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数ヶ月後、イルカはアカデミーにて副担任としてベテランの教師の下に付くことになり、忙しい日々を送っていた。 「失礼します。って、あなたは。」 そこにいたのはいつぞやの任務で一緒になったライダだった。もしかして最後の任務時で何かまずいことでもあったのか?とイルカは身を引き締めた。 「ライダ上忍、お久しぶりです。前回の任務で何か支障でもありましか?」 ライダはイルカの姿を見るとなんとも言えない表情で手招きした。 「ちょっと口車合わせてほしいのよ。」 「え、あの、任務のことでですか?でも任務をごまかすと言うのはちょっと。ちゃんと失敗したことは報告してそれなりの対処をしないと。」 「は?任務なんかのことじゃないわよ。」 任務を、「なんか」扱いするのか。イルカはここで初めて少しライダに悪い印象を覚えた。 「それでは何の口車ですか?」 「あの任務の時に雪山で男を助けたでしょ。あれ、あたしが助けたってことにしといて頂戴。いいわね。」 「あの、理由を教えてもらっていいですか?」 「あんたには関係ないことよ。いいわね、これは上忍命令よ。他言はしてないでしょうね?してたら殺すわよ?」 ライダの目は真剣そのものだった。一体何が彼女をそうさせるのか。しかし上忍命令まで出されてはイルカにはどうしようもない。それにそれくらいのことだったら別に口車を合わせてもいいかな、と思った。 「他言なんかしてませんよ。口車の件は何か事情がおありのようですし、承知しました。」 昼休みがあと20分しかない。さっさとこのおかしな来客とおさらばしてラーメン定食を食べに行きたい。 そこまで何で徹底するんだ?と少々いぶかしく思ったが、先ほどの言動でライダとはあまり懇意にしたいとは思わなかったので、これ幸いと思うことにしたイルカは頷いて肯定した。 「じゃ、今日あたしがここに来たって言うのも極力知られないようにしといて。じゃあね。」 ライダはそれだけ言うとさっさと応接室から出て行った。 「知られないようにして、って、もう事務員には知られてんじゃん。」 そんなに極秘にしたいのなら直接待ち伏せだとか家に来りゃいいのに。中忍の家くらい上忍ならちょちょいと調べられるだろうに、ものぐさな人だ。 それから、ライダがビンゴブックにも載るほどの忍び、はたけカカシと付き合っているという噂を耳にするのはその一ヶ月後のことだった。 「そう言えばさあ、聞いたか?はたけ上忍に恋人ができたった話し。」 「え、知らないけど。って言うか、はたけ上忍って誰だ?そいつに恋人ができたからってなんで噂になるんだ?」 「イルカ、お前世間を知らなすぎだぞ。はたけカカシと言えば泣く子も黙る暗部出身の凄腕の忍者じゃねえかよ。賞金首ですごい金もかけられてんだぜ!!」 それって、喜ぶべきことなのかな、それとも困ったな、と悩むべきことなのかな?とイルカは少し考えた。 とりあえずイルカは知らなかったが有名な話しらしい。 「ふーん、まあ、めでたいんじゃないか?結婚するのかね?」 「さあ?なんでも運命の出会いなんだってさ。この間お前の所にライダ上忍、来てたじゃねえか。あの頃にはもう付き合ってたのかねえ。あ、まさかお前ライダ上忍の昔の恋人とか言わないだろうなあ?」 同僚がどうなんだ?とにやにや笑いながら聞いてくる。 「残念だけどライダ上忍とはアカデミーに入る前に一緒の任務に就いただけだよ。それ以上でも以下でもないって。」 「なーんだ、任務繋がりだっただけか。つまんねえのー。」 同僚の言葉にイルカは苦笑した。極秘どころかみんなにばれまくってるじゃんか。ま、別にやましいことはなにもないし。しかしはたけ上忍も物好きだな、俺はああいう女はあんまり好かんけど、恋愛は個人の自由だしな、とイルカはなんとはなし思った。 「ハヤテー、よう、元気か?」 イルカは少し小走りしてハヤテに声を掛けた。ハヤテはイルカに気が付くとゴホ、と軽く咳をして小さく笑った。 「イルカさん、お久しぶりです。相変わらずラーメンのようですね。」 すぐそこに見える一楽の暖簾に目を向けてハヤテが言うとイルカはいいじゃねえかよ、とハヤテを小突いた。 おやっさん、ごめんな、と心の中で謝りつつ、油っぽいものはあまり好きではないらしいハヤテを思ってイルカはそう誘った。本当に彼と出会うのは珍しいのだ。 「そうですね、では和食の店を希望してもいいですか?」 「いいよ、どこがいい?あんまり酒は呑まないんだろ?」 「はい。では東風亭でいいですか。久しぶりにあそこの鏑蒸しが食べたいです。」 「ああ、うまいよな。俺だし巻きも好きだな。」 「では決まりですね、行きましょうか。」 ハヤテは東風亭へと続く道を歩き出した。イルカもそれに続く。 「しばらくは里に駐留するのか?それともまた外勤ですぐに発つのか?」 「しばらく里にいますよ。ここ2.3年ほとんど里にいないようなものでしたし、少し里の状況をじっくり見たいですしね。イルカさんは戦忍ではなくなったようですね。」 「ん、分かるか?」 「ええ、戦忍特有の殺伐としたものが和らいでいるような気がしますから。内勤中心の仕事になったんですか?」 「ああ、アカデミーの教師になったんだ。まだ副担だけどな。ハヤテも早く結婚して子どもをアカデミーによこしてくれよ。」 「また無茶なこといいますね。年齢から言えばあなたの方が上なんですからその言葉、そっくり返せますよ。」 ぐっさりと言われてイルカは苦笑した。ずばずば言うのもこういう感じだったら別に嫌な感じはしないんだが、どうしてライダにはあまりいい印象がないんだろうなあ、とイルカはぼんやりと思った。 「んー、そうだな、なんかさんまのいいのが入ったみたいだからそれを注文するかな、それからだし巻きも付けて定食セットでいいか。」 そして注文してしばらくお互いの近況などを語り合っていると、やがて戸が開いて2人連れが入ってきた。
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