布団の中でイルカ先生が身じろいでいる。寒いのか、それとも俺を求めてるのか。後者だったらもうひとがんばりしたいところだがこれ以上すると体調壊されそうなのでやめておいた。
久しぶりだったし、燃えるに燃えたよ。
寝顔を見ながら俺は布団の現状を見て明日怒られるかもなあ、と苦笑した。帰還途中に敵襲にあって体に傷を負ってしまったがどれも浅い。だが適当な治療しかしなかったので傷口が少し開いて血が少し布団についてしまった。そして2人の体液も勿論べたべたついているわけで。まあ、布団一式だめにしてしまったくらい、かわいいもんだ。この3年に比べたら。
俺はさらさらとしたイルカ先生の真っ黒な髪を撫でた。ん?白髪があった。まあ、苦労かけたしなあ、これからは幸せなスイートホームを作っていかないとねえ。
ふと、襖の向こうに気配がして俺は視線を向けた。襖がそっと開かれて、2つの眼がこちらに向けられた。小さな女の子だ。あれがシズク、イルカ先生が産んだという子供か。
子供は何も言わずに襖を閉めると行ってしまった。

 

おもしろくないねえ。

 

 

そして夜が明けて、案の定イルカ先生は顔を真っ赤にして照れながらも俺を叱って、そして仕事は休むがシズクを保育所に預けなくてはならないと言うので、足腰の立たないイルカ先生の代わりに俺がシズクを送ることにした。
ついでに任務報告もしてきますと言ったらまだしてなかったのかとこれまた雷を落とされて俺は自分の家から追い出されるようにしてシズクを連れて出かけた。
シズクの通う保育所はアカデミー近くにある。必然的に火影の執務室にも近い。まあ、通り道でよかったよ。
途中でナルトに出会った。俺を見て驚愕に目を見開いてにかっと笑った。うん、こいつの笑顔は相変わらず気持ち良いねえ。

「カカシ先生おかえりってばよっ!イルカ先生の所にはもう行ったんか?」

「ナルト、そんな当たり前なこと聞くなよ。」

「そっか〜、でもイルカ先生とは一緒じゃないんだな。先生は後から来んの?」

「うーん、ま、俺もイルカ先生もまだまだ若いからな!」

俺の言葉にナルトははははと、乾いた笑みを浮かべたが(こういうところはこいつも大人になったもんだよな)すぐに俺の隣にいたシズクに視線を向けて目の高さにまでしゃがんで挨拶した。

「へへっ、シズク、おはようございます。」

「ナルトにいちゃ、うはようごじゃいまし。」

シズクはぺこりとお辞儀した。

「へへー、俺ってばシズクのためにちゃんとあいさつもするんだってばよっ!」

「ナルト、それは人として当たり前のことだぞ?」

「うっ、カカシ先生は相変わらずひと言余計だってばよ。」

ナルトは立ち上がって途中まで一緒に歩いた。どうやらこれから任務をもらいに受け付けに行くらしい。
それから俺はナルトと別れ、シズクを保育所に預け、そして火影の執務室へと向かった。
ノックをすると入りな、と懐かしい女傑の声がして俺は遠慮なく入った。
そして火影の机の前まで来るとポーチにしまっていた報告書を手渡した。戦場の様子などは逐一報告していたので、任務期間にしては薄い報告書だった。
受け取った火影は報告書をぺらぺらとめくって見るとご苦労だったね、と労いの言葉をくれた。
だが久しぶりの再会だというのにまったく嬉しそうではない。俺だってあまり気分はよくない。朝方までイルカ先生の体を思いっきり貪っていたのにどうにも気分はすっきりとしないのだ。

「昨日、俺と同行していた奴らはどうなりました?」

「1名が死亡、1名はいまだ意識が戻らない。もう1名は命は取り留めたが忍びとしてはもう動けないだろう。みなお前と同じように長期間の任務に従事し、久方ぶりの帰還だった。家族の者もさぞ悲しむだろう。心が痛むよ、まったく。」

酷い敵襲だった。俺も帰還するにあたってさほど体調万全ってわけでもなかったし、結構ぎりぎりなところがあってなんとか敵を倒すことはできたが、こちらも受けた傷は大きかった。

「敵忍の詳細は判明しましたか?俺も唐突に襲われたので相手の特徴などはよく確認しませんでしたが、とりあえず木の葉の同胞や木の葉の抜け忍ではないことは確かだと思います。」

「ああ、十中八九他国の者だろう。そちらは調査中だがお前に逐一報告するとしよう。帰還して早々悪いがこの一件、お前にまかせる。敵襲に遭って唯一まともに動けるのはお前だけであり、お前が一番の適任だ。」

「承知。その調査にあたって暗部も少々使わせてもらいます。」

「勝手にしな。」

「ところで、」

俺は話の腰を折って火影に向かって顔を近づけた。他の者には間違っても聞かせてはならない。今は誰にも気づかせてはならない。本人には勿論絶対に。
ぼそぼそと話した言葉に火影は驚愕の目を向けた。

「馬鹿なっ。」

「火影さま、かつてあなたのスリーマンセルの仲間がどんなことをしていたかご存知でないことはないでしょう。どうか秘密裏に調査をお願いします。決して他言はなさらぬよう。俺の方でも兼任して調査にあたります。」

火影は深く考え込むようにして腕を組むと苦々しい表情で視線を窓の外に向けた。

「現状維持、と言うわけにはいかないんだな?」

「恐らくは弊害が出始めています、長引けばそれだけ...。」

「わかった、最重要調査項目としてこちらも努力しよう。敵襲の件は頼んだ。」

「はっ、では失礼します。」

俺は一礼して執務室を後にした。廊下を少し歩いたところでサクラとであった。まあ、綱手様の弟子だしね、こんなところで出会うのは必然と言うべきか。

「カカシ先生っ!おかえりなさい。早速シズクちゃんを保育園に送ったりしてイルカ先生の尻に敷かれてるってナルトから聞きましたよ。」

「ははは、時代は亭主関白よりもかかあ天下だよサクラ。」

「いつもアカデミーに出勤する時に一緒に送っていくのに今日はイルカ先生の姿が見えないってナルト愚痴ってましたよ。アカデミーに勤務してる友達に聞いたらものすごく申し訳なさそうに本日は休みますって連絡送ってきたって聞きました。100%カカシ先生のせいですね?」

にこりと微笑まれて俺もつられて微笑み返した。
うわ、この子もちゃんと綺麗に嫌味を言うようになったねえ。これも大人の宿命ってやつかな?まだまだかわいらしいもんだけどねえ。

「ははは、サクラは手厳しいねえ。昨日は先生が離してくれなくてねえ、なにせ3年ぶりの逢瀬たったから先生燃えに燃えちゃって。」

「カカシ先生、セクハラです。」

聞いてきたの、サクラのほうなのになあ。

「...、ゴメンナサイ。」

「分かればいいんです。ところでカカシ先生、しばらくは里にいるんですよね?明日って都合付きます?」

「ん?まあ里にはいるけどなんで?」

「カカシ先生の帰還を祝して祝賀会でもしようと思って。」

女の子らしい気遣いに俺は目を細めて笑みを浮かべた。

「ありがと。しばらく俺の身は火影様預かりになるはずだし、長期任務の後は大抵厳しい任務は免除されるから大丈夫だと思うよ。」

「分かりました。それじゃあシズネさんにもお願いして上忍の方々もお誘いしますから楽しみにしててくださいね。」

「うん、わかったよ。決まったらまた教えてちょーだい。」

「はーい。」

サクラはにこっと笑うとそのまま行ってしまった。かわいい教え子を持つってのはなかなかいいもんだねえ。ほのぼのしちゃうよ。
俺はその後ろ姿を見送ってから瞬身を使って暗部の出入りしている暗部専用の建物へと向かった。その存在は機密なので建物もかなり分かりづらいところにあるが火影の直属部隊なのでいつでも火影の御許にはせ参じることができるように火影の執務室から近いところにあるのだ。
相変わらず薄暗い場所だがだからと言って殺伐としているわけではない。闇に生きている奴らだからどうしてもそういう空気になってしまうだけで特別悪い奴らではないのだ。
その部署の中でも情報収集を主に行っている部署へと行くとそこには顔見知りの男がいた。

「あれ、カカシ先輩じゃないですか。いつ戻ってきたんですか?」

後輩の一人だ。肉体的に忍びとして特出したものを持っているわけではないが頭脳と観察力だけで言えば木の葉一かもしれない。特別上忍になれればよかったのだろうが、その能力は特別上忍の比ではなかったため里の危険な機密を預かる者として抜擢され、今では暗部預かりとなっている。

「うん、久しぶりだね。戻ったのは昨日だけどちょっと聞きたいことがあんのよ。」

「里の機密とかはだめですよ?」

「そんな面倒なものこっちから願い下げだよ。そんなことより最近の木の葉で起こってる事件で連続性のあるものってある?勿論まだ未解決のものね。」

「は?あー、ちょっと待ってくださいねえ。」

後輩は目の前のパソコンを操って情報を引き出している。ちなみにお面はきちんとかぶっている。この建物自体機密みたいなもんなんだからこの建物内でお面をつけてる奴の方がまれなのに、まじめな奴だ。

「この3件かな?」

そいつが上げた3つの事件を見ると、1つ目は小動物を狙った虐待事件。2つ目は忍びらしき者の婦女暴行。3つ目は過去に重要なポストにいた人物たちの連続殺人事件。

「で、カカシ先輩の見解を聞かせてくださいよ。」

「そうだねえ、1つ目はたちの悪い遊び目的っぽいし2つ目は腐った精神の忍びの仕業っぽいね、いつまでたってもうだつの上がらない人物が予想される。3つ目は、過去に何か怨恨でもあると見た。ま、ざっと見だからいい加減なもんだけど。」

「いえいえ、1つ目と2つ目において犯人の目星をつけてる奴はそんな感じだと警務部隊から報告があります。決定的な証拠がなくて警務部隊が犯人を挙げるために今現在も捜査中ではありますが。しかしその中でも困難を極めているのが3つ目の事件ですね。何せ手がかりがまるでない。かなりの手際と見受けられます、敵ながら天晴れですよ。このまま行けばいずれ暗部に依頼がきそうな予感がします。事件を迷宮入りさせるわけにはいきませんから。」

後輩はそう言って目を鋭くさせた。木の葉のために日夜がんばっているのだ。俺は後輩の肩をぽんと叩いた。

「それじゃあその3つ目の事件の詳細を後ででいいから資料にしてちょうだい。火影様にはちゃんと許可もらってるから。」

「わかりました。ちょっと今立て込んでいるので明日以降になりますがいいですか?」

「うん、いいよ。いつでもいいからお願いね。」

「はいっ。」

後輩は嬉しそうに返事した。なんだか知らないが俺のことを神聖化している暗部の後輩って多いんだよなあ。まあ、有効に使わせてもらってるけど、たまに気色悪い時があるんだよねえ。
俺は後輩を労うとその建物から出た。そしてイルカ先生の待っているであろう自宅へと戻っていったのだった。