それから、どこか吹っ切ってしまった7班の3人と、最初からのテンションを崩さないイルカは次々と教室を見回っていった。
そう、この任務にもいずれは終わりがやってくる。そう思えばもう早く終わらせるに限る。
少しでも早く終わらせるため、3人は必要以上に足を動かし、見回りを素早く終わらせることに集中した。
もう何が何だかわからない内にとっとと用事を済ませるんだと言う感情の高ぶりだけが彼らを動かしているようだった。
そしてとうとう3階にたどり着いたとき、何度目か分からない、どよどよとした空気が流れていた。
今度はなんだっ、なんでも来いっ、と3人はいささかやけっぱちの覚悟を決める。
イルカだけはそんなやる気の3人を微笑ましく見守っている。
そして、廊下の奥から、キイキイと音を鳴らして何かがやってきた。
現れたのは小さな老婆だった。老婆は積み木を入れるような、車の付いた箱に乗っていた。
不似合いなほどのでかい鎌と、老婆自身のものであるかのような足を手に持っている。
それほど怖くは感じないがどうにもその存在が不可解でならない。イルカはなにやら考え込んでいるようで動こうとしない。

「足、いるかい?」

は?
老婆の突然の言葉に一同は疑問符を頭に浮かべた。
サクラが、あ、と小さな声をあげた。老婆に聞こえないようにこそこそとナルトとサスケに話し出す。

「その話し、聞いたことあるわっ。確か、いる、と答えれば持っている老婆の足を渡され。いらないと答えればその鎌で自分の足を切られるって。」

どっちにしろなんだかいやな展開になりそうだ。とりあえずいらないとだけは答えちゃならない、ナルトは前方でサクラの話しが聞こえていなかったであろうイルカに声をかけようとした。が、イルカはその声を待たずに返事してしまった。

「えーと、間に合ってますんで。」

うまいっ!!7班の子どもたちはグッジョブと親指を立てた。そう言えば足をもらうこともなくまた、足を取られることもない。

「ばあちゃん、自分の家、どこか分かる?深夜徘徊してるって分かってるかなあ?ご家族の方が心配してると思うから早く家に帰らないと。玄関まで送ろうか?ここ、どこだか分かってる?アカデミーだよ?」

どうやらイルカは老婆が深夜徘徊しているちょっと認知症の人だと思っているらしい。どこまでも天然が入っている。

「でも車でどうやって3階まで来たの?誰かに運んでもらった?一人で車を持ち上げて来たってことはないだろうし、う〜ん...。」

どうやら今回ばかりはイルカも疑問に思ってしまったようだ。
が、ぽんと手を打つとイルカはにこやかに微笑んだ。

「分かった。ばあちゃん本当は忍びなんだろ?その鎌も自分の武器なんだ!すげぇなあ、もう引退してもおかしくない年だろうに、ご意見番のコハル様よりも上なんじゃねぇか?」

すげぇすげぇと子どものようにイルカは老婆を褒めちぎっている。
絶対、忍びなんかじゃない。どうして下忍の自分たちですらその雰囲気だけでその人物が忍びでないと気づけるのにイルカは気づかないのか、いや、気づかないふりをして本当は天然のふりをしているだけなのか?
しかしそれにしては自分たちくらいには真実を明かしてくれればいいだろうに、忍びは裏の裏をかけ、と言うことなのか?
自分たちの上忍師がかつて言っていた言葉を思い出すものの、やはりイルカがそんな裏をかいた行動をしているとは思えない。
目の前ではばぁちゃんと和やかに話しをしている好青年の図が完成している。
ここに縁側と猫でもいれば完璧だろう。ただ、老婆が自分の足らしいものと鎌を持っておらず、ここが深夜のアカデミーでなければの話しだったが。
しばらくそうしてイルカは自分の忍びの体験談だとか、老婆を気遣う話しをひとしきりした後、老婆は車をキイキイ言わせながら去っていった。

「気を付けてー!」

イルカの元気な声が寂しく廊下に響き渡った。