− 魂合い −






唐突に起こったことに自分でもどうにもならないことはあるわけで。
エリートと呼ばれる自分でもひどく驚けば身体が硬直してしまうこともあるんだな、と頭の隅っこで冷静に考えている自分がいた。
とにかく状況を言えば、任務明けで疲れてくたくたになってやっとこさ飯でも食おうとコンビニで買った総菜を机の上に広げて、さあいただきましょーかー!
と箸を割ろうとした時にどこからともなく一人の男が机の上に落ちてきた。
天井を見ても別に穴は開いていない。どうやって入ってきたんだ?
っていうか、上忍で元暗部の俺がどうしてその気配に気づけなかったんだ?
いくら任務明けで疲れてたからって、油断するにも程がある。
くそっ、明日からもう少し鍛錬の時間、増やすかなあ。
ふと、血の匂いがした。しかも流れて新しい匂いだ。
怪我でもしてんのか?と顔を覗き込んでまたまたびっくりした。いや、びっくりなんてもんじゃない。
この人、喉ぱっくり突かれてるよ。あ、死ぬかも、かなりやばいかも。
呼び掛けても全然返事しないし、顔真っ青だし、うわ、やばい、ほんとやばいかもっ。
額宛てを見れば木の葉のもので、同僚さんだと言うのは解った。それと解れば事は一刻を争う。
しっかしどうして俺の家にやってくるんだよ。行くなら病院だろ?と思いつつも俺の行動は早かった。
男を抱えて窓をがらりと開けると瞬身を使って病院までひとっとび。
体力的にも俺、かなり辛かったんだけど、人の命に関わるんだ、そんなの大したことじゃない。
けど、医療忍者に男を託して俺もその場に倒れてしまった。
あーあ、今回はチャクラ切れなくてよかったなあ、なんて思ってたのに。これで一週間、また病院のベッドにくくりつけられるわけだ。
ま、俺は寝てれば治るけど、あの人大丈夫かねえ。かなりぱっくりいってたよあれは。
なーんてぶつくさ考えていると、俺もストレッチャーに乗せられて病室へと運ばれてしまった。
俺のはいつものことなので医療忍者たちも心得ているらしい。診察もなしでベッドにゴーだ。お手軽でいいね、俺って。
あ、そう言えばまだ飯食ってなかったのに。腹減ったあ。
俺はちょっぴりひもじい思いをしつつもベッドの中で眠りに就いた。

 

そして翌朝、誰かに起こされて目を覚ますと、ベッドの脇に火影が立っていた。

「あ、おはよーございまーす。」

なんて悠長に俺は挨拶したけれど、火影はにこりともしなかった。あれ、何か怒ってる?いつもだったら気配に気づかずに眠りこける忍びがどこにおるっ!!なーんて言ってからかってくるくせに。

「あの、火影様?」

その異様さに少々おののきつつも俺はおずおずと声をかける。

「カカシよ、あの者をどこから連れてきたのじゃ。」

「いや、連れてきたって言うか、俺の家のテーブルに突然落ちてきましてね。それで怪我してるもんだからやばいと思って連れてきたんですけど。まずかったですか?だって同じ木の葉の忍びでしょ?見たことない顔でしたけど、外勤専門の忍びの方ですか?なんで俺の家に緊急避難してきたか知らないですけど、今度からは緊急避難の際は病院に指定した方がいいって忠告した方がいいですよ?」

俺は起きあがれない身体でぺらぺら話した。
聞き終わった火影はふー、と息を吐いた。

「カカシよ、もしかしたらお前はとんでもないものを拾ってきたのかもしれんぞ。」

「え、とんでもないって、そんなにすごい忍びなんですか?」

「あの者に該当する住民票が見当たらぬ。」

「は?」

「あの者、一体何やつなのじゃ?」

いや、俺に聞かれても解らないんですけど。

「でも木の葉の額宛てしてましたよ?もしかして抜け忍でした?」

「抜け忍でもない。あの者に該当する一切が何もない。」

「木の葉の者ではない言うことですか。」

「そうとも言い切れぬ。」

「火影様、一体どうしよってんですか。木の葉の者に該当しないと言えば木の葉の者かもしれないとか、一体どっちにしたいんですか?」

「解らぬ。ただ、あの者が目覚めるまでは常に監視を置く。」

まあ、身元が分からない者ならば仕方ないだろう。一体なんだってそんなわけの解らない奴が俺の家に来たのかねえ。見た顔は全然知らない奴だったし。鼻の上に一本横に引く傷があったから、一度見たらそんなにすぐに忘れるような顔でもなかったけどなあ。

「あ、そう言えば容態はどうなんです?あの人。」

もしかしたら敵かもしれないと言うのになんだか俺は心配になって聞いた。なんとなく、あの人は敵ではないように思う。それが敵の狙いだったとしたらこのはたけカカシもその程度の忍びだってことだろうけど。
火影は珍しいものを見るように目を大きく開けた。

「ま、怪我は喉を突いたもののみじゃったからそこを重点的に治療すれば他は大丈夫じゃ。安全ラインは確保した。しばらく声は出ないだろうが、それでも治療を続ければいずれ声も出るようになるとの医師の判断じゃ。」

「あー、そうですか。それはよかったですよ。かなりぱっくり開いてましたもんね、あの首。」

言えば火影はふむ、と少し難しそうな顔をした。なによ、まだ何か言いたいことがあるのかね、この人。

「なんです、火影様。他に気にかかることでも?」

「うむ、あの者の首の怪我、どうやら自分で刺したものらしい。医師がそう言っておった。」

自殺志願者だったのかあの人。俺助けて悪いことしちゃった?でも俺の家で自殺はちょっと勘弁願いたい。しかも俺食事中だったのよ?もうちょっとTPOって言うかさ、考えようよ。
ふうん、あの人、あんなにぱっくり開いた傷を自分の手でやったんだ。そこまでしなけりゃならない理由がどこにあるんだろう。
青ざめた顔が思い出された。
あの人、名前なんて言うんだろう。どうにも気になって俺は一人、なんとはなしに思った。