− その訳を −





上忍4人のフォーマンセルの一個小隊での追い忍任務となった。
本来ならば上忍2人、中忍2人の2部隊、計8名での作戦となっていたが、カカシの突発的な参入で上忍4人の1部隊となってしまった。
抜け忍は上忍が1人と中忍3人の計4名だったが、どうやら里を出た後、二手に分かれて行ったらしい。
面倒だったがこちらも二手に分かれて捜索しなければならない。
捜索するならばとにかく人手が多い方がよかったのだが、こうなっては仕方がない。
部隊長となっているアスマはまったくめんどうだな、と独り言を呟きつつも木の上を移動しながら部下となった上忍3名に作戦を申し渡した。

「逃走経路は把握している。3人と1人に別れているようだ。こちらも同じ数で追う。カカシは一人で逃走している奴を追え。そいつはアカデミーで教師をしていた奴だが確実に上忍クラスだろう。今回の抜け忍騒動のリーダー格だった者の確立が高い。おそらくは今回の抜け忍の中で一番手強い奴だ。解体処理班が来るまで生かしておくことはねえそうだから殺してかまわねえ。他の者は俺と残りの3人を追う。異論はないか?ないな、じゃあカカシはここから別ルートだ、じゃあな。」

アスマはまくし立てるようにそれだけ言うと他の2人と共にカカシから別のルートに進んでいってしまった。なんだか無理矢理にでも自分を遠くにやりたかったような気がしたな、とカカシは思った。まあ、そっちの方がありがたい。

「だっておもいっきり私情はさみまくりだし。」

そんなことは五代目以下、今回の追い忍の作戦に携わった者全てにばれているとはカカシは気付いていなかった。
カカシは木の上を駆け抜けながら五代目の言葉を思い返していた。
リーダー格の者、そいつはアカデミーに関係していた者だったらしく、アスマの言っていた通り、アカデミーで優秀だった子どもをさらうための目星をつけていたらしい。
そして特にイルカと懇意にしていたという話しも聞いた。
イルカは懇意にしていた者に裏切られ、子どもたちを危険に晒させて責任を感じて一人で突っ走って必死に子どもたちを守ろうとしたのだろう。
だがイルカの活躍のおかげでここまで事態は最小限に留まった。

「かっこいいんだか悪いんだかわからない人だねえ。」

木の枝をたんっと蹴って一気に跳躍する。
今は夜中で月が出ていた。満月ではないが半月くらいの月明かりでも追う者としてはありがたい。
天気予報では曇りのち雨と言っていたようだが予報は外れてしまったらしい。
抜け忍の男もよもやこんな明るい月夜に鬼ごっこをするはめになるとは思っていなかったろうに、馬鹿な奴。
もっと慎重に行動すれば良かったものを。
いや、良かったなんて言ったらあの人に怒られてしまうだろうな。

もう少しで切り立った崖に突き当たる。
カカシは相手をそこに追い込むようにして追跡していた。
相手はちゃんとカカシの策にはまってくれたらしい。

生い茂る木々を抜けるとそこはすぐに崖だった。そこに男が立っている。額には未だに木の葉の額宛てがあった。
里を裏切ったその時に額宛ては外すべきだったね、お前。
ギリ、と音が聞こえるかと思う程に苛々した思いがせり上がってきた。
イルカ先生が守ろうとした木の葉の里の宝、その宝のシンボルである印の入った額宛て。
その印をお前は汚している。今すぐにはぎ取りたい。イルカ先生の心中を思えばこんな男は瞬殺で充分だ。

「あんたも馬鹿だねえ、わざわざ死に急ぐこともなかったろうに。」

もう自覚するまでもなく溢れ出した殺気に、似つかわしくないのんびとした口調、カカシは木の陰から姿を出した。月の光が自分の顔を照らした。
追いつめられた男はクナイを手に臨戦態勢に入った。その顔が青白い。
それは月光のせいなのか、この状況のせいなのか、判断は付かない。

「お前はもう死ぬしかないよ。」

うっすら笑ってそう言うとカカシは男に向かって飛び出した。
男はさすがにアスマに言われていた通り、なかなかの手練れでいい動きをしてカカシを翻弄しようとしていたが、所詮は上忍止まり。暗部であったカカシと比べるまでもない。
男は段々と追いつめられていくことを感じ取っているのか、その表情に焦りが浮かびはじめた。
そろそろか、とカカシは決着をつける体勢に入った。
元からあまりいたぶりながら殺す趣味はない。
ただ、イルカ先生を芋虫状態にまでした男の力量がどんなものかと知りたかった。

でも、相手を目の当たりにしてがっかりとした。
てんで大したことはなかった。こんな雑魚、刃物を向けるにも値しない。

カカシは一端動きを止めた。
そして戦闘の最中だと言うのにまるでそこに敵がいないかのような動きで手に持っていたクナイの刃を検分するように眺めだした。そしてゆっくりとした動作でクナイをしまい込んだ。

対峙していた男が何のつもりだっ、と声を荒げる。

「べつに〜、どうだっていいじゃない、そんなこと。」

おどけた口調とは裏腹に、致死量を含んでいるかのような禍々しい殺気は留まることを知らず、対峙していた男は最早退くこともできずにただがくがくと震えるしかなかった。
こんなに隙があるような態勢なのにまったく動けない自分がいる。これは、もう、勝ち目はない。男は潔く諦めた。

「た、頼む、助けてくれ、頼むっ、」

大の大人が涙を流し、懇願していた。
本来ならばもう立っていることすらも奇蹟に近い状態の男は、瞬きすらしない。
いや、できなかった。少しでも動けば自分の命はない。それだけは確実だと頭の中で警鐘が鳴る。

「んー、だめでしょ。」

幼い子どもを叱るような言葉は男の死を確定させた。
もうだめだと瞬きをした瞬間、男は自分の頭に自分のものではない男の手の感触を感じた。

あ、と言うこともできず、男は絶命した。男の頭が文字通り握り潰されてしまったからだ。
額宛てまでも、カカシの握力で男の頭ごと握りつぶされてしまっていた。
抜け忍が身につけていた額宛てなど、汚らわしくて誰もいらないだろうし、とカカシは言い訳めいたことを考える。
立つこともできなくなった抜け忍の男の身体はどさりとその場に崩れた。
もう死んでる。これ以上は切り裂く必要など何もなかったが、カカシは物足りなかった。
頭のなくなってしまった男の腕をつかんでちぎる。足ももいだ。
四肢が胴体から離れてしまっても、カカシは止まらない。ここまでの行程に持っていたクナイは使っていない。全て素手で行っている。

胴体の腹に手を突っ込んで内臓を引きずり出して長い長い腸をぐるぐると自分の腕に巻き付ける。
なんかこういうの忘年会の時の手品で見たことあるなあ。
シルクハットの中からリボンがどんどん出てくる手品。あれは一体誰がやったんだっけ?

死体をいじるのにも飽きてきてカカシは顔を上げた。
いい月だ。白くて美しい月明かりは血に濡れた俺にも慈愛に満ちた温もりを与えてくれる。
そして自分の周りに散乱している血臭と肉片を見て苦笑した。
クナイで首を落とせば返り血もそんなに浴びず、手が汚れることもなかっただろう。
だが、どうにも殺したと実感できる殺し方をしないことには心が納得しなかった。
それでも死ぬ瞬間の痛みはさほど感じないように殺してあげたんだから感謝してほしいもんだね。

人を殺すと言うことは手を血で汚すと言うことだ。事実、血に汚れることなく殺した手と今の自分の汚れきった手はなんら変わらない。忍びなんてそんなもの、当たり前だし日常茶飯事だ。それでも、

「今の俺を見たら、イルカ先生卒倒しちゃう?」

薄く笑って腕に巻き付けていた腸を地面にぼとりと落とし、血のついた手を振り回して汚れを落とした。

「おい、いい加減にそのだだ漏れしてる殺気をなんとかしろよカカシ。」

木の上で様子見していたひげ面の熊男に言われてカカシはむっとした。
だがまあ、確かに任務も終わってこれ以上殺気を出し続けてこの森の動物たちに悪影響与えては申し訳ない。
カカシは素直に殺気を解いた。

「そっちの狩りはもう終わったわけ?」

「終わったから迎えに来たっての。さっさと帰るぞ。」

まあ、任務中は匂いがついてしまうからと銜えないタバコを、今は口にしているのだから任務が終わっているのは承知していたが。

「ちぇー、」

本当は里に帰りたくない。里に帰ったらあの人のあの姿を目の中に入れてしまうから。
カカシはそれでも里へと向かって跳躍した。その姿をアスマはため息を吐いて見上げた。
そして現場の惨状にアスマは頭痛のする思いだった。
俺が責任者なんだからもうちっと綺麗に仕事してほしかった。
男の無惨な死体、いや、肉片がそこここに散らばっていた。
今が夜でよかった。月が出ているので月光の明るみがあるが、それでも血の鮮やかさが半減する。
解決にはならねえがな、とアスマは思った。

 

追い忍任務が終わった翌日、カカシは病院にいた。
目の前には海野イルカのプレートのかかった病室。
いまだに個室を宛われているところを見るとすぐに退院できるわけではないようだ。
医療忍者のスペシャリストであった綱手が里に帰ってきて医療も一段と進歩したと言うのにそれでも未だに包帯でグルグル巻きなのか、と少々暗い気持ちでドアをノックした。
まだ意識すら戻っていないかもしれないと言うのに。

「はい、」

だが予想に反して中から聞こえてきたのは至って元気そうな当人の声だった。
カカシはドアを開けて病室に入った。本人はベッドから起きあがってこちらを見ていた。
やはり包帯でぐるぐる巻きだったがチューブなどの管は見当たらない。
少しは回復していたらしい。いい仕事するじゃん、五代目。

「カカシ先生、わざわざお見舞いにいらしてくださったんですか。ありがとうございます。」

イルカはそう言ってベッドの横にあった椅子をカカシに勧めてきた。
カカシは勧められるままに椅子に座った。

「あの、怪我は、」

「ええ、一事は意識がなくって一日中眠りこけていたそうですけど、翌日には意識もはっきりしていましたし、五代目火影様の治療のおかげで怪我も大分よくなってるそうで。」

「でも、あんなにチューブの管でぐるぐるして芋虫みたいだったのに。」

イルカはそれを聞いて頷いた。

「そうなんですよね、あの時って俺以外にも怪我してる奴多かったらしくて、容態は安定したからって最低限の治療をして他の怪我人の手当をされていたそうなんですよ。それでも意識が戻ったら集中的に回復させてもらったんで今は動き回れるんです。意識が戻った時驚きましたよ、チューブに繋がれて機械なんか色々置かれてて、俺やばいのかって。」

そうか、そういう事情があったのか。まあ、元気になったならそれでいい。

「あの、カカシ先生、」

イルカは急に真剣な顔つきになってカカシをじっと見つめた。
先ほどまでの穏やかな空気がなくなっている。
どうしたのかと小首を傾げると、イルカは言いにくそうに、だが言葉を紡いだ。

「あの、元教師だった抜け忍がどうなったかご存じじゃないですか?万が一逆恨みをしてまた再びアカデミーにやってくるとも限りませんし、」

まず第一に子どもたちの心配か、イルカ先生らしい。カカシは目を細めて至極穏やかに言った。

「それなら大丈夫ですよ。俺が殺しておきましたから。」

「え、」

イルカ先生は目を見開いた。驚愕と言ってもおかしくないくらい。
おかしいな、とカカシは思った。予想では安堵の息を吐くと思っていたのに。

「聞こえませんでした?俺が殺しておきました。里抜けは大罪です。殺すのがしきたりです。それがどうかしましたか?」

「あ、いえ、」

顔色が悪い。どうしたんだろう?確かにまだ体調は万全ではないのだろうが、それにしても体調が悪い顔の悪さではなくて、もっと別な所の、心のわだかまりがあるかのような顔。何か思い悩んでいるような。

「イルカ先生?」

呼んでもまだ少し悩んでいたが、イルカは重々しく言葉を吐き出した。

「あの抜け忍は、俺のアカデミーでの同僚でした。俺とは割りと仲の良い方で、」

「ええ、聞いていますよ、イルカ先生とは懇意にしていたと。でも、アカデミーの子どもをさらおうとしたんでしょ。洗脳して自分の手駒にしようとした。庇護するべき人物でもないと思いますけど。」

「カカシ先生、確かにあいつのやったことは大罪です。それは死を持って償うべきことでもあったでしょう。でも、俺にとっては同僚でもあった男なんです。木の葉の仲間だった者に殺されたと思うと、どうにも惨めで。」

沈痛な面持ちでそう言ったイルカにカカシはどうにも苛々としたものがせり上がってきた。
別に抜け忍を狩って褒めてほしいなどとは思っていない。
追い忍は元は仲間だった里の者を殺すという職務柄嫌煙されている仕事だ。
それは理解できるけど、あんたはその抜け忍に殺されそうになったんだよ。
自分のことより殺された惨めな同僚に心を痛めていると言うのか。

俺は、とカカシは幾分か低い声でイルカに詰め寄った。

「殺さなければ良かったですか。木の葉の追い忍ではなくどこか雲隠れか砂隠れの忍に殺させるようにし向ければ良かったですか。」

ついつい棘のある言い方をしてしまった。おかげでイルカは黙ったままこちらを見ている。
その顔は青白い程だった。
でも木の葉の抜け忍を木の葉の追い忍以外に殺させるわけにはいかないのだ。
解って欲しい。忍びはその体に自然と里特有の機密を保持している。
本人が望もうと望むまいと持ってしまった機密は例え些細なことでも他の里に漏れてはいけない。
だから追い忍が始末し、他の里に漏れないように処理をしなければならない。
それに抜け忍なんて里の恥さらし、他の里の忍びに殺させるなんて木の葉の里のメンツが許すはずがない。

「すみません、」

しばらくの沈黙の後、イルカが呟くように言った。

「何故謝るんです?」

「考えてみればカカシ先生だってお嫌でしたでしょう。命令とは言え、木の葉の仲間だった者を自らの手で殺さなければならないなんて。それなのに俺は自分のことばっかり、」

ああ、この人は本当に自分以外の人になんて思いやりを与えるのだろう。
体中に傷を負ってもなお、必死でナルトを守ったあの時のように。

「ねえイルカ先生、」

「はい、」

「俺は全然嫌じゃなかったですよ。彼が抜け忍と決定したことによって野山を駆け回り、探しだし、この手でその頭を握り潰して絶命させた時、俺は果てしないほどの満足感を覚えました。ああ、いえ、違いますね。頭を額宛てごと握り潰してもなお収まり付かなかったんで四肢をもぎとってはらわたを引きずり出してやっと落ち着きました。それ位、嬉しかったんですよ。ああ、俺が殺せて良かった、と。」

イルカは黙っている。確かにまともなことは言ってないなあと自覚できるんだからイルカにとってあまり気持ちのいい話題ではないだろう。

「ねえ、あなたがベッドに縛り付けられて包帯だらけで意識も戻らない状態を見て俺は殺気を出していたらしいんですよ。医者が殺気を消してくれと走ってやって来る程駄々漏れしてたらしいんです。イルカ先生は敵じゃないのにねえ。」

「カカシ先生、」

イルカは苦しそうな表情をしてカカシを見ている。

「別にイルカ先生を殺したいと思ったわけじゃないんですよ。俺はただ、任務帰りの受付にいるであろうあなたの顔が見られなくて苛々してたんだと思うんです。」

カカシはイルカの顎をつかんで無理矢理自分の方へと顔を向けさせた。

「ねえ、イルカ先生。笑ってくださいよ。俺はね、あなたの笑顔、気に入ってんですよ。」

「俺は、そんな、すぐに笑うなんて、できない。」

「そんな我が儘許さないよ。」

「すぐに気持ちの切り替えができるわけないでしょう?俺は忍びですがその前に一人の人間なんですよ。同僚が抜け忍で、そして知り合いの上忍に殺されて、そんな事実を突きつけられてへらへら笑っていられるわけないだろうっ。」

ひどいなあ、笑ってくれないなんて。
任務を終えて戻ってきたのに労うこともしてくれない。
俺はただ少しだけ笑ってくれればそれでいいのに。

「イルカ先生はケチですね。」

カカシは顎にかけていた手を離した。

無理矢理笑ってもだめなんだろうなあ、術で操るってのは非道だろうし。

「イルカ先生は難しい人ですね。俺はなんだかがっかりしました。」

カカシはベッドから離れた。そして病室の出口へと向かう。

「もうあなたの前には現れませんよ。同僚殺しの忍びなぞ、見たくもないでしょうからね。でも、俺は謝ったりはしませんよ。殺して後悔なんかしてない。ではお大事に、イルカ先生。」

カカシは病室から出て行った。廊下を歩きながら気持ちが冷めている自分がいた。
ひどくつまらない。
病室に入る前は起きているだろうか、またあの笑顔が見られるかもしれないという期待とも願望ともつかない感情で溢れていたのに、今はそんな気持ちどこにも残っていない。
あるのはただの虚無だ。

 

病院を出て街路樹の下を歩いていけば、目の前にアスマが現れた。

「何よ、何か用?」

「めんどくせえ事になった。面、貸せ。」

カカシはため息を吐いて頭を掻いた。今日は残った休暇の最後の日だってのに、里は自分を休ませてはくれないのか。ま、その内の数日は自らが志願した任務に従事していたわけだけど。
人気のない路地にやってくるとアスマはふかしていた煙草を手に持って口を開いた。

「里内に、先日狩った抜け忍の黒幕がいるらしい。その殲滅が次の任務だ。追い忍に従事した上忍4名が引き続きその黒幕を殲滅する部隊として投入されるということだ。明日っから里内の諜報活動だ。重い任務だぜ、途中から参加したって言ってこの任務から抜けるわけにはいかねえぜ?」

「別に抜けたいなんて思わないよ。むしろ丁度良かった。」

「は?なんでだ?」

諜報活動、しかも同じ里内にいるらしい黒幕を探るために里の人間を疑ってかからなくてはならない。
あまり気持ちのいい任務ではない。それを良いと言わしめるのはどういった了見だ?

「受付にいかなくて済む。」

「あ?受付?そういやイルカにやけにこだわってたもんなあ。でも怪我の具合はそんなにひどかないみたいだって10班のガキらが言ってたから受付に姿を現すのもそう遠い先じゃねえと思うぜ。イルカのいない受付が嫌だってえのか?」

「反対、イルカ先生がいる受付に行きたくないってこと。」

アスマは首を傾げた。さっぱりわからん。先日まではあんなにイルカにこだわって任務まで無理矢理割り込んできたって言うのに。

「病院で何かあったのか?」

普段から面倒くさがりであるアスマも、先日からのカカシの奇行にはいささか思うところがあるのか、執拗に聞いてくる。

「別に、笑ってほしいって言ったら断られてむくれてるだけだよ。」

いい大人が自分をむくれたとか表現するのもいかがなものか。

「イルカも相当ショックだったんだろうよ。同僚が抜け忍で生徒に手を出そうとしたんだからなあ。」

「ちょっと位、笑ってくれたっていいのに。」

「お前、やけにイルカの笑顔にこだわるよな。笑顔なんてそこらに転がってるだろ。イルカ以外の受付の人間だって笑顔で対応してくれてんじゃねえかよ。」

アスマの言葉にそうだなあ、とも思ったカカシだったが、それでもイルカがいいのだから仕方ないのだ。

「はあ、もうどうでもいいでしょ。任務の資料あるんでしょ、頂戴よ。」

アスマは持っていた封筒をカカシに手渡した。

「くれぐれも里の人間にばれないように行動しろ。先日の抜け忍騒ぎで里の連中は少々気が立っているし、黒幕がいるかもしれないなんて知ったら騒ぎが大きくなって殲滅どころじゃなくなるかもしれねえからな。」

「はいはい了解しましたよ。」

カカシは受け取った資料を手にさっさと自宅へと戻る道を歩き出した。その後ろ姿を見てアスマはため息を吐いた。

 「ばっかな奴だよなあ。そんなものもう特別なんだって言ってるようなもんだろうがよ。」