|
ライダはイルカを一瞬見てそっぽを向いた。自然な反応だったが一緒に任務をこなしたんだから別にまったくの赤の他人のふりをしなくても会釈程度ならするのかと思っていたイルカはその徹底振りに少々引いた。まあ、別にいいけど。 「よう、ハヤテじゃないよ。久しぶりだねえ。」 「どうも。」 どうやら知り合いだったらしい。しかし得体の知れない男だった。額宛てを斜めにかけて左目を隠していたし、口布で顔の半分を覆っていた。あれではどんな顔なのはまったく分からない。 「誰だ?」 「あれ、知らないんですか?はたけ上忍ですよ。」 「なるほど、あの人がはたけ上忍だったのか。」 はたけカカシ、凄腕の忍者で賞金首の額が半端でない男、か。 「隣の女性は恋人でしょうか。それなりに親しいようでしたが。」 「ん、気になるのか?隣の人はライダ上忍だよ。最近つきあい始めたらしいな。運命の出会いがどうとか同僚が言ってたけど。」 「そうですか、運命の、ねえ。」 ハヤテはゴホ、と軽く咳をした。 「はたけ上忍、なにか?」 ハヤテがなんなんだ?とばかりに声をかけた。 「今日のさんま、売り切れだったからさ。」 「食べたいんですか?」 頷くはたけカカシ。 「じゃあイルカさんにお願いすれば良いのでは?」 「それもそうだね。」 カカシは席を立ってイルカの横まで来ると両手を合わせた。 「さんまと刺身、交換してください!!」 「ぷっ、いいっすよ。」 中忍に頭を下げてさんまを請う上忍の図に、イルカは吹き出してさんまの皿を差し出した。得体の知れない人だと思ったが、なかなかどうして、楽しい人だな。格差を強調するような人でもないようだし。ああ、だからハヤテも通常通りにずばずばものが言えるんだな。 「今日はこの店のさんまが目的で来たから売り切れって聞いてがっかりしてたんだよね。助かったよ、ありがと。」 助かったのか、そりゃあ良かった。イルカはどういたしまして、と笑みを浮かべた。 「イルカさん、儲けましたね。」 「ああ、これうまいな。」 イルカは新鮮な刺身を遠慮なく頬張りながらご飯をかき込み、ライダのことは忘れてしまった。 「じゃあまたな、しばらく里にいるんだったらまた飯でも食おうぜ。」 イルカがにかっと笑って言うとハヤテはいいですよ、とにこりと笑った。そしてお互いに帰途へと付いた。 「ちょっと、あの命令覚えてるわよね。」 「あの、関わらないようにするっていう命令でしたら今回のことは不可抗力だったと思いますよ。先に店にいたのは私の方ですし、」 「そんなことはどうでもいいのよ、山小屋の男は私が介抱したんだから、絶対に誰にも言うんじゃないわよ?いいわね、分かったの?分かったならちゃんと返事しなさいよ。」 こ、怖い、なんか取り憑いてるんじゃないかろうかと思えるほどだった。 「あの、差し出がましいとは思うんですが、どうしてそこまでこだわるんですか?別に悪いことをしたわけじゃないですし、木の葉の人間が木の葉の人間を助けたことがそれほど大事になるとは思えないんですけど。」 「うるさいわねっ、ああ、そうだ、封印術を使えばいいんだわ。そうよ、それがいいわ。」 ものすごい嫌な予感がした。 「あの、ライダ上忍?」 ライダはご丁寧にイルカが逃げないように金縛りの術をかけてきた。 金縛りで逃げることもできずにイルカはその光りを浴びて、意識を手放したのだった。
|