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食事も終わり、カカシとイルカはお互いの帰途へと付いた。 「お前が俺の前に現れたってことは、分かったってことなんだな、ハヤテ。」 名を呼ばれて男は顔を上げた。黒装束で身を固めたハヤテはしっかりと頷いた。 「裏が取れましたので。」 そう言って一本の巻物をカカシに手渡した。 「ちなみに本名で呼ぶのはやめてください。」 「いいじゃん、俺とお前しかいないんだし。」 巻物を読みながらのカカシの言葉にハヤテはやれやれとため息を吐いた。 「イビキ特別上忍からはたけ上忍に伝言があります。」 「なに?」 「執行時刻は今宵の丑の上刻。もしも自らの手で成し遂げたければその時刻よりも前に執行することを許可する。だそうです。その後で処理班が向かいますから。」 「承知した。」 「思ったよりもダメージを受けてないですね。」 ハヤテに言われてカカシは苦笑した。後輩にまで見透かされているとは、自分は随分と興奮しているらしい。まあ、それも仕方ないことだと諦めてもらおう。 「では行きます、ご武運を。」 ハヤテはそう言って音もなく去っていった。カカシはすうっと目を細めた。これで大義名分ができたわけだ。粛々と事を運ぶことにしよう。 「カカシっ、今までどこに行ってたのよ、私を1人にして、あなたは私の恋人でしょ?大変な時に側にいないでどういうつもりなのよっ、」 ヒステリーな声にもカカシは動揺することなく、いつものように部屋に入った。部屋の中はぐちゃぐちゃだった。暴れていたのだろう。それはそうだ、今まで上忍としてやってきたプライドを否定されたのだ、人一倍自尊心の高い彼女のことだ、暴れたい気持ちも分かるが。 「ね、結婚しましょうよ。私ね、結構尽くすタイプなんだよ。絶対カカシといい夫婦になると思うの。ね、赤ちゃんも欲しいでしょ?私子どもも好きなの、ね、そういう家庭っていいと思わない?そう思うでしょ?ね、ほら、私雪山であなたを介抱してあげたじゃない。命の恩人でしょ?それくらいしたっていいと思うの。」 カカシはそれには答えずに別のことを口にした。 「今日、イルカさんに会ってきたんだけど、」 それを聞いてライダはびくりと体を強ばらせる。 「あの人、記憶を封印されててね、解除してきたよ。」 カカシはにこりと微笑んだ。 「聞いたよ。介抱したのはイルカさんだってね。」 ぶわっとカカシの体中から殺気があふれ出た。それに宛てられてライダは体をがくがくと震わせた。 「この部屋はちゃんと結界を張っておいたから、しばらくは二人っきりだよ。嬉しいだろう?お前は俺の恋人なんだから。」 相変わらずの笑顔のままでカカシが言うとライダは真っ青な顔色で小さく頷いた。 「いい子だ。ねえライダ、君は少々悪いことをしてしまったようだ。」 カカシは巻物を取りだした。そしてそれを広げてライダに見えやすいようにかかげた。 「ライダ、同胞を殺したね?」 ライダは奇声を上げてカカシに襲いかかってきた。それをカカシはかわして床に叩きつけた。ぐっ、とライダが呻く。 「殺したらだめだろう、なんで殺したの?」 「あ、だ、だって、カカシが、カカシが、取られ、る、から、」 「ライダ、それはおかしいよ。俺は誰のものでもない。でもまあ、そんなことはどうでもいいか。」 カカシは印を結んでいって光る手のひらをライダの頭部に宛てた。そしてホルスターからクナイを抜く。 「分かっているね?同胞殺しは掟で禁じられている。しかもお前の動機は短絡的で、自分勝手だ。もう審判はくだってしまったよ。」 「あ、ああ、や、やめて、殺さないで、お、お願いよ、なんでも、なんだってするから、ねえ、お願い、カカシ、お願いよ、」 ライダはカカシに取り縋って泣きわめいている。 「死にたくないだろう、死にたくなかったろう、お前に殺されたくの一たちは。でも、お前は殺した。」 カカシは何の感情もなくライダの体にクナイを突き立てた。血が飛び散るが痛みはない。驚愕してライダは目を見開く。 「イルカさんに言われちゃって、お別れする時は優しくしてくださいって。」 カカシは突き立てたクナイを抜いてライダを床に転がした。 「痛くないように殺してあげよう。」 カカシはにこりと微笑んだ。 そして、ライダの叫び声は漏れることなく、その処理は執行された。 カカシはコーヒーを飲んでいた。ライダが自分のためにと買ったブランドものとやらのカップだ。 「処理は終わったよ。わざわざ出向いてもらったのにごめんね。」 カカシは執行人の暗部に片手でごめんごめん、と軽く謝った。 「では処理します。」 「うん、よろしくー。」 カカシの言葉に頷いて処理班が部屋の中に入ると、そこにはおぞましい姿となった、ライダであったものがそこに転がるばかりだった。 「はたけ上忍、やりすぎですよ。」 処理班の男がため息を吐いた。カカシはコーヒーカップを流しに置いた。 「仕方ないじゃないよ、約束があったし。」 「しっかしえげつない殺し方ですね、この表情から言って痛覚は感知してなかったみたいですけど。」 暗部がライダの頭部を観察して言った。なかなか鋭い洞察力だね、とカカシは頷いた。 「痛覚を遮断して処理したから。」 「それでこの殺戮ですか、やっぱりえげつないですね。先輩だって知ってたんでしょ?痛みのない殺戮は精神的にかなりの苦痛だって。」 「まあねぇ、安らかな死の場合はそうでもないけど、恐怖の元で死ぬ場合は逆効果だから。」 処理班がライダであったものを専用の袋に入れていく。
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