− 魂合い −
|
ほんと、人を愛するってのはバラ色なだけじゃない。海の底のように暗くて冷たい色が滲んでくる時がある。 「はい、こちらでは里に不在ながらも綱手様がご存命で、それが起因しているのかどうかは計りかねますが俺の怪我が治る程の医療が発達しているようで。」 なんだ?イルカ先生の喉の怪我を知っている?ま、まさか、イルカ先生、敵とコンタクトしてるとか?ありえないっ、そんなの絶対違うんだからっ! 「今はアカデミーで教師をしています。」 「そうか、以前なりたいと言っていたね。」 「はい、まだまだ教師として未熟な部分もありますが、毎日が充実しています。」 「そうか、良かったな、イルカ。」 相手のその言葉に、俺は不覚にも目の前が真っ赤になった。激しい怒り、嫉妬。 「イルカ先生っ!!」 俺の気配に気が付いたのだろう、イルカ先生の身体が震えたのを感じた。霧は深く、相手の姿が見えないけれど写輪眼のおかげでありありと手に取るように解る。 「カカシさん、どうしてここに!?」 イルカ先生が慌てている。声が少し震えているようだ。でもそんなこと今は関係ない。 「俺のイルカ先生に手を出すなっ!!」 言えば、相手は息を呑んだようだった。 「カカシ、こちらの俺か!?」 相手の言葉によってそれは確信に変わった。 「残念だけど、イルカ先生はもう俺のもんだから、返してなんかやらないよっ!」 俺は相手に向かって殺気を向ける。連れ戻しに来たのか?だとしてもイルカ先生は絶対に返さない。死守してやるっ!どうしても連れて行くって言うなら俺と戦えっ!! 「あの、カカシさん、俺は帰ったりはしませんよ?あちらのカカシさんはどうやらあちらの状況報告をしに来てくれたそうで、俺もこんなの初めてで少し戸惑っていると言うか。」 「ちょっとイルカ先生、なんであっちの肩持つの?俺たち夫婦でしょっ!?」 「夫婦?そちらでは男同士で結婚できるのか?」 チャクラの声が驚いている。ああもうっ、煩いよっ!! 「俺とイルカ先生はラブラブなんだよっ!さっきまでだって愛し合ってたっちゅーのっ!!」 「ちょっ、カカシさんっ、何言ってんですかっ!」 イルカ先生が慌てて俺の服をつかんでくる。ま、まあ、ちょっと語弊があるけど許してね。 「まあ、言いたいことは大体言い終わったことだし、俺はもう行くよ。」 チャクラの声がそう言うと共に段々と薄くなっていく。 「え、あの、」 イルカ先生が戸惑っている。う、ちょっと罪悪感が...。 「こちらのことは心配しなくていいよ。俺が責任もってあの子を育てる。ああ、そうそう、これを聞くのを忘れていたよ。」 チャクラは消えそうになりながらも声を響かせている。 「イルカ、今、幸せ?」 イルカ先生は泣きそうになりながらも気丈に笑っているようだ。 「幸せです。俺の全身全霊を持って愛すべき人がいますから。」 え、え、それって、 「そうか、ならば良かった。イルカ、元気で。」 「はい、あなたも、お元気で。」 チャクラの塊はとうとう完全に見えなくなってしまった。それと共に霧も晴れていった。 「あの、イルカ先生?」 横でじっとしているイルカ先生の方を向けば、イルカ先生は穏やかに笑っていた。 「あの、イルカ先生?」 「帰りましょう。」 「え?」 「手、繋いでいいですか?」 「はいっ、勿論ですっ!どうぞどうぞ繋いでやって下さい、思う存分っ!!」 俺は手を服でごしごしこすってからおずおずとイルカ先生に差しのばした。イルカ先生はにこにこと笑って俺の手を掴むと歩き出した。 「不倫してたんです。」 浮かれまくっていた俺にイルカ先生は最後通牒をつきつけるが如く爆弾発言をしてくれた。 「相手は...?」 「カカシさんです。」 なーんだ俺かあ、って待てっ! 「イルカ先生?」 「以前にいた世界で、カカシさんは結婚してました。俺は、そのカカシさんと愛人関係にあったんです。」 イルカ先生を照らす月光が彼を白く見せる。日焼けしていつも健康そうな肌色が、今は白く儚げだ。 「俺は弱くて、世間の中傷やカカシさんに向けられる侮蔑の目に耐えられなくて、自ら命を絶とうとしたんです。そして、カカシさんは俺をこの世界に飛ばしました。詳しいことは聞けませんでしたが、どうやらこの世界とあちらの世界、ものを飛ばせば等価値のものが交換されるような仕組みになっているらしくて、こちらの世界で幼子だった俺はあちらに行ってしまったようです。子どもの俺はあちらでカカシさんに育てられているようです。」 イルカ先生はここまで言うと立ち止まって俺をじっと見つめた。 「今まで言えなくてすみませんでした。俺は、今でも本当に弱くて、あなたに過去を知られるのが怖くて、ずっと隠して。それでもあなたに愛されたくて、愛したくて。でも、隠した挙げ句俺はあなたを傷つけてしまった。」 イルカ先生は俺をじっと見つめている。辛そうな顔をしている。俺を直視するのはどれほどの勇気がいることだろう。それでもイルカ先生は言ってくれた。 「許します。あなたの過去も俺を傷つけたことも、あなた自身の後悔も全部許します。」 俺はちゅっ、とイルカ先生に軽くキスした。 「仲直りのキスでーっす。さ、家に帰りましょ。」 俺はイルカ先生の手を引いて歩き出した。 |