トイレから戻ってきたナルトは、廊下で待っていた2人に曖昧な笑みを向けた。それだけで2人は納得したのか、労う視線をよこしてきた。
今日の経験だけで、3人は団結力だとか結束力がぐんと培われた気分になった。
いや、実際に彼らはチームワークを養った。この異常な現象の中で唯一頼れる大人が天然ボケで、しかしその天然のおかげで事なきを得ていたが、いつこの天然が災いするとも限らない。
3人は頷き合った。これからは自分たちでだってなんとかしなければ、いつ何時どんなことになってしまうか分かったもんじゃない。
再び元気よく廊下を歩き出したイルカの背中を見つめ、密かに3人は決意したのだった。
と、廊下の向こうからなにやら人の影が見えてきた。今までの経験からしてろくな事はない。今度はなんだ、ろくろっ首かのっぺらぼうか?と3人は臨戦態勢に入った。
イルカはそんな3人の様子に気が付いたのか、苦笑して言った。

「お前ら、初任務でもないのにそれは警戒のしすぎだぞ。よく見てみろ、カカシ先生だぞ。」

ナルトたちに振り返って言ったイルカの言葉に一同は目をよーく凝らしてその人物を確認した。確かにカカシだった。

「ほんとだ、カカシ先生どうしたの?任務はもう終わったの?」

サクラが知った顔にほっとして近寄っていく。知った顔と言うのはここまで人の心に平安をもたらすものなのか。それにカカシは腐っても上忍。この任務に一緒に付き合ってくれれば百人力であることは間違いない。が、そんなサクラの喜々とした表情は次の瞬間に凍りついた。
カカシの顔がぐにゃりと歪んで顔中に虫が這い出てきたのだ。
どう考えたって普通の状態ではない。勤勉家なサクラは当然のことながら、そうでないナルトでさえ、それが油女一族特有の虫使いのなせるものではないということが分かる。
明らかに違うのだ。そう、それはこの世の者ではありえないような禍々しさなのだ。
顔面蒼白になるサクラ。後ろを振り返ってナルトとサスケを見るが、2人とももはや声をあげることもできない。

「ん?お前らどうした?」

ただ一人、カカシに背を向けてその表情を見ていないイルカだけがのほほんとした様子で聞いてくる。

「もう、どうして、こんな、ことばっかり、」

サクラは半泣き状態である。涙声で泣き出すのを堪える。
くの一である前に彼女は女の子だった。クラスメイトのシノの扱う虫ですら時々申し訳なく思いながらも嫌悪感を露わにしてしまう時がある。
シノは慣れているのかそれとも心根が優しいのか、そんなサクラに気を悪くすることはないし、彼女もシノが嫌いというわけではなかった。
忍術と言う観点から見れば理解もできるし、同じ忍びとして心強いと感じる時もあった。が、これだけは我慢できない。そんなうじゃうじゃうじゃうじゃ、ああ、気を失いそう。

「おいおい、女の子と言ってもちゃんと忍びだろ?自分の上忍師が帰ってきて嬉しいのは分かるが嬉し泣きしてちゃだめだろ?」

イルカがまったくもって見当違いな指摘をしてくる。

「ところでカカシ先生、報告はまだなんですか?」

イルカが振り返った瞬間、カカシの顔は元に戻った。
なんて巧妙な手口を使う奴だっ!とナルトたちは思った。唯一の大人で、今までも何かと対処してきたイルカを油断させるつもりだっ!
カカシはにこりと笑って言った。

「はい、イルカ先生の顔を見てからにしようかと思いまして。」

カカシの答えににこにこと笑い返すイルカ。と、いきなりカカシを蹴りつけてカカシを昏倒させた。
呆然とする7班一同。

「イルカ先生、どうして?」

ナルトが不思議そうに聞いた。
イルカはそんなナルトに人好きのする明るい笑顔で言った。

「カカシ先生は任務中だったんだぞ?例え終了してたとしても、通常、俺に会いに来る前に報告書は必ず提出させてくる人なんだよ。そんな個人の情報収集すら満足にできない奴なんざ、俺の足下にも及ばないんだよっ!!こんのエセ者がっ!!」

イルカはそう言って偽カカシに向かって人差し指を指した。
途端、人の形をしていた者は、ぼろぼろと虫になって散っていってしまった。

「ちっ、虫使いだったか。遠隔操作をしている奴が近くにいるのか?こんなイタズラしやがって、油女一族の者なのか?それとも敵忍なのか?とにかくお前ら、気を引き締めていけよ。これから何があるかわかったもんじゃないからなっ!!」

もうこれまでに沢山すごいことがあったのに、気付いてないのはあんただけだよ、とは言えずに、イルカの元気で正義漢ふあれる言葉に色々な意味でサクラ同様、泣きたくなってきた7班一同だった。