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翌日からアスマたちは村の中の捜索を始めた。村人たち全員からも事情を聴取するらしく、一軒一軒を回っているらしい。 「罰当たりかもしんねえけど、快晴で良かったよな。これで涙雨だったら余計になんかやるせないって言うかさ。」 ヒサシの言葉に杖彦は頷いた。せめてあの世に旅立つ日だけでも気持ちのよい秋晴れの空で昇天してほしい。 「あの、ユキさん?」 「あの女性のお葬式が行われていると聞きました。私にも手を合わせさせてもらえませんか?」 ユキの言葉に杖彦は頷き、中に案内した。ユキは遺影の前まで来ると手を合わせて目を閉じた。その顔は憂いに満ちている。 「ヒサシ、悪いけどあとのことは頼む。俺はユキさんを送ってくよ。」 「おいっ、お前そんな役得持ってくなんてっ、っくしょ、いいよ、行けよっ。」 ヒサシはぶちぶち言ったがため息を付いて手を振った。杖彦は悪いな、と片手で謝ってユキを追いかけた。 「ユキさん。その、すこし話しをしていいですか?」 杖彦の言葉にユキは静かに頷いた。そして参道を抜けた場所にある公園の中のベンチに腰掛けた。 「それで、今日はどうしてこちらへ?」 「村の外からやってきた人が殺されて亡くなった。同じく外からやってきた私としては、何か親近感と言うか、そんな気持ちがあったので手をあわせたいと思っただけです。特に深い意味はありません。」 ユキの言葉に杖彦は一瞬口を閉じて黙った。だがすぐに口を開いた。 「ユキさん、どうか正直に話してくれませんか?」 ユキが杖彦の顔を見上げる。 「正直に、とはどういう意味でしょうか?」 杖彦は押し黙ってしまった。アスマたちの捜査を邪魔しているのかもしれない。自分は間違ったことをしているのかも。だが、どうしてだろう、このユキと言う人が犯人とは思えなかった。あれだけの関連性があると言うのに。 「この間、小川で水遊びをされていましたね。」 おずおず話し出した杖彦の言葉に今まで穏やかな顔をしていたユキの表情が強張った。 「すみません、覗き見するつもりはなかったんですが、捜査に村にいらした人の宿代わりにと小川近くの小屋を使わせてもらうことになって、私はその日そこの掃除をしていて、その時に鳴瀬の旦那とあなたの姿を見てしまったんです。あなたは、本当は、」 「どうかっ、」 ユキの言葉が杖彦の言葉を遮った。 「どうかそれ以上は話さないでください。この村でもそのことを知っているのは鳴瀬の家の者だけです。」 杖彦はごくりと生唾を飲み込んだ。 「それは、つまり、」 ユキは顔を俯けていたが、やがて顔を上げるとしっかりと杖彦を見つめた。 「男同士の恋愛は気持ち悪いですか?でも好きになってしまったんです。どうしようもなかった。誰にも止められなかった。女として偽りの生活を強いられたとしても。」 ユキの言葉が杖彦の胸を深く打つ。何故だろう、どうしてこんなにも苦しい? 「教えてください。今回の事件、裏になにがあったんです。犯人は誰なんですか?あなたが犯人なのではないのでしょう?あの女性が妊娠していたと言う事実は今のところ村人には洩れていませんがそれも時間の問題です。流産したと言う噂があなたにある今、疑いはあなたに集中するでしょう。正直に話してください、でなければいらぬ疑いがあなたにかかります。」 「確かに、私の状況を知った上で、あの事件となんら関わりがないと言うのは不自然かもしれません。ですが私からは何も言うことはできません。」 「ユキさん、」 「行きます。タクミが心配します。」 ユキは立ち上がった。 「ユキさんっ!」 ユキは立ち止まって杖彦に頭を下げるとそのまま一度も振り返らずに行ってしまった。 「はあ、はあっ、だ、誰だ?ど、して、俺を、はあ、はあ、」 息をしながら問うたが、相手からは何の返事もない。 「あなたは誰なんですか?どうして、俺を?」 ふっと体の拘束が解けた、と同時に人の気配も霧のように消えうせてしまった。
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