女に結婚を阻んでくれるなと言われて自分を押し殺し、記憶を封印して逃げたけれどもういい、もう知るものか。 カカシさんの3ヵ年の激しい戦闘区域への配置、俺の一ヵ年の教員資格剥奪。 「カカシさん、たった3年です。3年すればそれからはずっと2人で生きてゆけます。ずっとお持ちしてますから、ですから、」 言えば隣でふくれていたカカシさんは仕方ないですねぇ、と苦笑いした。 「その任、謹んで拝命いたします。」 背筋を伸ばし、カカシさんは戦地へと行ってしまった。 そして2ヵ月後、俺は一楽のラーメンを前に吐き気を催していた。 「イルカ先生、大丈夫かってばよ。なんか顔色が悪いみたいだし、サクラちゃんに診てもらおうか?」 「いや、大丈夫だよ。風邪でもひいたかな。念のために今日はもう帰るよ。悪ぃが俺の分、平らげといてくれよな。」 「でも、本当に顔色が悪いってばよ。ラーメンなんかいつでも食えるし、おっちゃん、悪いけどそんなわけでラーメン代だけ払うから、悪ぃっ。」 ナルトはそう言ってカウンターにお代を乗せてからテウチさんに両手合わせて謝った。 「いいってことよ、気にするない。それにしてもイルカ先生、ほんとに顔色悪そうだ。早くお医者に診てもらった方がいい。」 テウチさんにまで心配されてそんなに顔色が悪いのだろうかと他人事のように思っていた俺はさすがにまずいのかな?と思って病院へと向かうことにした。ナルトも一緒に付いてきてくれることになった。 「イルカ先生、大丈夫だってばよ。なんせこの里には綱手のばあちゃんもいるしさ、心配ねえって!」 俺の不安が伝わったのか今日のナルトはやけに元気よく笑顔を向けてくる。 「そうだな、あの三忍の綱手様がいらっしゃるんだもんな。どんな病気でもどーんと来いっ!」 が、気合を入れて診断結果を待っていたにも関わらず、何故か後日、綱手様の執務室へ行くようにと言う言葉だけを与えられて俺たちは病院を出た。 そして翌日、心なしか体が重く感じていた俺は足取りも重く火影の執務室へと向かった。 「なんだ、元気そうじゃないか。」 綱手様の言葉に俺は苦笑した。あれ以来、確かにそれほど体に変調はない。昨日だけのことかもしれないのだ。 「ええ、大丈夫ですよ。少し気分が悪くなっただけなのにみんなが大げさに心配するもんですから。」 「まあいい、ソファに座りな。話したいことがある。」 綱手様に言われて俺は接客用のソファに座った。シズネさんがお茶を運んできてくれて俺の前に出してくれた。上忍の方にお茶まで煎れてもらってなんだか申し訳ないなあとか思いつつ礼を言って一口すすった。 「端的に言おう、お前妊娠してるぞ。」 ぶふーっ!!と俺は飲んでいたお茶を噴出した。 「は、はあっ!?あの、俺男ですよ?」 「そんなの知ってるさ。」 「じゃあなんでです!?」 綱手様は火影の椅子から立ち上がって俺の側までやってきた。そしておもむろに俺の腹に手をかざした。 「やっぱり妊娠してるよ。報告を受けた時は半信半疑だったが、これは妊娠1ヶ月、いやもう少し前からか。お前、最後に性交をしたのはいつだ。」 あけすけな言い様に俺は少し顔を赤らめた。そりゃあ、確かにカカシさんと交際してることは周知の事実だし勿論体の関係があるってのは大人なら誰しも理解しているわけで、しかしこうもあっさり聞かれるのもなんだかなあ、いやいや、今はゴシップとかではなく診察なのだからと俺は意を結して言った。 「その、カカシさんが里を出る前夜です。」 「二ヶ月前か、計算が合うな。」 「でも、俺男ですよ?子宮とか諸々どう考えても無理でしょう?」 「カカシが匂わせるようなこと言ってなかったかい?あいつなら禁術を出してきても不思議じゃないんだよ。お前への執着振りにはほとほと辟易してるんだ。そうそう何が起きても驚きゃしないと思ってたからねぇ。」 「え、禁術って、でも妊娠なんて、」 とそこでぼんやりと思い出した。里に帰ってくる時に小屋で言っていたあの言葉。 「あ。」 俺の呆然とした表情になにかを思ったのか綱手さまはため息を付いた。 「思い当たることがあるんだね。」 その言葉に俺は微かに頷いた。 「『孕ませてあげましょうか』って言ってました。」 それを聞いて綱手様は深く深くため息を付いた。 「あんの馬鹿。」 「でも男同士で妊娠できる術なんてあるんですか?」 「あるわけないだろ。」 綱手様の言葉に俺はでは何故?と口を開きかけたが次の言葉で出掛かっていた言葉を引っ込めた。 「だがあいつなら自己流で作っていてもおかしくない。忍術の開発にかけちゃ大蛇丸に次ぐくらい情熱をかけてる奴だ。」 そういえば写輪眼の術の開発も独自の方法でかなりの成果を上げていたとナルトが尊敬のこもった眼差しで語っていたっけな。 「で、どうする?」 ぼんやりと思いを馳せていたところに綱手様が振り返って俺の真正面に立った。 「あの、どうすると言われましても、何をですか?」 「子供を産むかどうかに決まってるだろう。」 「え、産めるんですかっ!?」 「女体変化と併用してあたしのサポートがあれば或いは、な。どうする?産みたいのか?」 綱手様の言葉に俺の心は揺れた。 だってそもそも俺とカカシさんがこんなに苦労してるのは子供ができないせいなのだ。まあ、これは男の体だから仕方ないと思っていたけれどこんなにあっさりと妊娠できるのなら最初から、いや、できると分かっていてもきっと俺は首を横に振っただろうなあ。妊娠目的で付き合っているわけじゃないとかなんとか言って、俺は頑固者だから。 「綱手様、俺、産みます。サポートしてもらっていいですか?」 俺は真剣な眼差しで彼女の目をじっと見つめた。綱手様はにっと笑った。 「さすがはあたしの認めた男だ、あたしも助力は惜しまないからねっ。がんばって産んで育てるんだよ。カカシには報告するかい?」 それを聞いて俺は少しいたずら心を思い浮かばせた。どうせなら驚かせてやろう。帰ってきた時に子供と共に出迎えたらきっと心底驚く、その顔が見てみたい。 「いいえ、帰ってきた時に驚かせてやりたいので秘密にしてもらえますか?まあ、禁術を使った本人が知らないわけはないでしょうが。」 言うと綱手様はがしっと俺の両肩を掴んだ。 「うみの、いいお母さんになれよ。」 俺は思わず涙目になってしまった。 「はいっ、俺、木の葉一の母ちゃんになってみせますっ。」
|