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カカシは悩んでいた。イルカのことが頭から離れないのだ。あの男の事を考えて、あの男の言葉を、声に思い出してはため息を吐く。 「ようカカシ、何呆けてんだよ、恋煩いとか言うなよ?」 部屋にアスマが入ってきてカカシにちょっかいを出してきた。 「なんだよ恋煩いって、俺にはライダって恋人がいるでしょー?」 カカシは言われたことに多少胸の鼓動を早くさせたが勘違いだと心をいさめた。 「カカシよぅ、そのライダなんだが。」 珍しくアスマの口が言い淀んでいた。普段遠慮無く言いづらいこともどんどん言ってくる男が珍しい。何事だ?とカカシは先を促した。 「上の判断で降格させられるかもしれねえってよ。」 「上忍をか?」 アスマが煙草に火を付けた。 上忍からの降格は、体の不調だとか老衰などにより自発的に申告する者がほとんどで、上からの判断での降格は滅多にない。それはすなわち自分の怠慢や怠惰によるものだと判断されるからだ。 「なんでもその兆候は今に始まったことじゃねえんだと。詳しいことは知らねえが、恋人のお前には知らせてやろうと思ってな。」 火影の家系だからこその情報提供だったのだろう。本当は内々に事が進むはずなのだ。 「わざわざすまなかったね。」 「気にするな、国外に出たら珍しい煙草を土産にくれればそれでいい。」 そっちの方が高くつきそうだとカカシは苦笑した。 「カカシっ、カカシ聞いてっ、わた、私っ、ひどい査定を受けて、あんなの酷いっ、私どうしたらいいの!?」 どうやら先ほどアスマから聞いた内容を本人に突きつけられたらしい。 「ライダ、落ち着いて。とりあえずすぐにどうこうとか言う問題じゃないだろう。」 「カカシっ、だって私、私が下忍なんてっ!」 ぎょっとした。上忍が下忍に降格なんて話し、聞いたこともない。 「どうしたらいいの?どうしたら、ねえ、カカシ、私、忍びを引退しようかしら。ねぇ、私と結婚してよ、私、いい奥さんになるわ、なんだってするし、ねえ、お願いよ、いいでしょ?だって私、あなたの恋人なんだもの、ねえ、そうでしょ?」 ライダは涙を流しながら喚き続けた。激しい興奮状態で通常の思考能力も停止してしまっているらしい。今は本能をむき出しにしている状態と言う所だろうか。 「なんちゅうか、激しい女だったんだな。」 アスマの言葉にカカシはそうだな、と頷いた。ひどく疲れてしまった。しかし上忍が下忍に降格なんて、何かの間違いではなかろうか。大抵、中忍だったら下忍に降格、上忍だったら中忍に降格するのが常だ。彼女の場合は中忍ですらないと判断されたと言うことか。 「査定をしたのは火影様か?」 「最終的な判断はそうだろうな。どうするつもりだ?」 「ちょっと聞きに行ってくる。俺が帰ってくる前にライダの目が覚めたら帰らせてよ。」 「おい、めんどくせぇな。」 「どうせ待機でずっといるんでしょ。」 言われてそれもそうだがよ、とアスマは渋々頷いた。 「お前が来ると言うことは、ライダからもう聞いたと言うことじゃな。」 本当はアスマにも聞いたが機密情報が漏洩したと言う事実を言うわけにはいかなかったのでカカシは頷いた。 火影は煙草のキセルにマッチで火を付けた。 「ライダの仕事ぶりは昔からあまり良い噂を聞かんでな。くの一を統率しておるコハルからも前々から査定をした方が良いとの報告を受けておった。そこで調べておったのじゃが、出てきた結果はずさんな報告書、果たすべき義務をなさずして帰還する非常識さ、それは上忍としてではない、人として、忍びとしての仕事に対する姿勢の問題であった。下忍からその辺りを一から学習し直し、そして再び上忍として育ってほしいとのいう気持ちで降格を決めたのじゃが、聞いた途端、この部屋から出て行ってのう。困っておった所じゃ。」 火影はそう言ってため息を吐いた。カカシもため息を吐きたくなった。短いながらもライダと付き合っていたカカシはライダが改善する行動をすることはないだろうなあ、と予想したのだ。彼女の性格ならばいっそ死んだ方がましだと言うに違いない。困ったことになったものだ。 「お主の聞きたかったことはそれじゃろう?」 「はい、まあ。」 「そうじゃ、ついでにこの書類を受付員に渡してきてもらおうかの。」 火影から渡されたのはライダが遂行した任務の報告書の一部だった。 「今、受付でライダが提出した報告書の見直しをしておる所じゃ。ずさんな報告書は次の任務を行う上で痛手になることもあるからな。」 確かに、と思った。以前一度だけ見た彼女の報告書は後続の者に対する配慮が欠けていたのだ。 「承知しました。」 カカシは言うと執務室から出て行った。 「おつかれさん、これ、火影様から。」 カカシが声をかけると受付員は一瞬ぎょっとしたが、資料を受け取ると、納得してどうも、と礼を述べた。まだカカシに対する悪質な噂が消えたわけではないのだ。 「あの、カカシさん、どうしてこちらへ?俺、アカデミーに勤務してるって言いましたっけ?」 「いえ、それは俺が調べました。」 「え、なんでまた?」 「そんなことより、今日一緒に食事しません?聞きたいこともありますし。」 イルカは突然の事で驚いているらしい。だがわかりました、と笑って頷いてくれた。 「仕事、一段落させますから、少し待っててもらっていいですか?」 カカシは頷いた。イルカは職員室へと戻っていった。そしていそいそと書類をまとめてかばんに詰め込んで用意している。 「カカシさん、お待たせしました。さあ行きましょう。」 「いいの?俺の噂聞いて同僚の人が心配したんでしょ?」 「噂は噂でしょ?それに俺男ですし、大丈夫ですって。」 イルカが笑うとカカシはほっとした。
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