− その訳を −
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上忍4人のフォーマンセルの一個小隊での追い忍任務となった。 「逃走経路は把握している。3人と1人に別れているようだ。こちらも同じ数で追う。カカシは一人で逃走している奴を追え。そいつはアカデミーで教師をしていた奴だが確実に上忍クラスだろう。今回の抜け忍騒動のリーダー格だった者の確立が高い。おそらくは今回の抜け忍の中で一番手強い奴だ。解体処理班が来るまで生かしておくことはねえそうだから殺してかまわねえ。他の者は俺と残りの3人を追う。異論はないか?ないな、じゃあカカシはここから別ルートだ、じゃあな。」 アスマはまくし立てるようにそれだけ言うと他の2人と共にカカシから別のルートに進んでいってしまった。なんだか無理矢理にでも自分を遠くにやりたかったような気がしたな、とカカシは思った。まあ、そっちの方がありがたい。 「だっておもいっきり私情はさみまくりだし。」 そんなことは五代目以下、今回の追い忍の作戦に携わった者全てにばれているとはカカシは気付いていなかった。 「かっこいいんだか悪いんだかわからない人だねえ。」 木の枝をたんっと蹴って一気に跳躍する。 「あんたも馬鹿だねえ、わざわざ死に急ぐこともなかったろうに。」 もう自覚するまでもなく溢れ出した殺気に、似つかわしくないのんびとした口調、カカシは木の陰から姿を出した。月の光が自分の顔を照らした。 「お前はもう死ぬしかないよ。」 うっすら笑ってそう言うとカカシは男に向かって飛び出した。 「べつに〜、どうだっていいじゃない、そんなこと。」 おどけた口調とは裏腹に、致死量を含んでいるかのような禍々しい殺気は留まることを知らず、対峙していた男は最早退くこともできずにただがくがくと震えるしかなかった。 「た、頼む、助けてくれ、頼むっ、」 大の大人が涙を流し、懇願していた。 「んー、だめでしょ。」 幼い子どもを叱るような言葉は男の死を確定させた。 「今の俺を見たら、イルカ先生卒倒しちゃう?」 薄く笑って腕に巻き付けていた腸を地面にぼとりと落とし、血のついた手を振り回して汚れを落とした。 「おい、いい加減にそのだだ漏れしてる殺気をなんとかしろよカカシ。」 木の上で様子見していたひげ面の熊男に言われてカカシはむっとした。 「そっちの狩りはもう終わったわけ?」 「終わったから迎えに来たっての。さっさと帰るぞ。」 まあ、任務中は匂いがついてしまうからと銜えないタバコを、今は口にしているのだから任務が終わっているのは承知していたが。 「ちぇー、」 本当は里に帰りたくない。里に帰ったらあの人のあの姿を目の中に入れてしまうから。 追い忍任務が終わった翌日、カカシは病院にいた。 「はい、」 だが予想に反して中から聞こえてきたのは至って元気そうな当人の声だった。 「カカシ先生、わざわざお見舞いにいらしてくださったんですか。ありがとうございます。」 イルカはそう言ってベッドの横にあった椅子をカカシに勧めてきた。 「あの、怪我は、」 「ええ、一事は意識がなくって一日中眠りこけていたそうですけど、翌日には意識もはっきりしていましたし、五代目火影様の治療のおかげで怪我も大分よくなってるそうで。」 「でも、あんなにチューブの管でぐるぐるして芋虫みたいだったのに。」 イルカはそれを聞いて頷いた。 「そうなんですよね、あの時って俺以外にも怪我してる奴多かったらしくて、容態は安定したからって最低限の治療をして他の怪我人の手当をされていたそうなんですよ。それでも意識が戻ったら集中的に回復させてもらったんで今は動き回れるんです。意識が戻った時驚きましたよ、チューブに繋がれて機械なんか色々置かれてて、俺やばいのかって。」 そうか、そういう事情があったのか。まあ、元気になったならそれでいい。 「あの、カカシ先生、」 イルカは急に真剣な顔つきになってカカシをじっと見つめた。 「あの、元教師だった抜け忍がどうなったかご存じじゃないですか?万が一逆恨みをしてまた再びアカデミーにやってくるとも限りませんし、」 まず第一に子どもたちの心配か、イルカ先生らしい。カカシは目を細めて至極穏やかに言った。 「それなら大丈夫ですよ。俺が殺しておきましたから。」 「え、」 イルカ先生は目を見開いた。驚愕と言ってもおかしくないくらい。 「聞こえませんでした?俺が殺しておきました。里抜けは大罪です。殺すのがしきたりです。それがどうかしましたか?」 「あ、いえ、」 顔色が悪い。どうしたんだろう?確かにまだ体調は万全ではないのだろうが、それにしても体調が悪い顔の悪さではなくて、もっと別な所の、心のわだかまりがあるかのような顔。何か思い悩んでいるような。 「イルカ先生?」 呼んでもまだ少し悩んでいたが、イルカは重々しく言葉を吐き出した。 「あの抜け忍は、俺のアカデミーでの同僚でした。俺とは割りと仲の良い方で、」 「ええ、聞いていますよ、イルカ先生とは懇意にしていたと。でも、アカデミーの子どもをさらおうとしたんでしょ。洗脳して自分の手駒にしようとした。庇護するべき人物でもないと思いますけど。」 「カカシ先生、確かにあいつのやったことは大罪です。それは死を持って償うべきことでもあったでしょう。でも、俺にとっては同僚でもあった男なんです。木の葉の仲間だった者に殺されたと思うと、どうにも惨めで。」 沈痛な面持ちでそう言ったイルカにカカシはどうにも苛々としたものがせり上がってきた。 「殺さなければ良かったですか。木の葉の追い忍ではなくどこか雲隠れか砂隠れの忍に殺させるようにし向ければ良かったですか。」 ついつい棘のある言い方をしてしまった。おかげでイルカは黙ったままこちらを見ている。 「すみません、」 しばらくの沈黙の後、イルカが呟くように言った。 「何故謝るんです?」 「考えてみればカカシ先生だってお嫌でしたでしょう。命令とは言え、木の葉の仲間だった者を自らの手で殺さなければならないなんて。それなのに俺は自分のことばっかり、」 ああ、この人は本当に自分以外の人になんて思いやりを与えるのだろう。 「ねえイルカ先生、」 「はい、」 「俺は全然嫌じゃなかったですよ。彼が抜け忍と決定したことによって野山を駆け回り、探しだし、この手でその頭を握り潰して絶命させた時、俺は果てしないほどの満足感を覚えました。ああ、いえ、違いますね。頭を額宛てごと握り潰してもなお収まり付かなかったんで四肢をもぎとってはらわたを引きずり出してやっと落ち着きました。それ位、嬉しかったんですよ。ああ、俺が殺せて良かった、と。」 イルカは黙っている。確かにまともなことは言ってないなあと自覚できるんだからイルカにとってあまり気持ちのいい話題ではないだろう。 「ねえ、あなたがベッドに縛り付けられて包帯だらけで意識も戻らない状態を見て俺は殺気を出していたらしいんですよ。医者が殺気を消してくれと走ってやって来る程駄々漏れしてたらしいんです。イルカ先生は敵じゃないのにねえ。」 「カカシ先生、」 イルカは苦しそうな表情をしてカカシを見ている。 「別にイルカ先生を殺したいと思ったわけじゃないんですよ。俺はただ、任務帰りの受付にいるであろうあなたの顔が見られなくて苛々してたんだと思うんです。」 カカシはイルカの顎をつかんで無理矢理自分の方へと顔を向けさせた。 「ねえ、イルカ先生。笑ってくださいよ。俺はね、あなたの笑顔、気に入ってんですよ。」 「俺は、そんな、すぐに笑うなんて、できない。」 「そんな我が儘許さないよ。」 「すぐに気持ちの切り替えができるわけないでしょう?俺は忍びですがその前に一人の人間なんですよ。同僚が抜け忍で、そして知り合いの上忍に殺されて、そんな事実を突きつけられてへらへら笑っていられるわけないだろうっ。」 ひどいなあ、笑ってくれないなんて。 「イルカ先生はケチですね。」 カカシは顎にかけていた手を離した。 「イルカ先生は難しい人ですね。俺はなんだかがっかりしました。」 カカシはベッドから離れた。そして病室の出口へと向かう。 「もうあなたの前には現れませんよ。同僚殺しの忍びなぞ、見たくもないでしょうからね。でも、俺は謝ったりはしませんよ。殺して後悔なんかしてない。ではお大事に、イルカ先生。」 カカシは病室から出て行った。廊下を歩きながら気持ちが冷めている自分がいた。 病院を出て街路樹の下を歩いていけば、目の前にアスマが現れた。 「何よ、何か用?」 「めんどくせえ事になった。面、貸せ。」 カカシはため息を吐いて頭を掻いた。今日は残った休暇の最後の日だってのに、里は自分を休ませてはくれないのか。ま、その内の数日は自らが志願した任務に従事していたわけだけど。 「里内に、先日狩った抜け忍の黒幕がいるらしい。その殲滅が次の任務だ。追い忍に従事した上忍4名が引き続きその黒幕を殲滅する部隊として投入されるということだ。明日っから里内の諜報活動だ。重い任務だぜ、途中から参加したって言ってこの任務から抜けるわけにはいかねえぜ?」 「別に抜けたいなんて思わないよ。むしろ丁度良かった。」 「は?なんでだ?」 諜報活動、しかも同じ里内にいるらしい黒幕を探るために里の人間を疑ってかからなくてはならない。 「受付にいかなくて済む。」 「あ?受付?そういやイルカにやけにこだわってたもんなあ。でも怪我の具合はそんなにひどかないみたいだって10班のガキらが言ってたから受付に姿を現すのもそう遠い先じゃねえと思うぜ。イルカのいない受付が嫌だってえのか?」 「反対、イルカ先生がいる受付に行きたくないってこと。」 アスマは首を傾げた。さっぱりわからん。先日まではあんなにイルカにこだわって任務まで無理矢理割り込んできたって言うのに。 「病院で何かあったのか?」 普段から面倒くさがりであるアスマも、先日からのカカシの奇行にはいささか思うところがあるのか、執拗に聞いてくる。 「別に、笑ってほしいって言ったら断られてむくれてるだけだよ。」 いい大人が自分をむくれたとか表現するのもいかがなものか。 「イルカも相当ショックだったんだろうよ。同僚が抜け忍で生徒に手を出そうとしたんだからなあ。」 「ちょっと位、笑ってくれたっていいのに。」 「お前、やけにイルカの笑顔にこだわるよな。笑顔なんてそこらに転がってるだろ。イルカ以外の受付の人間だって笑顔で対応してくれてんじゃねえかよ。」 アスマの言葉にそうだなあ、とも思ったカカシだったが、それでもイルカがいいのだから仕方ないのだ。 「はあ、もうどうでもいいでしょ。任務の資料あるんでしょ、頂戴よ。」 アスマは持っていた封筒をカカシに手渡した。 「くれぐれも里の人間にばれないように行動しろ。先日の抜け忍騒ぎで里の連中は少々気が立っているし、黒幕がいるかもしれないなんて知ったら騒ぎが大きくなって殲滅どころじゃなくなるかもしれねえからな。」 「はいはい了解しましたよ。」 カカシは受け取った資料を手にさっさと自宅へと戻る道を歩き出した。その後ろ姿を見てアスマはため息を吐いた。 |