「はい、ではこちらを向いてポーズをとってください。視線はカメラの少々上のほうで、お互いにもう少し近くに寄ってくださいね、はーい、いきますよ〜。」

カメラマンからフラッシュを浴びせられてカカシとイルカはぎこちない笑みを浮かべながらも言われた通りにお互いに寄り添ってそれらしいポーズをとることに専念した。

「よーっし、いいぞぅ2人ともっ!輝いてるぞっ!これぞ禁忌ボーイズだ、しかし俺がさっき披露したナウくてイケイケなポーズを何故使わん!?もう忘れたのか?だから写輪眼でコピーしておけと言ったのに情けないぞカカシぃっ!!」

カメラマンの横で唾を飛ばしながら勝手なことをほざいているガイに、カカシは青筋が立ちそうになる額をなんとか気合で押さえ込んで笑みを浮かべた。その壮絶な笑みの迫力にカメラマンがひぃっ、と顔を青ざめさせる。
とりあえずこの撮影が終わるまでだ。終わったら足蹴にするどころじゃなく半殺しにしてやると心に誓ってカカシは殺気の満ちた笑顔をカメラマンに向けていた。
そもそも、どうして期間限定だった禁忌ボーイズとしてのアイドル活動が再開されることになったのか、それには理由があった。

 

「え、インタビュー?」

イルカは首をかしげた。目の前にいるガイがぐっと親指を立てて片目をつぶった。隣で見ていたカカシはげっ、と視線を逸らした。

「そうだイルカっ!以前禁忌ボーイズとして活動していた時にドラマ撮影をしていただろう?そのドラマが予想以上に反響が大きくてな、DVD化するんだそうだ。そこで売り上げをあげるためにインタビューしたいと製作会社からオファーが来てな。アイドル活動は原則としてあの一週間という約束だったが、その売り上げは木の葉の里に全額寄付してくださるそうなのだ。それならいっそ売り上げに貢献した方がよかろうと火影様はそのオファーを受けることにしたのだ。なにより民がDVD化を強く望んでいたようでな、里民の要望に応えるため、そしてよりよい里作りのため、一肌脱いでほしい、頼むっ!!」

ガイはカカシとイルカ、2人に向かって深深と頭を下げた。

「そんなっ、ガイ先生、どうか頭を上げてください。俺、インタビュー受けますからっ。」

「ちょっとイルカ先生、騙されちゃだめですよ。アイドル活動したせいでストーカーやら誘拐犯やらが頻繁に現れるようになって困ったの、忘れたんですか?」

カカシの言葉にイルカはしゅんとなった。慌ててカカシは口調を和らげた。

「あの、イルカ先生を責めてるんじゃないですよ?ほら、これでまたよからぬ輩がイルカ先生にちょっかい出すようになったらと思って、」

「何を言っている、そんな奴らから守るのがカカシ、恋人であるお前の役割だろう?」

ガイがにっと笑って白い歯をキラリと見せた。カカシはぐったりと肩を落とした。そんなカカシにイルカが遠慮がちに言ってきた。

「カカシ先生、受けましょうよ。木の葉崩し以降、そとっつらは完全に復興したように見えますが内部ではまだまだ忍び不足が否めないし、強固な守りを固めるための費用はありすぎて困ることはありません。」

イルカの言葉は最もだった。体面上は立ち直りましたと言う雰囲気を出して虚勢を張ってはいるものの、一度食らってしまった打撃はそう簡単に全てを元通りにできるはずもないし、よりよい強固な守備を整えるためには金はいくらあっても足りない。DVDの売り上げ全てをもらえるとなったらそれなりにまとまった額が入ってくるだろう。今の里にとっては願ったりもないことだとは思うが。

「アイドル再開はたった一日だけだ。イルカが心配なのは分かるがイルカも中忍、それにこの間の誘拐事件で牽制されて大分そういった嫌がらせ行為は少なくなったと聞いてるぞ?」

「誰に聞いたんだよ。」

「各々のファンクラブの会長だ☆」

そんなものあったのか、とカカシはげんなりとした。とうして忍びにファンクラブなんてあるんだよっ!

「カカシ先生、」

隣で座っていたイルカがカカシに視線を向けてくる。その目が不安に揺れている。イルカはアカデミーの教師だ。里を守るため、ひいては生徒を守るため、里の守りを強固にすることは願ってもないことだろう。

「仕方ないですねぇ、引き受けますよ。でもこれっきりだからな、ガイ。これ以降は絶対にどんなことがあってもやらないからな。ちなみに活動が再開されることは極秘だ、極秘でなければ却下だ、いいなっ!」

イルカに対する優しい口調をガイに対しては乱暴に変えてカカシは言った。

「うむ、今回は直接里民の前に立たなくとも大丈夫だろう。プロモーション活動だけだからな。そのことは火影様にも重々伝えておく、任せておけっ。ではスケジュールだがDVDのパッケージの撮影と宣伝するコメントの撮影だな。プロモーション活動はテレビとラジオで放送するからその録画と録音もしないとな。まあ一日で終わるだろう。詳しいことは決まり次第伝えるからなっ、では俺は火影様に連絡してくるっ。」

そう言ってガイはこの部屋から出て行ってしまった。ちなみにここは暗部御用達の拷問部屋の一室である。昼休み時間に唐突に呼び出されて、極秘事項だからとここに連れてこられたのだ。

「まったく、嫌になりますよねえ。イルカ先生も嫌なら嫌って言ったほうがいいですよ、相手が上忍だからって遠慮なんかしちゃだめです。」

イルカは弱弱しく笑った。

「遠慮なんて、みんなが望んでいるなら要望に応えないと。それに俺は、」

イルカはそこで言葉を途切れさせた。

「イルカ先生?」

「今日の、今日のおかず何にします?今日は受付業務がない日なんで早く帰れるんですよ?」

イルカは急に立ち上がった。その笑顔にカカシは無理に聞くこともないかと曖昧に頷いて自分も立ち上がった。そして二人並んで出口へと向かう。

「今日は寒いので鍋なんてどうですか?」

「いいですね、一人で鍋ってできないんで楽しみです。出汁は何がいいです?すき鍋にキムチ鍋、豆乳鍋にモツ鍋、味噌仕立て、醤油仕立て、とんこつ仕立て、ベースは昆布、かつお出汁と色々ありますが。」

「そんなに沢山聞かされると全部食べたくなってしまいますよ、イルカ先生は何が食べたいですか?具は野菜たっぷりめで適当に安売りしてる魚介類なんかがあると嬉しいですが。」

「海鮮鍋ですか、では定番の昆布だしの醤油仕立てにしましょう。締めはうどんと雑炊、どちらがお好みですか?」

「やっぱり雑炊かな、卵なんかが入ってると最高だねえ。」

「ですよね、俺も雑炊派なんです。ナルトはうどん派でしたけどね、あいつ麺類に目が無いから。」

「なに言ってんですか、それはイルカ先生の影響でしょ?」

カカシが笑って言うとイルカは照れたのか顔を真っ赤にした。

「じゃあ俺は上忍待機室に行ってきますから、何事もなければ夕方にあがります。急に任務が入ったらすぐに知らせますから、勝手に始めないでくださいよ?」

「分かってますよ、ビール冷やして待ってますから。じゃあ俺はここで。」

アカデミーと上忍待機室との分かれ道に差し掛かってカカシはイルカと分かれたのだった。

 

上忍待機室へ行くとアスマがソファに座っていた。カカシは片手を上げて挨拶すると隣に座った。

「任務じゃなかったのか?外に呼ばれてったからてっきり同伴の任務かと思ってたが。」

タバコの煙を揺らしてアスマが言うとカカシはそんなんじゃないよと首を横に振った。
アイドルをしていたことは全里民に知れ渡っており、この男も十中八九知っているがこのひげ面の男にわざわざアイドル活動再開などと言う自分の生き恥を晒すつもりはない。

「ま、いいけどよ。通常待機ならヒナの所に行ってやれ、探してたぜ。ついさっきたがら追いかければまだ間に合うんしゃないか?」

「ヒナが?そうか、じゃあ行ってくる。」

カカシはそう言うと折角座ったソファからすぐに立ち上がって待機室を出て行った。そして追いかけようと周りを見渡して、建物からそう遠くない場所にいるヒナを見つけてその元へと走っていった。

「ヒナっ。」

呼びかけるとヒナはすぐに立ち止まってカカシの姿を確認して息を吐いた。

「どうした?」

「最近会いに来ないから。あのこ心細いのか最近痩せちゃって。」

「あのこって、シズのことか?体調が良くないのか?」

カカシの言葉にヒナはやや苦しげに頷いた。その顔にカカシも眉間に皺を寄せる。

「あのこは身重なのよ?少しは会いに来てやったらどうなの?不可抗力とは言え妊娠させたのは、あなたの責任なのよ?」

「責任は、取る。純粋に好き合ってたんだ。最近会ってやらなかったのは悪かった。近いうちに行くから。」

「約束よ、でないとあのこ、死んでしまうわ。」

ヒナの言葉にカカシはすまない、と呟いた。

「生まれてくる子はこちらで引き取るのは最初からの約束事だけど、それでも最低限のことはしてあげて、お願い。」

「悪かった。」

ヒナはそれだけ言うとその場を去っていった。
やれやれとカカシは頭をかいて後ろを振り返った。そして木の陰へとやってきて草影を覗き込んだ。

「覗き見とはいい趣味だなサクラ、イノ?」

カカシに見つかって硬直していた二人は慌てて立ち上がった。

「べ、別に立ち聞きをしてたわけじゃないのよ、ただついつい出て行くタイミングがつかめなかっただけで。大体あのヒナって子だって気づかなかったし。」

サクラの言葉にカカシがそれは違うと否定した。

「ヒナは年齢こそお前らより上だがぎりぎりの下忍で忍としての感覚もほとんど一般人に近い。だからお前たち中忍の気配に気づかなくて当然なんだ。で、どこから聞いてたんだ?」

カカシのあまりにあっけらかんとしている態度にサクラとイノは顔を見合わせた。

「カカシ先生、イルカ先生に話さなくていいの?2人は恋人なんでしょ?」

カカシは深く深くため息を付いた。

「あのねえ、いや、いいけどイルカ先生には話さないよ。心配かけるだけでしょ。ちょっと今から立て込むから忙しいし。」

カカシの言葉にイノはむっとした。

「それって相手のことちゃんと愛してないんじゃないですか?話しにくいことでも大切で重要なことなら話し合うのが恋人ってもんじゃないんですか?」

イノの言葉にサクラも頷いた。

「私、カカシ先生ならイルカ先生を幸せにできるかもしれないってそう思ってたのに、ひどい裏切りです。」

2人からなじられてさすがのカカシもなんだか困ったことになってきたぞと頭をかいた。

「あのさ、お前ら勘違いしてるみたいだけど、」

「言い訳なんか聞きたくないです。大人の都合のいい言い訳なんてっ!」

サクラの悲鳴のような言葉にカカシは一瞬口を閉じた。そして2人はそのまま瞬身を使って消えてしまった。
止める隙もなかった。あいつらも成長したねえとカカシは別の所でひどく感心した。
なにやら誤解しているみたいだが大したことではないだろう。大体イルカ先生には関係のないことだし、とカカシは一人納得して上忍待機室へと戻っていった。
そしてカカシはその夜、イルカお手製の鍋を雑炊の最後まで堪能した。
その翌日にガイに再び呼び出されてアイドル復活の日取りが知らせられ、そして本日はそのアイドル復活デーとあいなったのだった。

 

 

「はい、じゃあ写真の撮影はこれで終了です。」

カメラマンがぐったりとしてそういったのを聞いてカカシはしっかりとガイの後頭部に周り蹴りをお見舞いしてやった。
ごいん、と言う派手な音を立ててガイはよろけたが倒れなかった。
ちっ、とカカシは心の中で舌打ちした。

「カカシ、勝負は嬉しいが今はそのたぎる熱い闘志はしまっておけ、明日からならばいつだって受けて立つからなっ☆」

涙目になって言うガイにカカシは冷たい視線を送って心の中で呟いた。
明日っから無視決め込んでやるから無理だぜ☆

 

「さ、次はインタビューだな。これで最後の仕事だ、気合を入れていけ。これはテレビのエンターテイメント番組で放映されるものだ。インテビュアーが質問するからそれに答えていってくれ。アイドルらしい態度を取るようにな。まあ、何か問題発言をしてもあとで編集できるから気を楽にするといい☆」

ガイの言葉にカカシは渋々と、イルカはしっかりと頷いた。
そしてこぎれいな一室に案内された。そこにはもうインタビュアーが待っていた。やってきた二人に気づいて椅子から立ち上がる。

「はじめまして、コノハテレビのコマチです。本日はよろしくお願いします。」

気の強そうな、なかなかに美人の女性だった。カカシとイルカはやや斜めで体面するようにセッティングされたソファにそろって座った。
それからインタビューが始まった。ドラマを撮影した時の裏話やアイドルとして苦労したこと、そして私生活でのちょっとした世間話のようなものまで。
コマチはインタビュアーとして優秀なのか、少々緊張しているイルカからも自然に話しができるように気配りをしている。しかし話の方向が段々と曇り始めた。

「でも本当にお似合いのカップルですよね。休日はなにをしているんですか?この後も2人で買い物の予定なんかされていたりするんですか?」

「あー、まあ、買い物はしようかな。イルカ先生、冷蔵庫の中身ってまだ大丈夫でしたっけ?」

「うーん、少し少ないですかね。買い足しておいても問題ないと思いますよ。」

「だ、そうなので買い物には行くことになりました。」

「まあ、私生活でもツーカーの仲なんですね。うらやましい限りです。でも最近不穏な噂を聞いたんですけど。」

カカシはコマチの目がきらりと光ったような気がした。イルカは気づいていないのか買い物で不穏ですか?と少々見当はずれなことを聞いている。

「カカシさんに隠し子がいるという噂なんですが。」

その言葉にカカシは頭を抱えた。侮っていた。あの2人もいっぱしのくの一だ。噂を流すなんて朝飯前だったか。しかし昨日の今日でインタビュアーに知られる程となると今頃は里内に『カカシ隠し子発覚!』なんてビラまかれていそうで恐怖すら覚える。

「あのですね、それは、」

カカシの言葉を待たずにコマチはイルカにずずいっと近づいた。そういえばイルカは先ほどから無言だがどうかしたのかな?と顔を向けてカカシは愕然とした。イルカは顔を真っ青にして泣いていたのだ。声も上げずになんて器用な、いや、この場合は不器用と言った方がいいのか?

「イルカさん知らなかったんですか?それはショックでしょうねえ。ではお相手のことは何も知らないんですね。今までカカシさんからはそんな素振り一つも?」

これではまるで精神攻撃のようだ。カカシは立ち上がった。そしてイルカの腕を掴む。

「申し訳ありませんがインタビューはこれで終わらせてもらいます。では、失礼。」

カカシは不適な笑みを浮かべるとイルカを引きずるようにしてその部屋から出て行った。
そしてガイが待機しているであろう控え室へと向かう。
まったく、ガイの奴もいい加減な仕事しやがって。あれじゃあゴシップ書かせるために記者を呼んだのと同じだ。何が販促のためのインタビューだ。

「イルカ先生、大丈夫ですか?どうして泣いてるんですか、ほらゃんと立って。」

カカシは廊下で立ち止まっているかをしっかりと立たせた。そしてまだ呆然としているイルカを正面から見つめた。

「イルカ先生、イルカ先生?」

あまりの状態にカカシは段々と心配になってきた。だがやがてイルカはカカシの呼びかけに視線を向けてきた。そしてそっとカカシの頭に両手を伸ばした。

「イルカ先生?」

怪訝そうな表情を浮かべていたカカシにイルカはそっと触れるだけのキスをした。
カカシは目を見開いて微動だにしない。イルカはカカシからそっと離れると涙をぼろぼろとこぼした。

「ごめんなさい、俺、俺が邪魔して、俺が勝手に好きになってカカシ先生に甘えてたからっ。ごめんなさいっ、もう二度とあの部屋には帰りませんっ。」

そう言ってイルカは走って行ってしまった。カカシははっとして声を上げた。

「待ってイルカ先生っ、プロモーション用のあまりにもアーティスティックなその姿で外に出ると目立ちすぎるからせめて変化してくださいっ!!」

カカシの忠告も聞かずにイルカはその姿のままで撮影所から出て行ってしまった。
と、言うかカカシも結構パニックで自分の言動がちぐはぐだった。
そしてとぼとぼとカカシはガイのいる控え室へと向かった。
そしてドアを開けると差し入れなのであろう、ガイは好物であるカレーを食べていた。
控え室がカレーの匂いで充満している。いつもなら食うのは否定せんがせめて換気しろと怒鳴るところだがその気力すらない。

「どうしたカカシ、インタビューはもう終わったのか?イルカは一緒じゃなかったのか?」

カカシはどかりと椅子に座って化粧台の鏡をぼんやりと見つめた。

「なあガイ、イルカ先生は俺のこと好きだったのかな?」

「何を当たり前なことを。お前だって好きだろう?」

ガイが食べ終わったカレー皿をテーブルに置いてコップの水を腰に手を当てて一気飲みした。

「俺がイルカ先生を好きだって根拠は?」

「カカシ、お前俺がストーカーに遭っているからって自分の部屋にかくまうか?」

想像してカカシは勢いよく首を横に振った。そんなことしたら自分の方が神経磨り減って廃人になる。

「ではアスマはどうた?紅は?お前の教え子はどうだ?スリーマンセルの友は?自分の恋人として偽っても良いと判断して部屋に居候させそれを長いこと継続させるなんてことができるのか?」

カカシは考え込んだ。アスマなんて部屋がタバコ臭くなるし、紅だったら酒臭くなる。この2人だったらストーカーも恐れて逃げ出すだろう。ナルトだったら部屋の中ぐちゃぐちゃにされそうだし食べるものはラーメンばっかりになりそうだし、サスケだったら勝手に巻物とか見られそうだし、サクラなんて女の子を一人で部屋に上げるなんてことしたらどう考えても自分の立場が悪くなるし、まあそれでもこの三人だったらストーカー対策に忍犬でもつけてやるくらいのサービスはしてやるけど。オビトが生きていたらストーカーなんかに狙われるお前が悪いと煽って一緒に撃退はしただろうが部屋に上げることはいなかったろう。リンだったらサクラと同じ扱いだな。
そこまで考えてカカシはやっと理解した。よもやガイに教えられるとは。恐らくイルカを部屋に居候させたあの時から自分は...。

「なるほど、俺はイルカ先生を愛してしまったようだ。」

「何を今更なっ!で、その愛しのイルカはどうした?」

「俺のことを誤解してここから泣いていってしまった。」

ガイはそれを聞くとバチコーンっ!とカカシの頬を青春殴りした。
椅子に座っていたカカシはあえて避けることもせずにガイの鉄拳を受けた。受けたい気分だったのだ。

「カカシ、男がそう簡単に惚れた相手を諦める、なんてことはしないだろうなっ!?」

ガイの目にうっすらと感動のためかどうか知らないが涙が浮かんでいた。カカシはにっと笑って立ち上がるとガイの前に立った。

「当たり前だろっ。」

カカシはそう言うが早く控え室から出て行った。ガイはその後ろ姿を大滝の如く流れる涙で見送ったのだった。
が、どこを探してもイルカの姿は見つけられなかった。忍犬を使ってもだめだった。
つまりカカシ以上の能力の奴がイルカをかくまっているということだ。
ちなみに自宅へ行ったらイルカの荷物だけがきれいさっぱりなくなっていた。こんなこともてきぱきとできる奴が向こうには付いていると言うことだ。厄介だった。

 

そして翌日、スポーツ新聞に『イルカ涙!カカシ浮気!?禁忌ボーイズ破局宣言!!』という見出しが付いたのをカカシは苦々しい気持ちで横目に見ていた。
ちなみにここは上忍待機室。上忍たる責務を勝手に放棄することはできないのでこうして律儀に待機室にいるのだが、周りの上忍の目は冷たい。上忍の間では専らカカシよりもイルカを支持している輩が多い。カカシもそれなりに人気はあるがどちらかと言うと暗部や子供たちのヒーロー的な人気が強いのであった。
しかもだ、今回の破局の原因は自分であるということになっているのだから冷たい目に拍車がかかっても仕方がない。いや、仕方がないというのもおかしな話だが。
カカシの隣でこれみよがしにスポーツ新聞を広げていたアスマはにやりと笑った。

「どうした旦那様よ、随分とお疲れのようだな?」

カカシとそれなりに仲が良いアスマはどちらかと言うとイルカのシンパである。

「うるさいよアスマ。大体昨日ヒナが来なけりゃこんなことには...。」

それを聞いてアスマは新聞を折りたたんだ。

「ヒナって、昨日のか?もしかして隠し子ってヒナの関係か?」

「もしかしなくてもそうだっての。だから誤解だって言ってるのにみんなして俺を悪者扱いだよ、まーったく思うようにいかないねぇ。」

カカシはここに来て何度目か分からないため息を付いた。アスマは咥えていたタバコを灰皿に押し付けた。

「お前、イルカのことちゃんと好きなのか?」

カカシは頬杖付いていた顔をアスマに向け、そしてしっかりと目を見据えて言った。

「好きだよ。」

アスマは立ち上がった。

「しゃーねえな、今度ばかりはカカシに分が悪ぃから手を貸してやるよ。事の発端を細かく分析して伝えろ。助っ人を呼んでくるからよ。」

そう言ってアスマは待機室から出て行った。そして連れて来たのはよく見知った顔だった。