それから校庭に出て、煌々と照る月明かりに7班の子どもたちは今度こそ安堵の息を漏らした。

ここまで来ればもう大丈夫だ。今度こそ任務完了だ。

「じゃあお前らまた明日な。俺は火影様に任務報告してくるから。」

イルカの言葉に頷く7班3人。そして各々挨拶して校庭から去っていった。
その後ろ姿を見てイルカは肩の力を抜くと振り返った。そこに影が覆い被さる。

「わっ、ちょっと、カカシさんっ。」

イルカに覆い被さってきたのはカカシだった。イルカはその存在に気が付いていたものの、こんな登場とは思っていなかったので少々驚いたらしい。

「ただーいま、イルカ先生。」

抱きついてきた恋人を邪険にせずにそれでも少し不満顔でイルカは抱きしめ返す。

「もう、みんなにも帰ってきたこと知らせてあげれば良かったのに。結構みんな寂しがってたんですよ?」

「いいんですよ、どうせすぐに任務で顔を合わせるんだし。それよりもただいまです、イルカ先生。」

イルカは呆れた顔をしたが、久々の恋人の抱擁にうっとりと目を細めた。

「おかえりなさい、カカシさん。報告書は?」

「はい、Sランクだったので報告は火影様に口頭でしてきました。家に帰ったらイルカ先生がいないから探しちゃいましたよ。」

「そうだったんですか。実は俺、これから火影様に任務報告してくるんで、先に帰ってらしてください。」

「いやです。待ってますから一緒に帰りましょ。任務ってあいつらとアカデミーで何をしてたんですか?あ、話せなければいいんですが。」

イルカはにこりと笑って首を横に振った。

「いえ、任務と言っても依頼書を作成するまでもないただの火影様のお使いみたいなものでしたし、7班の上忍師の方に報告してもなんら問題ないですよ。」

イルカはそっとカカシの抱擁から抜け出して火影邸へと歩き出した。
月の光りが二人を優しく包む。

「実はアカデミーでおばけ騒ぎがあったとのことで、その調査に来てたんです。でも実際は一般の侵入者と生徒達のいたずらトラップがほとんどでした。警備を強化するように申告するつもりです。」

イルカの言葉にカカシは頷いた。
それから火影の執務室まで来ると何故かカカシも執務室の中に一緒に入ってきた。
再び現れたカカシに火影は一瞬首を傾げたが、イルカの存在に納得すると、イルカに報告を促した。
イルカはアカデミーで出会った一般人とトラップの数々を漏れなく報告した。
それを聞く火影の顔はなにやら緊張しているように見える。と、言うかどことなく聞きたくなさそうに見える。

「あ、すみません、やはり深夜に報告するのは憚った方がよかったですね。」

イルカは自分の至らなさに申し訳なく思った。だが火影はそうではないのじゃ、と少々元気のなくした顔で微笑んだ。

「いや、ご苦労じゃった。警備を強化する案は前向きに善処することにしよう。正式な任務でもないのに引き受けてくれて助かった。甘栗甘のほうびはわし宛てにツケにしておけば良いからの。明日は休日を取らせる。体を休めるが良い。」

火影の労いの言葉にイルカは頭を下げて執務室を出ようと背を向けた。だがカカシは出口に向かわずにその場に留まった。

「カカシさん?」

「ちょっと報告し忘れたことがあるので、イルカ先生、執務室の前で待っててもらえます?」

「あ、はい、分かりました。お待ちしてます。」

イルカは正直に頷くと執務室を出て行った。そして執務室に残った火影とカカシは扉が閉まるとため息を同時に吐いた。

「よりにもよってアカデミーですか。いつ頃からです。」

「つい最近じゃ。早めに手を打つためにイルカには少々虚偽の情報を与えたがの。出たのがアカデミーなだけに大事にするわけにもいかぬしな。しかし補佐を付けたいと言ってきた時は正直冷や汗をかいた。まさか7班を巻き込むことになってしまうとはわしも思わなんだからの。子どもたちにはさぞかし不気味な体験となったであろうな。」

火影はやれやれとキセルの煙草をふかした。

「しかし他の誰かに頼むこともできぬしのう。この里で一番適しておるのはイルカじゃ。本人に自覚がないのが幸か不幸かわからぬが。」

「まあ、本人は超現実主義者ですからどちらにしろ本気に取らないでしょうけど。」

言えるわけがない、自分がものすごい破魔の力の持ち主だなんて。今までの彼が担当してきたAランクの任務はほとんどそっち系統の任務であることは知らぬは本人ばかりなりとかなり有名な話しだった。
カカシが知るだけで里内部のこの手の任務はこれで2度目だ。
夏になるとやってくるのだ、奴らは。そしてイルカはそれらを自覚のないままに退治する。

「でもだからってほうびが甘栗甘だなんて少なすぎますよ。一週間の休暇を所望します。ついでに俺の分も。」

火影は何を言っておるかと灰受けにキセルを叩きつけた。が、これでアカデミーのおばけ騒ぎも静まるだろうし、知らぬとは言えよくやってくれたのは事実なのだ。それを思えばもう少しほうびを出してあげたいと思う好々爺な思いも相成って火影はこほんと咳をした。

「3日で我慢しておけ。」

カカシの任務も一ヶ月に渡るものだった。そのくらいの休暇は与えてやろう。

「じゃあ後始末はよろしくお願いしますね。」

「すでに暗部が動いておる。祈祷師も呼んで今頃は祓いのまっただ中じゃろう。」

火影の言葉にカカシは頷いた。そして執務室を出た。
部屋の外で待っていたイルカに微笑みを向けてカカシは自分たちの家へと向かったのだった。