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先ほどまでとは打って変わって私語など一切しなくなった子どもたちに、イルカは内心忍びらしく落ち着いて任務にあたられるようになってきてんだな、と感心していた。
これもきっと担当上忍師のカカシのおかげに違いない。
里一番の技師でビンゴブックにも載っていて、男にも女にも羨望の眼差しで見られている、自分の恋人。
と思って少し顔を赤らめた所でイルカは頭の中の煩悩を追い出した。
任務中になにを考えてるんだっ。子どもたちは真剣に任務に集中していると言うのに。
実は7班の3人はただただ先ほどのことがあって意気消沈して無口になっていただけだった。はっきり言って今すぐ帰りたいほどこの任務を早く終わらせたくて仕方がない。
「まずは一階からだぞ。幼少組の教室を見回っていくから、お前ら、幻術のトラップだとか少しでも気配を感じたら知らせるんだぞ?火影様だって万能じゃないんだ。忍びの侵入者はいないと仰ったが一般人の侵入者であればその限りじゃないかもしれないからな。」
イルカは張り切って廊下を歩いていく。
イルカの元気な様子に子どもたちは少し元気が出てきた。お互いの顔を見合わせて弱々しげに肯き合う。
もうあんなことは起きないかもしれないじゃないか。そうだ、あれは事故であってもうそんなことは起きない、あれはきっと聞き間違いだとかそういうものに違いない。姿を見たわけでもなく、ただ声が聞こえただけだし。
が、各々、自分の都合のいいように考えはじめて幾分か余裕が出てきたとき、その音は聞こえてきた。
テケテケテケテケ、となにやらちょっとかわいらしい音が廊下の向こうから聞こえてきたのだ。
「ん?何か音がするってばよ?」
ちょっと鈍いところのあるナルトもちゃんと気が付くほどその音は廊下に響いていた。
廊下の奥を注目する一同、そして奥から現れたのは、かわいらしい音とはまったく関係ない容貌をした、かわいくないものだった。
上半身だけの者が肘をついてテケテケ走ってきていたのだ。手にハサミやら鎌やらを持ってこちらに向かってくる。
落ちくぼんだ目、振り乱した髪、って言うか下半身はどうしたっ!見えないのは幻覚なのかっ!?
っていうかもう観念しなきゃなんないよ、あれは人なんかじゃないっ!!
7班の子どもたちは3人とも硬直して動けない。なにあれなにあれなんなんだよっ!!
「ぷち、土遁、土流壁の術っ!!」
イルカが口から泥を吐き出して壁を作った。
え?と思うまもなくその訳の分からないテケテケ言ってた者は突如現れた壁に衝突して果てた。
廊下はしーんと静まりかえり、今はただ、土でてきた壁が廊下にあるだけだ。
「ったく、今度注意しとかないとな。アカデミーにあんなトラップをしかけるなんて。しかもなんか殺傷能力が高そうだったなあ。あの位だったら幼少組はまだ無理だな、となれば卒業間近の奴らか?まったくあいつらも暇だな、今は夏休みだって言うのに。」
イルカはぶつぶつ言いながら壁にぶつかってぺしゃんこになってしまった、今はもうよく分からないものをまじまじと見ているようだ。
「い、イルカ先生?」
サクラが遠慮気味にイルカに呼び掛けたが、イルカは自分で作った壁を見てため息を吐く。
「しかしこりゃあ掃除が大変だなあ。いくら咄嗟だったとは言え、もうちょっとやりようがあったかもなあ。サクラ、どうした?」
印を結ぶときに放り出してしまった懐中電灯を拾い上げ、壊れていないか確かめていたイルカがサクラに向かって小首を傾げる。
「な、なんでも、ないです。」
「そうか?今日はこいつの掃除はしなくていいからな。後日トラップをしかけた生徒に罰として掃除させることにするよ。」
きっとそんな生徒は現れない。だって、あれはトラップなんかじゃなかった。
再び歩き出したイルカに続き、子どもたちは壁の方を見ないようにして歩き始めた。
見たら一巻の終わりのような気がしたのだ。心中、かなり複雑な気分だった。
もう、認めるしかない。今回の任務は、今まで以上にかなりやばい。
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